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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.2章:正義の在処【新暦1238-1240年】
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過去:燃え残った希望



■title:紛争の絶えない後進世界<アーミング>にて

■from:アラシア・チェーン


「隊長が子供達に厳しいのは、あの子達のためだとわかった。そこは納得した」


 訓練所に帰った後、イジーはそう言った。


 厳しいのには理由がある。……根拠に陰謀論が絡んでいるのがマズいが、「強い兵士の方が生存率が上がる」ってのは事実だ。


 だが、現状の訓練内容だと……ついていけてないガキがいるのも事実。イジーとしてはそこが引っかかるらしい。


「現状、第59教導隊に来た子供達の選択肢は2つしかない。1つは隊長の決めた訓練計画でしごかれて、歩兵として交国軍に参加する道だ」


「もう1つは、神経接続式の適正を見せることか」


「うん……」


 後者の方が丁重に扱われる。……そのはずだ。


 適正者はここではなく、異世界の訓練所に連れて行かれるため……その後どうなったかは知らん。だが、持っている才能を鑑みれば丁重に扱われるはずだ。


「ただ、全員に神経接続式の適正を持たせるのは不可能だ。アレは偶然の産物だからな。……書類を偽装したところで絶対にバレる」


 選択肢といっても、選べるものじゃねえ。


 偶然に頼らなきゃいけないなら、選べる道は1つだけだ。


「オレ達が取れる選択肢も2つある。その1つが『これ以上の深入りはせず、隊長を憲兵に突き出す』だ」


 教導隊長の陰謀論(はなし)は録音している。


 完全に潔白な人間ならまだ言い逃れ出来るかもしれんが、自殺未遂事件を起こした男だ。軍人としての適正が既に疑われている。


 この録音記録を委員会に提出したら、憲兵が動いてくれるはずだ。


「あの人の妄言を真に受けていたら、オレ達にも火の粉が飛んでくる可能性がある。さっさと委員会に報告するべきだ」


「…………」


「第59教導隊の隊長は、軍務を遂行できる状態じゃない。テロリストの言葉を信じ、陰謀論に取り憑かれた危険人物だ」


 だから、委員会に報告するべきだ。


 オレはそう主張したが、イジーは――。


「出来れば、委員会への報告は待って欲しい」


「イジー……」


「隊長は……やり方はともかく、アーミングの未来を考えている」


「…………」


「あの人を委員会に突き出したところで、アーミングの現状は変わらない」


 だから、もう少し隊長と話をさせてほしい。


 イジーはそう言ってきた。


「ここから先は俺に任せてくれ。アラシアは関わらなくていい」


「断る」


「アラシア……」


「主席様の判断だろうが、オレも関わるぞ。委員会への報告は……ひとまず保留にしてやる。けど、危うくなったらオレの判断で報告するからな」


 こんなつまらん事で、隊長の巻き添えになりたくない。


 最前線で誉れある戦いの果てに死ねるなら、まだわかる。


 けど、委員会に「教導隊長の発言を信じて付き従った部下」なんて判断されたら、最悪、交国軍から追い出される。そんなの御免だ。


 イジーもオレも、こんなところで終わっていい人材じゃない。


 ひとまず、委員会への報告は保留。


 イジーは……その後も隊長に訓練内容の見直しを迫った。


 隊長は鉄拳制裁はしなかったが、頑ななところは変わらなかった。教導隊長の地位を利用し、厳しい訓練を継続させた。


「あの子達を生き延びさせるには、強くするしかないんだ」


「でも、脱落者が……」


「イジー・スポーク。貴様は、かつての私だ」


 隊長は教導隊長に就任する前、別の部隊にいた。


 そのさらに前は第59教導隊で、1人の教官としてガキ共を教え導いていた。


「私も、当時は甘い考えに取り憑かれていた。子供達に厳しい訓練を積ませる必要はない。この子達は『可哀想な人間』だからと、判断して……」


「…………」


「彼らを甘やかして、大勢…………大勢、死なせてしまった」


 今度は死なせない。今度は生き延びさせる。


 隊長は暗い瞳でガキ共を見つつ、そう言った。


 厳しい訓練についていけず、脱落する奴が出ても判断を変えなかった。脱落と同時に死ぬ事があっても、隊長は判断を曲げなかった。


 イジーは……隊長に意見するのを止めた。


「アラシア。協力してくれ」


「……どうするつもりだ」


「少し、調べ物に協力してほしいんだ」


 オレはイジーに依頼され、ある事を調べ始めた。


 調べたところで、望みの情報が掴める可能性は低い。


 だが、それでも調べた結果――。


「お前の言ったような奴が、確かにいた! けど……どうするんだ?」


「隊長の説得に、力を貸してもらう」


 イジーは隊長に意見するのを止めたが、それはあくまで一時的なこと。


 隊長の意図を掴んだことで、別方向から攻める事にした。




■title:紛争の絶えない後進世界<アーミング>にて

■from:アラシア・チェーン


「教導隊長。会っていただきたい人がいるんです」


 そう言ったイジーが連れてきたのは、教導隊長の生徒だった。


 20年前は一教官に過ぎなかった隊長が指導していた生徒。


 20年前の生徒(・・・・・・・)でも、まだ生きている人間がいた。


 イジーはその生徒を説得し、渡航のための金まで出して訓練所に連れてきた。


 隊長も生徒も驚いていたが、お互いの事を覚えていた。


 かつてはガキだった生徒は、もう立派なオッサンになっていたが……嬉しそうに笑みを浮かべながら隊長と話していた。


「まさか……ここの教導隊長になっていたなんて、思わなかった!」


「…………」


「アンタは優秀な人だったからなぁ……。ただ頭がいいだけじゃなくて、皆のことを考えて適切な指導をしてくれていた。だからとっくに、交国の中央に戻って出世しているものとばかり……」


「…………」


「アンタのおかげで、俺も何とかやれてますよ」


「……無事、だったのか……。生きていて、くれたのか……」


「へへっ……。悪運が強いうえに、教官の教えが活きたってことでしょ?」


 殆どの生徒はもう死んでしまった。


 オレが調べても、たった1人の足取りしか追えなかった。


 その1人は交国軍での兵役を追え、アーミングに帰ってきていた。


 紛争地帯(こきょう)に戻って暮らしているらしい。


「今は修理工しているんだ。テッポウ持ってアンタを睨んでいたクソガキの俺が、修理工だぜ!? それもこれもアンタのおかげだよ!」


「私の……?」


「そうだよぉ~。もう忘れちまったのかぁ?」


 元生徒は苦笑いを浮かべ、言葉を続けた。


「アンタが上の人にかけあって、俺達に機械イジリを教えてくれたじゃないか。あの経験は、修理工としてやっていくのに活きてるよ」


「――――」


「まあ、優秀な修理工じゃないが……それでも、そこそこやっていけてる」


 一教官時代の隊長は、軍事学と称して機械整備の授業をしていたらしい。


 それ以外にも弾道学と称して算数や数学の授業もしていたようだ。


「あの時は、ショージキかったるかった。アンタの授業は居眠りの時間だと思ってた。けど、アンタが居眠りする俺を叱ってくれて……親身になって指導してくれたおかげで、今の俺がいるんだ」


「……何故、アーミングに戻ってきたんだ?」


「だって俺、アーミングの人間だし。他に行き場がねえからよ」


 少額とはいえ、退職金も貰えた。


 それを元手にして、故郷で修理工をやっている。


 元生徒は誇らしげにそう言った。


「ぅ…………上手く、やって、いけてるのか!? ちゃんと……ちゃんと! 飢えずに、暮らせているのか!?」


「楽な生活とは言わないが、何とかやってるよ。実は修理工以外にも、地元で自警団を組織したんだ。ウチの故郷って……未だに小さなドンパチが続いてるから」


 仲間を作って、自分達の故郷を守っているらしい。


 それによって、少しずつ治安が回復しているらしい。


「あと、さ……。それ以外にもやってる事があって……」


「なんだ? 何をして……」


「俺も、故郷で……ガキ共にアレコレ教えてるんだ。教官の真似事して、算数とか機械いじりを教えて……ガキ共の頭を良くしようと思っているんだ」


 そうする事で、ガキ共は良い生活が送れるようにする。


 そうなれば、故郷の現状も変わる。


 元生徒は「俺みたいなバカが、どこまで出来るかわからないけどよ」と言った。照れくさそうに「教官(アンタ)みたいに上手くできないが」と言った。


「出来たのは仲間と生徒だけじゃねえんだわ。なぁ、イジー教官」


「ですね。教導隊長、俺が迎えに行った時に撮った写真なんですが……」


 イジーは元生徒を迎えに行っていた。説得と護衛を兼ねて。


 説得自体はするまでもなかった。


 相手は快く同行を決めてくれた。


 その時、写真を撮ってきていた。


 写真には、元生徒の家族が写っていた。


 妻と3人の子供達が写っていた。


 背景には修理工場が写っている。ハッキリ言って、ボロ屋なんだが……それでも元生徒にとっては自分の城で、ある程度は仕事もあるらしい。


 家族の写真以外にも、自警団の仲間の写真や……青空の下で学んでいる生徒の写真もあった。チビ達が、元生徒に指導されている。


「今の俺がいるのは、アンタのおかげだ。ありがとなぁ」


 写真を見ていた隊長は、元生徒の言葉で嗚咽を漏らし始めた。


 大の大人が、鼻水を垂らしながら……応接室で泣き始めた。





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