回避不能の一撃
■title:交国軍艦艇<星喰>にて
■from:玉帝の影・寝鳥満那
「カトー特佐。敵の方舟は潰したので、じっくりいきましょう」
『何を悠長なことぉをぅゥ!! 敵はァ!! さっさと皆殺しぃッ!!』
「ちょっと大暴れしすぎですよ」
カトー特佐――もとい、森王七百七十八号が少し暴れすぎだ。神器を使ってはしゃいでいる。
抵抗してくる敵は倒さなきゃダメだけど、森王七百七十八号の仕事は雑だ。
神器の圧倒的な力で暴れ回り過ぎると、敵が立てこもっている地下施設が全て壊れかねない。確保対象が生き埋めになってぺしゃんこになったら、少々面倒な事になる。
肉の染みと化してしまったら、確保したところで意味がなくなる。
『きさまぁ!! オレに指図するつもりかぁッ!! ボクは特佐だぞっ!!』
「主上は現場の指揮権を私に預けています。私の指示に従えないという事は、玉帝に逆らうという事でよろしいですか?」
『そっ、そんなわけないだろぉ!? オレぇはぁ! 玉帝の臣下だぞっ!』
「では、少しは控えてください。敵を倒せず苛つくのはわかりますが――」
『だってアイツらヒキョーなんだ!! モグラみたいに穴の中をチョロチョロと……!! もっと力を使えば、もっと簡単に殺せるのに!!』
「だから、それやったら確保対象がメチャクチャになりかねないからマズいんですよ。指示に従ってください」
『がァ~~アアアアアッ!!!』
森王七百七十八号の手綱を引き、動きを制限する。
地下の侵入路が塞がったとはいえ、じっくり攻めれば勝てる状況だ。
地上から直接、敵の本丸に向かうルートは……流体装甲で塞がれたとはいえ、まだ一応使える。最悪、また神器で大きな縦穴を作ればいい。
あまり使い過ぎるとボロボロになった地下施設が崩落しかねないから、そうホイホイ使いたくないですけどねー。
あとは、敵機兵を倒せば容易い。
機兵撃破後に蟲兵を送り込めば終わりだ。
問題は……その敵機兵がしぶとく足掻いている事か。
機兵の通れる地下通路内を逃げ回りつつ、抵抗してくる。レギンレイヴ隊に下手に追撃させると、狭い通路で返り討ちにあっているようだ。
巫術師もまだ生きている様子だし、敵主力はほぼ健在。もうジリ貧だろうけど……そこまで楽観できる戦況でもない。まだ油断は禁物かな?
「突入班がやられたのは、ホントに痛いな~……」
権能持ちの彼らがやられるなんて、想定外だった。
彼らに対象を確保してもらうのが一番確実で安全だったけど、それはもう出来ない。こちらの権能使いはもう、あと1人しかいない。
レギンレイヴ隊がまだ手こずる様子なら……その権能持ちを出すしかない。
こんな事なら役立たずのヒスイを連れてくれば良かった。あの子に犬塚特佐の監視を任せず、連れてきていれば……多少は活躍したかもなのに……。
「……タルタリカの群れは?」
「健在です。ただ、巣穴に星の涙を落としたので、残りは地上に出ている約500体のタルタリカのみです。余所からさらに駆けつけてくる様子もありません」
それでもまだ500体いるのか。
タルタリカなら、方舟にとって大きな脅威じゃない。でも……タルタリカの群れが敵の本丸に突入して、確保対象を食い荒らしたら面倒な事になる。
「タルタリカは確実に消しておこう」
鋼雨と星の涙もある以上、もう直ぐ殲滅できるでしょう。
ただ、念には念を。
2隻いる僚艦のうち1隻は移動させる。タルタリカの群れがこちらに来ないよう、囮になってもらう。あの獣達は手近な目標に食いつくでしょう。
もう1隻は両方の戦場から距離を取ってもらいつつ、両方に砲撃できる位置に陣取ってもらう。向こうの2隻は巫術師を3人ずつしか乗せていないから、敵巫術師の力量次第では乗っ取られる可能性もある。
「敵が打てる手は、『逃亡』と『方舟乗っ取り』の2つに限られるはず」
地下の逃走経路は破壊済み。
私が乗っている<星喰>の巫術防御は万全。実際、敵の憑依攻撃を弾いた。
このままどっしり構えて、少しずつ敵を削っていけば勝てる。
……確保対象が自爆で木っ端微塵にならなければ、私達の勝ちだ。
「レギンレイヴ隊、さっさと機兵を片付けて。相手はたった2体でしょう?」
巫術師共に催促する。いい加減な仕事をするな、と発破をかける。
レギンレイヴを操っている巫術師達は「敵が待ち伏せしている」「憑依を仕掛けても、何故か効かない」と泣き言を言っている。
巫術は面白い力だけど、所詮は素人だ。
「仕方ない……。機兵部隊。そろそろ出番だから、よろしく」
『了解』
権能持ちの部下はもういないけど、機兵を扱える兵士はまだ連れてきている。
レギンレイヴとの戦闘で消耗した敵を、予備の機兵部隊で仕留める。敵の憑依攻撃は戻ってきた巫術師達を使って防御すればいいでしょう。
少しもったいないけど、最悪はこれで――。
「レギンレイヴがまたやられました。これで7機目……」
「さすがは犬塚特佐の追撃を撒いた機兵乗り……って言うべきかな?」
デキる相手だとわかっていたけど、ここまでやるとは。
けど、敵機兵にもダメージが蓄積している。そのうえ……彼らが使っている<逆鱗>の火力では、神器<アイオーン>が作りあげた巨大機兵は倒せない。
近衛兵の損耗以外は、大したことない。近衛兵以外の死者は蟲兵にした解放軍兵士だけだから、このままじっくりと――。
「地下よりレギンレイヴが飛び立ちました!」
鹵獲機を敵巫術師が操っているようだ。
でも、混沌機関は遠隔操作で破壊している。それなのに動いているのは――。
「さっき破壊した方舟の混沌機関か」
方舟用の混沌機関を無理矢理接続し、レギンレイヴを動かしている。
それなら一応、動かせる。
地下から飛び出してきたレギンレイヴは空高くへと飛び上がっていく。
「レギンレイヴで飛んで逃げる気? それなら追跡できるけど――」
その手は読んでいる。
地下を地道に逃げるならともかく、空を飛んでいるなら衛星やドローンを活用して位置を追える。追撃部隊を出してもいい。
そもそも、レギンレイヴ1機で敵の生き残り全員を助けるのは不可能。そう考えながら追撃の手配をしていたけど……その必要は無かった。
「敵機が降下してきます! 上空から、本艦に突撃を仕掛けてきました!」
「迎撃。撃ち落として」
逃げるように見えたレギンレイヴが、こちらに向かって急降下してくる。
巫術による乗っ取り狙いか?
巫術防御に多数の巫術師を割いているこの船に対し、憑依を仕掛けても無駄って事は……敵も既にわかっているはず。それなのに仕掛けてきた。
という事は――。
「自爆特攻目的かも。確実に落として」
あのレギンレイヴは、方舟の混沌機関を積んでいる。
あれが爆発した場合、被害は機兵の混沌機関より大きくなる。こちらの方舟にもそれなりのダメージが入るだろう。最悪、撃沈される。
この方舟が落ちたところで、まだ僚艦がいるけどね。
防御をしっかり固め、落ち着いて対空射撃をしていれば……あの特攻も無駄に終わる。敵は自爆以外、方舟にダメージを入れる方法なんて持ってない。
所詮は機兵だ。
機兵1機で、方舟に勝てるはずがない。
レギンレイヴには、それが出来る火力はない。
■title:<目黒基地>上空にて
■from:弟が大好きだったフェルグス
『行くぞっ……!』
ラート達に注意を引いてもらっている隙に、地下から空に飛び上がる。
機体が重い……! 方舟用の混沌機関をレギンレイヴに無理矢理繋いでいるから、フツーにレギンレイヴを動かすより動きが重い。
これじゃ小回りが利かないけど……速度は出せる! 方舟の混沌機関の方が、機兵の物より力は強い。その力を発揮出来るよう、十分に速度を出す。
『隊長! 大丈夫だよな!?』
『構わん。行け』
隊長の指示通り、空高くから敵の方舟を目指す。
一番近くにいる方舟を襲いに行く。
他の方舟は……基地から少し離れた場所で飛んでいる。
遠いヤツを狙うと失敗する可能性も高いし、近いのを狙う。
『っ…………!』
敵の射撃が飛んでくる。こっちを撃ち落とそうとしてくる。
このままじゃ、方舟まで辿り着けない。
反撃するしかない!
『露と滅せよ……! 虹式煌剣ッ!!』
■title:交国軍艦艇<星喰>にて
■from:玉帝の影・寝鳥満那
「へぇっ……!?」
方舟が軋み、傾く。
敵に攻撃された。急ぎ、体勢を立て直させる。
……レギンレイヴの火力で、ここまでのダメージを与えてくるなんて。まだ撃沈にはほど遠いけど、何度も攻撃されてたらマズいかなっ……!?
というかそもそも、さっきの攻撃は何――。
【認識操作開始:考察妨害】
攻撃の正体がわからない。
レギンレイヴに、あんな攻撃手段なんてあった?
【認識操作休眠状態移行】
「いや、余計なこと考えてる場合じゃない……!」
とにかく、敵を迎撃しないと。
僚艦にも砲撃支援をしてもらう。
敵機兵をこれ以上接近させると、マズい。
早く撃ち落とさないと、こっちが落とされる!
「弾幕、薄くない!?」
「先程の攻撃で、艦の姿勢が……!」
「さっさと立て直して!」
間に合わないかも。
舌打ちしつつ、急ぎ、通信を繋ぐ。
■title:<目黒基地>上空にて
■from:弟が大好きだったフェルグス
『あと少し! あと少しっ……!!』
もう少しで、敵の方舟に取り付ける。何とか……距離を詰めないと!
こんな時、エレインならもっと上手くやるんだろうな。
けど、エレインは力を使い過ぎて休んでる。オレが何とかするんだ!
オレが何とかしなきゃ、ダメなんだ!!
『――――』
方舟の大砲が火を噴く。砲弾が飛んでくる。
アレは当たる。回避が間に合わない。
直感的に、それがわかった。
ここでオレが撃ち落とされたら、隊長の立てた作戦が失敗する。
じゃあ、
『受けて滅せよ』
オレが、
『溝式煌剣ッ!!』
打ち返すしか、ねえだろッ!!
■title:交国軍艦艇<星喰>にて
■from:玉帝の影・寝鳥満那
「――――」
敵機兵が大剣を振るい、こっちの砲弾を打ち返した。
打ち返された砲弾は、あらぬ方向へ飛んで――――いや、違う。
離れたところにある僚艦に着弾し、大きな爆発が発生した。
敵が来る。
機兵のくせに、無茶苦茶な方法で防御し、こちらに迫ってくる。
巫術師対策はしている。
巫術で方舟に取り憑こうとしても、巫術師達に押し返させる。
けど、あそこまでの攻撃への対策は――――これしかない。
「蟲兵部隊。自決しなさい」




