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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.3章:過去は影なり【新暦190-242年】
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過去:伸びゆく若木達



■title:

■from:使徒・バフォメット


『エーディン。……どうした? 疲れた顔をしているな』


『ちょっとね』


『マクスウェル達と話していたようだが……』


『マスターを「神」として祭り上げて、ネウロンの子達を……コントロールしているでしょう? アレにもっと、道徳的な教義を追加してって話をしてたの』


『道徳的……?』


『強き者は、弱き者を助けるべき……とかよ。要するに巫術師達が、もっと……非巫術師達を助ける事に前向きになるべき、と誘導してほしいって話していたの』


『なるほど?』


 スミレ達が危惧を抱く中、ネウロンはまずます発展していった。


 巫術師達も数を増やし、さらに成長していった。


 辛口なシシンですら、「巫術師共も。後方支援や索敵なら十分活躍できそうだな」と言うほどだった。ネウロンの巫術師達は一層、認められていった。


 エデン内での権限も強化されていった。


『バフォメット教官、もう一度……もう一度手合わせをお願いします!』


『少しは休め、ヴィンスキー。休むのも戦士の仕事だ』


『ですが、本物の戦場では簡単には休めないはずです。敵は待ってくれない以上、疲弊していても戦えるだけの技術が必要なはずです! ……もっと強くならないといけないんです』


 巫術師達はもう、立派な「エデンの仲間」になっていた。


 なっていると思っていた。


 彼らの成長を、私は喜んでいた。喜んでしまっていた。


 彼らは経験豊富なエデン一般構成員にも安定して勝てるほど、強くなっていった。単に巫術の力を磨くだけではなく、座学も熱心に励んでいた。


 例えば、機兵や方舟に関する知識も学んでいた。巫術を使えば直感的に動かせるとはいえ、さらに理解を深めようとしていた。


 そのための教師役として、スミレを頼る事もあった。彼らもスミレに一目置き、良き生徒として振る舞っていた。


 中には……中々大胆な者達もいたが――。


『お父さ~ん、今日は勉強会でちょっと遅くなりそうだから』


『勉強会?』


『うんっ! お父さんの生徒さん達に誘われたの! 混沌機関のこと、もっと詳しく知りたいから訓練後に教えてほしいって――』


『ほう。そうかそうか。では、私も同行しよう』


『あ、いいの? 生徒さん達、お父さんが忙しいから教えてもらう時間が限られるとか言ってたけど……。何か用事があるんじゃ……?』


『いいや。何も。問題はない』


 下心を持っている馬鹿共もいた。


 スミレは賢い子だが、そういう事には疎いのか……私が「参加する」と言っても純粋に喜んでくれるだけだった。巫術師共は「勉強会会場」と称する酒場に私も姿を現すと、表情を引きつらせていたが――。


『貴様ら、中々いい度胸をしている』


『そ、それはっ……教官に鍛えられましたしっ!?』


『スミレ様が魅力的ですし~……』


『フン……。まあそれは確かにそうだが、そう簡単にあの子と交際できるなどと思わないでおけ。口先より、私が認める武力を身につけろ』


『そ、そんなぁ~……!』


 隠れてスミレと仲良くなろうとする馬鹿もいた。


 馬鹿だが……可愛い生徒と思っていた。


『教官……! 教官っ……! 私は真面目に勉強会するつもりでしたからね!? コイツらが馬鹿をやらないよう、監督しに来ただけですからねっ!?』


『そこまで必死に言われると、逆に怪しいぞヴィンスキー』


『信じてくださいよっ! 教官~~~~っ!!』


 奴らも、スミレのように私の…………いや、違う。何もかも、違う。


 賢いのに疎いスミレの隙は、私がしっかり防御した。その事に関して、エーディンに呆れられる事もあった。


『バフォメット……。またスミレの「勉強会」についていってたの?』


『巫術師共の勉強会なら、私も参加した方が効率的だろう』


『まったく……。スミレは気にしないどころか、「お父さんといっしょ!」って大喜びするでしょうけど……周りの奴らはガッカリしてたんじゃないの~?』


『うるさい。スミレ以外の都合など知らん』


 私が最も大事にしているのは、スミレだ。


 ネウロンの巫術師達の事も……大事な、生徒と……思っていた。


 彼らの成長を、私は……楽しんでいた。喜んでいた。


『貴方が子離れできないから、スミレには恋人の1人も出来ないのよ』


『うるさい。あの子に……そういうのは、まだ早いっ』


『まったく……』


『そもそも、お前に言われたくない……』


 エーディンはスミレの「良き姉」の如き存在だった。


 男親の私だけでは事足りなかったため、エーディンのようにスミレを気遣ってくれる存在は……とても助かった。だが、奴だって同類だった。


『お前も、スミレに近づく男共の素性を調べ、警戒しているだろう。知っているぞ。全員の名簿と経歴書までキッチリ作成しているだろう』


『そっ……それは、可愛い妹分に、変な虫がついたら困るから~……』


 エーディンは視線を泳がせていた。


 偉そうに説教を垂れるくせに、自分だって私と大差がないのだ。


 いや、堂々と同行する私の方が潔いと言っても過言ではない。エーディンは少々、暗躍し過ぎな節があった。それはそれで頼りがいがあったが。


『スミレは賢いけど……恋愛とかだと無防備すぎなのよっ……! 私がしっかりしてなきゃ、どんな変な男に捕まるかわからないでしょ……!?』


『つまり、私とお前は利害が一致しているわけだ』


『そうかな……。そうかも……』


 我らは同盟を組んだ。


 共にスミレを守ろう。共にスミレをつまらん男から遠ざけよう。


『スミレスキスキ同盟、結成よ!!』


『頼りにしているぞ、エーディン……!!』


 休憩所の紙コップを杯代わりに誓い合っていると、通りがかったシシンにちょっと引かれたが……私達は間違っていなかったはずだ。


 正しき道に進んでいる。光に向かって進んでいる。


 我ら自身が、暗き道を照らしている。そう信じた。


 スミレの「交友関係」などの話をマスターにすると、彼女は笑った。スミレと私、両方に対して苦笑いを浮かべているようだった。


『スミレに、恋愛も教えるべきだったかな……?』


『マスターは、その手の事も手練れなのか?』


『いや…………。多分……いや、間違いなく、下手だったと思う。昔のことは……もうあまり覚えていなかったけど。得意では無かったはずだよ』


 マスターはそう言って笑いつつ、さらに言葉を続けた。


『バフォメットは、スミレが嫁に行ったら泣きそうだね』


『落涙するだと? 私にそのような機能はない』


『実装してあげよっか?』


『必要ない。意味がない。それより、例の件はどうなった?』


『ああ、プレーローマの偵察ね』


 ネウロンは順調に(・・・)発展していた。


 だが、敵はエデンやネウロンとは比べものにならないほど大きい。


 我らの敵は……プレーローマは混乱の最中にあったが、それでも多次元世界屈指の力を持っていた。誰も奴らを滅ぼせなかった。


 天使達がプレーローマ内部で主導権争いをしているため、余所に魔手を伸ばすだけの余裕はない。だから、我らも勢力を拡大する余裕があった。


 だが、源の魔神が築いた大組織は強大。いくらネウロンが順調に発展しても、数多の世界で基盤を築いているプレーローマとやり合うには、まだ足りなかった。


 プレーローマの混乱期が終われば、今まで以上に苦しい戦いが待っているのは目に見えていた。


『仕掛けるなら、奴らがまだ混乱しているうちに仕掛けたいが……』


『まだ無理かな。現状の戦力では足りない。……他の人類勢力とも手を結べればいいんだけど、肝心の人類連盟が……』


『お前の名を出しても、やはり奴らは動かんか』


『むしろ、私だから駄目なのかもね。……会談の誘いは届いているけど、明らかに罠だ。私を誘き寄せて、どこかに閉じ込めるつもりだろう』


 真白の魔神は人類のために戦っていた。


 しかし、人類連盟が彼女に助力する事は少なかった。


 奴らは愚かだった。


 プレーローマの混乱期がずっと続くか、いずれ分裂して弱体化するだろうと楽観していた。そんな奴らに構うより、自分達の権力を高めるのが優先。


 そう考え、同じ人類文明を襲って領土を拡大する侵略国家(バカ)が少なくなかった。それらを正すべき人類連盟は、馬鹿共と同じく腐敗していた。


 プレーローマや今後の事を話している時だった。


 血相を変えたエデン構成員が、1つの知らせを持って来た。


 ネウロンに天使が現れた。


 ただの天使ではない、強力な権能(ちから)を持つ者が現れた。


 <死司天>が来た。殺戮の天使がやってきた。





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