第3の進入経路
■title:<目黒基地>にて
■from:狙撃手のレンズ
「――――」
目の前にあった地下通路が消えた。
数メートル向こうには、地下通路が変わらず存在している。
だが、間の空間がゴッソリと消失した。
まるで、最初から存在しなかったように消えた。
地上から、地下深くまで幅20メートルほどの巨大な縦穴になった。
「何が起きて――」
『レンズちゃん! 敵が――』
地下通路が消えて出来た縦穴を、敵機が通過していった。
マズい。その縦穴、どこまで通じて――。
■title:<目黒基地>地下港にて
■from:星屑隊隊員
「えっ……?」
地下なのに、空から光が差してきた。
天井の一部が消えている。ゴッソリ消失している。
馬鹿デカい縦穴の先に、空が見えている。
あんなところに、なんで……穴があるんだ?
「――――」
縦穴に影が射す。
人型の影。敵機兵が縦穴から地下港に飛び降りてきて――。
■title:<目黒基地>地下港にて
■from:歩く死体・ヴァイオレット
『地下の皆! 隠れて! そっちに敵っ! 敵が下りてった!!』
「――――」
グローニャちゃんからの警告。
それを聞いて顔を上げると、地下港の天井に大穴が空いていた。
穴が空いた音は、一切しなかった。……地上に向けて大穴が空いている。
その大穴から、機兵が――レギンレイヴが落下してきた。
ズシン、と音を立てて地下港に着地してきた。
3機のレギンレイヴに侵入された。
「まさか――」
地上には巨大な機兵が出現している。
全高50メートルほどの巨大機兵。……見たことがあるデザイン。
カトー特佐が神器を使って呼び出したのを、見たことがある。
カトー特佐の神器は、周囲の物質を解体し、再構築する力を持っている。
その力を使えば、地面も消せる。基地の一部を一瞬で削り取れる。
一瞬で巨大な縦穴を作れる。地上から地下港への進入路を作れる。
「み――――皆さん! 逃げてっ!!」
カトー特佐の神器は、交国に奪われたようだった。
交国は、実際に特佐の神器を使ってみせた。
やられた。あの神器を、まさか、ここで使ってくるなんて……!
『投降しろと言ったはずだ』
地下港に降り立ったレギンレイヴが、機兵の銃を構えた。
銃口が向かう先には、星屑隊の隊員さん達が――。
■title:交国軍艦艇<星喰>にて
■from:玉帝の影・寝鳥満那
『敵本丸の制圧を開始します』
「はいはい。標的は出来るだけ殺さないようにしてね」
地下に突入させたレギンレイヴから送られてきた映像を見る。
やはり、敵は地下に方舟を隠していた。
けど、まだ動いていない。こちらが一手早かった。
こちらの本命は神器<アイオーン>を利用した瞬間採掘による進入路形成。
交国が手に入れたカトーの神器は、周辺の物質を解体して再構築できる。再構築地点は任意なので、一瞬で大きな縦穴を作ることも可能。
敵の本丸の位置は、敵の魂の位置で概ね把握出来ていた。
本丸に向け、神器を使って強引に縦穴を作る。その縦穴にレギンレイヴを突入させ、制圧を任せる。
ただし、巫術師が操作するレギンレイヴはダメ。
士気の低い彼らは雑な仕事をするかもしれない。肝心な仕事は任せたくない。
だから、私の部下が遠隔操作するレギンレイヴを地下に突入させる。遠隔操作で機兵戦をこなすのは難しいけど、地下の本丸にいるのは歩兵ばかり。
向こうの主戦力は出払っている。
本丸に戻ろうにも、目の前の「敵」への対応を疎かにできない。
敵はこちらが神器まで使ってくるとは予測できなかったようで……慌てふためいているようだ。けど、もう遅い。予測できないそっちが悪い。
「交国は神器使い無しで神器使えるって、お披露目したでしょ?」
<エデン>残党のファイアスターターとの戦闘は、彼らも見ていたはずだ。
彼らも交国が神器使い無しで神器を使えると、知っていたはずだ。……こんなところに投入してくるとは考えてなかっただろうけど。
交国は神器を――それなりに――好き勝手に使う方法を開発した。
ただ、本当に好き勝手に使えるわけじゃない。
神器使いの「代用品」は必要となる。
こちらは「神器使い代理」として「森王七百七十八号」を用意した。彼は<玉帝の子>の1人であり、森王式人造人間という「特別な存在」だ。
私達は彼を揺籃機構に繋ぎ、洗脳した。
キミはカトー特佐。神器使いのカトー特佐だよ――と本人をしっかり洗脳した。
彼だけではなく、神器そのものも洗脳した。
神器を使おうとしているのは、カトー特佐本人だよ――と誤認させた。そうする事によって、強引に「本物の神器使い」無しで神器を使う。
それが交国の手に入れた新しい神器利用法だ。
ただ、かなり無茶な方法なので問題もある。
神器使い代理……<人造英雄>は、あくまで「代理」に過ぎない。
本物の神器使いじゃないから、神器本来の性能を引き出すのは難しい。そして、本来使えないものを無理矢理使わせているので、最終的に神器に侵されて死亡する。
神器も揺籃機構で騙しているとはいえ、完全に騙しきるのは不可能。
人造英雄に出来る人材も限られる。私達のような森王式人造人間ならある程度は耐えられるけど、作るのが高価なのでそうホイホイ使えるものじゃない。
森王七百七十八号は役立たずで、性能も低いため、人造英雄として再利用する事が決まった。その所為で死ぬけど……まあ、「解放軍に抵抗して殺されました」って事にして、死後に英雄として祭り上げてあげる。宣伝戦略に使ってあげる。
「カトー特佐、敵機兵の相手は頼みますね~」
『任せろうおおおおおおおおぉぉぉおおおおッ!!』
自分を「神器使い・カトー」だと思い込んでいる森王七百七十八号が、神器で作りあげた巨大機兵で暴れ始めた。
敵機兵の足止めは、彼と巫術師が操るレギンレイヴに任せる。
その間に、こっちでさっさと標的を確保する。
確保後は<星の涙>を落とせば終わり。
「逃がしませんからね~?」
王手飛車取りを仕掛ける。
逃走用の方舟と、ヴァイオレット特別行動兵。
両方共、守り切れますか~?
■title:<目黒基地>にて
■from:防人・ラート
「くそッ! 待て! 行くな!!」
急に空いた縦穴から、地下港へレギンレイヴが下りていった。
地下港に機兵はない。
方舟だけじゃなくて、皆が――。
『こおおおおんにちワーーーーッ!!』
「…………!!?」
頭上から巨大な拳が振ってきた。
全力で前進しつつ、前に飛び込み――攻撃を回避する。
転がりつつ、何とか機兵を起こして見上げる。
巨大機兵がこちらを見下ろしている。
馬鹿デカイ拳でメクロ基地の一角を吹っ飛ばし、再びこちらを殴ろうとしてくる。射撃したが、こっちの銃が豆鉄砲のように弾かれて――。
『死ねぇイッ! 交国の敵ぃッ!!』
巨大な質量が降ってくる。
このままじゃ、潰される。それ以前に、ヴィオラ達を助けに行けな――――。
■title:<目黒基地>地下港にて
■from:星屑隊隊員
「皆、逃げてくださいっ! 逃げて!!」
ヴァイオレットちゃんが叫んだ。
その叫び声は、レギンレイヴの機関砲の発砲音にかき消された。
天井から降ってきたレギンレイヴが、地下港で発砲している。
地下港で方舟発進準備や、基地設備の動作を行っていた隊員達に向け、機関砲の弾が次々と飛んでくる。
「逃げ――――」
敵が使っているのは機兵の機関砲。
壁の裏に隠れたところで、相当厚くなければ無駄。
壁が穴だらけになり、その裏にいた仲間が悲鳴を上げる暇もなく死んでいった。
敵機兵に襲われた奴の中には、悲鳴をあげられたヤツもいたが――。
「ギャ!!!」
ぶおん、と空気を押しのけつつ、敵機兵が蹴りを放った。
仲間が蹴り飛ばされ、サッカーボールのように吹っ飛んでいった。
悲鳴を上げながら、壁に叩きつけられて落ちてきた。
……手足だけじゃなくて、首も酷い方向に曲がってる。
隠れないと。
どこか、敵の目が届かない場所へ――。
■title:交国軍艦艇<星喰>にて
■from:玉帝の影・寝鳥満那
「巫術師の皆さん、索敵サボらないでくださいね?」
壁や机などに隠れても無駄。
こっちにも巫術師がいる。
本丸に突入した味方への情報支援として、巫術師達の索敵結果を伝える。
どこに隠れたところで、魂が観えてますよ~。
■title:<目黒基地>地下港にて
■from:星屑隊隊員
「あ、ああッ……!」
柱の陰に飛び込んだものの、敵機兵が覗き込んできた。
機関砲が、オレに向けられてる。
腰が抜けて、立てない。
殺され――。
「やめて! 撃たないで!! あなた達の目的は、私でしょう!?」
再びヴァイオレットちゃんの声が聞こえた。
声の方向を見ると、彼女は自分の頭に拳銃を向けていた。
「お願いだから撃たないで! これ以上、撃つなら……私は自殺します!!」
「やっ、やめろっ! ヴァイオレットちゃん!!」
「あなた達の目的は、私でしょう!? 私が死んでもいいんですか!?」
攻撃を止めないと自殺するぞ――と敵を脅している。
相手の目的があの子なら、この方法は効くかもだが……さすがに危ない!
『――――』
敵機兵がヴァイオレットちゃんを一瞥した。
一瞥しただけだった。
「――――」
機関砲が火を噴いた。
それと同時に、自分の身体が吹っ飛んでいくのを感じた。
手足も、胴体も、頭も……バラバラにされて、吹っ飛んでいく。
痛みはなかった。
■title:交国軍艦艇<星喰>にて
■from:玉帝の影・寝鳥満那
『隊長。このまま制圧して構いませんね?』
「もちろん。拳銃自殺程度、気にしなくていいよ」
標的であるヴァイオレット特別行動兵は、出来れば生きた状態で確保したい。
けど、それは絶対じゃない。
拳銃自殺で出来た死体程度なら別に構わない。
こっちは別に、死体で確保してもいいんだ。……損壊酷いのはダメだけどね。
「気にせず、邪魔な裏切り者達から殺していって」
地下に降り立ったレギンレイヴの機関砲が乱射される。
血しぶきや肉片が舞い、敵兵が死んでいく。
敵はもう詰んでいる。こっちはレギンレイヴ以外の戦力も用意している。
もう、ひっくり返すのは不可能――。
「でも……うん、その手を使ってくるよね」
レギンレイヴの装甲が爆発した。
敵の本丸――地下港にある方舟が稼働し、流体装甲の大砲を作っている。
大砲を使って、レギンレイヴを攻撃してきたようだ。
「無駄な足掻きだね」
大人しく死ねばいいのに。……反逆者の末路は悲惨だよ?
■title:<目黒基地>地下港にて
■from:歩く死体・ヴァイオレット
「っ……!」
直ぐ近くで砲撃音がした。
鼓膜が破れそうな大音に耐えつつ、音がした方向を見ると……方舟が動いている。砲塔を形成して、レギンレイヴを撃ったみたいだった。
方舟内には、怪我して動けない副長と……方舟を整備していた整備長がいた。それと、機兵に憑依中で動けない子供達も――。
『皆を撃っちゃダメっ! 許さないっ!!』
「グローニャちゃん……!?」
グローニャちゃんは、地上近くでレンズさんと一緒に戦っていたはず。
憑依を解除して、こっちを助けに来てくれたの……!?




