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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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踊る影法師



■title:<目黒基地>地下港にて

■from:弟が大好きだったフェルグス


『えっ? お前ら、誰――』


 機械の鳥が下りて来たと思ったら、その下に3人の人間が現れた。


 白い外套に身を包み、武器を持って現れた。突然現れた。


 いや、この状況で来た知らねえ奴なんて、敵に決まって……!


『っ……?!』


 流体甲冑を操り、咄嗟に防御を固める。


 新手の3人組のうち、2人が姿を消した。


 それとほぼ同時に、両側から「何か」が飛んできた。


 飛んできた「何か」で、流体甲冑と身体が「ミシミシ」と音を上げた。


 撃たれた。


 対物狙撃銃で撃たれた。それも、結構な近距離で――。


 何とか流体甲冑で受け流したけど、多分、今のでどっかの骨が折れて――。


『ウアァッ!!』


「「――――」」


 防御をよく固めつつ、両側に向けて流体の針を伸ばす。反撃する。


 オレの両側。結構近くに、さっき消えた2人が姿を現していた。


 その2人が対物狙撃銃で撃ってきたから、流体の針で反撃したが――また消えた! 少し離れたところに「パッ」と現れた。


 オレの攻撃が追いつかないほど、高速移動してんのか……!?


 あの速度、機兵が放つ銃弾よりずっと速――――。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:玉帝近衛兵隊<戈影(かえい)衆>


「――――」


 ペインキラー3が――味方が権能で光速移動し、敵の顔面に蹴りを放った。


 敵は流体甲冑を纏った巫術師。


 膂力で近衛兵(われわれ)に勝るが、不意打ちの蹴りは決まった。突然顔面を蹴られ、後ろに倒れていく。体勢が崩れている。


「――――」


 倒れていく敵に向け、対物狙撃銃を向ける。撃つ。


 放たれた弾丸は弾かれた。敵が回避行動を取った事で、半端に当たって弾かれた。流体甲冑でも、まともに当たれば抜けるはずなのだが……またも防がれた。


「やるな」


 先程の発砲で銃口が跳ね上がった。


 その隙を権能を使った移動で消しつつ、敵の姿を見る。


 敵は元々倒れつつあり、さらに無茶な回避行動を取った。背中から床に倒れ、動けなくなるはずだったが……それでもさらに移動(・・)した。


 流体甲冑の背中に百足(ムカデ)の如き足を生やし、それで移動した。気持ちの悪い光景だが、効率的ではある。


 巫術で念じ、足を生やしたのだろう。懸命な判断だが――。


『んがッ……!?』


 ペインキラー3が権能で移動し、敵を踏みつけた。


 権能による光速移動。弾丸より速いそれに対し、敵は反応出来なかった。


 踏みつけられ、動きを止められる。


「殺せ」


 動きを止めた流体甲冑に向け、今度こそ銃口を――。


「フェルグス!!」


「――――」


 ペインキラー5と共に対物狙撃銃の引き金を引こうとしたが、回避を優先する。


 横合いから小銃の弾丸が飛んできた。


 弾丸が飛んできた方向を見ると、右腕だけになった脱走兵(オーク)がいた。レギンレイヴの機関砲に左腕を吹き飛ばされながら……まだ生きている。


 オークはしぶとい。そういう設計になっている。


 そのしぶとさを発揮し、まだ使える右腕で小銃を撃ってきたようだ。


 ろくに狙いをつけられていない。大した脅威ではない。


 だが、目障りだ。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:星屑隊の隊員


「逃げろ! フェルグスっ!」


 身体がしびれて、ろくに動かねえ……!


 発砲の反動も、ろくに押さえつけられない。


 だが、まだ戦える。


「ヴァイオレット達を連れて、隊長のところに逃げろっ!」


「まだ動けるやつ、フェルグスを援護しろ! 逃がせ!」


『ばっ……! ひ、人の心配してる場合かよっ!』


 まだ生きている仲間達と連携して、白い外套のスカした奴らを狙う。


 だが、弾が全然当たらねえ……!


 あの3人組、瞬間移動でもしているみたいだ。……普通の兵士じゃねえ。


 スッと姿を消したと思えば、仲間の背後に立っている。抵抗する隊員の頭をパンッ、パンッ、と撃って殺していく。


 1人、また1人。


 灯りでも消してまわるみたいに、皆……殺されて……。


『逃げるのは皆の方だ! 手を出すなっ! 敵は、オレが何とかして――』


「ガキのくせに、カッコつけてんじゃねえっ! いいから逃げろ!!」


 ガキに守られっぱなしとか、情けないままでいられるか。


 俺達は……星屑隊だぞ。


 サイラス・ネジ率いる星屑隊だぞ!


 俺達は負けねえ。こんなところで、負けるはずがない!


 まだ隊長がいる。


 隊長なら、きっとこの状況を何とかしてくれる。


 俺達が、死んだとしても……ガキ共と隊長さえ生きていれば……!


「お前らは生きなきゃダメなんだよ! スアルタウの分まで! 生き――」


 横っ面に硬いものがブツかってきた。


 俺の横に瞬間移動してきた敵が、対物狙撃銃で殴ってきた。


 歯とアゴがくだける。ふらつく。倒れる。


 反撃しないと。


 ガキ共を守らないと。


 借り作ったまま、無駄死にしてたま――――。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:弟が大好きだったフェルグス


『やめろっ! やめてくれッ!!』


 走る。叫ぶ。


 届かない。


 一気に移動した敵が、隊員の1人を銃で殴った。


 それだけじゃ済まなかった。対物狙撃銃を素早く構え、頭を狙って――。


『――――ッ!!』


 流体甲冑を伸ばす。


 守るために伸ばしたが、遅かった。


 薄っぺらい流体の盾を貫き、狙撃銃から弾丸が飛ぶ。


 倒れた隊員の頭が、風船みたいに弾け飛んだ。


 オレがもう少し早ければ。守れたかもしれないのに。


 皆、皆……白い外套の3人組に、殺されて――。


『よくもッ!!』


 流体の爪で斬りかかる。


 けど、避けられた。


 また、あの動きだ。


 最初からそこにいなかったみたいに、一瞬で消えて――。


『ぐッ!!?』


「とりあえず1本(・・)


 体勢が崩れる。


 対物狙撃銃の弾丸が、脚に当たった。


 義足(あし)が吹き飛んだ。その勢いで、身体も弾かれて――。


『…………!!』


 体勢を立て直すために、流体をさらに出す。


 身体をガチガチに固めて動けなくなるぐらい、流体の鎧を出す。


 敵がまた撃ってきた。何とか流体で弾いたが……身体の奥底まで、ビリビリしびれる振動が襲ってきた。弾の衝撃を殺しきれない。


 また、どっかの骨が折れ、砕けて――。


『オレは!!』


 こうなったら、この手を――。


『エレインの、弟子だぞっ!!』


 認識操作(これ)で敵を、混乱させるっ!




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:玉帝近衛兵隊<戈影衆>


『エレインの、弟子だぞっ!!』


「――――」


認識操作開始(ナイトノッカー)考察妨害(ミスディレクション)


 耳によくわからない情報が流れ込んでくる。


 この子供。いま、何を言った?


認識操作(ナイトノッカー)休眠状態移行(スリープモード)


「それがどうした?」


 権能を使い、敵の攻撃を回避する。


 何故か一瞬、戸惑ってしまったが……ほんの一瞬だ。大したことはない。


 我らは光。


 一瞬の隙など、一瞬で挽回出来る。


「――――」


 敵胴体を狙い、発砲する。


 だが、敵が左腕で防御した。


 その左腕も弾丸で弾け飛んでいった。しかしまだ生きている。しぶといヤツだ。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:弟が大好きだったフェルグス


『ぐ、ゥッ……?!』


 今度は左腕が弾け飛んだ。


 何とか死なずに済んだが、これじゃ、まともに戦えない。


 オレじゃ、ダメなのか?


 オレじゃ……認識操作(これ)を上手く使えない。


 敵が一瞬躊躇ったように見えたけど、一瞬じゃ足りない。


 オレじゃ、その一瞬(すき)を扱いきれない。


『う――――アァッ!!』


 念じ、流体甲冑を爆発させる。


 敵を銃ごと焼いて倒そうとしたが、またアッサリと回避された。


 敵が早すぎる。なんなんだ、コイツらの移動速度……!


 弾丸より、速え……!


 このままじゃ、皆殺しに――。


「フェルグスく――」


『ヴィオラ姉……!!』


 ヴィオラ姉が、敵に拳銃を向けた。


 けど、向けた瞬間にはもう、敵が消えていた。


 また高速移動した。今度はヴィオラ姉の傍に移動した。


 それで、ヴィオラ姉の腹を思い切り殴った。


「――――」


 ヴィオラ姉の身体が「くの字」に折れ、倒れる。


 げほっ、と吐く音が聞こえた。


 よくも、ヴィオラ姉に手をあげたな……!?


『クソ野郎がぁッ!!』


 流体の爪を弾丸代わりに撃つ。


 けど、それも避けられた。


 敵が消えた。消えて、オレの足下に現れ、足払いを仕掛けてきた。


 そして、次の瞬間には、対物狙撃銃をオレの頭に――。


『フェルグスっ!!』


「っ……! ろっ、ロッカ……!?」


 近くの壁に穴が空いた。


 その一瞬前、敵がまた姿を消した。


 何かが飛んできて、ロッカの声が聞こえて……。危ういところで助けられた。


『オレも戦う! オレも……!』


 オレが流体装甲で拘束しておいたレギンレイヴが、動き出している。


 そこからロッカの声が聞こえる。


 いつの間にか戻ってきて、レギンレイヴに憑依していたらしい。


 敵は人間。……人間のはずだ。


 それなら、機兵なら立ち向かえるかも――。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:ロッカ


『待ってろ! 交国軍人なんて、オレが直ぐ殺してやるからな!?』


『気をつけろ! そいつら……メチャクチャ速いぞ!』


 身体に戻ってきたら、身体がすごく痛んだ。


 それでも何とか動かして……ドローンに憑依して、地下港で動かないよう拘束されていたレギンレイヴに憑依した。


 これを使えば、オレだって……!


『どこだ!? 出てこっ…………』


 敵が姿を消している。


 探していると、機兵が急に言うことを聞かなくなった。


『えっ? えっ……!?』


 機兵が勝手に倒れていく。


 故障した? いま!?


 急いで調べると、こいつ……混沌機関が壊れてる!


 ダメだ。直せない。動かせない……!




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:玉帝近衛兵隊<戈影衆>


「手癖の悪い子達ですね。それはこちらが使っていた機兵ですよ?」


 発砲したレギンレイヴが膝をつき、倒れていく。


 巫術師が憑依し、操っていたようだ。


 けど、そういう悪さをするのは予測済み。対応策も用意しておいた。


『混沌機関に破壊装置を起動した。動作は――』


「停止を確認しました。ご苦労様」


 レギンレイヴの混沌機関には、こっそり外付けの破壊装置を仕掛けておいた。


 敵に奪われた時は、遠隔操作で即座に停止できるようにしておいた。


 少し勿体ないが、敵に利用されるよりマシだ。


「流体甲冑を使っている子とは、別の巫術師が遠隔操作してたのかな?」


「方舟の方から羽音がした。ドローンを飛ばして憑依したのだろう」


「処分してきます」


『やめっ……! やめろっ!!』


 ペインキラー3に流体甲冑を任せ、邪魔者を消しに行く。


 壊れた方舟まで権能を使って移動する。


 すると、方舟の外に這い出た子供(ロッカ)がいた。


 ちょうど身体に戻ってきたのか、こちらを見上げて絶望している。


「抵抗しないで。健闘のご褒美に、楽に殺してあげるから」


 対物狙撃銃を片手で保持しつつ、拳銃を抜く。


 その瞬間、周囲に誰かが来る気配がした。


「まだ制圧出来てなかったのか?」


「なかなか優秀な子達でね」


 来たのは味方。仲間の近衛兵だった。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:弟が大好きだったフェルグス


『なっ――――』


 また敵がきた。


 白い外套を着た奴が、さらに3人現れた。


 これで6人。よくわからん力をもった奴が、さらに来た。


 敵の1人が拳銃を抜き、ロッカに向けて――。


『ロッカ! 逃げろっ! ロッカ……!』




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:ロッカ


「――――」


 拳銃を向けられる。


 アニキも、こんな風に――。


「ぅ、ぁ…………!」


 パンッ、と音が鳴った。


 撃たれた。


 オレも、死んで……。


「っ…………。…………?」


 撃たれて……ない。


 身体は、痛い。


 痛いけど、この痛みは……地下港に戻ってきた時からしてた。


 弾丸で撃たれた痛みはしないし、目の前にいた敵が消えている。


「……フェルグス?」


『――――』


 敵は消えたけど、フェルグスがオレの傍にいた。


 武器を――大剣(・・)を構え、敵と向き合ってる。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:玉帝近衛兵隊<戈影衆>


「……なんだ?」


 巫術師(ロッカ)を殺そうと思ったが、咄嗟に逃げてしまった。


 発砲はした。一発撃ったが、それは大剣に弾かれた。


 巫術師を守るように飛んできた大剣が弾丸を弾き、大剣を投げてきた主がこちらに駆け寄ってきた。……その殺気に気圧され、咄嗟に逃げてしまった。


「アレか? お前達が手こずっていたのは」


「はい。……でも、ちょっと……雰囲気変わったかな?」


 抵抗していた流体甲冑。


 その形状が変わっている。


 二足歩行の大きな狼みたいな姿から、もっと人らしい姿に変わっている。


 その容姿(シルエット)は……どこかオークに似ていた。


 大剣を構えたオークに見える。……先程までと雰囲気が違う。


 まるで、別人になったみたいに――。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:弟が大好きだったフェルグス


『すまん、兄弟』


 身体が勝手に動いた。


 いつの間にか、ロッカの直ぐ傍に移動していた。


 ……少し前まで、よく聞いていた声が聞こえる。


 オークの声だ。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:贋作英雄


『しばし、身体を借りる』


『もしかして……エレインか!?』


『留守にしててすまん』


 肝心な時に、傍にいてやれず……すまなかった。


 もう手遅れかもしれない。


 だが、それでも、少しでも多くの命を守る。


『こいつらは、私が何とかする』




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