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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.2章:正義の在処【新暦1238-1240年】
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過去:大事な友達



■title:<轍の国(ドーロ)>にて

■from:アラシア・チェーン


 轍の国は、交国の敵じゃない。所詮は後進国だ。


 奴らが使う機兵は「機兵」と呼ぶのすら恥ずかしい型落ち品だった。


 機兵の数は敵の方が多かったが、オレとイジーが使う型落ち品ですら勝てる性能差だった。敵機兵は流体装甲を備えていなかったため、運動性能も装甲も火器も……全てにおいて交国軍側が勝っていた。


 流体装甲ではなく、通常の金属装甲を纏って動く機兵。


 それは単純な戦闘能力以外にも大きな弱点を抱えていた。


 流体装甲は摩耗しやすい部品も戦闘毎に作成しているため、流体装甲(それ)がないと整備性も大きく低下する。


 敵はこちら側より連戦に耐えられない。畳みかけていくと、故障してまともに動けない機兵ばかり遭遇するようになった。


 敵がこちらの脅威に気づき、待ち伏せに切り替えたところで無意味。こちらは偵察ドローンを多数先行させ、敵の位置を割り出せる。


 あとは砲撃の雨を降らせて、敵を叩き潰せばいい。


 こちらの機兵には流体装甲があるため、現場で柔軟に戦法を切り替えられる。向こうは流体装甲を使えないため、砲撃を受けても再生できない。


 どこかに籠城されようと砲撃ですりつぶせる。場所によっては<星の涙(スターマイン)>を降らせて、跡形もなく吹き飛ばす事も出来る。


 機兵戦で圧倒出来るため、ガキ共も戦場に出さずに済んだ。


「皆、偉いぞ! ちゃんと言われた通りに隠れていたな……!」


 イジーはそう言い、ガキ共を褒めていた。


 役に立たないガキ共も――交国軍側が優位なら――隠れている事は出来た。怯えている奴も大勢いたが、「イジー教官」が頼りになる事は皆知っている。


 だから、皆が必死にイジーの命令を守っていた。


 戦闘が終わるたび、イジーに大勢のガキが駆け寄っていた。


 ガキ共も……わかってくれているんだ。イジーが自分達のために戦ってくれていること。皆、理解している。あの光景を見ていると、オレの心も癒やされた。


 第4特別行動隊(ウチ)に派遣された整備兵の腕が悪すぎて、機兵がたびたび動作不良を起こしたが……オレとイジーにとっては大きな障害じゃなかった。


 お互いに死角を補い合って、必死に敵を打ち倒して切り抜けた。


 他の部隊の奴らも「ガキ共は何の役にも立たないが、機兵乗りだけはなかなかやる」と評価してくれた。


「アイツらは特別行動兵ですが、悪い奴らじゃないんです」


 オレは他の部隊の奴らにも事情を説明し、協力を求めた。


 頭を下げて回って……ガキ共に危険な役割が割り振られないよう、頼んで回った。嘲笑される事もあったが、話がわかる人も多かった。


 親身になってくれる人も、確かにいた。


「彼らの罪はともかく、役に立たない事は確かだ。そんな子供達に重要な仕事は任せられない。……ただ、彼らが悪さをしないようにキッチリ監督してくれ」


「ありがとうございます……!」


 交国の勝利は目前に迫っていた。


 交国が連戦連勝を喧伝し、実際に轍の国を叩きのめしていった事で……轍の国に蹂躙されていた周辺諸国の奴らも息を吹き返し、交国軍を支持してくれた。


 轍の国の兵士を機兵で蹴散らし、追い出すたび、住民達が諸手をあげて歓迎してくれた。……陰で「汚らわしいオークがいる」と陰口をたたかれていたが……まあ、それに関しては些細な話だ。


 邪魔しなければ、それでいい。


『アラシア!!』


「悪い! また整備不良だ……!」


『この場は俺が何とかする! 一度交代して、再起動を!』


「すまん! 任せた! 無理はするなよ!?」


 危うい場面もあったが、オレ達は何とか生き残っていた。


 誰1人欠けること無く、勝ち続けていた。


 誰1人逃げなかった。ガキ共はイジーの言いつけを守っていた。


 このまま全て、上手くいくはずだった。


 そんな希望は、奴らの手で粉砕された。


『なんで……なんで、プレーローマの機兵がここに……!』


「イジー! 下がれ!! 後退しろ!!」


 突然、プレーローマの機兵部隊が現れた。


 轍の国に攻め入った交国軍の部隊が、プレーローマの部隊に襲われている。


 権能持ちの天使に襲われた奴も出たらしい。天使が先陣を切って交国軍の部隊を蹴散らし、その後を機兵部隊がついて回って……トドメを刺しているらしい。


 形勢は一気に逆転した。


 オレ達も――――。


『…………! アラシア! 子供達を頼む!』


「イジー!! ダメだ!! イジー!!」


 イジーは敵機兵を足止めするために、単身で突っ込んでいった。


 そして、あっという間に破壊された。型落ちの機兵で挑みかかり、複数の敵機兵の容赦の無い攻撃を受け、やられてしまった。


 ダメだ。


 この戦場は、もうダメだ。


「第4特別行動隊! 頼む!!」


 逃げるしかない。


 だが、イジーを置いて行けない。


「イジーを連れて逃げてくれ! アイツはまだ、操縦席で生きているはずだ!」


 通信は途絶している。


 けど、アイツがあんな簡単にやられるわけがない。


 機兵が万全の状態なら……あんな型落ち機兵じゃなければ……。


 とにかく、生きているはずだ。だって、次席のオレがまだ生き残っているんだ。


 主席のアイツが……オレの親友が、くたばるはずがない!


「オレが敵を引きつける! その隙にイジーを……イジーを助けてくれ!!」


 ガキ共はイジーを慕っていた。


 イジーが、ガキ共を気遣って助けていたこともわかっていたはずだ。


 イジーの優しさは、確かに伝わっていたはずだ。


 だが、それでも――。


「頼む! オレの親友を――」


 奴らは何も言わなかった。


 通信に応じなかった。


 ガキ共は、オレ達を裏切った。


 オレ達を置いて、逃げ出した。




■title:<轍の国>にて

■from:アラシア・チェーン


「イジー……! おい、イジー……!」


 オレ達は負けた。


 イジーの機兵も、オレの機兵も大破した。


 だが、オレはまだ生きている。深手も負ってない。


「イジー、逃げるぞ。しっかりしろっ……!」


 敵の機兵部隊は、他の交国軍の部隊に向かっていった。


 オレ達は生きているのに、殺せたと判断したのか……あるいは機兵さえ壊せば、機兵乗り(おれたち)は大した脅威ではないと思ったのかもしれない。


 とにかく、オレは生き残った。


 そして、イジーも――。


「大丈夫だ。絶対……ぜったい! 助けてやるからな!?」


 動かないイジーを担ぎ上げ、逃げる。


 イジーは生きている。息は……している。


「オレは、絶対に、お前を見捨てない」


 誓う。


 オレは、あの特別行動兵(がきども)とは違う。


 飢え苦しんでいるのに、争いを止めない馬鹿なアーミング人とは違う。


 助けられた恩義があるくせに、イジーを見捨てた特別行動兵とは違う。


 オレは絶対、親友を見捨てない。


 オレは、オレは…………!




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