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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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世界を荒らす紙魚人間共



■title:<泥縄商事>・本社艦隊・社長室にて

■from:泥縄商事社長のドーラ


「もしもーし? 【占星術師】くぅ~ん」


 社長室に戻り、取引先に通信を繋ぐ。


 通信は繋がったけど……通信先は慌ただしい様子だ。ドタバタとしている。


「依頼通り、ヴァイオレットちゃんは交国軍から奪還しておいたよん。今のところこっちで確保して、脱走しないように夜行(ナイトシフト)も見張りにつけてる」


 戦闘中ってわけではないみたいだけど……時折、悪態が聞こえてくる。


「犬塚特佐や黒水守とは、何とかやり合わずに済んだ。私の悪運もまだ捨てたもんじゃないかも? とはいえ、値引きする気はないから報酬はキッチリよろしくね」


『ふざけるなーーーーッ!!』


 急に大声で叫ばれたから、顔をしかめながら通信機から耳を離す。


 お怒りのようだ。まあ、そうだろうね~。


『私の口座が! また!! 交国に凍結されたんだぞ!!? 貴様らの雑な仕事の所為で!! 私の!! 口座(カネ)が!!』


「え~? こっちは精一杯やったのに~」


 主に頑張ったのはカトー君達だけど、まあまあまあ……「下請け」が頑張った仕事も私達の実績ってことで!


『話が違う! ヴァイオレットを助けに来た人間が、カトーってバレてるぞ!?』


「そりゃあ、泥縄商事(ウチ)の問題じゃないよ。カトー君が顔出ししてカッコつけて救出に向かったのが悪い」


 一応、それとなく忠告はしたんだよ?


 交国軍はキミの事も追ってるから、救出作戦は覆面して参加した方がいいよん――と言いつつ、ピンク色の虎柄覆面を渡してあげた。


 カトー君は汚いパンツでも受け取るような手つきで覆面を摘まみつつ、「いらねえよ。これはオレなりの宣戦布告でもあるんだ」とか言ってたけど~。


 カトー君は、自分が助かった裏に【占星術師】がいたのなんて知らない。存在すら知らない。だから【占星術師】を気遣ったりもしな~い。


 私からしつこく「覆面しろ~」って言ったら怪しまれるでしょ?


『玉帝は泥縄商事と俺の関係を疑っている!! そんな状況でお前らが助けたカトーが救出に現れたら、俺が邪魔したってバレるだろうが!!?』


「実際、その通りじゃん」


『それがバレるのがマズいから、偽装しろって指示しただろ!!?』


 カトー君がヴァイオレットちゃんを助けた。カトー君はそもそも泥縄商事が助けた。泥縄商事と【占星術師】が繋がっている可能性がある――と睨んだ玉帝が、ブチギレて【占星術師】の口座凍結するのは……不幸な事故さ!


 などと言い訳しておく。


 通信先の【占星術師】君はブチギレつつ、ウダウダと文句を言っている。


 言いつつ、夜逃げの準備をしているらしい。通信先が慌ただしいのは【占星術師】君が荷造りしている影響のようだ。


『バレないよう、上手くやれと仕事(オーダー)しただろ!?』


「無理無理。カトー君は学のない流民テロリストで、暴れん坊だもん。キミの依頼で助けたとはいえ、敵視されてる私の言葉なんて聞きゃしないよ~」


 どっちにしろ、玉帝にはバレてたでしょ。


 完全にバレずとも、【占星術師】が疑われていたのは間違いない。ヴァイオレットちゃんの脱走に外部の人間が携わってる時点で、疑われていたさ。


「資産なら多少は逃がせたでしょ? 支払い、忘れないでね~?」


『くそくそくそくそくそッ……!!』


 苛立っている【占星術師】君の声を肴に、一杯やらせてもらう。


 とりあえず、彼の依頼は一通りこなした。正確には今もこなしている途中だけどね。ヴァイオレットちゃんとカトー君の身柄を保護する、って形で。


 しかし……これってホントに必要なことなのかなぁ?


 ヴァイオレットちゃんを確保するのはわかるよ。


 彼女の身体は「真白の魔神の使徒」であり、知識・記憶もそれなりに受け継いでいる。叩けばそれなりのモノが出てくるだろう。


 ただ、カトー君はもう――。


「カトー君って、ホントにまだ保護しておく必要あるの? 神器を失った神器使いだから、多分、老い先短いよ?」


『あの馬鹿には、まだ利用価値があるんだよ……!』


「ふぅん。ま、いいけどね。ウチは金さえ貰えれば……」


 お金さえあれば、天使共のケツも舐めなくて済むしねん。


 派遣社員のイヌガラシ君達にも、デカい顔されずに済む。


 ブロセリアンド解放軍の蜂起がほぼ失敗に終わった以上、彼らの企みも失敗かな。まあ、数千の企みのうち1つが頓挫した程度だろうけど――。


『俺に(かしづ)くなら、今後も甘い汁を吸わせてやる』


 荷造りが一段落して、多少は落ち着いたらしい。


 【占星術師】君の声色が、ほんの少しだけ穏やかになっている。心の中は荒れ狂っているだろうけどね。わかりやすいんだから~。


『だが、この件は――』


「はいはい、口外禁止ね。ウチは企業だよ? 守秘義務違反なんてしませ~ん」


 観測肯定派にチクったりしないよ。


 チクったらキミは破滅するだろう。彼らは裏切り者を許さないからね。


 【絵師】にそそのかされたキミ達の所為で、<源の魔神>の後継候補だった「秩序の神」の擁立計画が頓挫したんだもん。


 1000年以上前の話で、当時のプレイヤーもそれなりに死んだけど……生き残りはまだ怒ってるだろうしね。


「口止め料も貰ってるし、秘密は守る。何でもやる。料金の範囲でね」


『わかればいい』


「で、こっからどうする? ヴァイオレットちゃん達はキミに引き渡せばいい?」




■title:【占星術師】のセーフハウスの1つ

■from:【占星術師】


「いえ、今は泳がせておきなさい。彼らの希望する場所に送りなさい」


 計画の修正は、概ね完了した。


 俺の資金が犠牲になったが……予言の書に書かれた本来の歴史(みち)に戻ってきた。未知なる道ではなく、既知なる道に戻ってきた。


 ならば、予定通りに泳がせておけばいい。


 泳がせておけば、きっと……予言の書の通りに事態が動く。


 無理に介入したら、予言の書通りに物事が進まなくなり、計画が破綻する恐れがある。欲張って近道を選ぶ必要はない。


『フェルグス君はどうすればいい? 殺した方がいい?』


「――殺せるのか?」


『医療事故に見せかけて殺せるよ。ただし、カトー君とエデン残党に見張られているから……彼らとの敵対は避けられないかな~? 誤魔化しきれないと思う』


「それはマズい。罪をなすりつけられる殺し屋はいないのか?」


『追加料金をくれるなら用意できるよ。カトー君達がウチを警戒しているから、その警戒をくぐり抜けられる殺し屋となると高額になるよん』


 舌打ちする。守銭奴め。


 金か。いま、金は……貴重な資源だ。無駄遣いは出来ない。


 下手したら、計画成就まで泥縄商事を雇うだけの金がなくなる。


『どうする? 誰か手配しようか?』


「追加料金がかかるなら不要だ。ヤツは……とりあえず、殺さなくていい」


 今は見逃してやる。


 計画の障害として書かれていたのは「マクロイヒ兄弟」だ。


 その片方(スアルタウ)を殺せた以上、1人生き残っていたとしても大勢に影響はあるまい。所詮、ヤツは平凡な巫術師のガキだ。


 そんなガキのことより、今は金だ。


 念のため、追加の資金調達をしなければ……。


 計画は概ね順調に進んでいる。


 予言の書の通り、未来を作っていけば、きっと――。


『あ、いま情報入ってきたんだけど。キミがいる世界に交国軍が来たよ』


「…………!? そっ、それを早く言え!!」


『だから、いま情報入ってきたんだって……』


 鞄を掴み、急いでセーフハウスから去る。


 計画と違うのは、玉帝とほぼ敵対してしまったこと。


 弁解の余地はあると思いたいが、これは少々……マズい。


 マズいが、何とかなる。俺の計画は完璧だ。


 必ず成功する。成功に導くだけの力が、俺にはある。


「種は撒いた」


 あとは、収穫の時を待てばいい。


 燃えさかる戦火を肴に、ゆるりと酒を飲んでいればいい。


 最後に勝つのは、この俺だ。




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