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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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蟲群



■title:<目黒基地>にて

■from:星屑隊隊長


「隊長! こっちに……!」


 隊員達の援護射撃してもらいつつ、基地内を走る。


 仕掛けた爆弾を起動し、敵を巻き込む。


 少しは倒したが……キリが無い。


 可能な限り通路や天井、そして隔壁への配電経路を破壊しているが、敵の勢いを僅かに削ぐ事しか出来ていない。


 1000年前の代物とはいえ、腐っても軍事基地。我々が運搬出来る程度の爆弾では破壊しきれない。出来るだけ敵を巻き込むのが精一杯だ。


 人間しか通れない脇道なら、ある程度は塞げているが……機兵の出入り出来る大通路は塞げない。爆弾で一時凌ぎをしたり、資材を崩して簡易のバリケードを築く事しか出来ていない。


 だが、もう少しで援軍が――。


『ごめんっ! 待たせた……!』


 ロッカが操る機兵が、大通路までやってきた。


 とにかく敵を撃て、と依頼する。


『敵って、アレ、生身の人間――』


「あれは敵だ! 構わず撃て!」


 ロッカは僅かに躊躇ったようだった。


 相手は歩兵の群れ。


 機兵の攻撃なら簡単に蹴散らせる。簡単に蹴散らせてしまう。


 ロッカは躊躇いつつも、機兵の機銃を使用した。歩兵の重機関銃以上の連射能力により、無数の弾丸が敵に向かって放たれる。


 弾丸を食らった敵兵が吹っ飛ぶ。あるいは、身体の一部だけが吹っ飛んでいく。血煙が舞い、通路が一瞬で赤く染まっていった。


 だが、それでも――。


『く……来るなぁっ……!!』


 敵は止まらない。


 自分達を一撃で屠ってくる弾丸が飛んでこようと、構わず突撃してくる。


 異様な光景を見て、ロッカが悲鳴のような声を漏らしている。


 歩兵相手を蹂躙することに対し、ただでさえ怖じ気づいている子供だ。ゲームの駒のように突撃してくる敵を見て、腰が引けてしまっている。


「気にするな。撃て」


 怯えていようが、撃ってもらう。


 敵は明らかにおかしい。機兵の火力でようやく止められる程度。


 いま躊躇ったら、全員が死ぬ。


「アレは敵だ。敵兵を通せば、ヴァイオレット達が惨たらしい目に遭うぞ」


 そう脅し、撃たせる。


 ロッカは躊躇いながらも射撃を続けていった。……精神的な問題に加え、脳にダメージを受けている関係もあり、射撃の精度は平時よりさらに悪くなっている。


 だがそれでも、相手は歩兵。機兵の圧倒的な火力で蹂躙できている。


「ロッカが大通路を堰き止めているうちに、脇道を塞ぐぞ!」


 隊員達を動かし、何とか道を塞ぎにかかる。


 敵は愚直に突進してくる。


 オークが多いが、それ以外の人種も混ざっている。……痛覚の無い交国のオークだけならまだ、敵の「おかしさ」も理解できる。


 オーク以外の人種も、まったく躊躇わずに突撃してくるのは……やはりおかしい。痛覚が無くても、死の恐怖はあるはずなのに――。


「隊長。ロッカも来てくれた事ですし、機兵を自爆させて通路を――」


「まだ早い。脇道を完全に潰してからだ」


 巫術師に機兵を遠隔操作させれば、こちらは誰も死なず自爆攻撃が出来る。


 だが、機兵の自爆で全てが片付くわけじゃない。半端なところで自爆させたところで、敵はまだ生きている脇道に走ってくる可能性がある。


 機兵の数も限られる以上、自爆は最後の手段だ。


 使いどころは、よく考えないと――。




■title:<目黒基地>にて

■from:星屑隊の隊員


「なんでアイツら、死ぬのわかってんのに突撃してくるんだよぉ……!」


「ゾンビ映画のゾンビみたいだな……!」


 突撃してくる敵兵に向け、とにかく撃ちまくる。


 どこ撃っても当たる。それぐらい沢山の敵がいる。突っ込んでくる。


「っ……!」


「大丈夫か!? いま、敵の弾丸が――」


「も、問題ねえよっ。ちぃと……肩に当たっただけだ!」


 飛んでくる弾丸も多い。ロッカが操る機兵と、多脚戦車の火力があってもなお、敵歩兵から無数の弾丸が飛んでくる。……ある程度はこっちに当たっちまう。


 俺達(オーク)は痛覚がねえ。多少の負傷なら問題ねえ。


「…………」


 腹からドロッ……としたものがあふれているが、止血用ジェルで応急処置する。これ、内臓に当たったかもな。まあ……しばらくは持つはずだ。


 運が良ければ生き残れるだろう。


 ぶっちゃけ、いま直ぐにでも逃げたいが――。


「……ロッカ! 悪いが頑張ってくれ! お前が頼りだ!!」


『ぅ……。わ……わかってる……!』


 ガキが逃げずに戦ってんのに、大人の俺達が尻尾巻いて逃げられるかよ……。


 機兵(ロッカ)の攻撃が敵を薙ぎ倒していく。


 だが、敵が倒れるたびにロッカが苦しそうにしている。


 巫術で敵の死も感じて、苦しんでいる。


 鎮痛剤を打っているとはいえ、大量の敵が死んでいるから……その「死」が痛みとしてロッカ達を苦しめ続けている。小さな痛みでも、連続で襲ってきたら相当キツいだろう。


『――――』


 ついにはロッカの操る機兵がふらついた。


 ふらついた銃口から放たれた銃弾が、大通路の天井を抉る。


 敵にろくに当たってない。敵が来る。こちらの隙を突いてくる。


援護(カバー)するぞ!」


 疲弊しているロッカに代わり、迫ってくる敵を多脚戦車と連携して打ち倒す。


 脇道の閉鎖作業を行っていた隊員にも来てもらい、大通路に殺到する敵を倒していく。……どこ撃っても当たるが、敵の勢いを削ぎきれない。


「マジでゾンビなのか……!?」


 敵兵が敵兵(みかた)を盾に突っ込んでくる。


 手薄になった脇道からも敵が突破してくる。


『ご、ごめんっ……! ごめん……!』


「大丈夫だ! 落ち着いて撃て、ロッカ!」


 壁に手をついて倒れかけていた機兵(ロッカ)が、何とか立て直した。


 だが、これは……迎撃が間に合わない。


 敵がかなり詰め寄ってきている。機兵の火力があっても、もう――。


「防衛線を下げる! 星屑隊、退避しろ!」


 隊長の大声が響く。


 隊長は銃と斧を振るい、突撃してくる敵を次々と倒しているが……隊長が奮戦しても敵を止めきれない。死を恐れず突っ込んでくる敵が多すぎる。


「ロッカ! 火炎放射器(フレイムスロワー)を使え!」


 星屑隊隊員が退いていく中、ロッカが機銃を撃ち続ける。


 撃ちつつ、新しい兵装を生成し始めた。


 可燃性液体に加工された流体と炎が噴き出し、星屑隊隊員が退避した大通路や脇道を焼いていく。火炎の舌に舐められた敵兵が倒れていく。


 中には全身丸焼けになっても走ってくる奴らがいたが、走り続ける事は出来なかった。しばし走った後、息絶えて倒れていく。


 まとわりつく炎に周辺の空気を焼かれ、窒息死しているんだろう。


 ロッカが通路を焼きつつ、俺達の後から後退してくる。


 機兵から苦しそうなうめき声が聞こえるが、何とか……何とか敵の攻撃を凌いだ。だが、敵はまだ来る。


『アイツら、火の中に飛び込んでくるっ! なんでっ!? なんで!!?』


 ロッカが悲鳴交じりの疑問を叫んだ。


 通路が燃えさかっているのに、敵が突っ込んでくる。


 火炎放射器を向けられてもなお、一切気にせず敵が突っ込んでくる。


 死体が増えるだけだ。


 努力や根性で、機兵の作る業火は突破できない。それは誰の目にも明らかなのに、敵は……まったく構わず突っ込んできて、死んでいく。


 死ぬたびに「死」を撒き散らし、巫術師達を苦しめている。


「いくら何でもおかしい! アイツら、何かされてるんじゃ……」


「おそらく、何らかの薬物を投与されている」


 隊長が斧を振るいつつ、そう言った。


 隊長が斧を振るった相手は敵兵だった。そいつは両手両脚を斧で叩かれ、身動きが取れなくなっていたが……それでも、まだ動いている。


 首と胴体だけ動かし、芋虫のように這っている。


 手指が動かない状態になってもなお、床を這って俺達に噛みつこうとしてくる。


 隊長がそいつを足で押さえつつ、状態を確認している。……敵は乱暴に扱われても文句1つ言わず、愚直に俺達を襲おうとしてくる。


「どのような薬物かはわからん。だが、尋常な状態ではない」


「単なる薬物で、ここまでの死兵(ゾンビ)になりますか!?」


「少なくとも、死を恐れていないのは確かだ。殺す以外、止める方法がない」


 敵1体1体の強さは、そこまでの驚異じゃない。


 死を恐れず突っ込んでくるのは恐ろしいが、動きは……素人同然だ。


 突っ込んでくる敵兵の後ろで、別の敵兵が射撃し、その弾が敵兵を倒す事もある。同士討ちしようと、奴らは構わず突っ込んでくる。


 燃えさかる床に死体の絨毯を敷き詰め、その上を駆けてくる。


「敵が死兵になっている原因は断定できん。詳細を議論する暇もない」


 火だるまになっても突撃してくる敵に対し、隊長が発砲する。


 瞬時に2発撃って、的確に敵の膝関節を砕いた。……けど、敵はそれでも止まらなかった。転倒しようが、這ってでも迫ってくる。


 それ以外の敵も……まだまだやってくる。


 止まらない。止められない。


 こんなの……凌ぎきれるのか……!?




■title:<目黒基地>にて

■from:寝鳥満那の部下


「消化剤散布、急げ。脇道の復旧も進めろ」


 方舟から運搬してきた消化剤を撒かせ、通路内の火災を鎮火していく。


 炎の壁の向こうから、敵の射撃が飛んでくるが……今は「強引に突破しようとしている」という動きが求められている。


 敵歩兵及び機兵1機の目を、こちらに引きつけねば――。


蟲兵部隊(ミュルミドネス)、突撃準備」


 通信機を使い、指示を出す。


 周りの兵士達が命令通りに動き始める。


 いま投入している兵士達の正体は「解放軍兵士」だ。


 繊一号等で捕まえた解放軍兵士(おろかもの)共に薬物を打つ。


 それによって、奴らを<蟲兵>として運用する。


 蟲兵達は専用の機器を通して命じれば、何でも言う事を聞いてくれる。


 死も痛みも恐れず、愚直に命令に従う兵隊(あり)と化す。


 ただ、愚直過ぎるのが弱点(・・)にもなっている。


 蟲兵はとても従順だが、命令以上の事は出来ない。小便1つすら、命令しなければ垂れ流すか、膀胱が破裂するまで我慢する「愚鈍な肉の塊」になってしまう。


 どれだけ経験を積んだ兵士だろうと、蟲兵になってしまえばその経験も失せる。命令に従うだけの存在になるため、自分達で柔軟な対応が出来なくなる。


 だが、損耗度外視の突撃兵としてなら使える。


 捕まえた捕虜だろうと、蟲兵にしてしまえば文句1つ言わない人形と化す。主上は蟲兵を「失敗作」と言っているが、これはこれで便利なものだ。


 死んでもいい人間なんて、多次元世界(せかい)中に生えている。


 何の取り柄もなく、ただ資源を食い潰しているだけの凡夫共も交国のために――人類のために死ねるなら光栄だろう。


「巫術師共、準備はいいな?」


 拘束して連れてきた巫術師達に呼びかける。


 コイツらは隔壁の万能鍵代わりに使えるが、それ以外の用途もある。


 巫術師達は蟲兵にしていないため、指示を飛ばしても不服そうに睨んでくる。交国が大層憎いようだ。親の仇のように睨んでくる。


 実際、交国はコイツらの親の仇かもしれんな。


 だが、知ったことか。


「不服そうな顔をするなよ。寒いのか? 暖まりたいなら、火に飛び込むか?」


 脅し、従わせる。


 指示通りに動け。


 反抗は無駄だ。


 虫けらの分際で、交国(われら)に逆らうな。


 我らこそが、人類の救世主なんだぞ。




■title:<目黒基地>にて

■from:ロッカ


『ぐ……うぐぅッ……!!』


 大通路や脇道に火を送り込み、敵を焼き殺していく。


 突っ込んできても無駄だ。


 向こうは、地下に機兵を持ち込めてない。


 火力で機兵(オレ)に勝てるわけないのに――。


『来るな、来るなっ! 来るなぁっ……!!』


 死ぬってわかってるはずなのに、敵が突っ込んでくる。


 黙って真っ直ぐ突撃してくる。豆鉄砲を乱射しつつ、突撃してくる。


『ぐ…………ぁ、ぎィ……!!』


『ロッカ! 大丈夫か……!?』


『流体装甲の壁を作って、敵を堰き止めろ! 殺すだけでは巫術師(おまえたち)の脳にダメージが蓄積される一方だ!』


『向こうにも、巫術師いるんだろっ……! 流体装甲だけじゃ、ダメだっ!』


 巫術じゃ、炎の壁には憑依できない。


 けど、流体装甲なら憑依できる。


 向こう側には流体甲冑を着込んだ巫術師もいるみたいだった。流体甲冑経由で流体装甲に干渉し、せっかく作った防壁を解体されるかもしれない。


 殺すしかない。


 交国軍は……皆殺しにする!!


 通路を炎で、いっぱいにして――。


『ッ…………!!』


 あ……あたまが、割れそうだ。


 憑依中で、鎮痛剤も打ってるのに……頭が、いたいっ……!


 頭にネジをねじ込まれるような感触がする。


 それも、何本も。


 でも、それでも……アニキが受けた痛みに比べたら、これぐらいっ……!


『…………! 煙幕……!? 無駄なことをっ……!!』


『ロッカ、一度後退しろ!』


『まだやれる!! まだ殺せる!!』


 敵の後方から無数の煙幕弾が飛んできた。


 炎で迎撃したけど壊しきれず、煙幕弾がポンポンと破裂する。


 炎が作り出した煙に、煙幕が足されて一層……視界が悪くなるけど――。


巫術師(おれたち)には、関係ねえ……!!』


 魂を観ればいいんだ。


 煙幕に阻まれようと、魂の位置をよく観れば……これぐらいっ……!


『死ね! 死ねッ! 死ねぇーーーーッ!!』


『ロッカ! 聞こえていないのか!? 後退しろ!! 何かおかしい!』


 敵が突っ込んでくる。馬鹿みたいに、虫みたいに突っ込んでくる!


 オレの炎で死ぬのに! 焼き殺せるのに!


 炎の中に、列を作って(・・・・・)突っ込んできて――。


『ロッカ! 下がれ! 敵に突破された(・・・・・)!』


『――――』


 突破された?


 そんなはずない。


 だって、大通路も脇道も、炎の壁がゴウゴウと燃えてる。


 敵も燃えて死んで――――ない。


『え?』


 炎が燃えているのに、敵が死んでない。


『なっ、なんで?』


 魂が観える。


 敵が、炎の壁を突破している!


 けど、見えない。


 どうやって突破してきたか、煙幕で見えない。





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