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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.3章:過去は影なり【新暦190-242年】
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過去:私の光



■title:

■from:使徒・バフォメット


『スミレ。私達を……巫術師を信じてくれ』


『えっ……? それは、当然……信じているけど……』


『巫術師は力を持っており、巫術師は今後も増えていく』


 使徒達から見たら、巫術師は未熟な存在だ。


 だが、大いに伸びしろのある存在だ。


 実際に力を持っているからこそ、ネウロンの発展にも寄与している。


『力を持っているから、その力で多くの者を救える。私だけでは全ては救えないが……私の生徒達が今より強くなっていけば……より多くの人を救える』


 繁栄の影に落ちてしまった者達も、繁栄の光が救うだろう。


 巫術師、非巫術師の違いがあっても、同じネウロン人同士、助け合って生きていくはずだ。彼らはそこまで愚かではない。私はそう思っていた。


 巫術師という光を増やしていき、全てを照らす。


 ネウロンだけではなく、多次元世界全てを照らす。


 そうする事で、闇を取り除いてみせよう。


 私は、そんな愚かな考え(・・・・・)を愛娘に披露した。……今にして思えばスミレは戸惑いの表情を僅かに浮かべていたが――。


『……うん、そうだね。お父さん達なら……それが出来るかも』


 そう言ってくれた。


 微笑んで、そう言ってくれた。


 だが、あれは……私を気遣ってくれたのかもしれない。


 私の発言を笑わないよう、気遣った発言だったのかもしれない。


『巫術師の皆が……お父さんみたいになってくれたらいいなぁ……』


『彼らが私並みの戦闘能力を手に入れるのは、さすがに難しいだろう。私には神器という下駄がある。巫術だけで追いつくのは困難だ』


『そうじゃなくて……。お父さんみたいに、優しくなってほしいなって思ったの』


 あの子は微笑んで私を見上げ、手を繋いできた。


 ギュッと握ってきた。いつものように。


『…………。私が、皆のことを信じ切れてなかったのかも……』


『ム……。いや、スミレ、お前を責めたわけではない』


『お父さんに限らず、<エデン>の皆が強い光。その光で多次元世界の闇を照らし……人類(みんな)を救おうとしている』


 それと同じく、巫術師という光が社会を照らす。


 巫術師が皆を助けてくれる。そう信じるべきなんだよね――とスミレは言ってきた。心なしか、少し強めに手を握っていた記憶がある。


『信じるよ、私。お父さんを信じているみたいに、皆のことを……』


『お前が言う通り、確かに問題はあるのだろう。だが……人が作った問題なら、人が真面目に取り組めば、きっと解決可能だ』


『そうだね。……解決、できるよね……?』


 エデンにもネウロンにも光がある。


 より大きな光もある。我らには真白の魔神がついている。


 きっと、我々は多くの問題(やみ)を解決できる。強い光を当てることで闇を消せる。いつかきっと全ての問題を解決できる。そう思っていた。


 スミレが言うように、多くの者にとって大事なのは現在(いま)なのに――。


『スミレ。少し買い物をして帰ろう。アルコールが不足してる』


『お父さん、ちょっとは禁酒するべきだよ~……』


 などという話をしつつ、私達は帰路についた。


 その途中、スミレが街の一角を見て「ハッ」としていた。


『あの子達……!』


 彼女はそう呟き、急に駆けていった。


 私が後を追っていくと、スミレは「こらっ! やめなさいっ!」と怒っていた。


 スミレが向かった先には、小さな無人機が飛んでいた。


 幼い巫術師に、巫術学習用の教材としてエデンが与えたものだ。小さなそれが飛び回り、非巫術師の子供達に襲いかかっていた。


 小さな無人機に襲われた子供達は物陰に隠れつつ、「ヒキョーだぞっ!」と叫んでいた。涙目で身を縮こまらせ、小型無人機から必死に隠れていた。


 玩具程度の無人機とはいえ、プロペラが当たれば怪我をするかもしれない。スミレが身を挺して非巫術師達を庇ったため、私は無人機鎮圧に協力した。


 それと、離れたところで無人機を飛ばしていた巫術師の悪ガキ達を捕捉し、スミレに伝えた。スミレは彼らを叱った。


 数そのものは、巫術師の方が少なかったが――。


『もうっ……。キミ達、なんでこんな事を……!』


『アイツらが悪いんだっ! アイツらが、巫術師(ぼくら)を除け者にするから……これは、正当(セイトー)報復(ホーフク)なんだっ』


 その言葉を聞いた非巫術師達は、バツが悪そうな表情を浮かべた。


 無人機で襲われるだけの理由があったらしい。


『だ……だって、アイツら、巫術でズルするもん』


『してないっ!』


『してたっ!!』


『ちょ、ちょっと……落ち着いて……』


 スミレは彼らにも話を聞いたが、子供達はお互いを責めた。少数の巫術師と、多数の非巫術師がお互いに「向こうが悪い」と言って譲らなかった。


 それどころか――。


『先にワルイことしたの、向こうだよっ! 向こうを怒ってよっ!』


『ボクらは、お前らみたいなアブナイことしてないもんっ! それに、お前らはズルした! ズルいやつはワルイやつだっ!』


『スミレ様はどっちの味方なのっ!?』


『敵味方を決めるより、仲直りの方法を考えよう……? 皆は、同じネウロンの仲間なんだよ? それ以前に、同じ人間同士――』


『しらないっ! スミレ様もズルいっ! 行こーぜっ!』


『あっ、ちょっと……』


 非巫術師達は逃げ出していった。


 止めることも可能だったが、スミレは私を手で制してきた。


 そして、改めて巫術師達と向き合った。


『……ボクら、わるくないし……』


『でも、無人機を仕掛けたのは危ないよ』


『な……なんだよぅ……。スミレ様、結局……アイツらの味方かよ』


『スミレ様も、巫術、使えないから~……』


『皆は、私を「敵」にしたいの?』


『…………』


『私は、皆と仲良くしたい。……人と人が仲良くするには、人が嫌がることはしちゃ駄目。あの子達がキミ達が嫌がることをしたのは事実だったとしても……仕返しをしていたら、キリがないよ……。ずっとケンカする事になる』


 無人機のプロペラで大怪我をしていたかもしれない。


 小型のものとはいえ、目玉を切り裂くぐらいの力はある。


 スミレがそう説くと、巫術師の子供達はギョッとしていた。そこまでは想像していなかったらしく、「そ、そんなことしない」と言っていた。


『ボクら、無人機……ちゃんと使えるもんっ。巫術あるもん』


『アイツらは使えないから、巫術師(ドルイド)を仲間はずれにするんだ。どーせ、あいつらは巫術(イド)が使えない劣等(れっとう)――』


『――どこで、そんな言い方を覚えたの』


 劣等。


 確かにそう言った子の肩を掴みながら、スミレは問いかけた。


 子供達は狼狽え、「大人が言っていた」と漏らした。


 それを聞いたスミレは顔を強ばらせつつ、「そんな言葉、使っちゃダメ」と説いた。それは酷い言葉(ナイフ)だ――と説いた。


『で、でも……パパとか、よく使ってるし~……』


『その言葉を言ったら喧嘩になるよ。それも、すごく嫌な喧嘩』


『『『…………』』』


巫術師(きみたち)は、他の人にはない力を持っている。それを上手く使えば、色んな人に感謝される。……けど、力を悪いことに使ったり、悪い言葉を使っていたら……皆から嫌われる』


『…………』


『言葉も巫術も同じなの。使い方を間違えば、大変な事が起きるの』


 スミレは、悲しんでいた。


 子供達には怒っているように見えたかもしれないが、あの子は明らかに悲しんでいた。愚かな私でも、それはわかった。


『べ、べつに……アイツらに嫌われても、いいし……』


『オレらの方が、つよいもん。強いから、アイツら……倒せるし……』


『それはどうかな? 強い人を苦しめる方法なんて、いくらでもあるんだよ』


『うそだぁ! オレら、巫術使えてツエーもんっ』


『じゃあ、キミ達より強い人を連れてきたら、どうかな?』


 そう言ったスミレが私をチラリと見てきたので、私は頷いて子供達に語りかけた。「貴様らは私に勝てるのか?」と低い声で語りかけた。


 ぴぃ、と鳴いた子供達に対し、スミレはさらに強い言葉を使った。


 彼らに言葉の恐ろしさを伝えた。


『食べ物の中に針を入れられたら、どうする? 寝ている時に襲われたら、どうする? 家に火をつけられたら、逃げられる?』


『えっ、えっ……?!』


『全員と仲良くしなさい――とは、さすがに言えない。けど……皆とケンカしていたら、いつかきっと……仕返しされるよ。仕返しの方法なんていくらでもある』


 子供達も、そう説かれてようやく青ざめた。


 未熟な想像力でも、恐ろしい未来を想像できたらしい。


『ケンカしないようにしよう。……ケンカしたくなるような事されたら、まずは私に相談して? キミ達を助けるために頑張るから……』


 スミレは子供達を抱きしめつつ、そう説いた。


 争いを第一の手段にしたら、お互いにエスカレートしていく。安易に始めた争いがとんでもないことに発展する。怪我どころか死に繋がる可能性もある。


 そういう話を、子供でもわかりやすいよう……優しく説いていた。


『ケンカもイジメもダメ。それよりも逆のことをしましょう』


『なんで……?』


『その方が得だからだよ。皆だって、優しくされると嬉しくなるでしょ? 皆が優しさを交換しあえば、今よりもっと幸せになれるよ』


 いつどこで襲われるかわからない恐怖より、いつどこで楽しいことがやってくるか待つ方が得。不意の幸福をワクワクしながら待ち受ける方が楽しい。


 スミレは子供達に対し、そう説いた。


 説かれた子供達は――。


『……でも、もう……ケンカしちゃった……』


『ぉ……オレら、ホントに……巫術でズルしてないのに……。アイツら、ズルした、ズルしたって……ずっと、言ってきて……。除け者にして……』


『それは良くないね。仲直りのために……私も力を尽くすよ』


 スミレはそう請け負っていた。


 日々の仕事で忙しいのに、疲れた様子すら見せずに請け負って……見事に彼らを仲直りさせてみせた。大変そうではあったが、あの子は成し遂げた。


 両者の仲を取り持ち、「巫術でズルした」云々と揉めないような遊びも提案し、彼らのその後も見守っていた。


 スミレの優しさは、彼らにも……伝わったと信じたい。信じたかった。


『見事だ、スミレ。お前は巫術師と非巫術師の溝を、見事に埋めて見せた』


『そんなことないよ……。まだまだ、だよ。これは所詮、一例に――』


『いいや。お前は、闇に光を届けた。お前の優しさは……ろうそくの火の如く、優しい光として……彼らの未来を照らしている』


 私の未来も照らしてくれている。


 私の、自慢の光。自慢の娘だ。


 そう告げると、スミレは微笑んでいた。


 ありがとう、と言って微笑んでいた。……だが、陰りのある微笑みだった。





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