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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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消える流星



■title:<目黒基地>にて

■from:玉帝近衛兵隊<戈影衆>


「クソがッ……! だッ……脱走兵のっ……分際で……!!」


 突撃してくる機兵の操縦席に手榴弾を送りつけたが、手遅れだった。


 機兵の自爆からは逃げ切ったものの、自爆によって大きな落盤が発生。それは回避しきれなかった。権能で回避してきた先で埋もれる事になった。


 落ちてきた天井に潰され、首すら動かせない。


 自分の影に権能で移動したら、この状態から脱出出来るが……移動出来るだけの空間がない。自分を映すドローンも、敵の自爆に破壊されてしまった。


 何とか、仲間との通信は生きているが――。


「寝鳥隊長、すまん……。こちらはこれ以上、進めそうにない」


 敵機兵の自爆が基地の一角を吹き飛ばし、進入路を塞がれた。


 蟲兵の物量があっても、土木工事には時間がかかる。


『直ぐに救助を――』


「必要、ない……。時間の無駄だ」


 すぐ近くの空間で、炎が燃えさかっているらしい。


 空気がどんどん薄くなっていき、身体にかかる圧も強くなっている。


 もう助からない。仲間の足も引っ張りたくない。


「救助より、勝利を……! 主上の望みを……人類の、救済を……!!」


『わかってる。後は任せて』




■title:交国軍艦艇<星喰>にて

■from:玉帝の影・寝鳥満那


「やれやれ。困ったなぁ」


 突入班がやられて、地下の侵入路も潰された。


 あとは物量でサクッと解決出来ると思ったけど、簡単には勝てないらしい。


 地下にはまだ指示可能な蟲兵が多数いる。敵機兵の自爆に巻き込まれずに済んだ者達がいる。ただ、その殆どが土に埋もれて孤立している。


 指示したところで、繊細な掘削作業は出来ないだろう。


 指示出来るなら、まだ使い道(・・・)はあるけどね。


「けど、そっちはこっち以上に厳しい状況だよね」


 レギンレイヴの突撃で方舟は破壊した。


 流体装甲でどうこう出来る破損じゃない。


 肝心要の海門発生装置を修理中だったみたいだけど……それも破壊させた。


 地下に立てこもっている脱走兵達も多数の死者が出た。大打撃を与えてやった。


 こちらにはまだまだ戦力がいるし、援軍も呼べる。「方舟で界外に逃げる」という逃走経路を潰し、敵の希望も摘み取った。


 地下侵入路を機兵の自爆で吹き飛ばされたとはいえ、侵入路ならまた作ればいい。先程作った侵入路は敵が流体装甲で必死に塞いでいるけど、それも一時凌ぎ。


 もう手詰まりでしょ。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「うそだ……。バレットが、そんな…………そんな、こと……」


「向こうに行っちゃダメ。ここに寝て、休んで……」


 崩落で埋まった区画に行こうとするロッカ君を無理矢理にでも寝かせる。


 バレットさんの奮戦で、基地の一角が消し飛んで……大きく崩落した。


 それで敵の侵入路が1つ塞がれた。けど、その直前の戦闘で……。


「ご……ごめんなさい……。海門の発生装置も方舟も、破壊されて……」


 地下港に戻ってきた隊長さん達に、改めて状況を伝える。


 方舟はもう1隻ある。隠しているものがある。


 けど、海門の発生装置が完全に破壊された以上、方舟があったところで――。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:星屑隊隊長


「判断を誤ったのは私だ。とりあえず、隊員の治療を頼む」


 青ざめているヴァイオレットに、引き続き治療を頼む。


 頼みつつ、地下港の前で事切れていた隊員を寝かせる。大やけどの痕も、身体も、傍にあった布で隠しておく。


 敵に地下港を強襲された。


 フェルグス達の抵抗で、何とか敵の突入班を倒せたようだが……被害は甚大。多数の隊員が物言わぬ死体と化している。原形を留めていない者が多い。


 生きている者もいる。


 まだ何とか、生きているが――。


「ヴァイオレットちゃん……。オレらは、いい。ほっとけ……」


「が……ガキ共の手当を、優先しろ……!」


「でも、でもっ……!」


「大丈夫。自分達の身体は、自分達が……よく、わかっている」


 機兵の機関砲に撃たれたのか、下半身がごっそり失せている隊員がいる。


 機兵に蹴られたのか、首から下が一切動かなくなっている者もいる。


 生きている者もいる。だが、深手を負っている。痛覚のない交国オークのため何とか持ちこたえている者もいるが……誰も彼も酷い状態だ。


 ヴァイオレットは走り回り、致命傷を負った彼らを何とかしようとしている。


 だがもう、大半は手遅れだ。


「負傷者の選別は私が行う」


 治療なら、助かる見込みのあるものを優先すべきだ。


 どう足掻いても助からないものの手当をしたところで、もう意味はない。時間も薬も限られている。助かる者を優先するべきだ。


 ヴァイオレットに代わり、隊員達と言葉を交わす。


「すまない。私の判断ミスだ」


 私がもっと早く、機兵を自爆させていれば良かった。


 ロッカが機兵に憑依しているうちに、一か八か試すべきだった。


 こちらが埋もれる可能性があったとしても、機兵の自爆で基地の一角を吹き飛ばし……早く地下港に戻るべきだった。私が地下港の守りについていれば、こんな事にはならなかった。もっと、被害を……押さえられていた可能性はあった。


「戦場じゃあ、こういう事も……あるっしょ……」


「隊長が気にしないでください。悪いのは、敵です。玉帝達です」


 隊員達は苦しそうにしながらも、無理矢理笑みを浮かべている。


 交国のオークは痛覚を殺されている。


 だが、不死身の存在ではない。


 負傷によって弱り、呼吸すらままならなくなっている。痛みはなくても苦痛はあるし、恐怖も絶望もある。……命の火が消えていく自覚もある。


「すまない」


 謝ったところで、意味はない。時間の無駄だ。


 だが、それでも頭を下げずにはいられなかった。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:星屑隊隊員


「介錯とかも、大丈夫なんで……気にしないで」


 ホントは、もう楽になりたい。


 死にたくない。でも、もう助からない。


 それならせめて、早く楽になりたいが……今はダメだ(・・・・・)


 まだ(・・)死ねない理由がある。


 オレ達は脱走兵だが……それでも、最後まで、戦わないと。


 戦えない状態でも、守ってやらなきゃいけない対象がいる。


「気にせず戦って、ください……。オレらは、オレらで……何とかするんで」


 まだ動ける奴もいる。両目が潰れても、手足は動く奴もいる。


 両脚が潰れても、まだ目は生きている奴もいる。2人組で行動すりゃ、まだ……何とか戦えるだろう。敵の歩兵ぐらい、2、3人は道連れに出来るはず。


 オレは、どの部位もほぼダメになってるが――。


「まだ死んでないやつ……。なんとか、持ちこたえろよ……!」


「くそっ……。わかってるよぉ……」


 オレ達は、ここで死ぬ。


 異国の地で、同郷の奴らに殺される。


 だが、まだ死ねない。


 まだ……ガキ共が、観てる(・・・)


 巫術の眼で、オレ達の魂を観ている。


 いま、オレらが死ぬと……ガキ共に心配と負担をかける。


 大量に死人が出て、アイツらも色々参っているはずだ。


 これ以上、アイツらに……負担はかけたくない。


 オレ達は大丈夫だぞって……魂で、証明しないと……。


 子供だましになってもいい。


 アイツらが、少しでも傷つかないなら……それでいい。


 出来るだけ、持ちこたえないと……!


「あぁ…………。くそっ……」


 女の子の、小さな泣き声が聞こえる。


 どこかでグローニャが泣いてる。


 泣くな。大丈夫。オレ達は、まだ生きている。


 そう言ってやりたいが、それを言いに行く力もない。


 だから、せめて……ここで踏みとどまる。それぐらい、やらねえと。


 いま死んだら、グローニャにオレ達の「死」を知られちまう。


「足掻くぞ」


 オレ達に出来る事は、もうこれしかない。


 オレ達は、辺境の地(ネウロン)に追いやられた半端者だ。


 だが、オレ達だって……誇りがある。少しぐらい残っている。


 それをかき集めて、何とか……踏ん張ろう。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:整備長のスパナ


「ぅ……。ァあ…………」


「しっかりしな、グローニャ……!」


 敵に方舟を破壊された。攻撃された。


 あたしも方舟内にいて、危うく死ぬところだった。


 けど、何とか打撲程度で済んだ。


 敵の攻撃が方舟を容赦なく襲ってきた時、流体装甲が生き物のように動いた。多分、方舟に憑依したグローニャが……あたし達を守ってくれたんだろう。


 そのおかげで、あたしと副長は軽傷で済んだんだが――。


「ハ……ゥ……。ゥゥ……」


 無事じゃ済まなかった子もいた。


 ロッカは何本か骨を折った様子だった。


 グローニャは……身体中、傷だらけ。


 火傷もしている。


 特に、顔面の傷が酷い。両目が……いや、眼球が、抉れて――。


「み……みんな、ごめん……。ぐろー、にゃ……守れ……くて……」


「なに言ってんだい! アンタは、ちゃんと皆を守って――」


「ごめ……ごめ……な……ぃ……」


 グローニャが呻き、泣いている。


 ヴァイオレットが応急処置を済ませてくれたとはいえ、酷い状態だ。


 頭痛も酷いだろうに、子供の身体でここまで深手。……持つか怪しい。


 持ったとしても、とても戦える状態じゃない。


 自分で何かに憑依して、戦闘に戻ろうとしているが……直ぐに戻ってくる。鎮痛剤がまだ効いていても、耐えられない痛みに襲われ続けているらしい。


「キャスターおじちゃ……守れ……なくて……。ごめ……ごめん、なさ……」


「ちがう」


 後ろから声がした。


 振り返ると、毛むくじゃらの牛系獣人が立っていた。


 荒い息を吐きつつ、壁に手をつきながら歩いてきた獣人の姿があった。


 キャスターがやってきて、グローニャに声をかけてきた。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:甘えんぼうのグローニャ


「おじ、ちゃ…………?」


 声が聞こえた。


 頭がずっと、ガツンガツンと殴られてるみたいに痛い。


 耳から血が出そうだけど、声……聞こえる。


 おじちゃんの声……いつも、小さいのに。


 大きな身体なのに、縮こまって……声も小さいのに……いまは、よく聞こえる。


 やさしいキャスターおじちゃんの声、ちゃんと聞こえる。


 でも、なんで。


 グローニャ、皆を守れなかった。


 おじちゃんも、守れなかった。


 キャスターおじちゃん、敵の機兵に剣で攻撃されて、血が……いっぱい……。


「キミは、わたし達を……まもって、くれた……。助けて、くれ…………た」


「おじちゃ……。ど…………どこ……?」


 みえない。


 まっくらで、なにも……見えない。


 おじちゃんも、みんなも、見えない。


 …………こわいよ。


「は…………。ッ…………! こ……ここ、だ……!」


「ぁ…………」


「ここに、いる。……ちゃんと……生きて、いる……!」


 毛むくじゃらの手の感触。


 キャスターおじちゃんの手の感触。


 技術少尉のおばちゃんに、グローニャ達がイジメられてる時……医務室に、こっそり匿ってくれた手と、同じ。


 こっそり、あめ玉くれた時と……同じ手。


 見えないけど、わかる。


 真っ暗な中に……魂が観える。


 おじちゃん、生きてる。


 ちゃんと……生きてる。


「キミが、守ったんだ。守って……ッ……! くれ、たんだ……」


「…………」


「でも…………疲れた、だろうっ……? もう……やすみ…………なさい……」


「ま、まだ……」


 戦わないと。


 戦わなきゃ。


 グローニャも戦わなきゃ、みんな……死んじゃう……。


 まだ、戦い……終わってない。


 がんばらないと。


 グローニャ、がんばらなきゃ……みんな、皆……。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「麻酔、を……。これ以上、この子を……戦わせちゃ……いけ、ないっ……!」


 グローニャちゃんの傍に跪いたキャスター先生が、そう言ってきた。


 用意は、出来てる。


 麻酔を打てば絶対助かるわけじゃない。けど、このまま意識を保ったままだと……グローニャちゃんは、さらに死を感じ取って苦しんで――。


 もう、戦える状態じゃない。


 もう、いっぱい苦しんだ。苦しみすぎた。


 それなのに、グローニャちゃんは――。


「グローニャ、まだ……! たっ……たたかえ、るっ……!」


 小さくて、血まみれの手を必死に動かしている。


 震える手を、私達に向けてくる。麻酔注射を打たせまいとしてくる。


「みんな、まもるっ……! まもら、なきゃっ……!」


『もういい。休め、グローニャ』




■title:<目黒基地>にて

■from:狙撃手のレンズ


『れ、レンズ……ちゃ…………』


「あとは、オレ達に任せろ」


 地下通路を爆走してくる敵機兵に銃撃を浴びせる。


 さらに、設置していた流体製の爆弾を一気に起動させる。


 敵は流体装甲でよく防御を固めていたが、何とか仕留めた。爆弾の量が多すぎてこっちも少し焦げたが……問題ねえ。まだ戦える。


 機体は持つ。


 オレの身体も、まだ持つ。


「オレ達を信じて寝とけ。起きたら……その時は、皆で一緒に逃げ切ってる」


 具合の悪い腹に手を添える。


 手にベットリと血がついた。くそっ……応急処置しても、ダメか……。


 解放軍から逃げる時に受けた銃創が開いてる。


 だが、まだ戦える。


 アイツらのためなら、戦える。


「オレ達を信じろ。オレを、信じてくれ」


 オレは、まだやれる!


 まだ、守れる。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「ごめんね……」


 グローニャちゃんに簡易麻酔を注射する。


 意識を強制的に落とす。


 眠ってもらえば、死を感じ取って頭痛で苦しむことはない。


 戦闘には参加できないけど、どっちにしろ……もう戦える状態じゃない。


「キャスター先生……」


 グローニャちゃんの傍に跪いていた先生が立ち上がる。


 左半身が(・・・・)殆ど無い(・・・・)


 左足はまだあるけど、それ以外が……ごっそり欠損している。


 敵の攻撃で致命傷を負っている。


 もう、歩く事すらままならないはずなのに……。


 先生はグローニャちゃんが眠ったのを見届けると、「怪我した皆のところに行ってくる」と言い、ふらつきながらも歩いて行った。


 私の治療を拒み……自分で自分を選別(トリアージ)し、歩いて行った。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:星屑隊の隊員


「グローニャさんが、ねむった」


 壁に手をつきつつ、やってきたキャスター先生がそう教えてくれた。


「みんな、も……。ムリ、を…………しない、よう……に――――」


 それが先生の最後の言葉だった。


 ドサリと倒れ、それきり動かなくなった。


 最後に……オレ達を安心させに来てくれた。


「先生……。…………ありがとな」


 正直、そろそろ危うかったんだ。


 あの子が寝たって聞けて、良かった。


 よかった。…………ほんとうに、よかった。


 フェルグスとロッカは、まだ足掻いているんだろうな。


 頑張ってくれてるんだろうな。


 アイツらが、眠るか逃げ切るまで持ちこたえるのは…………ムリっぽい。


 スマン。


 ほんとうに、スマン……。


 オレらの方が、年上(にいちゃん)なのに……足引っ張って……スマン……。




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