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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.2章:正義の在処【新暦1238-1240年】
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過去:裏切り者への報復



■title:紛争の絶えない後進世界<アーミング>にて

■from:アラシア・チェーン


「今の教導隊長のやり方が、全て間違っているとは思いません」


「…………」


「けど、昔の貴方のやり方も同じなんです! 全て間違っているわけじゃなかった! 貴方は……小さな希望の光を、しっかり守ったんです!」


 イジーは真っ向から隊長にぶつかり続けた。


 隊長は、元生徒と再会した後も……迷っている様子だった。


 ただ、前より態度は軟化した。イジーの話を突っぱねる事が減った。


 隊長が変わったところで、アーミングの現状が変わるわけじゃない。


 隊長が言う陰謀論はともかく、アーミングで紛争が続いているのは確かだ。……元生徒もいつまで無事でいられるかはわからん。


 ある日突然、大きな争いに巻き込まれて理不尽な最期を迎えるかもしれない。個人で……大きな流れに立ち向かうのは不可能だ。


「でも、交国が本腰を入れたら、完全な紛争調停も可能なはずです」


 イジーは自分達が交国政府に訴えかけよう、と語った。


 真面目なイジーらしい考えだが、オレは「難しいだろうな」と思った。


 隊長の陰謀論を信じたわけじゃないが、アーミングで100年以上紛争が続いていて……交国が本腰を入れて対応していないのは確かなんだ。


 一教官の俺達が訴えかけたところで、現状を変えるのは難しいだろう。


 むしろ……これ以上の深入りは危険じゃないのか?


 オレはそう思ったが、「隊長が態度を軟化させた」という希望を見つけたイジーは、アーミングの現状を変えようと突っ走り続けている。


 まずは隊長から説得しようとしている。


 小さな希望をかき集め、それで何とか本国に訴えようとしている。


 アーミングの出来事は、交国人(おれたち)にとって他人事だ。それでも奔走するのはイジーの美点だろう。薄情なオレにとっては眩しいが……正しいのはイジーのはずだ。


 だが、その正しさに危うさを感じる。


「教導隊の権限を利用し、紛争地帯の現地調査に入りましょう」


 その内容を交国で発信するべきだ、とイジーは言った。


 政治家達が動かなくても、世論を動かす事は出来るはずだ。


 そんなイジーの主張を聞いているうちに――。


「わかった……。お前達の思うように、やってみなさい」


 隊長はイジーの説得に応じた。


 憑き物が落ちたような顔で、ついに折れた。


「私の権限で、お前達をアーミングの紛争地帯に送る。だが、絶対に油断するな。お前達が紛争を止めようとしても、アーミング人が支持してくれるとは限らない」


 アーミングの紛争は領土問題や、宗教問題も複雑に絡んでいる。


 それ以外にも各地域の利権も絡んでいる。


 交国軍のオレ達が襲撃される危険性も十分ある。


 だが、イジーは――。


「戦いを望まない人の方が、きっと多いはずです」


「…………」


「多くの人が、100年続く紛争に疲れ果てているはずです。平和を望む人達の声を集めて、束ねて行けば……きっと争いを止められるはずです!」


「……危険な任務になるぞ」


「覚悟しています。危険でも困難でも、やらせてください!」


 イジーはそう言い放った。堂々と胸を張ってそう言った。


 少なくとも、隊長の前では堂々としていたが――。


「な、なあ……アラシア。この件に、お前がこれ以上付き合う必要は――」


「おいおい! 手柄を独り占めにするつもりかぁ~?」


「ち、ちがっ……! そういうのじゃなくて――」


「わかってる。お前だって……色んな意味で『これ以上の深入りはマズいかも』って思ってんだろ。……それにオレを巻き込みたくないんだな」


 イジーはオレと2人きりの時は、自信なさそうにしていた。


 隊長に対して「覚悟している」と言ったのは、嘘じゃないんだろう。


 自分の覚悟に、オレを巻き込むことを心配してんだろう。申し訳なさそうな顔をしているイジーは、「お前に何度も警告されたからな」と言った。


「でも、俺はアーミングの人達を救いたい。根っこの問題を解決したい!」


「わかってるよ。お前がそういう奴だってことは」


 何年親友やってきたと思ってんだ。


 オレは、イジーがこういう奴だと理解しているつもりだ。


 理解して、納得して、イジーについてきた。


 イジーは知らないようだが……オレが教導隊配属になったのは、イジーに巻き込まれたからじゃない。最終的にオレ自身も希望したからだ。


 上の人に希望を聞かれた時、「イジーについていく」という道を自分で決めた。……プレーローマとの最前線に行くのも不可能じゃなかったが、オレは親友の選んだ教導部(みち)を優先した。


 イジー本人にこの話をするつもりはない。恥ずかしいからな。


 墓まで持って行くつもりだ。


「オレも、最後まで付き合うよ」


 今更、選んだ道を変えたくない。


 イジーはいつも正しい。その正しさで闇を照らしてくれる。……イジー1人じゃ危なっかしいから、支えてやりたいんだ。


 薄情なオレだが、家族やイジーに対しては真摯に向き合える。そして、今の立ち位置に満足している。オレはコイツの影でいい。


「お前は次席(オレ)より優秀な主席様だ。けど、オレがいた方が助かるだろ?」


「それはもちろん! 俺は、アラシアのように人付き合いが上手くない。試験なら負けないが……試験以外の事はてんでダメだ。お前の力が必要だ」


「ああ、任せておけ」


 お前の副官役、しっかり努めてみせるさ。


 オレが自分で選んだ道だ。


 後悔はない。


 そう、思っていた。




■title:紛争の絶えない後進世界<アーミング>にて

■from:アラシア・チェーン


「……なんか、慌ただしいな」


「さっき、どこかの方舟が緊急着陸してたようだけど……」


 ある日突然、訓練所が騒がしくなった。


 ガキ共が騒ぐのは珍しくないが、今回の騒がしさは種類が違った。


 オレとイジーがアーミングの紛争地帯に向かうはずだった日。


 その日、軍事委員会の憲兵(・・)がわんさかやってきた。


 憲兵の標的は――。


第59教導隊(ウチ)教導隊長が(・・・・・)、捕まった……?」


 憲兵は、教導隊長を捕まえに来た。


 そして……オレとイジーも憲兵に拘束される事になった。


 突然のことだった。


 闇を征くオレ達の足下を照らしてくれていた小さな希望(ホタル)が、突然……踏み潰された。一気に、状況が変わった。




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