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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.3章:過去は影なり【新暦190-242年】
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過去:使徒・エーディン



■title:

■from:隙あらば娘語り・バフォメット


 スミレが爆誕した後、我々はしばらく多次元世界を放浪した。


 <エデン>にとっては通常運転。プレーローマを襲撃して物資を手に入れ、プレーローマの魔手が伸びる地域を救う。それが<エデン>の活動だった。


 私も戦闘員として戦闘に参加し、非番の時は常にスミレの傍にいるようにした。スミレは私がいないと寂しがるが、私が傍にいる時は特にご機嫌だった。


 私が神器の力を使って電気を発生させ、本来は電池で稼働する玩具類を動かしてやると、大層喜んでくれた。スミレはシシンのつまらない冗談もキャッキャと笑う優しい子だったが……私のやる事は純粋に喜んでくれていたように思う。


 つまらんことしか言わないシシンと違って私はスミレを純粋に笑わせる才能を持っているようだった。


『ネウロンに行こうと思う』


 ある日、真白の魔神(マスター)はそんな事を言いだした。


 ネウロン。多次元世界の辺境に存在する世界。


 誰も注目しておらず、それどころか多くの者が名前すら知らない世界へ向かう――などと真白の魔神が言い出した。


 エデンの活動の一環として向かう、と言いだした。


『そんな辺境を、プレーローマが襲撃しているのか?』


『いや、誰も襲撃していない。辺境だからこっそり拠点を作るのに都合がいいし……ネウロンの人達は少々特殊な血を持っているようだから……交渉が上手くいったら実験を手伝ってほしいな、と思っているの』


 エデンにはマスターを始めとして、優秀な人材が揃っていた。


 しかし、エデンだけでプレーローマを倒すのは無理がある。だからマスターは諸国家と交渉し、支援者を募ったりもしていたが……それが上手くいかなかった。


 そこで、エデンが一から拠点を整備していく事になった。


 誰も見向きもしない辺境の世界にこっそり向かい、そこに異世界の技術を伝えて発展させる。そうする事でエデンを支援する基盤を作ろうとしていた。


 面倒な仕事のようだが、真白の魔神が必要と考えるなら必要なのだろう。私も同志達もネウロン行きを受け入れた。


 スミレのためにも悪くない話だと思った。


 スミレは狭苦しい方舟の中でも楽しみを見つける天才だったが、いつまでも方舟暮らしというのはあまり良くない。


 方舟の中ではなく、ノビノビと暮らせる陸の暮らしをさせてあげたい――と思っていた。色んなものを見せてあげたいと思っていた。


 まずは辺境の世界(ネウロン)に腰を下ろし、飽きたら別の世界に旅行に行くのもいいだろう……などと私は考えていた。……軽く考えていた。


 そうして降り立ったネウロンは、酷く寒い世界だった。


 どこもかしこも雪がつもり、猛吹雪も珍しくない。


 厚い雲が空を覆い、日の光が大地を照らす事も稀。極寒の世界だった。


 か弱く幼いスミレが風邪を引いてしまうか心配だったが……マスターはスミレ用の防寒着を用意してくれた。それも、可愛いスミレにピッタリのモコモコとした可愛い防寒着だった。


 皆が「雪の妖精みたい」と言う中、シシンが「モコモコしすぎてデブの雪だるまに見えるぞ」と言って笑うので、私とエーディンはシシンをクレバスに蹴落とした。幸い、スミレは気にせずキャッキャとはしゃいでいた。


 それは良かったのだが――。


『こうも温度が低いと、この世界の人間は死滅しているのでは?』


『まだ何とか生きてる。このままだと絶滅待った無しだけどね』


 ネウロンも多くの世界と同じく、プレーローマが作った。


 プレーローマが管理していたが……源の魔神の死を契機にプレーローマは混乱期に突入。辺境の世界(ネウロン)など管理しておく暇がなくなった。


 ネウロン放棄を決めたプレーローマの天使達は、ネウロンに暮らす人類を滅ぼすために<永遠の冬>という置き土産(ハーベスター)を置いて去っていった。


 <永遠の冬(それ)>の所為で、ネウロンは人間の居住が困難な世界となった。プレーローマも人類も見向きしない世界となり、忘れられていた。


『けど、まだ何とかなる』


 真白の魔神はそう言った。


 ネウロンはまだ復活する。この極寒の大地でネウロン人達は数を減らしつつあるが、<永遠の冬>を取り除けば復活の余地がある。


『プレーローマも、ネウロンに手を出す余裕はないし……。存在すら忘れていくだろう。だからここをこっそり救う。そしてエデンの味方になってもらう』


『ネウロンを我らの後方拠点にするわけか』


『最終的にそうなるかもね。程よい距離感でネウロン人と付き合って、本心から私達を支援してくれる支援者になってくれると……一番いいんだけど』


『我々の拠点になるなら、プレーローマが攻めてくる可能性もあるな』


 いざという時は、軍事拠点として使える備えも必要だろう――という話をしていると、雪で遊んでいたスミレが怯えた様子で話しかけてきた。


『こ、こわいの、くるの……?』


『ム……。いや、大丈夫だ。スミレは私が守る』


 プレーローマの存在に怯えるスミレを元気づけるため、私はスミレを抱っこした。スミレが肩に登りたがるので、手を添えてそれを手伝ってやった。


 スミレは私の肩に登った後も、プレーローマの存在に不安を感じている様子だったが……マスターがスミレに優しく声をかけてくれた。


『大丈夫だよ、スミレ。スミレが怖い思いをしないで済むよう、バフォメットや私達がいる。私達は必ず、プレーローマに勝利してみせる』


『ホントぉ……?』


『ホントホント。私がウソついた事、ある?』


『わりとある……』


 スミレが正直にそう言うと、同志達がドッと笑った。


 マスターも苦笑しつつ、「アップルパイ焼くから信じて」などと言っていた。


 ひとまず、我々は<永遠の冬>を取り除くために動き出した。


 天使達の置き土産に対処したところで、即座にネウロンが救われるわけではなかった。だが、雲間より降り注ぐ陽光は、春の到来を予感させるものだった。


 ネウロン人達も不思議そうな顔で空を眺め、陽光を見上げていたが……それを吉兆だと捉えている様子だった。実際、ネウロンの状況は改善に向かっていった。


『おはようございます。ネウロンの皆さん。私達と取引しませんか?』


 マスターは<永遠の冬>の爪痕として残った天候問題に対処しつつ、ネウロン人との交渉を始めていった。


 迫る春に呼ばれ、穴蔵から出てきたネウロン人が元気に争っているのを調停していった。人類はいつもこれだ。直ぐに争う。


『彼らも不安なんだよ。天候が再び荒れ狂う可能性があるから、身動きが取れる今のうちに他の集落から食い物を奪ってやろうとか……もっと冬越しに適した場所を確保してやろうとか考え、必死に行動しているんだ』


『永遠の冬は終わったのに……。愚かな事だ』


『彼らではそれが理解できない。仕方ないよ。寒さが彼らを弱らせてしまったんだ。でも、彼らも変わっていく。暖かな陽気が、彼らの心も溶かしていくだろう』


 マスターはネウロンの紛争を調停し、各部族の代表者を強引に集めた。


 エデンの方舟に招集された代表者達は、空飛ぶ船に恐れおののいていた。後進世界らしい振る舞いに、我々はつい笑ってしまった。


『皆。彼らを舐めるのはやめなさい。キミ達が彼らと同じ力、同じ状況に置かれた時、彼らのような反応をした時……同じように笑われるのは嫌だろう?』


 マスターはしごくもっともな事を言い、我々の襟を正させた。


 それでもまだわきまえない使徒もいたが、マスターはそういう者達に対して厳しく命令(オーダー)で縛るか、会談の場への参加を許さなかった。


『皆さん。長い冬は終わりを告げました。冬そのものは再び来ますが、今までのように終わりなき冬ではありません』


 マスターは各部族の代表者達に対し、出来るだけ丁寧に説明した。


 彼らはネウロンの状況が変わった事を、完璧に理解したわけではなかった。しかし、自分達の常識を超えた存在に対し、畏敬を抱いている様子だった。


『<エデン>はネウロンの発展を支援します』


 空飛ぶ船。鉄の巨人。冬によって衰退していたネウロン人にとって、マスターが扱う技術はとても魅力的に映っただろう。


『対価として、我々にもネウロンの土地をいただけませんか?』


 長く続いた冬により、ネウロン人は大きく数を減らしていた。


 そのため土地など有り余っていた。マスターが指定する地域の多くは、ネウロン人にとって大した価値のない場所ばかりだった。


 各部族の代表者達は、こぞって手を上げた。交渉のために用意した別室で、「自分達が持っている」と主張する土地を対価として支払ってきた。


 マスターは彼らとの交渉を、部族単位で行った。


 交渉の席に、別部族の人間が立つ事を決して許さなかった。


 個別に「彼らが持つ土地」について、主張を聞いていった。


『んににににに……!? ましゅたぁ! なんか、これ、おかしいよぅ……』


 後学のために会談と交渉の場に参加し、ピコピコと端末を触っていたスミレは声を上げた。聡明な彼女は「おかしなこと」に気づいた。


 マスターはネウロン人の前でそれを言わないよう、やんわりとスミレを遮り――ネウロン人が去った後、膝を曲げてスミレと視線を合わせながら「何に気づいたのかな?」と優しく問いかけた。


『さっきの部族(ひと)と、4つ前の部族(ひと)、「自分の土地」って言ってるとこ……かぶってるよ!? 他の人もそうっ! なんでなんで?』


『言った者勝ちだからね。どれだけ不毛な土地だろうと、エデンとの交渉材料になるなら……ウチの土地だよ、と主張しちゃうんだ』


 風雪は人々を弱らせ、国境も覆い隠した。


 このような辺境の地でも、領土問題は確かに存在していた。


 中には「ネウロンの大地は全て朕のものである」などと主張する者もいたが、マスターは笑顔で全員の主張を聞いていった。


 そして、スミレが記録した「各部族の主張する領地」のプロット図を皆に見せた。当時のスミレはまだ幼かったが、それでもエデンが事前測量していた地図に各部族の主張を「正確に」記録できる才女であった。


『これが、各部族の領土だ。無茶苦茶なことを言っているクラーク士族の領土はひとまず非表示にすると……まあ、とりあえずこんな感じかな~?』


『歪なジグソーパズルだ』


『バフォメット。これはジグソーパズルではない。幼稚園児が好き勝手に絵の具をぶちまけ、それぞれの絵の具が干渉している状態だ』


『その例えは、幼稚園児に失礼では?』


『少なくとも、子供のような可愛げは無いな。ネウロンの諸部族には』


 ともかく、彼らの領土は盛大に被っていた。


 主張する土地が被っているという事は、そこが係争地である証明。彼らはそこを争って再び紛争を起こすだろう――とマスターは言った。


『まあ、この主張通りに動くならまだいい方で……その時その時で好き勝手に主張を変える部族が大半だろうね。一応、索敵機の映像込みで彼らに領土を確認させたけど……あまり理解できていないだろうし』


『面倒ですなぁ……。ネウロンには我々(エデン)の支援をお願いしたいのに……後方の拠点で紛争が起きていると、補給に支障が……』


『その通り。では、この紛争を調停しないといけないね』


 マスターは笑みを浮かべ、「どうすればいいと思う?」と使徒達に聞いた。


 私は妙案が思い浮かず、黙って話を聞いていた。


 使徒の中には「好きに戦争させて、こっちは技術供与で儲ける」とか「エデンが各部族を武力で支配する」とか「皆殺しにし、エデンに従順な異世界人や流民を入植させる」などと言う者達がいた。当然、それらの意見は却下された。


『エーディン。キミの考えは?』


『国境を……境界を買いましょう。とりあえず、我々が間に入るしかありませんよ』


 肩をすくめながらそう言ったエーディンに対し、マスターは「では、キミに任せる」と言い、諸々の交渉をエーディンに頼んだ。


 エーディンはネウロンにおける真白の魔神の全権を与り、各部族との交渉を行った。部族の主張が干渉している土地を――技術を対価に――<エデン>が買い取っていった。


 かくして、ネウロンに「エデンの領地」が生まれていった。


 それは歪で、長大なものだった。


 部族と部族の間に挟まれる場所を手に入れたため、どうしても長細いものになってしまった。


 それ以外にも、形の整った土地も手に入れたが……エデンがネウロンで手に入れた土地の大半は、そのような歪なものだった。


『これで国境問題は解決か?』


『こんなもので片付くはずがない。ほら早速、部族の偵察隊が来てるでしょ』


 様々な部族が、エデンの土地を挟んで他部族を睨んでいた。中には間に立つエデンの土地を「何とか手に入れたい」と虎視眈々と狙うものもいた。


 人類は愚かで、争いが大好きな生き物だ。


『人類はきっと、永遠に争う。今はエデンという強者がいるから大人しくしているけど、あの手この手で余所の領地を奪おうとする。まだ足りない。まだ豊かになりたい。そう考え、より多くを求める』


『理解に苦しむ』


『人の欲望は際限ないのよ。バフォメット』


 ともかく、ネウロンで紛争が発生するのは都合が悪い。


 エデンにとって都合が悪い。


 ゆえにエーディンはエデンの土地に巨大な監視塔を作り、各部族を見張りつつ……その威容によって各部族を威圧した。


 人間は巨大なものを恐れる。自分達が努力しても作れないほど、巨大なものだと一層効果的だ。ただ、それだけでは足りない――とエーディンは言った。


『境界をもっと明確にしましょう』


『長大な壁でも作るのか?』


『そんなの勿体ない。いっそのこと、鉄道(・・)を作りましょう!』


 エーディンはそう言った。


 単なる壁では、分断が決定的になるだけ。


 鉄道ならば、境界を明確にしつつ、インフラとしても使える。


『私達でチャチャッと鉄道を作って、ネウロン人にも使わせるのよ』


『物資輸送なら……方舟の方が速いと思うが……』


『まあ、界内を移動するより、一度混沌の海に出た方が移動距離短く済むけどね。ネウロンで方舟を普及させるのは早いから、ひとまず鉄道。そのうち地下鉄道も整備した方がいいかな……いざって時に使えるだろうし』


 エーディンは真白の魔神の技術を借り、鉄道建設に取りかかった。


 ネウロン人達は地を走る鉄の箱に恐れおののいたが、それが「便利なもの」だと知ると、段々と慣れていった。


 それを利用しやすい場所に、新たな集落を作る者達も現れた。


 エーディンはそれを推奨した。各部族の長達の中には、過剰にエデン側にすり寄る者達を強く責める者達もいたが、エーディンはそれらを調停していった。必要に応じて私も調停の場に参加した。


『若人が頑張っているんだから、皆さんも応援してあげてくださいよ。部族の人間も沢山増えたんですから、より良い土地に移住した方が効率的ですよ?』


 エーディンは既得権益を持つ「部族の長達」を可能な限り排除した。


 それらしい事を言いつつ、部族の若者達を扇動し、エデンの土地を中心に町を作らせていった。格安で賃貸契約を結び、鉄道周辺の土地も貸し与えた。


 部族長の取り巻き達が、エデンにすり寄っている者達から利益を搾り取ろうとする者がいたが――。


『ここはエデンの土地なんで、そういう勝手は止めてもらえますか?』


『コイツらはウチの部族の人間だぞ!? 今まで育ててやった恩を忘れ、好き勝手やっているのを……先人の我々が正して何が悪い!!』


『エーディン。武力が必要か?』


『ああ、バフォメット。それはさすがに大丈夫。部族の皆さんに争う意志はない。そうでしょう? ねえ? ……バフォメットと戦闘したいの?』


『そ…………そういう、つもりでは…………』


雷の化身(バフォメット)と争いに来たわけでは、ない……』


 各部族の長達は、武力をちらつかせたが……実際に振るわれる事は殆どなかった。それが振るわれる前にエデン戦闘員が出て、場を収めた。


 先人を自称する部族の老人達は、若人達に置いていかれた。最初にネウロンで復興していったのは鉄道周辺――つまり、エデンの土地だった。


 そこから大してアクセス性の良くない部族の集落は発展についていけず、力を失っていった。


 彼らは真白の魔神から得た技術力に縋り、何とか盛り返そうとしたが……真白の魔神の技術をより多く持っているエデンには勝てなかった。


 土地代として彼らに渡した技術は、そこまで大したものではない。彼らの暮らしを安定させるものではあったが、それでも大きく発展させる要の技術はこちらが押さえていた。


『エーディン。農園を荒らしていた犯人が網にかかったぞ。やはり、部族長側の人間だった。証拠もキッチリ押さえた』


『よしよし! じゃあ、ラッピングして届けてあげましょっか~』


『殺処分しなくていいのか?』


『何やっても無駄だよ、って証拠付きで突きつけてやった方が後が楽。殺しなんかやったら、私達についたネウロン人にも恐れられちゃうから殺しは駄目』


『了解した』


 部族長側の者達はアレコレと妨害してきたが、無駄だった。子供と大人の喧嘩にすらならなかった。エデンは彼らの妨害を指先1つではね除けてきた。


 部族は緩やかに滅びていった。


 完全に滅び去ったわけではない。中にはエデンの施策に上手くついてくる柔軟な考えの部族長もいた。だが、大半の部族は力を失っていった。


 代わりにエデンの土地で事業を始めたネウロン人が作った商業組織が、ネウロンで広く活躍していく事となった。


『我らは<ネウロン商業連合(ベルト)>! 大恩ある<エデン>を支え、ネウロンをさらに発展させ……皆を幸福に導こう!』


 ネウロン商業連合の台頭で、ネウロンの部族社会は崩壊していった。


 諍いが無かったとは言わないが、それなりに平和的な崩壊だった。部族の中心的な者達だろうが、古いしがらみに縛られないのであればネウロン商業連合は受け入れた。商業連合は部族の垣根を越えた存在となっていった。


 人や物が境界を越えれば越えるほど、ネウロンの国境は薄れていった。


 商業連合が力を持った背景には、当然、エーディンがいた。


 真白の魔神も知識・技術(ちから)を貸したが、ネウロン人の発展や協力はエーディンが主に進めた。


 エーディンは土地を安く貸して進歩的なネウロン人を抱え込んだ。既得権益者から彼らを守るだけではなく、まだ未熟な彼らを親のように見守っていた。


 商取引を通じ、他部族の人間同士の交流をさせ、彼らを部族のしがらみから引き離していった。「その方が幸せになれる」と学ばせていった。


『人の欲望は際限ない。でも、欲望を上手くコントロールしたら原動力になる。彼らの欲も、私達にとって大事なものなのよ』


 エーディンはネウロン人に発展のための技術を教えた。時には彼らの失敗をエデン側で補填した。そうして恩も売っていった。


 エデンが手に入れた土地で資源採掘場を作り、そこでの仕事をネウロン人達に任せていった。安全に採掘するための技術も与え、彼らと共に儲けていた。


 エーディンは彼らとよく語らっていた。


 笑顔で、明るい未来に関して論じていた。


 ネウロン人はエーディンにとって子のような存在で、同時に生徒のようでもあった。彼女は異世界の事例を持ち出しつつ、ネウロン人を導いていた。


 広い世界を知ったネウロン人達は瞳を輝かせ、エーディンに熱心に教えを請うていた。真白の魔神とエーディンという大木が作る木陰の下で、無邪気に学び、真摯に働いていた。


『人間は愚かだけど、獣じゃない! 彼らに契約を理解する知識を与えれば、契約を遵守した方が「得だ」と理解していく。無駄な争いをしなければ、もっと豊かになれるという希望を抱き、真面目に働くようになる』


 エーディンは一生懸命働くネウロン人を見守りつつ、そう言っていた。


 人間を愚かだと言いつつも、彼らを見守る目つきには……とても温かなものがあった。実際、彼女はネウロン人をとても大事にしていた。


 愛していた。


 エデン側の将来的な利益も確保しつつ、ネウロン人も豊かにさせた。豊かになるための知恵を授けつつ、彼らを厳しくも優しく指導していた。


 エーディンは人の欲望を理解し、ネウロン人を上手く操った。


 いや……教え導いたと言うべきか。


 ネウロン人と真白の魔神の橋渡しも務めていたからな。未熟なネウロン人はたまにバカなことを言っていたが、それでもエーディンは彼らと向き合っていた。


 未熟なのは仕方ない。


 彼らには無限の伸びしろがある。……そう言う事もあった。


 エーディンは彼らの欲望(ねがい)を実現させ、ネウロンを豊かにしていった。彼女の施策に関しては……マスターも満足していただろう。


 彼女の政策に関しては、満足していたはずだ。


 エーディンはマスターの考えを理解していた。


 エーディン本人が「ネウロン人を豊かにしてあげたい」という考えを抱いていたのかもしれないが、彼女はマスターの考えもよく汲み取っていた。


 だが、しかし、全ての使徒が彼女のように聡明だったわけではない。


 人類は愚かで、我々もまた愚かだった。



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