過去:別れと出会いの日
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■from:使徒・バフォメット
かつて、私は一振りの剣に過ぎなかった。
自我もなく、ただ剣として在った時代。私には担い手がいた。
自我はなくとも、当時のことは覚えている。
我が担い手は、ただの女子高生だった。しかし、プレーローマの魔手が彼女の故郷に伸びてきたことで、平穏な日々は終わりを告げた。
神器の担い手として覚醒した彼女は、私を振るって必死に戦った。故郷を焼くプレーローマの軍勢と戦った。
彼女はよくやったが、プレーローマは強大だった。彼女の故郷どころか、故郷が存在する世界ごとプレーローマに滅ぼされ……我々は逃げるしかなかった。
彼女の親も、愛犬も、学友達も次々とプレーローマに殺された。中には彼女と同じ<神器使い《メサイア》>もいたが、彼らもろくな目に遭わなかった。
我が担い手は命からがら逃げ延びたが、戦いからは逃げなかった。
異世界に逃れた後もプレーローマと戦って、戦って……最後は敗れた。
致命傷を負って、戦えなくなった彼女を見て、ようやく私は動いた。動かねばならない。守らなければならないという「自我」が芽生えた。
私は彼女を守るために戦った。より正確に言えば暴走した。
結果、何とか敵を退けることに成功したが……出来たのはそれだけ。私は殺戮の道具に過ぎず、彼女を助けることは出来なかった。
この子を死なせてはならないと思っていたが、守ることが出来なかった。
私は戦場跡で途方に暮れていた。その時、「彼女」と出会った。
『危険を冒して来た甲斐があった……かな?』
白衣を纏った「彼女」を敵と考えた私は襲いかかった。しかし、「彼女」は私を止めて、「私はキミ達の敵じゃない」と語りかけてきた。
『一応、助けに来たんだ。勧誘も兼ねてね。神器使い本人とは会えず、自我に目覚めた神器と出会うとは……ちょっと予想外だったけど』
『貴様は……いや、貴様らは何者だ?』
『私達はエデン。プレーローマに抗う者だよ。……キミ達と同じくね』
それが、私と真白の魔神の出会いだった。
真白の魔神は私達を助けてくれた。表向きは助けてくれた。
だが、おそらく……我が担い手が死んでいた時点で、マスターは……彼女の遺体を利用するつもりだったのだろう。私を騙して、利用するつもりだったのだろう。
それでも私は彼女に縋った。
この子を助けてやってくれ、と縋った。




