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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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復讐者:ロッカ



■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「ロッカ君。もうすぐ……脱出用の方舟があるとこ、着くからね」


「…………」


「ネウロンを出る事になるけど……いつか、戻ってこよう」


「…………」


「戻ってくるまで、ネウロンの外で……色んなものを見て、色んなことを勉強しよう。……それで、その……」


「…………」


「……ね、ネウロンの外には……色んな機械とか、たくさんあるよっ……? ロッカ君も、気に入るものが……きっと、沢山あるからっ……」


「…………」


 話しかけても返事してくれない。


 ロッカ君は俯いて、黙ったまま。


 ただ、時折、動く。


 ずっと床を見ていたけど、今は……取り出した写真を見つめている。


 虚ろな瞳で、ジッと写真を見つめ続けて――。


「あっ……」


 列車が揺れ、ロッカ君の手から写真が落ちた。


 ひらひらと舞い、床に落ちたそれに手を伸ばす。


 バレットさんに返してもらった写真。……お兄さんの持っていた写真。


「っと……! ご、ごめんっ……。ちょっと、取ってくるね……?」


 取り損ない、指で弾いてしまった。


 ロッカ君に謝って席を立ち、少し離れたところに飛んで行った写真を取りに行く。そっと拾い上げる。


「…………」


 写真には弾痕が残っている。


 それ以外にも、写真に染みた血の痕が……微かに残っている。


 文字も書かれていた。


 裏面に。


「――――」


 その文字を見て、思わず息を飲んでしまった。


『ぜったい、弟に謝る』


 そう書かれている。


 ……確かに、書かれている。


「…………」


 ロッカ君の手に、写真を返す。


 ロッカ君は口を半開きにしたまま、写真を見つめている。


 時折、指を動かしている。……裏の文字を、なぞっているのかもしれない。


「…………」


 ロッカ君を救いたい。救われてほしい。


 けど、どうすればこの子を救えるのかわからない。


 私は、死者蘇生の方法なんて知らない。ロッカ君を救える方法を知らない。


 この子にとっての救いが、「誰か」を殺すようなものに……なってほしくない。


 救えもしないくせに、そう願うことしかできない……。


 だって、誰かを……バレットさんを殺しても、きっとロッカ君は救われない。バレットさんは「殺してほしい」と言っていたけど、それでも……。


「…………」


 どうしたら、皆を救えるんだろう。


 どうしたら……。


「…………」


 列車が減速を開始している。


 目的地が近い。そこで停車するために、減速を開始している。


 方舟が眠っている地下施設に、列車が滑り込んでいく――。




■title:犬塚隊旗艦<瑕好>にて

■from:英雄・犬塚


「犬塚銀――<白瑛(びゃくえい)>、出るぞ!」


 海門通過後、真っ先に方舟から飛び出る。


 飛び出つつ、権能(カノン)を起動する。


 目標は眼下の遺跡。


 その中に解放軍幹部が巫術師の義足に仕掛けた発信器の反応がある。


 黒水守が神器を使ってネウロン近海を鎮めてくれたおかげで、労せず混沌の海を移動できた。界内を飛ばしていたドローンと、こちらの方舟から同時に干渉して海門を開き、即座に強襲できた。


「ラート! オレだ! 大人しく投降してくれ!!」


 そう叫びつつ、遺跡に向かう。


 発信器の反応は、地表部にある。


 そのギリギリまで機兵で飛び込んでいくと――。


「あぁん……?」


 遺跡(そこ)には、確かに人がいた。


 2人いた。……古い石机を使って、優雅にティータイムを楽しんでやがる。


 げっ、こいつら……よく見たら……。


「<雪の眼>の史書官じゃねーか!」


『どうもで~す』


 呑気に茶を飲んでいる金髪幼女が手を振ってきた。


 お前達と一緒にいた部隊はどこだ、と聞く。


 索敵ドローンも、部下達も、ラート達の姿を見つけられていない。


 いるのは史書官と、その護衛だけ。


 発信器の反応は、確かにここにあるんだが――。


『星屑隊の皆さんなら、繊一号出た後に別れましたよ?』


「あぁ…………。という事は、してやられたか……!」


 解放軍幹部に聞いた話が確かなら、義足には巧妙に発信器が仕掛けられていた。


 前から仕掛けられていたのに、巫術師自身も気づいていなかったらしいのに!


 史書官達の傍に着地し、操縦席から下りる。


 近づいていくと、史書官は机に小さな金属部品を置き、微笑してきた。


 俺が頼りにしていた発信器(・・・)を掲げ、微笑してきた。


「うわ~っ……。アイツら、発信器に気づいてやがったのかよ!」


 まんまとしてやられた恥ずかしさで苦笑しつつ、史書官の対面に座る。


 両目を包帯で覆った妙な護衛が淹れてくれた紅茶を受け取っていると、史書官が「お気づきでしたよ」と教えてくれた。


「星屑隊の隊長さんが、『ドライバ大尉なら何か仕掛けているはずだ』と言い、フェルグス様の義手と義足を調べさせたのですよ」


「話が確かなら、相当巧妙に隠した発信器だったはずだぞ?」


「ですが、それは実際ここにあります」


「確かに……。やるなぁ、アイツら!!」


 しっかり調べて、しっかり気づいていたのか。


 そして、史書官に発信器を預けて囮にしてたわけか!


 くっそ~……! まんまとしてやられたなっ!?




■title:シオン教団が管理していた古い遺跡にて

■from:自称天才美少女史書官・ラプラス


「アイツら、元気にしてたか?」


 してやられたというのに、ちょっと嬉しそうに笑っている犬塚特佐の問いに頷く。お一人死にかけの方がいましたが、皆さん概ね元気そうでしたよ――と返す。


「ちょっと揉めてましたが、1人以外は脱走するようです」


「そっか~……。ハァ、参ったなぁ」


 苦笑している犬塚特佐が、「アイツら、どこ行ったか知らないか?」と聞いてきた。本当に知らないので「知りません」と返す。


 すると、犬塚特佐は「そっか」と言って、まだ熱い紅茶をぐいっと飲み干した。


「それなら、探しに戻るわ。……これはさすがにもう、無理そうだが」


「追いつけそうにないですか?」


「アイツらの方が一枚上手だ。界内で捉えるのは……もう無理だろう」


 それでも探しに行くつもりらしい。


 犬塚特佐は「混沌の海で網を張るしかねえかもなぁ――」とボヤきつつ、機兵の操縦席に戻っていった。


 ボヤいてますが、瞳は少年のように輝いている。好敵手でも見つけたように、ウキウキした感情を隠せていないご様子でした。


『あっ! そうだ史書官。さっさと繊一号に戻れよ? あそこはもう交国軍が制圧しているから……あんま好き勝手に調査してんじゃねえぞ~』


「そこを何とかっ! どうせ、ネウロンにあるめぼしいものなんて、交国があらかた持って行ったり、壊した後でしょ?」


『多分、そうだと思うが……お前らがウロウロしていると、玉帝達がイライラすんだよ。俺はお前らが好きに調査したらいいと思ってるが……お前らの上役を困らせたくないなら、大人しく交国の監視下に戻ってくれ』


「は~い。お腹が減ったら、大人しく繊一号に戻りま~す」


 テキトーに返事すると、犬塚特佐は「頼んだぞー」と言って飛んで行った。


 まだ追跡を諦めていない様子です。


 でも、ここから星屑隊を見つけるのは難しいでしょうね。


 誰かが(・・・)交国にバラさない限りは――。





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