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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.2章:正義の在処【新暦1238-1240年】
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過去:林檎の選別



■title:交国首都<白元(びゃくがん)>にて

■from:交国特佐長官・宗像


「<武司天>め……」


 報告書を読みつつ、人類の敵の名を呟く。


 先日、<轍の国>という後進国を攻めていた交国軍が壊滅した。


 原因は、突如横槍を入れてきたプレーローマの部隊だった。


 奴らは<武司天>麾下の部隊だったらしい。さすがに武司天は戦場に出張ってきていなかったようだが、麾下部隊の練度は高く、あっという間に轍の国に派遣した交国軍は蹴散らされてしまった。


 轍の国は泥縄商事の支援を受けていたようだが、交国軍なら末端の部隊でも問題ない相手だった。プレーローマの横槍さえなければ、難なく勝てたはずだ。


 我々がプレーローマの動きに気づいていれば……兵士達を無駄死にさせずに済んだというのに……。


「兵士の大半は、捕虜になったか……」


 武司天はプレーローマの<人類絶滅派>の筆頭であり、<三大天>の1体。奴の部下達に、交国軍の兵士は今まで何人も捕虜に取られている。


 武司天は帰還を希望している兵士の返還には前向きだ。こちらの交渉次第では兵士を無事に返してくれる。優秀な兵士の返還に関しては高くつくだろうが……。


 その手の戦後交渉に関しては、特佐長官(わたし)の役目ではない。返還された兵士が敵の間者にされている可能性もあるので、注視はするが……。


「…………。轍の国制圧部隊には、確か……」


 私が関わっている事件の関係者がいたはずだ。


 先日まで<アーミング>という後進世界で、<第59教導隊>という教導部隊が活動していた。しかし、その教導隊長はテロリストと通じていた。


 アーミングの惨状は交国の所為。


 交国はアーミングの紛争をコントロールし、継続させている。


 教導隊長(ヤツ)はそう言いつつ、テロリストのために動いていた。


 それがアーミングを救うことになると考えながら――。


「馬鹿な陰謀論者め。そのような事実は存在しない(・・・・・)


 アーミングの紛争を交国が煽っている事実など、存在しない。


 ただ止めて(・・・・・)いないだけ(・・・・・)だ。現地の事情や歴史的背景が複雑に絡み合っている紛争ばかりのため、交国が介入したところで解決が困難なだけ。


 交国が本腰を入れれば、アーミングの紛争も解決できる。だが、そこまで手間をかけたところで見返りが少ないため、放置しているだけだ。


 アーミングの問題は、あくまでアーミングの問題。


 交国の問題ではない。人類全体にとっても大した問題ではない。アーミングで起きている悲劇など、多次元世界には有り触れたものだ。


 それを1つ1つ潰していったところで、人類の利益にはならない。交国の利益にもならない。交国は人類のために戦っているが、何事にも優先順位がある。


 アーミングの問題に手間をかけるより、プレーローマ戦線やその他の重要な案件に注力すべきだ。


 一部の陰謀論者達は「悪事は全て交国のもの」と言っているが、とんでもない馬鹿共の発言だ。交国は人類のために戦っているというのに……。


 第59教導隊の隊長は、アーミング人のテロリストに色々と吹き込まれたらしい。そのテロリストが自分の元生徒だった事もあり、絆されてしまったらしい。


 そのテロリストはテロリストで<泥縄商事>にあることないこと吹き込まれ、奴らの手駒として使われていた愚か者だ。


 アーミングの紛争激化の発端に関わっているのは、交国ではない。むしろ泥縄商事と言うべきだろう。騙されたアーミング人に、さらに交国人が騙されたらしい。


 両者共、陰謀論に踊らされていたわけだ。


 馬鹿同士、お似合いの師弟と言うべきかもしれんな。


「まあ、教導隊長にブロセリアンド解放軍(テロリスト)をけしかけたのは私だが」


 彼は反交国思想が芽生え始めている疑いがあった。


 だから、試薬代わりにブロセリアンド解放軍を接触させた。


 解放軍はテロ組織だが、交国が密かに管理しているテロ組織。奴らの内情は汞とその部下を通して把握している。


 教導隊長と解放軍を接触させ、奴の交国への忠誠心を確かめるつもりだった。結果、愚かな教導隊長はコロリと反交国思想を花開かせた。


 1人の交国軍人がテロリストになった事は嘆くべき事だが……こちらの監督下でテロリストになったなら、管理はしやすいはずだった。


 彼は最終的に<雄牛計画>で処分予定だったが、最近はどうも動きがおかしかった。解放軍の一員なのに、解放軍の意向を無視する事が増えた。


 彼は元々、「アーミング人のためには蜂起が必要」と言っていた。だが、最近は「アーミング人のためには、別の方法を考えるべきでは?」などと言い始めた。


 何かのきっかけで、「全て交国が悪い」という思考が治りかけていたのかもしれない。だが……それはブロセリアンド解放軍にとって都合の悪い話だった。


 解放軍は我々の管理下にあるが、全てをコントロール出来ているわけではない。


 教導隊長が解放軍の意向を無視する事に関し、苛立った解放軍の末端兵士が「第59教導隊の教導隊長はテロリスト」と密告してきた。


 末端の兵士が勝手に、交国軍を利用して解放軍内部の粛清を行ったわけだ。教導隊長がテロリストという情報は把握しているが……把握しているのは交国内部でもごく一部の人間だけだ。


 何も知らなかった者達は色めき立ち、「直ぐに対応すべきだ」と言いだした。放置していると雄牛計画にも支障が出かねないため、今までずっと泳がせていた教導隊長を捕まえざるを得なくなった。


 ただ、そこから先は軍事委員会に任せた。


 教導部は軍事委員会の一部門であり、そこの人間を特佐に捕まえさせた場合。軍事委員会の信頼が大きく傷つく可能性がある。


 最初に情報を掴んだのは特佐(こちら)だが、今回は委員会に花を持たせる事にした。委員会が身内の不正に気づき、厳しく動いた――という処分にさせた。


 特佐と軍事委員会は職務内容で牴触する範囲があり、いがみ合う事はあるが……本来は仲間だ。無駄に争う必要はない。


 軍事委員会は交国に必要なものだ。特佐達だけでは、全ての問題に対応しきれない。わざわざ軍事委員会(なかま)の名誉を傷つける必要はない。


 かくして、教導隊長(テロリスト)の件は一段落していた。


 ただ、あの件の関係者が<アーミング第4特別行動隊>として轍の国制圧作戦に参加していたはずだ。


 教導隊長の思想に影響を受けていたとしても、教導隊の人員は分割したため、もはや大したことは出来ない存在になっていたが――。


「調べてほしい交国軍人がいる」


 アーミング第4特別行動隊が、その後どうなったかが気になった。


 部下に頼んで詳細を調べてもらうと――。


「元教官の交国軍人のうち、1名生存。もう1名は死亡したか」


 彼らが率いていた特別行動兵達は、現在行方不明。


 戦闘記録を参照すると、特別行動兵は最後まで逃げずに(・・・・)戦っていたらしい。


 自分達を率いていた元教官達を助けるため、戦場を走っていたようだが……所詮は特別行動兵(こども)の群れ。何も出来ず、プレーローマの部隊に捕まったらしい。


 大半がプレーローマの捕虜になったのだろう。


 正確には武司天の捕虜になった、と言うべきか……。


「生還した交国軍人は、どう対処するつもりだ?」


「ブロセリアンド解放軍を接触させて、交国への忠誠心を確かめます」


「ふむ……」


「生存者のアラシア・チェーンは、臣民診断機構(システム)が非臣民化の危険性大と判断したので――」


「そうか」


 かつての第59教導隊の隊長と、同じ処分になったようだ。


 ここから「臣民」に戻れるか否かは、彼次第だろう。


 だが――。


「アラシア・チェーンも雄牛計画に参加させろ」


 人の心は複雑だ。


 仮に解放軍の勧誘を突っぱねたとしても、いつか交国を裏切る可能性がある。


 彼には悪いが、裏切られる前に裏切ろう。


 全ては人類のためだ。


 教導隊長は腐った林檎(テロリスト)だった。


 それと接触してしまった彼も、処分しておくべきだろう。


 代わりはいくらでもいる。問題あるまい。





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