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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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地獄の強行軍



■title:崩れかけの進入路にて

■from:寝鳥満那の部下


「前進。指定地点に向かって進め。足を止めるな」


 今にも落盤が発生しそうな道に向け、解放軍兵士(・・・・・)達を突入させる。


 方舟から引っ張ってきた流体装甲で突貫工事を行い、何とか進入口を広げようとしているが……これ以上、広げるのは難しそうだ。


 出来れば機兵も突入させたかったが、そこまでの広さは確保出来そうもない。


 ただでさえ危うい進入路なのに、突撃していく兵士の多くが既に数人死亡している。生き埋めになってまだ生きている者もいるが、それも実質死亡している。


 だが、それでも問題ない。


 犠牲が出ようと、死ぬのは解放軍兵士だけ。


 交国を裏切った者達がいくら死んでも、何の問題もない。


 敵拠点への進入路が険しいものだろうと、兵を送り込めれば問題はない。送り込んだ兵士の7割が突破出来れば上等だろう。


 このような強行軍、犬塚銀ならけっして許さない戦法だ。


 だが、我らは「犬塚銀(えいゆう)」ではない。


「――――」


 進入路の天井が崩れそうになっている。


 だが、流体装甲の支えがまだ無い区画だ。


 何とか維持せねば――。


第3(サード)蟲兵部隊(ミュルミドネス)。そこの天井を支えておけ」


 指揮している解放軍兵士の一部を、柱代わりに使う。


 交国の裏切り者達は瞬時に人柱と化し、落盤を防いだ。


 人柱達から「みしみし」と音が響き、中には押しつぶされる者もいたが……何とか流体装甲による補強が間に合った。


「休んでいて良し」


 人柱達を巻き込む形で流体装甲による補強を行う。


 流体装甲の中で窒息死するだろうが、仕方ない。鉄骨代わりにもならないだろうが、進入路の応急処置の役には立った。そのままそこで死んでおけ。


「前進」


 兵士はまだいる。


 犬塚銀の去った繊一号で確保した。


 皆、不平不満の1つも言わず、我らの指示をよく聞いている。


 そのおかげで――。


「こちら、ペインキラー4。敵の地下施設に到着した」


 敵が潜んでいる地下施設への道を作れた。


 この辺りもまだ落盤の危険があるが、兵士や流体装甲を使って補強しておく。数十分後には使わなくなる進入路だが、今は維持しておかねば。


 ここはどうやら、1000年前に作られた地下軍事基地のようだ。


 防衛用の設備がある程度残っているかもしれない。その証拠に――。


「施設中心部への隔壁が閉じている。爆弾での破壊は難しい」


『じゃあ、偵察できる範囲で偵察してて』


 隊長の――寝鳥満那の指示に耳を傾ける。


『直ぐに鍵開け(ローグ)部隊(スタッフ)を派遣する』


「了解」


 可能な限り偵察しつつ、進入路を維持する。


 単なる隔壁なら、大きな障害にはならない。


 何故なら、我々の手元には奴らがいるからな。




■title:<目黒基地>にて

■from:狙撃手のレンズ


「かなり入ってきてるな……!?」


 グローニャ達が巫術の眼を使い、更新してくれている戦況図を見る。


 基地外縁部に多数の敵が侵入している。


 かなり無茶な進入路のはずだが……敵は躊躇わず侵入しているみたいだ。


『あんないっぱい来たら、地下のヴィオラ姉達が――』


「大丈夫だ。地下にはまだまだ隔壁がある」


 基地の隔壁は、ヴァイオレット達が遠隔操作して閉じている。


 閉じきれないところもあるが、十分な時間稼ぎが出来るはずだ。


 そう思っていたが、敵の勢いは殆ど削がれなかった。


 隔壁があるはずの区画が、一気に突破されている。地下基地の様子を描いた戦況図に、多数の敵部隊が進み続けている様子が描かれている。


「おいおい……! 1000年前の防犯機構(セキュリティ)とはいえ、そんな簡単に突破できるのか!? 故障してたのか!?」


『いや、違う! 多分、巫術師(・・・)だ!』


 ラートがそう言った。


 敵は巫術師を動員している。


 おそらく、大半が解放軍に所属していた巫術師だ。


 そいつらを地下突入班にも割り振り、巫術で隔壁を開けさせているんじゃないか――とラートが予想した。多分、それがアタリだ。


 いくら何でも、敵の突破速度が速すぎる……!


「そこまで巫術を活用するなら、もっと巫術師を大事にしろよっ……!!」




■title:<目黒基地>にて

■from:星屑隊隊長


「魂1つ1つをプロットしていく必要はない。大きな塊だけ捉えてくれ」


 敵の数が多すぎる。


 巫術師達は、観測可能範囲であれば全ての魂が観えるが……その1つ1つの動きを更新していたら、手が追いつかない。


 大雑把な部隊単位で位置を特定してもらう。そこからはぐれた少数の兵士と出くわした時が怖いが、それが本来の戦場だ。


 歩兵である我々の耳目で対応していくしかない。


「基地の外縁部は、完全に陥落してますね……!」


「欲張らない程度に、敵の進路を塞いでいくしかない」


 基地の隔壁を閉じ、進入路を塞いでいたが……敵は最前線に巫術師の歩兵を投入しているらしい。隔壁が次々と突破されている。


 巫術で憑依して隔壁を開け、二度と閉じないように流体装甲の固定具(ドアストッパー)を使っているのだろう。


 となれば、巫術を使っても開けられない「壁」を作るしかない。


「ヴァイオレット、作業中にスマン。そちらから基地の隔壁を壊せないか?」


『それはちょっと難しいです……! でも、電気の供給ならイジれます!』


 ヴァイオレットが海門発生装置の修理をしつつ、基地設備の操作を行い始めた。


 敵がいる区画周辺の電気供給を断ってくれているようだ。


 巫術憑依による隔壁操作も、万能鍵(マスターキー)にはならない。隔壁を操作するための電気(エネルギー)が来ていなければ、憑依したところでただの壁だ。


 開閉動作が出来ない状況に追い込めば――。


『あっ、ちょっ……! 基地の設備がハッキングを受けてます! 遠隔操作で電気供給を止めようにも、全ては止めきれないですっ……!』


「わかった。では、こちらで配電設備を破壊する」


『破壊可能な天井・壁の位置を戦況図に表示しておきます! 少量ですが、基地内にある爆薬も使ってください! 通路とか、破壊しちゃってください!』


「了解」


 地道な土木作業で突破するしかない場所を作らねば。


 こちらの兵力は限られている。


 有利な陣地を築いても、物量で突破される可能性がある。


 敵の進軍速度を、少しでも削ぐ。


 時間を稼げばいい。海門発生装置の修理まで持ちこたえれば――。


「――敵歩兵が来る。数は約5。射撃用意」


「えっ、でも、戦況図にはまだ誰も――」


「撃て」


 星屑隊の隊員達と共に、斉射を行う。


 通路の先から走ってきた敵兵が弾丸と共に踊り、崩れ落ちていった。


「敵が多すぎる。巫術観測による戦況図を過信するな。耳と目で判断しろ」


「は、はいっ……」


「まだ来るぞ」


 今度は戦況図にも描かれている大群が迫っている。


 歩兵が斉射しても、止めきれない。……私が斬り込んでも、あの数は無理だ。


「多脚戦車、前へ」


 基地にあった遠隔操作の多脚戦車を前進させる。


 通路から飛び出てきた敵兵を機関砲でなぎ倒させる。


 だが、倒しても倒しても敵が出てくる。


 数が多すぎるうえに、敵兵の動きが明らかにおかしい(・・・・・・・・)


「隊長っ! 敵が止まらねえんですけど!? ひたすら前進してきて――」


「爆弾設置に集中しろ。多脚戦車だけでは、止め切れん」


 急ぎ、通路に爆弾を設置する。


 脆弱な通路を崩し、何とか塞がないと……敵は強引に突破してくる。


「一度退くぞ」


 多脚戦車を盾に、後退する。


 敵の位置を確認しつつ、好機を見計らって爆弾を起動する。ズン、と腹の底に届く爆音が雑音と敵を吹き飛ばした。


 通路が崩れ、敵の進軍を一時的に止めた。


「隊をさらに分ける。通路や配電盤を、可能な限り破壊するぞ」


「はっ、はいっ……!」


「了解です……!」


 敵を完全に止めるのは、難しい。


 敵を全て殺すのも不可能だろう。


「……向こうの歩兵は、死ぬのが怖くないのか……?」」


 敵は多脚戦車の機関砲が駆動していようと、構わず突撃してきた。


 通路に飛び込んだ瞬間、自分達が死ぬのはわかっていたはずだが……彼らは一切躊躇わなかった。死を恐れていない。明らかに異常な動きだ。


 戦場の異常な空気が兵士達の感覚を麻痺させ、死地に駆り立てる事もある。だが、戦闘開始からまだ大して時間が経っていない。


 ……何らかの薬を使って、理性を溶かしているのか?


 それにしては敵兵が静か(・・)だ。


 彼らは絶叫も悲鳴も上げず、機械のように突進してきた。そして断末魔の1つもあげず、絶命していった。


「敵さん、おかしいですね。ゲームの兵士(コマ)と戦っている気分だ」


「確かにな……」


 敵は、こちらの銃火も爆弾も一切気にしていない。


 1人2人どころではなく、全員が構わず突進してくる。


 無茶な進入路を使っておいて、進軍速度が早すぎる時点でおかしかった。敵の動きは異常だ。何らかの「カラクリ」が存在するのは明らかだ。


 そのカラクリの正体、元・近衛兵(わたし)の理解の外にあるが――。


「――ロッカ、指定地点に移動してくれ。こちらの迎撃を手伝ってくれ」


 敵歩兵の数も行軍速度も驚異だ。


 歩兵と多脚戦車だけでは、対応出来ん。


 機兵対応班の戦力を削ぐ事になるが、今はこちらの応援が欲しい。


 だから、巫術師のロッカを呼んだのだが――。


「ロッカ? 聞こえないのか?」


『ご……ごめん……。直ぐに行く……』


「…………」


 戦闘開始から間もないというのに、ロッカが既に弱っている。


 ロッカだけではない。他の巫術師2人も弱っている。


 敵が行ってきた「集団自殺攻撃」が(あたま)に響いている様子だ。


 いま、我々が殺している敵兵の「死」も巫術師にダメージを与えているのだろう。敵が死を恐れず突っ込んでくるため、こちらは既に大量に殺害している。


 巫術師達に使っている鎮痛剤も、完璧ではない。


 痛みを緩和するだけで、完全に消しているわけではない。


 小さな痛みでも、立て続けに襲ってくれば……巫術師達は耐えられなくなる。


 敵側にも巫術師がいるが、向こうはこちらより早く鎮痛剤を打っていたはず。敵の巫術師より、こちらの巫術師がダウンするのが先かもしれない。


「悪いが、今は無理をしてくれ。ここを耐えねば皆が死ぬ」


『わかってるっ……!』


 巫術師達の戦闘能力(パフォーマンス)が低下している。


 それでも鞭を打つ。


 私の通信を聞いた隊員が、僅かに責めるような目つきをしているが……今はそれに構っている時間もない。戦わねば殺される。


 最悪、ヴァイオレット以外は鏖殺(おうさつ)される。


 権能使い(わたし)は本土に連れ戻され、再利用されるかもしれんが――。


「隊長……! これ、持ちこたえられますかね……!?」


「手はある。最悪、機を見計らって機兵を自爆(・・)させる」


 混沌機関を暴走させ、機兵を自爆させる。


 そうすれば基地の一角がゴッソリ吹き飛ぶ。敵の進入路を潰せる可能性も高い。


「それ……俺達全員、生き埋めになりませんか……!?」


「その危険もあるから、あくまで最後の手段だ」


 安易には使えん。


 だが、最悪は……自爆に頼らざるを得ない。




■title:<目黒基地>地下港にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「っ…………!」


 海門発生装置の修理作業と並行して、後方支援(バックアップ)を行う。


 けど、私に出来ることは少ない……。


 目黒基地の状態を教えて、<鋼雨>の落下地点を予測して機兵対応班に伝え、必要に応じて基地の設備を動かすぐらいしかできない……!


 戦況図を見ると、敵がかなり入り込んできている。


 この行軍速度だと、地下港(ここ)に敵が来るのは時間の問題。発生装置修理まで間に合わない可能性があるし、その前に誰かが死んじゃう可能性が――。


「隊長さん、1つ提案が!」


 博打になるけど、あれ(・・)を使うしかない。


 最悪、こっちが危なくなるけど……危険度は敵の方が高いはず!





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