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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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死に損ないの老兵



■title:<目黒基地>にて

■from:防人・ラート


「フェルグス……!?」


 敵のレギンレイヴを止めつつ、フェルグス機の突撃成功を祈っていた。


 だが、フェルグス機に敵の砲撃が命中した。機兵が空中で爆発四散した。


 敵の砲撃が当たる直前、フェルグスの操る機兵は明らかに体勢を崩していた。様子がおかしかった。まさか、何かあったのか?


「ヴィオラ! フェルグスに何かあったのか!?」


『それが、急に苦しみ始めて……!』


 ヴィオラの声と共に、フェルグスが苦しむ声が聞こえてきた。


 魂が身体の方に戻っている。悲鳴が聞こえる。濁った悲鳴だ。


 まるで、身体に直接攻撃を受けたように――。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「まさか……敵の兵士が、一斉に死んだ……!?」


 そうとしか考えられない。


 敵兵の動きは「何者かに操られているようなもの」と隊長さんから聞いていた。


 何者かによる操作で集団自決まで出来るなら、それが1つの攻撃になる。


 実際、戦闘が始まった時、向こうの方舟からたくさん人間が落ちてきた。あれが突き落とされたのではなく、強い強制力を持つ命令なら集団自決も出来る。


 人が死んだだけでも、巫術師にとっては攻撃になる。


 巫術師限定で作用する回避不能の集団自決(こうげき)になる。


 多分、フェルグス君を止めるために自決を命じた。集団自決によって「大量の死」が一気に発生し、フェルグス君やロッカ君の脳を焼いてきた。


 鎮痛剤を打っているとはいえ、まだ意識のあるフェルグス君とロッカ君が……こんな非人道的な攻撃に耐えられるはずがない……!




■title:交国軍艦艇<星喰>にて

■from:玉帝の影・寝鳥満那


「敵が操作するレギンレイヴの撃墜を確認しました」


「ふぅ。さすがにヒヤッとした」


 砲撃をモロに受けた敵機が、大地に向けて落ちていく。


 方舟すれすれのところを落ちていく。……自爆する様子はない。


 憑依も仕掛けられていないみたいだ。蟲兵達のおかげだね。


 蟲兵達はもう実質死人のようなもの。指示専用の通信機を使って指示を与えれば動くけど、自我はもうない。生ける屍(ゾンビ)みたいなものだ。


 けど、彼らは生きている。


 自我はもうなくても、魂は存在する。


 だから集団自決させれば、巫術師達に大量の死を感じ取らせる事が出来る。彼らの巫術の眼(センサー)は敏感すぎて、それを感じ取って苦しんでしまう。


 鎮痛剤を打っていようと、一気に大量の死を感じ取れば……さすがに脳に大きなダメージが入る。今頃、のたうち回っている頃でしょう。


 こっちの巫術師ですら、苦しんでいる。


 向こうよりキツ~イおクスリを打っているから、直ぐには死なないでしょうけどね。まあ、巫術師にはもうあまり期待していない。


 いつまでものたうち回っているなら、蹴りつけて正気に戻す。


 痛む脳よりさらに痛む部位を作ってあげよっか? と脅せば従順に命令に従ってくれるでしょう。蟲兵ほど言う事を聞いてくれなくても、従わせる方法はある。


「向こうの巫術師は、脳に何度も高圧電銃(スタンガン)を食らった状態でしょうか」


「そんな感じかな~?」


 実験では、鎮痛剤有りでもアレで死ぬ巫術師が発生したほど。


 巫術師は確かに面白い能力持ってるけど、この弱点が致命的なんだよねー。


「でも、さすがに蟲兵がちょっと勿体なかったかな?」


「いま死なせたのは、地下で孤立していた蟲兵部隊ですよね? 在庫処理も兼ねて浮いた駒を処理したと思えば、まったく問題ないのでは?」


「まあ、それはそうなんだけど」


 自決命令を出したのは、主に地下で孤立している蟲兵達。


 塞がれた侵入路の前や、その途中で無駄に生きていた奴らに死んでもらった。巫術師相手なら、彼らは爆弾代わりにも使える。とても便利だ。


 蟲兵は主上曰く「失敗作」らしいけど、まったく使えないわけじゃない。失敗作には失敗作なりの使い道がある。私達と同じでね。


「今ので敵巫術師が完全ダウンしてくれると嬉しいな」


 とりあえず、飛んできたヤツは潰した。


 あとは飛べない子達を処理するだけ。


 敵の希望は、しっかり摘んで――――。


「――――。さっきの敵機を撃墜する直前の映像、こっちに回して」


 急ぎ精査しつつ、索敵を任せている巫術師に問いかける。


「ねえ。さっきのレギンレイヴ、魂はいくつ(・・・)観えた?」


『え、ええっと……?』


「2つ観えたでしょ。さっさと報告してよ。大事なことでしょ」


 敵機撃墜の瞬間の映像を、よく見る。


 撃墜する直前、敵機の後頭部に人影(・・)が見えた。


 顔はよく見えない。けど、誰かが乗っていた。


 誰かが飛行するレギンレイヴに、生身の人間が張り付いていた。


 その人影は、敵機撃墜後には姿を消している。撃墜の衝撃で吹っ飛んだわけではない。敵機と一緒に落ちていった様子もない。


 忽然と姿を消している。


 まさか……こちらの方舟に飛び乗った? いや、そんなの人間業じゃない。


 近衛兵(わたしたち)なら出来るけど、それも権能ありきの話だ。


「艦内の監視カメラ映像は――」


 異常はない。


 そもそも、敵が入り込めるはずがない。


 私達のような権能(・・)でもなければ、不可能だ。


「総員、現在位置から一歩も動かないで。従わないと殺します」


 艦内放送ではなく、個別の通信を使って艦内の全員に勧告する。


 皆の動きを止めたうえで、巫術師に観測結果を聞く。


 艦内に動いている魂(・・・・・・)が観えないか聞く。


 すると、いた。


 先程の命令に従っていない魂が存在する。


 という事は……!


「白兵戦用意! 艦内に侵入者がいる!」




■title:交国軍艦艇<星喰>にて

■from:星屑隊隊長


「――気づかれたな」


 艦内の空気が変わった。


 この戦場を仕切っているのは、玉帝の勅命を受けた近衛兵だ。只者ではない。


 密かに忍び込んで目的を達成した後、逃げるつもりだったが……一筋縄では行かないようだ。おそらく、巫術師を使って私の位置を割り出したのだろう。


 侵入自体は上手くいった。


 フェルグスが操るレギンレイヴに運んでもらい、権能を使って敵艦に飛び移った。そして何とか侵入路を見つけ、そこから権能を使って艦内に入った。


「……何をやっているのだろうな、私は」


 巽が今の私を見たら、「何やってんだ」と嘆くかもしれんな。


 黒水守は私を責めないだろう。あの御方は、そういう人だ。


 だが、私は……明らかに判断を誤っている。


 私はもう、ヴァイオレットを殺すべきだ。


 彼女を連れて逃げるのが難しい以上、せめて……彼女が玉帝の手に渡らないよう、殺すべきだ。そして私1人で逃げるべきだ。


 全員を見捨て、私だけ逃げるべきだ。


 それなのに、気づけば「私が敵艦に乗り込む」などという無謀な作戦を立案していた。相手は古巣だとわかっているのに、私は――。


「…………老いたな」


 自分の判断ミスを、加齢によるものだとしておく。


 敵はもう、私の位置を掴んでいる。


 急ぎ、目的(・・)を達成しよう。




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