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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.2章:正義の在処【新暦1238-1240年】
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if:アダム・ボルトの憂鬱な一日



■title:

■from:アダム・ボルト


「……ハァ」


 今日ほど「家に帰りたくない」と思ったことはない。


 久しぶりの長期休暇を使い、交国本土に戻ってきた。家族と会える。それは喜ばしい事なのだが……背後で騒いでいる男達の所為で憂鬱だ。


「隊長? 何で立ち止まってるんですか?」


「隊長の家、早く行きましょうよ~!」


「この機会に、隊長のご家族に紹介してくれる約束でしょっ!?」


「…………」


 私と同じく長期休暇に入った星屑隊の隊員達が、ゾロゾロと私についてくる。


 隊員達も私と同じく、本土に家があるから同じ便で帰ってくるのは当たり前なのだが……私は何故、コイツらに「家族を紹介する」と約束してしまったのだろう。


 約束してしまった自分の愚かさに絶望していると、ニヤニヤと笑っている副長が話しかけてきた。


「ひょっとして、星屑隊(おれたち)を紹介するのが恥ずかしいんですか!?」


「まあ…………多少は……」


「ヒドい! オレ達、どこに出しても恥ずかしくない交国軍人なのに!!」


「どこに出しても恥ずかしくない交国軍人は、他の部隊と全裸で乱闘騒ぎを起こしたりしない。絶対にしない」


「向こうが風呂場で喧嘩ふっかけてきたから仕方ないじゃないですか!」


「「「そーだそーだ~!」」」


「「「俺らは悪くないでぇ~~~~すっ!!」」」


 一般人も行き交う場所ではしゃぐ隊員(ガキ)共に「はしゃぐな。やめろ」と告げる。だが、あまり効果はなかった。


 作戦行動中ならもっと聞き分けがいいのだがな……。長期休暇に入っているので、はしゃいでいるようだ。


「風呂場で喧嘩が始まったとしても、最終的に場外乱闘していただろう」


「でも、オレらは軍事委員会に警告されるだけで済みましたし!」


「向こうは懲罰房行きでしたけどっ!」


「副長が上手くやったからな……」


 副長は都合の悪いことは相手側に被せ、星屑隊の隊員らを弁護していた。


 ……副長本人も全裸で暴れていたのだが、憲兵が飛んできた時にはもうシレッとした顔で服を着て、自分は「騒動の後で来ました!」という顔を浮かべていた。


 我が隊の副長ながら、やや恥ずかしい。


 まあ、そういう悪知恵が働くところには色々助けられているがな……。私と違って、副長(チェーン)は器用な奴だ。


「家族に紹介するのは……別にいい」


 それ自体は別に構わん。


 だが、少し……ほんの少しやりづらい事が2人分あるのだ。


 アレをコイツらに知られた場合、後が面倒だろうな……と思っているだけだ。


 偶然の一致とはいえ、コイツらは騒ぎ立てるだろう。


「ちゃんと隊長のご家族の前では紳士的に振る舞いますから~! 喧嘩しません! 全裸しません! 模範的交国軍人らしくキチッとしてますって!!」


「…………ハァ…………」


「隊長が見たことない顔してる!!」


「すげードッと疲れてる! 大丈夫ですか!?」


「くそっ! 誰が隊長を疲弊させてるんだ!?」


「貴様らだ貴様ら。貴様らの存在に疲れているのだ……」


 星屑隊の隊員達は悪い奴ではない。


 少しガキなだけで、悪い奴らではないのだ。


 その「少しガキ」なところが面倒だな……と思っているのだ。


 今回は特定の部隊員の存在が面倒なのだが……本人らには罪はない。私の個人的な都合に過ぎん。


「とにかく……行くか」


『了解っ!!』


「うるさい……。一般市民が怖がるから、一斉に叫ぶな……」


 ゲッソリしつつ、妻に連絡する。


 背後で隊員(ガキ)共がキャイキャイはしゃいでいる中、「今から帰る」と連絡しておく。「むさ苦しいオーク共を連れて帰るから覚悟しておいてくれ」と言うと、妻は苦笑しながら「楽しみにしてます」と言ってくれた。


 面倒をかける。


 休暇中、色々と家族サービスせねばな……と思いつつ、歩き出す。


「いや~! 楽しみだなぁ~! 隊長のご家族全員と会えるんですよね!? 奥さんと息子さん2人と……あと娘さん! 特に娘さんに会うのが楽しみですよ!」


「何故だ?」


「隊長の娘さんと結婚したら、隊長のことをお義父さんと呼べ――――」


 看過できないことをほざいた副長にタックルし、脚を掴んでハンマー投げの要領でぐるぐると回す。


 十分に平衡感覚を失わせてやった後、「娘に手を出したら殺す」と厳命しておく。手を出したら本当に許さん。


「息子達に悪い遊びを教えても殺す。全員、わかったな!?」


『了解!!!』


「返事はしっかりしているな。返事だけは……」


 ヘラヘラ笑っている隊員達を見つつ、フラフラと車道に寄っていく副長の襟首を掴んで引きずって行く。


 せっかくの休暇だが、騒がしい奴らの所為で憂鬱な一日になった。


 だが、たまには…………いいか。こういうのも。ウチの家族も、星屑隊の連中に興味津々だったようだし……一度ぐらいは紹介しておこう。


 そんな事を考えつつ、隊員達を先導する。


 家の近くまでやってくると、2人のオークを見つけた。


 年の離れたオークの兄弟。私の息子達だ。


 2人で買い出しに行っていたようだ。


 向こうも私を見つけ、買い物袋を下げて駆け寄ってきた。


「「おかえり! 父さんっ!」」


 元気よく声をかけてくる2人に微笑みかけつつ、言葉を返す。


「ああ、ただいま。……アラシア、オズワルド」





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