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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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新しい約束



■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:甘えんぼうのグローニャ


「ゴハンだよっ。ゴハンだよ~っ!」


 ガタン、ゴトンと揺れる列車の中。


 ゴハンを持ってテッテケと歩いて行く。


 転ばないよう歩いて、列車の先頭の方へと歩いて行く。


 そこにロッカちゃんがいた。ヴィオラ姉も傍いる。


 ロッカちゃんは……全然、元気がない。


 椅子の上で三角座りして、どんよりとした瞳で床を眺めている。……バレットちゃんと「ケンカ」してからずっと、どんよりしてる。


「ロッカちゃん……。ゴハン……」


「…………」


「おいちいよっ! グローニャも、ちょっとつまみ食いしたけど~……」


 缶詰に入ったゴハンと、ちょっと硬めのパン。それを食べて、お水も飲んで~……と言ったけど、ロッカちゃんは動かない。


「…………」


「グローニャちゃん、ありがとう。……私が受け取っておくね」


 ロッカちゃんを見守っていたヴィオラ姉が、ゴハンを受け取ってくれた。


 そんで、ロッカちゃんに食べるよう言ったけど……ロッカちゃんはピクリとも動かない。暗い目で床を眺め続けている。


 心配だから、「ロッカちゃ~ん……」と声をかけ続けたけど、返事してくれない。そうしているうちに、ヴィオラ姉に「ここは大丈夫」と言われた。


 心配だけど、ロッカちゃんに「うるさい」って怒られるのも怖いから……コソコソと離れる。離れた後、ロッカちゃんとヴィオラ姉の話をコッソリ聞いてたけど……ロッカちゃんはほとんど喋らないままみたいだった。


「んに……」


 皆で脱走できたけど……皆で「しあわせ」になるのは簡単じゃなさそう。


 アルちゃんがあんな事になって、『皆』がしあわせになるのはもう無理だし……ネウロンは今もボロボロだから……しあわせになるのは難しい。


 でも、グローニャ達はまだ生きている。


 生きている皆がしあわせになってほしいなー……と思うけど、ロッカちゃんはこの間からずっと暗いまま。……バレットちゃんもそう。


 2人はケンカした。


 ケンカというか……ロッカちゃんが、バレットちゃんを撃った。


 バレットちゃんが、ロッカちゃんのお兄ちゃんの仇だから……撃った。


 鉄砲(テッポウ)で撃たれたバレットちゃんは、死ななかった。ケガしたけど、バレットちゃんもオークで身体が丈夫だから……死んだりはしなかった。


 けど、2人ともおかしくなった。


 ロッカちゃんは皆に取り押さえられて、テッポウを取り上げられて……「はなせ」「しね」「ころさせろ」って叫んで怒っていた。


 バレットちゃんはバレットちゃんで、泣いてた。


『ころしてくれ』


 そう言って、泣いてた。


 仲良しだった2人は……仲良しじゃなくなって……引き離された。今はロッカちゃんとバレットちゃんを、皆で交代で見守ってる。


 テッポウで撃たれたバレットちゃんは、いま、レンズちゃんが傍にいるはず。


 どうしてるかなー……と思いながら、こっそり見に行くと……。


「あっ、レンズちゃん」


 バレットちゃんのいる部屋から、ちょうどレンズちゃんが出てきた。


 交代に、別の星屑隊のおじちゃんがバレットちゃんの傍についた。見守るの交代するところだったみたい。


 レンズちゃんのところにテクテク寄っていくと、レンズちゃんに抱っこされた。「向こうに行こう」と言われた。


「バレットちゃん、大丈夫? 死んじゃわない?」


「弾は抜けてた。アレぐらいなら……まあ、大丈夫さ」


 バレットちゃんから離れた場所で、椅子に腰掛ける。


 レンズちゃんが言いにくそうに「大丈夫」と言うから、ちょっと心配。心配でジッと見てると、レンズちゃんは「ホントに大丈夫だよ」と言った。


「オークは丈夫だ。大丈夫」


「ホント……?」


「まあ……心は常人並みだから、ちょっと……危ういな」


「バレットちゃん、ジサツしようとしたって、ホント?」


 そう聞くと、レンズちゃんはドキリとした様子で顔を硬くした。


 昨日、寝てる時。列車の中が騒がしくなった。


 何かあったの……? と思って様子を見に行くと、星屑隊の皆が慌ててた。グローニャには「こっちに来るな!」と何も見せてくれなかった。


 けど、皆が「ジサツ」って言ってた。


 バレットちゃんが、ジサツしようとしてたって――。


「……バレットも、かなり追い詰められてるからな」


 レンズちゃんは最初、誤魔化そうとしてきた。


 けど、ジッと見つめていると……言いづらそうにしながら教えてくれた。


「バレットが、ロッカの兄貴を撃っちまったのは……本当らしい。バレットはそのことで、自分を強く責めている。……だから、死にたがってる」


「…………」


「だから、常に誰かが傍で見張る必要があるんだ。また、同じことしないように」


「バレットちゃんも……ロッカちゃんも……平気、かな?」


 色々心配だった。


 色んな意味を込めて「平気かな」と聞いた。


「平気じゃないの、グローニャでもわかるけど……」


「…………」


「2人が、仲良しじゃないの…………やだ……。2人とも、死んでほしくない」


 レンズちゃんは困った様子だったけど、「2人共、交代で見張ってるから……大丈夫だよ」と言ってくれた。


「ただ、その…………難しい問題だから、直ぐに解決するのは無理だ」


「解決する? できそう?」


「……わかんねえ」


「そっかー……」


 どうすればいいんだろ。


 どうすれば、皆が仲良くできるんだろ。


 一度、あんな風になったら……もう、仲直り出来ないのかな?


 ロッカちゃんのお兄ちゃんが生き返らない限り、もう――。




■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:狙撃手のレンズ


「「…………」」


 バレットとロッカの事を話していたものの、重たい沈黙がやってきた。


 何と言うか迷っていると、グローニャがオレの身体を見てきた。


 腹をペタペタと触りつつ、「そういえば、ちゃんと包帯かえてる?」と気にしてきた。繊一号で撃たれた傷を気にしてくれているらしい。


「オレは全然大丈夫だよ。副長と比べたら、ずっとマシだ」


 精神的にも、バレット達と比べたらずっとマシだ。


 バレットは、腕を撃たれただけだから……オレよりマシだ。ただ、精神的にはメチャクチャ参っている。かなり危うい状態だ。


 さっきもたびたび「殺してください」と言っていた。ガキ共には見せられない状態で……ずっと苦しんでいる。ずっと泣いている。


 バレットがロッカの兄貴を射殺したのが本当だとしても……バレットを「悪人」だとは……責めづらい。


 オレがアイツと同じ立場に置かれていたら、バレットと同じ事をしていたかもしれない。アイツを責められるのはロッカや、その家族ぐらいかもしれない。


 責めてもらったところで何も変わらないだろう。だからといって、ロッカが「仇討ち」を成功させたところで……それで本当に救われるのか?


 わからん。


 バレットを許してやってくれ――とは言えないが、だからといって、バレットが死んだところで……何とかなる問題とも思えん。


「……お前の親の件も、すまなかった」


「…………!?」


「…………? どうした、そんな……椅子から転び落ちそうなぐらい驚いて」


「ま、まさか……レンズちゃんまで、『オレが撃った』とか言い出さないよね?」


「は? いや、そういう意味じゃなくてな……」


 グローニャの家族の件は、さすがにオレじゃねえ。


 オレはネウロン人を殺してない。……タルタリカはたくさん殺したが。


「今は脱走中とはいえ、オレも交国軍人だ。お前の……親の仇と言っても過言じゃねえ存在だ。だから……スマン」


「レンズちゃんは、悪くないよぅ……」


「いいや、無関係とは言えねえよ」


 直接関与しているわけじゃないが、間接的な関与はしているようなもんだ。


 だから謝ると、グローニャは「レンズちゃんは悪くない」と言いつつも、少し涙ぐんでいた。……嫌なこと思い出させちまったみたいだ。


 背中を撫でて落ち着かせ、泣き止むのを待つ。


 泣き止んでくれた後、グローニャが目元を拭っていると――。


「おいおい、レンズ軍曹。嫁を泣かせんなよ~」


「仲良しだねぇ」


「何が嫁だ。お前らは空気を読め」


 妙なからかいをしてきた隊員共を「シッシッ!」と追い払う。


 通りがかりにクソガキみたいなこと言いやがる。


 グローニャも妙なことを言われて恥ずかしいのか、ちょっぴり赤くなっている。バカ隊員共を追い払った後、もう一度謝っておく。


「バカ共がアホなこと言ってきて、気分悪かったよな。スマン」


「き、気分悪いとかっ……! そんなことないよっ!?」


「それならいいんだが……」


「…………。レンズちゃん、ヤじゃなかったのん?」


「あん? 何が?」


 グローニャに問い返す。


 何かボソボソと喋っているので、顔を寄せてよく聞く。


「グローニャが……『お嫁さん』って言われたこと……」


「別に嫌ではねえけど、アイツらのこと『アホだな』とは思ったな」


「そうなの?」


「だって、お前は妹みたいというか…………いや、ガキだろ?」


 妹ぐらいの年頃の奴と結婚とか、変だろ――と思いながら言う。


 グローニャは可愛いけどな。けど、オレにとっては妹みたいなもんだよ。ホントの妹はいなかったわけだが――と笑いながら言う。


「むぷぅっ……!!」


「は? え? いまの話で怒るとこ、あったか!?」


「別にっ! ぷんっ!」


 さっきのバカ共相手には怒らなかったくせに、オレには怒るらしい。


 ガキは――というか、女はよくわからん。……何がいけなかったんだ?


 よくわからんが、謝っておく。


 グローニャはまだ少しふくれっ面だったが、「レンズちゃんは悪くないも~ん」と言ってくれた。ちょっとジト目だったが――直ぐに真面目な表情になった。


「パパとママと、じっじとばっばの事も……レンズちゃんは悪くないよっ」


「…………」


「バレットちゃんもそう。レンズちゃん達みたいな、兵士の人で……ホントに悪い人なんか、殆どいないと思う。皆……人なんて殺したくないでしょ?」


「まあ……な」


 オレ達は軍人だ。いや、軍人だった。


 必要なら人を殺す覚悟もしていた。


 ただ、バレットの場合は「本当に必要だったのか怪しい殺し」までしていた。


 いや、させられていた。


 ……アイツだって、本当は殺したくなかったはずだ。


 グローニャも、そこは理解してくれているようで――。


「悪いのは、交国のエラい人達だよっ! 自分達は安全なとこでヌクヌクなのに……バレットちゃんやレンズちゃんのこと、騙したり、苦しめたりして……」


「…………」


「ロッカちゃんも、前はそう思ってくれてたと思う」


「…………」


「今は、ちょっと……ムズかしいのかもだけど……」


「……みたいだな。けど、ロッカがオレ達を憎むのはよくわかるよ」


 仕方ない。許してくれ。……なんてことは、さすがに言えない。


 ロッカ達は――ネウロン人は、オレ達を恨む権利がある。


 オレ達が「本当は殺したくなかった」「騙されていたんだ」と言ったところで、それが免罪符になるわけがない。


「ロッカちゃんとバレットちゃん……仲直り、出来ないのかな……?」


「それは……」


「グローニャ、やだよ。このままずっと、ふたりがあのままなんて……」


 そう思う気持ちはわかる。


 オレだって嫌さ。


 ……ロッカの笑顔を思い出す。


 ロッカはバレットと遊んでいる時、笑顔を見せていた。バレットを慕って、バレットの姿を見つけると犬っころのように駆け寄っていた。


 対するバレットは、いつも……しっかり笑えていたわけじゃなかった。


 笑みを浮かべたとしても、陰があったし……少し引きつっている時もあった。


 バレットは……ロッカ達に対する罪悪感で押しつぶされそうになっていたんだろう。ずっと、苦しんでいたんだろう。


 ロッカ達からすると「加害者のくせに」と言いたくなるかもしれないが――。


「2人とも、ずっと仲良しだった。ロッカちゃん、バレットちゃんと出会って……笑顔になって……すごく……すっごく、楽しそうにしてたのに……」


「…………」


「バレットちゃんが、ロッカちゃんを笑顔にしてくれたんだよ? レンズちゃんがグローニャに優しくしてくれたみたいに、バレットちゃんがいたから……ロッカちゃん、元気になって……笑って……」


「ああ……でも、今は……」


 ロッカは真実を知った。


 知って、バレットを撃った。


 ……あの時のロッカの顔は……。


 それを思い出していると、グローニャがまた涙ぐみ始めた。


 背中をさすり、好きに泣かせる。


 キッチリ泣き止ませるためには、あの2人の仲を修復するしかない。


 けど、多分、それは……不可能だ。元通りにするのは不可能だ。


 いつか、手を取り合える日が来るかもしれない。


 でも、完全に元通りにするのは不可能だろう。


 あの2人の関係という器は、既に割れている。いつか修復出来たとしても、一度割れた事実は……きっと、もう消せない。


 オレがバレットとロッカ、そしてグローニャにしてやれる事なんて――。


「――――」


 グローニャから、シャチのぬいぐるみを借りる。


 それを自分の顔の前に構え、グローニャに語りかける。……裏声で。


「グローニャチャン、元気ダシテ」


「ふぇ……?」


「ボク、シャチチャンダヨッ! グローニャチャン、元気ダシテ~」


 似合わないのはわかってる。


 こういう行動は……ヴァイオレットの方があってるよ! 百歩譲ってラートだ! オレみたいな性格も顔も悪い奴がやる行動じゃない。


 でも、それでも……グローニャに泣いて欲しくないんだ。


 ダサかろうが、恥ずかしかろうが、これぐらいっ……!


 グローニャは裏声出して「シャチちゃん」のフリをしているオレに対し、目をパチクリとさせていたが……涙を拭いながらクスクスと笑った。


「レンズちゃん、そーゆーの……似合ってないっ」


「わ、わかってるよっ……。オレだって、キャラじゃねえって……」


 けど、これやるのは初めてじゃない。


 妹達に、似たようなこと……やった事あるんだ。


 存在しない夢幻の妹達。アイツらをあやすためにやった、馬鹿げた行動。


 でも……こうしてグローニャが少しでも笑ってくれるなら、無駄ではなかったかもな。恥ずかしいが……やって良かった。


「ネウロンから脱出して、落ち着いたら……また新しいぬいぐるみを作るよ」


「ホントっ!?」


「ああ。そいつ(シャチ)も、1匹だけだと寂しいだろうからな」


 そう言うと、グローニャはニッコリ笑顔を浮かべ、「約束ね」と返してきた。


「あぁ、約束だ。オレはお前を守るし、また……お前のためにぬいぐるみを作る」


 また約束が増えちまった。


 けど、まあ……悪い気はしねえ。


 これは現実だ。夢や幻じゃない。


 まだ約束っていう、透明なものだが……必ず、それに色を塗ってやるさ。




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