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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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華は散る場所を選べない



■title:<目黒基地>上空にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「ラートさん!」


『悪い! 手間かけた!』


 混沌機関を再起動させた方舟を低空飛行させ、ラートさんの機兵を迎えに行く。


 止まる余裕はない。だから、ロッカ君にお願いし、流体装甲でクレーンを作ってもらい、ラートさんの機兵を巻き上げる。


 そうやってラートさんを方舟の上部に引っ張り上げる間も、敵の機兵やドローンが襲ってくるけど――。


『しつけえんだよ……!』


 レンズさんの機兵が狙撃銃や機関砲を使い、ドローンを撃ち落としていく。機兵の銃を狙って爆発を起こし、牽制してくれている。


 レンズさんの機兵も、ラートさんの機兵も既にボロボロ。何とかギリギリ戦えているけど、もうあまり長くは持たないはず――。


「方舟に向かいます! 落ちないように気をつけて……!」


『あいよ!』


『…………おうっ』


 隊長が斬り込んだ方舟に向かう。


 近づけば近づくほど、敵の攻撃が止んでいく。


 地上では敵の<逆鱗>が攻撃してくるけど、そちらの攻撃は方舟から煙幕を撒いて誤魔化す。敵も無茶な攻撃を出来ないから、巫術師が憑依したドローンの方が脅威だったけど――。


「敵のドローンが次々落ちていく! 軍曹達の攻撃によるものじゃない!」


「…………!」


 誰にも攻撃されていないドローンが、次々と体勢を崩して大地に落ちていく。


 撃ち落としても撃ち落としても補充されていたのに、そのドローンが減っていく。これは、ひょっとして――。


『船内の巫術師を全員、「無力化」できた……はずだ』


「隊長さん……!」


『そちらから、憑依を――』


「はい! ロッカ君!」


『いま、移動中……!』


 ロッカ君が方舟への憑依から、レンズさんの機兵への憑依に切り替える。


 レンズさんが使う狙撃銃の弾丸に憑依し、弾丸ごと敵船に届けてもらう。


 着弾と共に粘着性の高い流体が敵船に張り付き、ロッカ君の憑依が――成功した。敵船の海門発生装置を巫術で操作し、強引に海門を開いてくれた。


 あとは、隊長さんを拾って海門に飛び込むだけ――。


「隊長さんっ! どこですか!? 直ぐ、迎えに……!」




■title:交国軍艦艇<星喰>にて

■from:星屑隊隊長


「先に、行け」


 星屑隊の船に残した血に向け、権能による移動を試したが失敗した。


 もう、この距離の光速移動もおぼつかないらしい。


 立っていられなくなり、船室内で蹲る。


 床には血だまり。私が流した血もあるが、船室内にいた巫術師達が流した血の方が多い。……無力化には成功した。


 だが、さすがにもう……身体がまともに動かん。


 星屑隊に追いつくのは、もう……無理だ。


『隊長! 迎えに行きます! いま、どこに――』


「私1人なら、権能を使ってどうとでも……逃げられる」


 ラート軍曹の言葉に通信を返す。


 もう、あまり喋らせるな。


 だが、喋らないといけないか。……これが最後かもしれんからな。


「貴様らは足手まといだ。さっさと、行け」


『でっ、でもっ……!』


「貴様らは、自分の手が届く範囲のものだけ……守っていろ」


 私は守れなかった。


 自分の手の届く範囲の大事なものすら、守れなかった。


「守って、逃げて…………胸を張って、生きて、いけ…………」


 自分に出来なかった事を、お前達に求めるのは酷い話かもしれん。


 だが、それでも……見せてくれ。希望を。


「今度こそ、最後の命令だ……。……総員、生きろ」


 死んでいった星屑隊の隊員達も、生きたかっただろう。


 この方舟の中で死んでいったパイプも、生きたかっただろう。


 全員を生かす事は出来なかった。だが、それでも、まだ――。


『隊長さん!!』


『隊長……!』


「私の命令を、守れないなら……抗命罪で、射殺、してやる……。以上だ」


『何を言っているんですか! 私達はもう――』


 通信を切る。


 これで逃げない馬鹿者共なら、もう知らん。


「…………」


 死兵達の足音が近づいてくる。


 船内の混乱も、かなり落ち着いたようだ。死兵の統制も戻ったようだ。


 近づいてくるなら、逃げねば。もう、相手する気力も理由もない。


 だが、少々――。


「…………疲れた、な……」


 身体が重い。


 まぶたが重い。


 痛みはない。


 私はオークだ。交国生まれ、交国育ちのオークだ。


 ただ、不死身の存在ではない。


「……すまん…………。素子…………、――――」




■title:<目黒基地>上空にて

■from:防人・ラート


「ヴィオラ、行け!」


 敵艦の砲塔を攻撃し、破壊しつつ叫ぶ。


「隊長や皆の奮戦を、無駄にしないでくれ……!」


 ここで逃げ損なえば、全員死ぬ。


 逃げて、生き延びて、生きたかった皆の分まで生きなきゃいけないんだ。


 それが、俺達のせめてもの――。




■title:交国首都<白元(びゃくがん)>にて

■from:二等権限者・肆號玉帝


「そうですか。満那が死にましたか」


 ネウロンで今も戦っている燭光衆から報告を受ける。


 敵にいいようにやられ、その敵を取り逃そうとしている。


 さらなる追撃は用意していますが、あまり派手にやり過ぎると他の勢力に<真白の遺産>の存在が露見しかねない。出来れば、ネウロン界内で終わらせたい。


 ネウロンにはいま、黒水守がいるとはいえ……彼に大事な案件は任せたくない。彼はまだ、信用できない。


 ……アレを使いますか。


揺籃機構(クレイドル)への強制接続開始。対象:寝鳥満那」


 満那を媒体に、強制的に「召喚」を行う。


 死体だろうと、新鮮な今ならまだ使える。そこは実験済みです。


 十分な力は出せませんが、短い時間でいい――。


神器解放(プロメテウス)




■title:<目黒基地>上空にて

■from:防人・ラート


「――――」


 こっちの方舟が振りまいている煙幕。


 それを押しのけ、周囲に無数の方舟(・・・・・)がやってきた。


 今にも崩れそうなボロボロの艦隊だが、その中の一隻が砲塔を向けてきている。


「ファイアスターターの、神器艦隊……!?」


 交国本土の報道で見たエデン残党(ファイアスターター)が神器で作った艦隊。


 それがこちらを狙っている。


 砲塔の1つが、こちらの方舟の推進器を狙い撃とうとしている。


「まず――――」


 いま、推進器がやられたら墜落しかねない。


 海門に飛び込む前に、大地に落ちていくかもしれない。


 しかも、こちらを落とそうとしているのは砲塔だけじゃない。


 さらにもう一隻、ボロボロの方舟が突撃してくる。


 体当たりを仕掛けてくる。


「――――」


 2方向から、敵が仕掛けてくる。


 両方は無理だ。


 両方、対応するのは不可能――――。


『邪魔すんなぁッ!!』


「レンズ――――!」


 レンズが方舟から飛び降りた(・・・・・)


 敵砲塔に向け、飛び込んでいって――。




■title:<目黒基地>上空にて

■from:狙撃手のレンズ


 やらせるか。


 オレは、守るって誓っ――――。




■title:<目黒基地>上空にて

■from:防人・ラート


「っ…………!!」


 熱線(レーザー)が、敵の砲塔から放たれた。


 その熱線に身を晒した機兵(レンズ)が溶けていった。


 大破し、大地に落ちていった。


 方舟の推進器は(・・・・)、おそらく無事。


 レンズは――――。


「まだ……!」


 まだ、仕掛けてくる方舟がもう1隻いる。


 他の方舟は間に合わない。その前にこっちの方舟が海門に飛び込む。


 体当たり仕掛けてくる奴を何とかしたら、俺達の勝ちだ。


「ヴィオラ、皆のこと頼む」


『ラートさん……!?』


 体当たりを仕掛けてくる方舟に向け、飛ぶ。


 敵は万全の状態じゃねえ。大打撃を与えてやれば、ヴィオラ達の方舟に体当たりする前に落ちていくだろう。けど、通常の兵装じゃ……おそらく火力が足りない。


 機兵の自爆なら、おそらく事足りる。


 けど、もう1つの可能性(ぶき)がある。


 飛びつつ、大剣を生成する。


露と滅せよ(・・・・・)!」


 見よう見まねだが、やるしかねえ!!


虹式煌剣(カラドボルグ)ッ!!」


 向かってくる敵艦に飛び込み、大剣を突き立て――放つ。


 フェルグスがやっていた技を、見よう見まねで使う。


 付け焼き刃だけに威力が足りねえ。


 足りねえなら、別のもんを足せばいい!!


「おッ! らぁぁぁぁあああッ!!」


 機兵の重量で落下しつつ、突き立てた刃を地面に向けて引いていく。


 フェルグスの力に、俺の命を賭ける。


 飛ぶ斬撃で敵船内を引き裂きつつ、落ちていくと――敵艦が真っ二つになった。空中で分解し、ヴィオラ達に届かず、落ちていく。


 俺と一緒に。


 レンズの、後を追って――。


『ラートさん!? 何で……!!』


「行け! 振り返るな!!」


 もう間に合わない。


 操舵も間に合わないだろう。


 ヴィオラ達の方舟は、既に海門への進入経路に乗っている。


「俺とレンズは、自分達でなんとかする!!」


 まだ、俺の機兵は動く。


 まだ、希望はある。


 地上でレンズを拾って、必死に逃げれば――。


「逃げて……! 生き残った皆を、守ってく――――」


 至近距離で爆発。


 最初からいた敵艦が――こっちに砲撃をしてきたらしい。


 空中で吹っ飛ばされる。操縦席で頭も身体も激しく殴打する。


「――――」


 ネウロンの大地に落ちていく。


『いやっ……!! ラートさん! ラートさ――――』


 ヴィオラ達の方舟が見えなくなった。


 多分、きっと、大丈夫。


 お前達はきっと、大丈夫だ。


 大丈夫だって、信じさせてくれ。


 今度こそ守れたって……信じさせてくれ。




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