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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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過去:予言者



■title:混沌の海を移動中の客船にて

■from:【占星術師】


『ヴァイオレット特別行動兵の居場所を教えなさい』


 ネウロンでの作業を済ませ、さっさと脱出した後、客船で美酒を味わっていると……急に玉帝から連絡が来た。


「ええっと……? 玉帝? 何故、この連絡先をご存知なのですか?」


 玉帝への連絡及び接触は、こちらから一方的にやってきた。


 ずっとそうしてきた。だから、今回のように玉帝の方から連絡を取ってきたのは初めての事だ。……この連絡先自体、教えていない。


 どうやって知ったのですか――と聞いたが、「それは些細な事です」と言われた。交国の力で調べたのか? 人海戦術でも簡単に見つかるものじゃないのに。


『そんな事より、ヴァイオレット特別行動兵の居場所を教えなさい』


「知りませんよぉ~……」


 すっとぼけて見たが、玉帝は「知っているでしょう」と詰めてきた。


 一応、知っている。俺が持っている予言の書には、ヴァイオレットの行動がある程度載っている。今の時期は……かなり事細かに記載されている。


 あの死体女と星屑隊が繊一号から脱出し、交国軍から脱走した事も知っている。その先の行き先に関しても知っているが……すっとぼけておく。


 ヴァイオレットを玉帝に引き渡すのは、まだ早い。


 仕込みは完了しているとはいえ、時期尚早。


 予言の書(よてい)通りに進めないと、何が起こるかわからない。


「ああ、もちろん、こちらで居場所を特定したら教えますよ? とにかく安心してください。あなたがお探しの女は、いずれあなたの手元に――」


『荷直家。フランソ・レボン。和燦組合。兼山市子の口座を凍結しました』


「――――」


『全て、あなたが交国領内で作っている隠し口座(・・・・)でしょう?』


 玉帝の冷ややかな声が聞こえる。「私に内緒で作ったでしょう」と言ってきた。


『先程の口座には、アップルカンパニーと林檎食品、りんご物産の三社の資金が流れていました。あなたはその三社の資金の一部を4つの口座に分散し、自分の目的のために使っていましたね? 私に、無断で』


「……なんの……お話、でしょうかぁ……?」


『調べはついているんです。……何なら他の口座も凍結しましょうか?』


 マズい。


 俺の隠し口座がバレている。


 まだ一部だが、全財産の4割が凍結された。


 俺が予言の書や運命操作を利用し、コツコツと貯めてきた資金が……! 交国の発展と共に膨れ上がっていた資産が……活動資金が……。


 金がないと泥縄商事を使えないし、それ以外の人員・組織を動かす金が……。まだ成就していない俺の計画が破綻するし、豪遊も出来なくなる。


 歴史を動かすためには、莫大な金が必要なのに……!


 実質、1人で奮闘しなければならない俺にとって、金は唯一の味方! アレがないと、何もかもに差し支えが出てしまう!


 交国建国初期から密かに――玉帝達にすら内緒で――資金入手のパイプを築いてきたのに、こんなところで……!


「あのっ、あのですね? 玉帝! 何の話かさっぱりでしてっ……!」


『声がうわずっていますよ。……随分と貯め込んでいましたね。前々からあなたの尻尾を掴んであげたくて探していたのですが、ようやく掴みましたよ。占星術師』


 玉帝が言う。


 とにかく、ヴァイオレット特別行動兵の居場所を教えろ――と言ってくる。


『ここで、この手札(カード)を切りたくなかったのですが……緊急事態です。あなたなら、ヴァイオレット特別行動兵の居場所を知っているはず』


「しっ、知りませんよぅ……!」


 急ぎ、残る資産の移動を試みる。


 他もバレている可能性がある。急ぎ、隠さないと――と思いつつ、通信に応じながら端末をイジっていると、また1つ口座が凍結に追いやられた。


 悲鳴と罵声を噛み殺す。玉帝め、何てことを!


 計画成就後ならともかく、今の俺には……本当に金が必要なんだ!


 豪遊はガマンするとしても、泥縄商事を使えなくなるのはマズい! あの守銭奴(ドーラ)はヒドい金食い虫だから、大量の資金が必要なのに……!


『つかみ所のないあなたですが……あなたは雲でも仙人でもない。霞を食うだけで万事を成し遂げられるわけではない。俗世のしがらみに縛られている』


「ぅ、うぅぅ……!」


『これ以上、首を絞められたくないなら……情報を吐きなさい』


「い……今まで良好な協力関係を築いてきたボク相手に、ちょっと、さすがに……あんまりじゃァないですかァッ!?」


『私達のそれは、単なる取引関係でしょう?』


 こいつ、コイツ、コイツっ……!


 俺の予言で、交国の舵取りをしてきたくせにっ……! 俺の計画の歯車の1つに過ぎないくせに、なんで俺を……! くそっ! ひどい急所をっ……!


『交国国内の資産以外も凍結出来ますからね。それが出来ないと思っているんですか? それが出来ない未来でも見えているのですか?』


「わっ、わかりましたよっ!! 教えますっ! 知ってる範囲のことはっ!」


 俺の計画と違う。


 予言の書に、こんな失敗(ミライ)は書いてなかった!


 くそくそくそっ! 労働者(ノンプレイヤー)のくせに! 労働者のくせにっ!


「ただ、忠告させてくださいっ! ボクは本気で交国計画成就のために動いているんですからねっ!? 計画のために、あの特別行動兵の脱走を許すのは……必要な事だったんですっ!」


『本気で計画を成就させたいなら、直ぐにでも私に確保させるべきでしょう?』


「予言の書に書かれた未来と、異なる未来(みち)に進むと……今後の計画全てが狂うかもしれないんですよっ……!」


 2つの意味で、いま玉帝に死体女(ヴァイオレット)を引き渡すのはマズい。


 だが、ここはひとまず……従うしかない……。


 時間を稼がないと――。




■title:混沌の海を移動中の客船にて

■from:【占星術師】


「出ろ出ろ出ろっ……! 早く早く早くっ……!」


 玉帝に器の居場所を教えた後、資産保護のために急いで動く。


 玉帝には情報という飴を与えたが、一時凌ぎにしかならない。とりあえず玉帝の思惑通りに事が進んでいるように見せかけて、こちらでも手を打つ!


 まずは俺の資産(かね)! これが無いと人手が足りなくなる! 俺の力は個人間の戦いなら無敵の力だが、歴史を動かすのは……俺だけじゃ足りないっ!


 資産保護以外にも手を打たないと、計画が破綻する可能性が――。


「出るのが遅いっ! 急ぎの仕事があるっ!」


 通信に出た相手に新しい仕事を振る。


 ただ、出来る限り上手く「隠蔽してくれ」と言っておく。……予定より早く玉帝と敵対しそうだが、それを出来るだけ先延ばしにしたい。


 計画と資産の両方を守らなければ。


 後者の方は……全て保護するのは無理だ! 口座の凍結解除は約束してもらったが、存在がバレた口座に金が入ったままだと、首根っこを掴まれたままだ。


 まだ無事な資産を出来るだけ逃がしたいが、動かそうとした時点でまた凍結されるだろう。全ては守れない。予定外の出費だと……思うしかない。


「依頼人はあの男にしておけ! お前らの手元にいるだろ!?」


『そんなの直ぐバレちゃうよ~?』


「いいんだよっ! お前は!! 俺の!! 指示に従ってればいいのっ!!」


 必要な指示を与え、通信を切る。


 再び資産保護のために動く。


 玉帝が本気で動き出した以上、交国領外の資産も危うい。情報の飴を囮にしているうちに、出来るだけ資産を保護しないと……せめて、10年……10年分は確保しておきたいっ!


「それだけあれば、計画成就まで持ちこたえられるっ……!」


 俺には交国計画しかないんだ。


 アレが成功しないと……俺は、破滅するっ!


 俺の持つ予言の書で、大逆転を狙えそうな情報は……交国計画しかない。


 なんとか……なんとかしないとっ……。


「なっ……何とかなるに決まってるっ……!」


 予言の書に、俺の敗北は記されていないんだっ!


 少なくとも、俺の予言の書には――。


 俺は負けない。必ず、最後は勝ってみせる。


 俺を虐げた全てに、復讐してみせる。


 玉帝、貴様にも復讐してやる!


 い、今は……従ってやるが……! いずれ、必ず、復讐してやるっ!!


「最後に笑うのは、この【占星術師(オレ)】だ!!」





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