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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.2章:正義の在処【新暦1238-1240年】
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過去:轍の国



■title:とある後進世界にて

■from:アラシア・チェーン


「後進世界の雑魚軍隊と戦う。初陣の相手としては、まあ悪くない!」


 相手は雑魚だ。誉れある戦いにはならないだろう。


 ただ……役に立たないガキ共を守って戦う相手としては、都合がいい!


「ガキ共は後方の陣地に待機させて、敵は機兵乗り(おれたち)で蹴散らせばいい。ガキ共の脱走とか考えなければ……楽な任務だ。ちと退屈かもだが」


「けど、相手も機兵を持っているんだろう?」


「そうらしいな。どこから手に入れたか知らんが……」


 敵は<轍の国(ドーロ)>という後進国だ。


 後進世界に存在する小国だったが、周辺諸国への侵略行為を繰り返している。


 轍の国がある世界には、混沌機関など存在しなかった。


 兵器といえば亀のようにノロマな戦車程度しかなくて、銃火器はアーミング製の粗悪品にも劣る性能しかなかった。ないはずだった。


 そんな世界で、轍の国はどこかから――間違いなく界外から――機兵を手に入れて、周辺諸国に侵攻を繰り返している。


 轍の国に攻められている諸国家は、機兵のような兵器は持っていない。機兵に致命傷を与える兵器もないに等しい。


 轍の国は機兵を使い、一方的な殺戮と侵略を繰り返している。


「<逆鱗>ならともかく……ウチの型落ち品で、敵の機兵を倒せるんだろうか」


「喜べイジー。轍の国が使っている機兵は、オレ達の機兵よりさらに型落ち品だ」


 流体装甲も装備していない旧式の機兵だ。


 いや、「機兵」と名乗るのも恥ずかしくなる骨董品だ。


 それでも後進世界では猛威を振るう兵器で、轍の国の周辺国は次々と攻め落とされている。もちろん、その周辺国には「交国」は含まれない。


 ただ、違法な手段で手に入れた機兵を使い、好き勝手に「力による現状変更」を行っている轍の国に対し、人類連盟は告げた。


 ただちに武力侵攻を止めて、人類連盟の調査を受け入れなさいと告げた。轍の国がそれを突っぱねてきたため、人類連盟を代表して交国が動く事になった。


 まず、轍の国の武力侵攻を武力で止める。


 しかる後、その世界の治安回復に努める。交国がそれを担う。轍の国に対処する部隊が、そのまま駐留軍になるだろう。……オレ達も駐留軍(それ)に混ぜてもらえれば、ガキ共をもっと守りやすくなるはずだ。


 ここを無傷で乗り切れば、駐留軍として仕事をしつつ……ガキ共を訓練する時間も取れるだろう。そしたら、もう少しマシな部隊になるはずだ!


 新しい希望が見えてきた。


 上手くやれば、きっと……きっとなんとかなる。


 ガキ共を守る事が出来る。……オレ達以外に預けられた特別行動兵(ガキ)はともかく、オレ達の手の届く範囲の奴らは、なんとか……。


「…………」


「心配するなイジー。轍の国と戦うのは、オレ達だけじゃない」


 轍の国に派兵される交国軍は、オレ達だけじゃない。


 他の部隊と足並みを揃えて戦えば、何とか切り抜けられるはずだ。


 まあ……あのガキ共を連れていたら「足並みを揃える」のがそもそも難しそうだけどな。オレ達が……努力するしかない。


「オレ達は交国軍だ。多次元世界最強の人類国家だ。機兵を持っている相手だろうと、後進国如きに負けるはずがねえだろ?」


「そうだと……いいけど」


 イジーは心配そうに言葉をこぼした。


 ただ悲観するだけではなく、派兵先の情報をよく集めているようだ。


 悲観的なのはともかく、こういう時のイジーの情報収集能力は役立つ。


 相手は後進国とはいえ、「敵地」に乗り込む以上、地の利は向こうにある。だが、イジーの判断に従っていれば……よほどの理不尽に遭遇しない限りは、何とか切り抜けられるはずだ。


「派兵先がプレーローマじゃなくて良かった」


「アラシアは、ずっとプレーローマと戦いたがっていただろう?」


「バカ。さすがにあのガキ共を連れて挑むほど、自殺願望ねえよ」


 オレ自身はプレーローマと戦いたいが、子守りしながら行く場所じゃない。


 今回は、後進世界への派遣で良かった。本当に良かった。


 後進世界での戦いで経験を積んでいけば、ガキ共も……少しは役立つ存在になっていくはずだ。訓練所を出た以上、後はもう実地で学ばせるしかない。


「ここを切り抜けたところで……次はもっと厳しい戦場に投入されるかも」


「まあ……その時は仕方ない」


 オレ達は軍人だ。


 死ぬ覚悟は出来ている。


 死んだ後の不安を取り除く福利厚生(システム)もある。


「オレ達が死んだところで恩給が出る。家族はそれで食っていけるさ」


「お金だけじゃ、全ての問題は解決できない」


 調べ物をしていたイジーが、端末から顔を上げた。


 そしてオレを見つめてきた。


「だからこそ、オレ達は……自分にもしもの事があった時、『お互いの家族を見守ろう』って約束したんだろ? ……あの約束、まだ――」


「生きてるよ、当然。死ぬつもりはない。けど、オレに何かあった時は頼むぜ?」


 イジーは必ず生還させる。


 ……家族が少ないのは、イジーの方なんだ。


 イジーの家族は、もう妹しか残っていない。養子だから血の繋がりはないが、それでもイジーは妹をずっと大事にしてきた。


 妹も、イジーの事を慕っている。


 イジーが死んじまったら……あの子を傍で支える家族はいない。ウチよりずっと、崖っぷちの状況なんだ。イジーは生還させないと……。


 もし死ぬとしても、その時はオレが先に死のう。親友を守って死んでやる。


「死ぬ気はないが、死んだ時の心配は……そこまでしなくていいだろ」


「けど、子供達は?」


「…………」


「俺達は恩給が出るはずだ。でも、アーミング人のあの子達には……何も出ない。心配してくれる家族との縁も、まともに残っていない」


「…………」


「特別行動兵は、実質的な囚人兵だ。あの子達は、俺達と違って……死んだら完全に終わりだ。死んだら……誰の記憶にも残らないかもしれない」


「……オレ達が守ってやればいいさ」


 ガキ共とイジーの命がかかっていたら、オレはイジーの命を優先する。


 他人の命より、親友の命を優先する。


 だが、どっちも救えるなら……どっちも救ってやるさ。


 さすがのオレでも、あのガキ共は……守ってやるべきだと思っている。「絶対に守ってやる」なんて無責任に言えないが……努力はするさ。


「しっかりしてくれ。今のお前は、第4特別行動隊(おれたち)の隊長なんだ。お前が悲観的になりすぎたら、部隊の力も弱くなっちまう」


「…………」


「オレはお前のこと、頼りにしてるからな。ガキ共を守りたいなら、オレ達が頑張るしかない。整備兵共はあんま頼りにならねえし……」


「……力を貸してくれるのか?」


「当たり前だろ」


 落ち込んでいたイジーも、少しずつ……心の整理をつけていった。


 イジーは馬鹿じゃない。頭が良いからこそ、苦しい状況をいち早く察し……いち早く絶望しちまう時もある。けど、絶望したままじゃ無理なのもわかってくれる。


 立ち直ったイジーは、ガキ共の信頼を集める存在に戻っていった。「頼りがいのあるイジー兄さん」に戻っていった。


 俺達は交国軍だ。


 人類最強の巨大軍事国家だ。


 敵は型落ち機兵を使い、周辺諸国を蹴散らしているだけの三流国家。人類連盟と交国に逆らった時点で、轍の国の運命は決まっている。


 雑魚の後進国相手に、交国(おれたち)が負けるはずがない。


「……負けてたまるか」


 勝って、交国の信頼を取り戻すんだ。


 オレ達だけじゃない。ガキ共も、いつか、特別行動兵の任を解いてもらおう。


 全員で窮地を乗り越えて、全員で真の勝利を掴み取ろう。


 そして、いつかきっと……誉れある戦場に行く。


 オレと親友(イジー)の2人で生き残って、いつかきっと――。




■title:<轍の国(ドーロ)>にて

■from:轍の国の国王


「こんな理不尽、あってたまるか……!」


 轍の国はずっと、強者達に踏みにじられてきた。


 常に強国の傍で、強国の軍隊が通行する道として踏みにじられてきた。


 酷い時は他国の戦争なのに、轍の国の国土で勝手に戦争を始め……轍の国だけでその争いが完結する事もあった。轍の国はずっと荒らされ、疲弊してきた。


 そんな時、奴らが来た。


『こんにちはー! 押し売りでぇーすっ!!』


 異世界からやってきた<泥縄商事>が、我らに「機兵」をもたらした。


 彼らは「出世払いでいい」と言い、機兵を押しつけてきた。


 異世界の兵器。機兵があれば轍の国を虐げてきた周辺諸国すら圧倒できる。それだけの力を、泥縄商事は100機も押しつけてきた。


 機兵以外の兵器も用意してくれた。


『これらの兵器を使えば、キミ達はこの世界の覇者になれるよん』


 ……そんな上手い話があるはずない。


 確かに、機兵は凄まじい兵器だ。この世界の兵器では対抗できないだろう。


 ただ、あまりにも都合が良すぎる。兵器の性能といい、「出世払いでいい」と言う泥縄商事の発言も怪しいところしかなかった。


 泥縄商事(やつら)は信用出来ない。


 悪魔の類いかもしれない。


 そんな考えを抱きつつ、慎重に交渉を進めた。相手の真意を探ろうとした。直ぐに突っぱねるには魅力的な内容だったため……断りきれなかった。


 急進的な側近達の中には、「後にどれだけ法外な金額をふっかけられても、この機会に機兵を手に入れるべき」と進言してくる者もいた。


『金など、後からいくらでも手に入ります。機兵(キヘー)を使って他国を攻め落とせば、金も資源もいくらでも手に入ります』


『機兵を使って、侵略戦争を起こすべき……と言うつもりか?』


『アレは兵器です。それ以外の用途がありますか?』


 機兵を使って、報復戦争を行う。


 今まで轍の国を踏みつけ、軽んじてきた全ての理不尽に復讐しよう。


 そう言う者達もいた。


 だが……泥縄商事はあまりにも怪しい存在だ。私は側近達をなだめ、最終的には泥縄商事の申し出を断ろうとした。……機兵は私達には過ぎた兵器だ。


 だから、実際に泥縄商事に「機兵を持って、異世界に帰ってくれ」と返答した。……苦しかろうと、今までの生活に戻ろうとした。


『あらぁ、いいの? 今日中に酷い知らせが来ると思うよ?』


 泥縄商事の社長(にんげん)は、ニタニタ笑いながらそう言った。


 その通りになった。


 奴の発言の後、轍の国の領内に隣国が踏み入ってきた。


 轍の国(こちら)が戦争準備を行っている。


 それを止めるという名目で、軍隊を派遣してきた。


『奴らは、何を言っている……!? 我々は、平和を望んで……!』


『戦争準備、してたじゃぁ~ん。機兵をズラリと並べてさぁ』


『アレは貴様らが――』


 私の判断は遅かった。


 泥縄商事は押し売りに来たのだ。


 機兵だけではなく、開戦の動機(マクガフィン)まで押し売りに来たのだ。


 隣国の間者か、もしくは泥縄商事自身が「轍の国は戦争準備をしている」と言ったのだろう。……我らの考えなど、無視して……!


『貴様! 貴様!! 貴様ァッ!!』


『あひゃひゃっ! 王さまぁ、決断しなきゃぁ!』


 泥縄商事は悪魔だった。


 今ならまだ、交渉を受け入れる。


 泥縄商事の商品を……機兵を売ってあげる、と言ってきた。


『もう、手遅れだよぉ。王様と家族の首で手打ちにするのもムリだろうねぇ』


『…………!』


『轍の国は、また踏み荒らされる。ずぅっと踏み荒らされる。踏みやすい位置にあるのが悪いんだよ! ……けど、今ならまだ刃向かえる!』


 泥縄商事の機兵を使えば、戦況がひっくり返る。


 この世界のどの国家も、機兵には勝てないだろう。


『戦況を一変させる兵器。欲しいでしょ? 今なら出世払いで売ってあげるっ!』


 私は、悪魔の提案を呑んだ。


 ……呑んでしまった。


 機兵は優れた兵器だ。だが、それを扱える者は轍の国にはいなかった。


『機兵乗りの傭兵も用意してるよ~ん! そいつらを上手く使ってね? 傭兵共はキミ達の教官役も務めてくれるから、厚遇してあげてねん』


 泥縄商事は、機兵を扱える傭兵まで異世界から連れてきた。


 その傭兵達の力もあり、隣国の軍隊はあっさり蹴散らす事が出来た。


 せめて、あそこで停戦出来れば良かったのだが……我らが「機兵」という絶大な力を手に入れた事で、周辺諸国は一気に動き出した。


 あの動きもまた、泥縄商事が焚きつけていたのかもしれない。周辺諸国まで停戦の条件に口出しをしてきた。


 奴らは「轍の国は新兵器(キヘー)を手放すべきだ」と言いだした。


 機兵を手放せば、また蹂躙される。報復される。


 私達は、もう……止まれなかった。


 笑う悪魔に背を押され、世界を敵に回すしかなかった。


 機兵は敵を容易く蹴散らしていった。轍の国の民は歓喜していた。


 もう、行けるところまで行くしかない。


 機兵を使い、我々は侵略戦争を開始した。……予想通り、連戦連勝だった。機兵という鉄の巨人が顔を出した戦場で、轍の国が負ける事など……なかった。


 機兵部隊は連戦連勝。時には、ただ街道を行進するだけで敵の首都に攻め入れた事もあった。敵国の騎馬も大砲も、機兵相手には無力だった。


 勝てば勝つほど、民衆は歓喜した。


 連日、皆が明るい笑顔を浮かべていた。


 他国からの収奪品で、轍の国はかつてないほど豊かになった。


 だが、私は……勝てば勝つほど、泥沼にハマっていく感覚に襲われていた。


 そんな日々の中、「人類連盟」と名乗る者達が来た。


 彼らもまた、泥縄商事と同じく異世界の存在だった。


 人類連盟は、轍の国を責めてきた。ただちに侵略戦争を止め、轍の国の全兵器を人類連盟に提出し、我らが得た領土を諸国に返還しろと命じてきた。


 それだけでは飽き足らず、多額の賠償金まで求めてきた。


 とても飲める条件ではなかった。


 ……奴らはあえて、飲めない条件を突きつけてきたのかもしれない。


『どうする。どうすれば……!』


『大丈夫だって。人類連盟も忙しいから、こんな後進世界に構ってられないよ』


 泥縄商事は「人連の言葉なんて無視していい」と言っていた。


 悪魔の言葉だ。信じてはいけない。


 だが、人類連盟も悪魔だ。


 さも人格者のような顔をしながら、轍の国の事情はまったく考慮してくれない。……我々は今まで踏みにじられてきた被害者なのに、ただの加害者として扱ってくる。奴らは、私達を助ける意志など持っていなかった。


『全て滅ぼせば、領土返還する相手も賠償する相手もいなくなる』


『…………』


『全部殺しちゃえ☆ 既成事実を作っちゃいなよ♪』


 私は、悪魔の言葉に頷いた。


 悪魔の言葉を受け入れ、軍を進め続けた。


 他の方法など、思いつかなかった。


 そして、「交国」という国の軍隊がやってきた。


 異世界からやってきた。


 交国はこちらより少ない機兵で、こちらの機兵部隊を容易く破ってきた。


 方舟という空飛ぶ船で、空から一方的に攻撃してきた。……今まで無敵だった機兵部隊が、為す術も無く蹴散らされていく報告しか上がってこなくなった。


 頼みの綱の機兵部隊は、当初の3分の1の規模になった。


 泥縄商事どころか、傭兵達も逃げてしまった。


 戦況は一変した。


 絶望的な状況の中、交国だけではなく……交国の部隊と共に周辺諸国の敗残兵や義勇兵もやってきた。質どころか数も負けつつあった。


 私は賭けに負けた。


 最初から、危うい勝負になるのは……わかっていたはずだ。


 だが、私には……これ以外の選択肢などなかった。


 今更降伏したところで、もう、轍の国の民は――。


「大変でしたね、人の子よ……」


 絶望的な状況の中でも、救いは存在した。


 救い(それ)は天からやってきた。


「人の子よ。貴方が望むなら、我々が貴方達を守ります」


「轍の国を、守ってくれるのか……!?」


「はい。ただし、対価は支払っていただきます」


 真の救いがやってきた。


 それに縋る以外、道はなかった。


 私は決断した。天からやってきた救い主に服従した。


「民を……轍の国を、助けてください……! お願いしますっ……!」


 手をつき、頭を下げた。


 救い主は微笑んで、「そこまでする必要はありません」と言った。


 私に頭を上げるよう、言ってくれた。


「貴方は正しい決断をしました。……私達が必ず、貴方達を助けて差し上げます」


 この御方は悪魔などではない。


 悪魔とは真逆の存在だ。


 だって、この御方には光翼と光輪がある。


 その姿はまさしく、伝説の――――。



「防衛契約を締結しました。


 契約に従い、<武司天>の代行者として救済執行いたします」





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