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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.2章:正義の在処【新暦1238-1240年】
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過去:アーミング第4特別行動隊



■title:紛争の絶えない後進世界<アーミング>にて

■from:アラシア・チェーン


「ご……ごめん。アラシア。俺の……俺の所為で……」


「バカ。お前の所為じゃねえよ。……悪いのは教導隊長だ」


 そのはずだ。


 それ以外……誰が悪いって言うんだ?


 教導隊長の妄言を録音した時点で、さっさと委員会に突き出せば良かったのかもしれない。そうしておけば、少なくともオレ達は助かったかもしれない。


 それどころか、もっと穏便な形に……。


 訓練所にいたガキ全員ではないとはいえ、134人ものガキを<特別行動兵>として押しつけられる事も無かったのかもしれない。


 ひょっとしたら、第59教導隊も存続して……アーミング人のガキ共も、しばらくは訓練所で保護出来たかもしれない。


 それで根っこの問題が解決しなくても……それでも、希望ぐらいは……。


「でも、俺がアラシアに『待ってくれ』って言ったから……」


「教導隊長を突き出さなかったのは、オレ自身の判断でもある。お前に言われたから黙っていたわけじゃない」


「でも、でもっ……!」


「前向きに考えよう。とりあえず……捕まったわけじゃないんだからさ」


 疑いの目は向けられている。


 そのうえ、ガキ共も押しつけられた。


 訓練所から戦場に行く事になった。……オレ達だけならともかく、足手まとい(ガキ)を押しつけられた。その命を背負う立場になっちまった。


 アーミング人のガキ共は兵士として育てられていたが、兵士になれたとは言いがたい。どいつもこいつも素人に毛が生えた程度だ。


 つーか、どいつもこいつもガキだから……大人の素人より酷い。軍人としてやっていくだけの体力もない。


 本物の戦場に幼稚園児を引率していくのと変わらん。狂気の沙汰だ。


 だが、それでも、身の潔白を証明するには――。


「戦って……信頼を取り戻していくしかない」


 教導隊長がヤバかったのは、事実だったんだ。


 だが、まさかテロリストの一員だったなんて、想像してなかった。そこまで酷いとは思わなかった。……陰謀論を信じていても、ガキ共を心配していたのは事実だったはずなんだ。それなのに、あのクズ野郎……。


 イジーみたいな優しい奴が……教導隊長を突き出せるわけがない。


 だから、そういう事はオレがキチンとやるべきだった。イジーに嫌われてでも、危険な綱渡りは……オレが拒否するべきだった。イジーを守るために……。


 軍事委員会の視点だと、オレ達が怪しく見えるのも……仕方ない。ガキ共のことも、テロリスト候補だと怪しむ理由もわかる。


 仕方ないんだ。過ぎた事だ。


 今は何とか、任務をこなしていくしかない。


「任務をこなしていけば、いつか信頼も取り戻せる」


 そう思う。思う事にした。


 考えよう。考える。何とかしよう。


 オレ達が信頼を取り戻す方法を考えよう。


 それだけじゃなくて――。


「オレ達がしっかりしねえと……134人ものガキが死ぬ事になる。アイツらのためにも……お前も知恵をしぼってくれ。イジー」


 オレ達はもう、運命共同体なんだ。


 全員で協力して、この困難を乗り越えていくしかない。


「まずは……ガキ共の中から『班長』を選出していこう」


 イジーが隊長を務め、オレが副長を務める部隊。


 アーミング第4特別行動隊には、134人の特別行動兵(ガキ)も参加する。オレ達だけで134人の特別行動兵を統率するのは……不可能だ。


 だから、ガキ共の中から班長を選んでおく。


 オレ達が指示するのは各班の班長。班長から他のガキ共に指示させよう。各班の割り振りもよく考えて……各班の練度を出来るだけ揃えよう。


 全員、まともな兵士じゃねえんだ。


 何とかオレ達の指示に従うよう、指揮系統を整える必要がある。……誰か1人でも死んだ時点で、イジーは深く傷つくだろう。それはマズい。絶対にダメだ。


 教導隊の生徒全員を預からずに済んだだけ、マシだ。134人の中にはオレ達が直接指導した奴もいた。イジーと仲の良いガキ共もいた。


 こんな人数を率いた経験なんて……オレ達にはない。それでもなんとか……何とかするしかないんだ。悲観して塞ぎ込んでいる暇なんてない。


「イジー。オレ達が派遣される戦地はまだ決まっていない。今のうちに出来るだけ訓練をして……この部隊の動かし方を検討していこう」


 どう足掻いても付け焼き刃にしかならない。


 無駄な努力かもしれない。


 だが、訓練と検討を行う事にした。何もしないよりマシなはずだ……。


 ガキ共はまともに動かない。命令を理解出来ないバカもいた。


「あの子達に、複雑な命令を理解させるのは……無理だ」


「最低限にするしかねえな」


 所定の場所で待機し、敵がいたら一斉射撃する。


 その程度の命令ですら、実行できるか怪しい状態だった。射撃命令を出しても全員が動き出すまで時間がかかった。全員が指示に従わない事もあった。


 訓練させようにも……疑いを向けられているオレ達に、訓練用の銃器は至急されなかった。棒きれを銃代わりにして、「バンバンバーン!」と発砲音を自分達で叫ぶしかなかった。ガキのお遊戯みたいな真似をするしかなかった。


 銃器の扱いをある程度心得ている奴らなら、これでも多少は訓練になる。けど、ガキ共は軍人並みに銃器が扱えるわけじゃない。実銃に出来るだけ慣しておきたいのに……こんなんじゃ、十分な訓練にはならねえ。


 これじゃ、「逃げろ」と命じてもキチンと逃げてくれるかも……怪しい。


 オレ達の居場所がバレた時、敵の砲撃が飛んできたら一網打尽だろう。砲撃の音でビビったガキ共が混乱し、同士討ちが発生するかもしれない。


「…………」


 最悪の光景を想像すると、軽く目眩がした。


 オレ達の指揮で、ガキ共が死ぬ。


 どれだけ完璧な指示したところで……死ぬ時は死ぬ。


「ごめん……。みんな、ほんとうに……ごめん。俺の所為なんだ……俺の……」


 イジーはずっと、オレとガキ共に謝り続けていた。


 ずっと自分を責めていた。


 ……教導隊長の事を庇ってきたから……。


「しっかりしろ、イジー! 頼むから……せめて、ガキ共の前でぐらい空元気で頑張ってくれ! お前が泣いていたら……ガキ共も不安になるだろ……!?」


「俺の所為なんだ……。俺が、教導隊長を信じたから――」


「後悔しても手遅れなんだよ!!」


 手札は配られた。


 クズみたいなカードしか配られなかった。


 けど、これを上手くやりくりするしかねえんだよ!


 内心では頭を抱えつつ、オレはイジーの背を叩き、自分でも動いた。


 そうしていると、良い知らせと悪い知らせが届いた。


「やったぞイジー! オレ達の部隊に、機兵が2機も配備される!」


 残念ながら<逆鱗>ではなく、旧式の機兵だが無いよりマシだ!


 整備士が2人派遣されてきた。そいつらは冷たい目つきで「子守りはしませんよ」と宣言してきたが……まあいい。機兵があるだけマシだ!


 オレ達が上手くやれば、ガキ共を戦わせずに済む!


 機兵戦で敵を圧倒したら、ガキ共を守れる……!


「それと……オレ達の派兵先も決まった」


 これが悪い知らせ。


 訓練に費やせる時間は、もうなくなった。


 だが、考えようによっては「良い知らせ」と言えるものだった。


「派遣先は後進世界だ。しかも、アーミングより文明水準の低い世界だ」


 そこで、どこかから機兵を手に入れた後進国が暴れている。


 本来、その世界にはなかった兵器で暴れているバカがいる。


 オレ達はそれに対処する事になった。


 ガキ共を連れて、戦争に参加する事になった。




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