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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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相手がまともな軍人なら



■title:<目黒基地>にて

■from:防人・ラート


「近接戦闘なら勝てるって? 舐めんなよ!!」


 飛びかかってきたレギンレイヴの顔面を斧で叩き割る。


 掴みかかって来たが、蹴り飛ばして距離を取ってトドメを刺す。


 憑依も仕掛けてきたみたいだが、俺の機兵は簡単には奪えねえぞ。


 アルが……守ってくれてんだ。アルが託してくれた力があるんだ。


 テメエら如きに、やられてたま――――。


「ッ……!!」


 後ろから来たレギンレイヴの槍を腕で弾く。


 今のは、ちょっと危なかった。だが、まだやれる。まだ戦える。


 今のを凌げたのは……敵が弱っている影響だな。


「敵の動きも、さすがに鈍ってるみたいだな」


『みたいだな……。やっぱ、敵も集団自決は堪えたみたいだ』


 敵はフェルグスの突撃を止めるために、兵士に集団自決させたらしい。


 無茶苦茶な話だが、ヴィオラや隊長がそう推測しているんだ。事実なんだろう。


 巫術師が遠隔操作しているレギンレイヴの動きは精彩を欠いている。中には勝手にブッ倒れる奴もいた。敵の数も減っている。


 だが、それでも――。


「神器が作った巨大機兵と、鋼雨が邪魔だな……!」


『敵艦の砲撃もな』


 地上には相変わらず攻撃が降り注いでくる。


 下手に飛び出ると死ぬ。


 ヴィオラが鋼雨の落下予測地点を割り出してくれてるから、鋼雨に当たることはそうそうない。だが、着弾まで時間の短い艦砲射撃までは対応しきれん。


 あの馬鹿デカい機兵も健在。俺やレンズが使っている<逆鱗>の兵装では、まともにダメージを与えられない。……逃げるしかねえ。


 だが、まだ希望はある。


 隊長が「何とかする」と誓ってくれた。


 隊長は――どういう方法を使ったのかよくわからんが――敵艦に斬り込み、巫術師を「無力化」すると言っていた。こちらの憑依が通るようにすると言っていた。


 今は隊長を信じるしかない。


 だが、ただ待ってるだけじゃ駄目だ。


 俺達で皆を守りつつ、隊長を信じて動かないと――。


『お待たせしました! 準備できました!』


 ヴィオラからの連絡が届いた。


 レンズを先に後退させ、殿を務める。


 俺達はまだ生きている。まだ、戦える。


「これ以上、テメエらの好きにはさせねえ……!!」




■title:<目黒基地>にて

■from:巫術師の機兵乗り


『敵が逃げるぞ! 追えっ……! に、逃がすなっ……!!』


 敵が煙幕を焚きながら逃げて行く。


 地下深くへ逃げて行く。そっちは確か、地下港がある方向。


 敵の機兵部隊は、そこまで退くつもりらしい。魂の動きが観える。


 他の巫術師達を急かしつつ、敵を追跡する。


 もう終わらせよう。さっさと追わせたい……。頭が、割れるように痛い……。結構、重い薬を打たれてるのに……! 交国軍の奴らがムチャクチャするから、脳が……溶けているみたいに……キツい……。


 早く戦闘を終わらせたい。


 早く終わらせないと、解毒薬も貰えない……。敵に勝たないと、オレ達は毒で殺される。交国軍のクソ共に、殺されて……死んでしまう。


 交国が憎くても、殺したくても、死にたくない! 苦しみたくない! こんな終わりは嫌だ! 苦しんで、苦しんで……ボロボロになって死ぬなんて――。


『おまえらぁ! ズルいぞっ! オレも追撃に連れていけぇっ!』


『うわっ!?』


 交国軍が用意した巨大機兵(アイオーン)が、穴から手を突っ込んできた。


 バカデカ過ぎて地下に入れないけど、何とか入ろうと藻掻いている。暴れるバカ機兵に、交国軍人が「やめてください、カトー特佐」なんて注意している。


 バカの相手をしている暇はない。


 下に向かおう。


 下で、今度こそ……決着を……!


『ここが地下港か……!?』


『気をつけろ! 敵がいる!』


 煙幕でよく見えないけど、広い空間が広がっているのはわかった。


 敵が奥へ向かっていく。機兵は見えなくても、魂はキッチリ観える。


『バカがっ! 巫術師(おれたち)から逃げ切れると思って――』


 ゴゴン(・・・)……と、重苦しい音が響いた。


 色んな方向から聞こえてきた。砲撃の音……とかじゃない。


 何の、音だ?


 まるで、巨大な岩と岩がぶつかったみたいな――――。


『えっ? えッ!!?』


 視界が急に下に落ちる。


 落とし穴? いや、違う。


『なんで、天井が(・・・)落ちてきて……!!』


 ゴゴゴゴ……と重い音が響き続けている。


 その音と共に、天井が落ちてくる。どんどん落ちてくる。


 一緒に地下港に踏み込んだレギンレイヴも、皆、天井に押しつぶされて――。




■title:<目黒基地>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「浮上します! よく捕まっておいてください!」


 負傷者を運び込んだ予備の方舟を動かす。


 ラートさんとレンズさんが操る機兵も戻ってきた。方舟に飛び乗り、捕まっている。2人が落ちたりしないよう祈りつつ、方舟を急浮上させる。


 同時に、基地の自爆機構(・・・・)を起動させる。


 メクロ基地を破壊しつつ、脱出する。いざという時のために真白の魔神が仕掛けて機構。踏み込んできた敵を基地ごと押しつぶす手段。


 キチンと起動するかは賭けだったけど、地上に向かう脱出路を何とか維持しつつ、基地が崩壊していく。敵機兵はその崩落に巻き込まれていくはず……!


「っ…………!」


 まだ開ききっていない扉を方舟の体当たりで弾き飛ばしつつ、地上に飛び出る。


 崩れていく基地を見ると、地上部にいた巨大機兵も崩落に巻き込まれている。


『おのれ! きさまらぁ!! こっ……小細工をッ!!』


 基地の地上部にしっかり陣取っていた事もあり、神器で作られた巨大機兵も基地と共に沈んでいく。何とか脱出しようとしていたけど……地下への縦穴に手を突っ込んでいたためか、崩落する基地に半ば埋まっている。


 完全には埋められなかったけど、巨大機兵の動きは封じた……!


 今のうちに脱出する。


 隊長が斬り込んだ方舟に向け、突撃する。


 こっちの方舟だと<海門(ゲート)>が開けない。


 けど、隊長が制圧した方舟に憑依して、海門を開けば……まだ逃げられる!


 その前に敵の攻撃を掻い潜らなきゃダメだけど――。


「交国軍の皆さん! この方舟は、囮じゃありませんからね!?」


 無差別通信で敵に語りかける。


「攻撃してくるなら、私ごと吹き飛ばす覚悟でどうぞ!!」


 敵の狙いは、おそらく私。


 私が乗っている方舟ですからね――と警告しておく。


 さっき地下港に踏み入ってきた人達は、私が「自殺しますよ」と脅しても止まらなかった。私が……どんくさいから、直ぐに制圧された。


 最悪、私が死んでもいいのかもしれない。


 けど……<星の涙>を基地に直接叩き込んでこなかったという事は、私がバラバラ死体なり、肉片の状態だと困るんだろう。


 方舟相手に遠慮なく砲撃してくるなら、そちらの目的は達成できない。比較的まともな状態の死体すら確保できませんよ――と脅す。


 これは賭けだったけど――。


「敵艦の動きは――」


「撃ってこねえ! ヴァイオレットちゃんの勝ちだっ!」


 敵艦の動向を見張ってくれていた星屑隊の隊員さんが教えてくれた。


 敵艦の砲門は、こちらに向いている。けど、まだ撃ってこない。撃てないはず。




■title:交国軍艦艇<星喰>にて

■from:玉帝近衛兵隊<燭光衆>


「砲撃中止! あの方舟は撃つな!!」


 寝鳥隊長に代わり、指示を飛ばす。


 地下から飛び出してきた方舟にヴァイオレット特別行動兵が乗っているなら……さすがに撃てない。砲撃で吹き飛ばしてしまう可能性がある。


 向こうは鋼雨の落下予測地点も読んでいるらしく、そこは通らないように飛んでいる。こちらが撃たなければ、落ちる事はないだろう。


 だが、このまま逃がすつもりはない……!


「レギンレイヴ隊の巫術師を全員戻せ! 奴らをドローンに憑依させて、方舟へ体当たりさせろ! 憑依で敵船を奪え!」


 穏便に確保する手ならある。


 レギンレイヴが全てやられても、こちらにはまだ手がある。


 <燭光衆>の機兵乗り達も出す。機兵の射撃で方舟を牽制させる。


 落とさないよう手加減したら、向こうの対空射撃の邪魔ぐらいは出来る。





■title:<目黒基地>上空にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「敵機接近! 予想通りだ! 巫術師が止めに来るぞ!」


 敵艦からドローンや機兵が飛び出し、こちらを襲ってきた。


 こちらの方舟を落とさない程度の牽制攻撃。あるいは体当たりで巫術憑依を仕掛け、止めようとしてくるけど――。


「対空射撃、お願いします!」


 ロッカ君の巫術で流体装甲をこね、作ってもらった武装を展開。それを星屑隊の隊員さん達に使ってもらい、ドローンを撃ち落としていく。


 敵が出してきた機兵はレギンレイヴじゃない。飛行型の機兵じゃないし、こちらを撃ち落とそうとする意志もない。そこまでの驚異じゃない。


 方舟の兵装だけではなく、方舟上部に乗り込んでいるラートさんとレンズさんも対空射撃に加わってくれている。


 ……隊長さんからの合図はまだない。


 まだ敵艦内で戦闘中。こちらの意図を敵に察させないためにも、少し迂回しながら敵艦に向けて飛んで行く。方舟で地道に飛んで逃げるように見せる。


 このまま界内を飛んでいたら、いずれ捕まる。敵の追撃に全て対応するのは不可能だし……敵を撒くのはほぼ不可能のはず。


 隊長が言う通り、敵艦の海門(ゲート)を巫術で無理矢理開くしかない。フェルグス君は……敵の自爆攻撃で倒れているけど、まだ、あの子が――。


「あと少し……!」


 もう少しで、少なくともネウロンから脱出出来る。


 そう思った瞬間。方舟の下方で異変が発生した。


「――――」


 下の大地がゴッソリと消えている(・・・・・)


 カトーさんの神器による物質解体現象。


 消し飛んだ物質が、巨大機兵として再構築されていく。


 巨大機兵は基地の崩落に半ば巻き込まれていたけど、巨大機兵全体を再構築することで無理矢理、崩落から抜け出してきた。


『まぁッ!! てぇぇエエエエエエエッ!!』


 巨大機兵が叫ぶ。


 叫んだけど……この距離なら振り切れる!


 アレはそこまで速くない。硬い装甲と巨体は脅威だけど、この距離なら――。


「っ…………!!」


 高度を取る。巨大機兵の手が方舟に伸びてきたけど……ギリギリ届かない!


 逃げ切れた。


 倒せなくても、逃げ切ることは出来る!


 あの巨大機兵も、こちらに対して攻撃は出来ない。


 掴みかかるならともかく、下手な攻撃をしたら私を木っ端微塵にしかねないから、無茶なことは出来ない。


 相手がまともな(・・・・)軍人なら、無茶したらマズいのは理解できて――――。




■title:<目黒基地>地上部にて

■from:森王七百七十八号・人造英雄(ルキウス)・カトー


『よくもボクをぉぉぉおッ!! 虚仮にしてくれたなァ!!?』


 神器で創造した機兵の片腕を引きちぎる(・・・・・)


 武器(・・)代わりに構える。


『まっ、待て!! カトーッ! その方舟に対して攻撃は……!!』


『く・た・ば・れッ!! 悪党ゥゥゥゥウウウッッッ!!』


 引きちぎった片腕を投げる。


 ブーメランのように投擲する。


 上手く当たった!


 高層建築じみた大きさの腕だ。方舟相手でも十分に戦える!


 大質量の腕とぶつかった方舟が、乗っていた機兵を投げ出して落下していく。


 撃ち落とした! けど、まだ戦えるよなぁ!?


『まだまだ行くぞぉッ!!』


 走る。


 ボクが得意な接近戦に持ち込んで、やっつけてやるぅ!!


 他の交国軍人が『やめろ』『ころすな』とか叫んでいるけど……知ったことか!


 オレの邪魔をするな!! オレは……オレはっ……!敵を倒して、アップルパイを食べるんだあああああああああああッ!!


『アレを殺せば、玉帝はあなたを許しませんよ!?』


『うッ! じゃ、じゃああああ……! 捕まえればいいんだろぉッ!?』


 敵の方舟は撃ち落とした。


 あとは掴んで終わりだ! 方舟如き、楽に捕まえられる!!




■title:<目黒基地>地上部にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「ぃ、っ…………!」


「おいっ! 大丈夫か!? ヴァイオレット!!」


「わ、わたしより方舟(ふね)を――」


 敵は無茶をしてきた。


 巨大機兵が投げた腕とぶつかって、方舟を撃ち落とされた。


 墜落した。ラートさんとレンズさんは、何とか無事みたい。


 空中で投げ出されたみたいだけど、何とか着地している。


 方舟の方は――。


「まだ飛べます! けど、機関の再起動が必要です……!」


 少し時間がかかる。


 肝心な時に落ちるなんて……! 敵が迫ってきているのに――。


 敵艦の方からドローンや機兵が迫ってくる。ドローンだけでも大変なのに、こっちが撃ち落とされた以上、飛べない敵機兵でも脅威になる。


 そのうえ、あの巨大機兵もこっちに走ってきて――。


『神器が作ったデカブツは、俺が担当する!』


『じゃあ、残りはオレが食い止める……!』


 ラートさんの機兵が、巨大機兵へと向かっていく。


 レンズさんの機兵が、敵機兵とドローンの群れへの狙撃を開始している。


 2人が時間を稼いでくれているうちに……早く、早く……! 混沌機関を……!


 何とか方舟を飛ばさないと、逃げ切れない!




■title:<目黒基地>地上部にて

■from:星屑隊隊員


「ゥ…………」


「お、おいっ……! フェルグス……!」


 ベッドに固定していたフェルグスが、身を起こそうとしている。


 だらだらと鼻血を流しているし、目もおかしい。赤い。充血しきっている。


「動くな! 休んでろ……!」


「ぉ、おれだけ、寝て……られっか……!」


 フェルグスはもう限界だ。


 敵の自爆攻撃で脳にダメージを負いすぎてる。


 それなのに、まだ――。


「ロッカも、まだ戦ってんだ……。オレだけ、寝てられっかよ……!」




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