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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.2章:正義の在処【新暦1238-1240年】
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過去:人材採掘場



■title:紛争の絶えない後進世界<アーミング>にて

■from:アラシア・チェーン


「交国にとって、アーミングは人材採掘場なのだ」


「は? 採掘……?」


「アーミングは紛争がずっと続いている。もう100年以上続いている。だというのに、彼らはずっと……争い続けている。おかしいと(・・・・・)思わないか(・・・・・)?」


「「…………」」


 執務室にオレとイジーを呼び出して怒るのかと思えば、急にアーミング人を労るような発言をした教導隊長が……さらにおかしな事を言いだした。


 アーミングは人材採掘場? 紛争が続いているのはおかしい?


 おかしな教導隊長に、イジーも戸惑っている様子だった。戸惑うオレ達を無視し、教導隊長はブツブツと語り出した。


「交国は、アーミングの紛争を煽り、継続させているのだ」


「は、はあ……?」


「何故かわかるか?」


「「…………」」


「紛争地帯の方が、安く人材が手に入るからだ。……その世界に界外渡航技術を渡さなければ、自国領に大量の難民が流入してくる恐れもない。治安悪化はあくまで一つの世界に留めることが出来るのだ」


 紛争地帯で暮らす人々は、苦しい生活を送っている。


 だからこそ、最低限の衣食住を用意してやるだけで、簡単に釣れる。子持ちの親に対し、「支度金」として端金を渡すだけで子供を「出荷」してくる。


 中にはその端金を得るために、組織的に子供を集めている奴らもいる。交国にとって端金だろうと、アーミングにとっては大金だから、そんな仕事も生まれる。


 教導隊長はそう語った。


「安く仕入れたアーミング人は、交国軍人として育成する。だが……それを交国以外の戦場に貸し出す事もある。包んで言えば防衛協力だが、一種の人身売買だ」


「「…………」」


 酔ってワケのわからん陰謀論を唱え始めたのか?


 いや、今はシラフだよな……? ヤバいクスリでもキメてんのか?


 あるいは、アルコール注射で頭がおかしくなったのか?


 何にせよ……教導隊長の頭がイカれてんのはわかった。


 真面目に取り合う必要はない。適当に流してしまえばいい。適当に相づちを打って、この場を切り抜けるべきだ。


 そう思ったんだが――。


「……そこまでして、アーミング人を確保する必要ないでしょ?」


 あまりにもバカげた発言だから……つい、反論しちまった。


「アーミングのガキ共はヒョロくて……オレ達みたいな活躍は出来ません。訓練所(ここ)を卒業していった奴らの質が悪いって文句(クレーム)も来るんでしょ?」


「重要な戦場を任せなければいい。運用次第で、カカシより上等な兵士が……非常に安価に手に入る。彼らはここに来るに当たって、恩給などの福利厚生を受けない契約で交国軍に入っている。使い捨てが出来る兵士なんだ。彼らが死んだところで……アーミング人の親達も文句は言わない。仮に文句を言う親がいたとしても、死んだことを伝えなければいい」


「…………」


「それに、アーミング人はアーミング人で、他より優れたところがある」


 それは初耳だ。


 教官の1人として、奴らを指導していたが……優れたところなんて無かった。


 オレはそう思ったんだが――。


「アーミング人は、神経接続式の適性が他人種より高い」


「えっ……!? そうなんですか?」


 百歩譲って……今までの話が事実で、「神経接続式の適性の高さ」も本当ならアーミング人の価値は一気に上がる。


 神経接続式の適正者が全員強いわけじゃないが、精鋭の機兵乗りには適正者が多い。……そいつを「安く」手に入れられるなら、アーミング人の価値が高まる。


「アーミング人の適性持ちは、交国のオークの1.1倍だ」


「あぁ……。たったの1.1倍……ですか」


「誤差と思うか? アーミング人を安く確保できる事情を鑑みれば、そうでもない。だからこそ交国はアーミングで紛争を煽っている」


「けど……大多数のアーミング人は適性を持っていないんでしょう?」


「ああ」


「そして、身体は特別強いわけじゃない」


「そうだ。しかし、交国公用語の和語を話す事が可能だ。訛りや読み書きの問題はあるが、安く使い捨ての兵士が確保できて……適性持ち(アタリ)が潜んでいる可能性を考えたら、そこまで悪い話ではない」


 椅子から立ち上がった教導隊長は、窓辺に歩み寄った。


 そこから訓練所の庭を眺めつつ、呟いた。


適性無し(ハズレ)の使い捨て兵士を育成しているのが……ここだ。我々だ」


「「…………」」


「選別から漏れた大量のアーミング人は、ここで使い捨ての兵士として訓練する。最低限の訓練だけ積ませて、戦場に投入する」


「「…………」」


「ここから旅だっていった子供達の殆どが……1年と保たない」


 1年と保たず、異世界の戦場で命を散らせる。


 あるいは死を恐れて逃げて、脱走兵として処分される。


「彼らは弱い。弱いからこそ、直ぐに死んでしまう……」


「「…………」」


「死なせないために……ここで『保護』しているうちに、しっかりと訓練させるんだ。少しでも、優秀な兵士に近づけるしか……あの子達は、守れないんだ」


「……隊長が子供達に厳しいのは、それが理由ですか」


 イジーの言葉に、隊長はしばし答えなかった。


 黙って窓の外を眺めつつ、右手で窓を撫でていた。


 だが、返答を待っていると「脱落者が出ても、多くを生かすにはこの方法しかないんだ」という言葉が返ってきた。……苦しげな言葉だった。


「訓練所にいる間は……まだ、守ってやれる。彼らが旅立つまでは、守ってやれる。だが、その先も命を繋げるには……訓練しか…………」


「子供達を、家族の元に返してあげるのは――」


「そんな言葉を吐けるのは、あの子達の故郷を知らないからだ」


 隊長は振り返り、オレ達を見てきた。


 オレ達を睨みながら、「お前達も見るべきだ」と言ってきた。


「お前達も苦しめ。……あの子達の、痛みを知れ」




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