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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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墜ちたエージェント



■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


『あの人の注意を引いてください』


 こっそりそうお願いしていたラプラスさんは、要望通りに動いてくれた。


 去って行くラプラスさんが注意を引いてくれているうちに、こっそり列車に戻ってやるべき事を済ませる。……こっそり、罠を仕掛ける。


 列車が走り出した後、列車の最後尾車両に「あの人」を呼び出した。


「それで? 話とはなんだ。……やっと言いたい事を言う気になったか?」


「…………」


 私が呼び出した隊長さんは、最後尾車両に入ってくるのと同時にそう言った。


 私の態度がおかしい事は……さすがに……バレてるよね。


 でも、罠は仕掛けた。最悪、相討ち(・・・)に持ち込めるはず――。


「解放軍は、隊長さんの事を『憲兵』だと思っていました」


「実際、その通りだ」


 私と2人きりの車両で、隊長さんが涼しい顔で応答してきた。


 隊長さんが「憲兵」という事は、星屑隊の皆も知っている。


 皆もさすがに驚いたらしいけど……それでも星屑隊の隊長として部隊を率い、勝利に導いてきた隊長さんを信じるらしい。皆は信じるらしい。


「私は交国軍事委員会・二課の憲兵として、整備長を――ザクセンホート王家の血を引くブリトニー・スパナ曹長を監視していた」


「…………」


「しかし、私もオークだ。交国政府の横暴に愛想が尽きた。キミ達と共に交国軍から脱走し……これからは自分のために生きようと――」


「貴方は、何者なんですか?」


 スラスラと喋る隊長さんの言葉を遮り、問いかける。


「ただの憲兵が、<権能>を持っているはずがない」


「…………」


「私は、バフォメットさんから聞いているんです。貴方が権能持ちだって……」


 権能は源の魔神(アイオーン)が作った異能力。


 源の魔神は世界を滅ぼす際に生じる大量の混沌を使って、権能を作っていた。正確には世界の滅びに際し、そこに暮らす知的生命体が漏らす「絶望」や「怒り」の混沌(かんじょう)を材料に<権能>という力を大量に作った。


 作成者である源の魔神は既に死んでいる


 だけど、プレーローマでは今も多数の権能が運用されている。……権能運用のために調整された天使達が権能(ちから)を振っている。


 そんな力を振るっているという事は――。


「隊長さんは……プレーローマの工作員なんですか?」


「…………」


 隊長さんは私から視線を逸らしたまま、しばし黙っていた。


 けど、「違うと言っても、信じてもらえないか」と言った。


「私はプレーローマの工作員ではない。ただ……一種の工作員ではある」


「天使……ではないんですか?」


「もちろん違う。私は交国生まれのオークだ」


「…………」


「ちなみに、使えるのはこんな権能(ちから)だ」


 瞬間。隊長さんの姿がかき消えた。


 私の背後に誰かいる。いや、いた(・・)


 振り返った瞬間、背後(そこ)にいた隊長さんの姿がまたかき消えた。


 そして、元の場所に戻った隊長さんの手には、1つの端末が――。


「あっ……!」


「このような高速移動が出来る。……キミが後ろ手に隠し持っていた自爆用(・・・)の端末を盗み取る事も出来る」


 隊長さんは自分の首を指で撫でつつ、「もちろん、首も掻き切れる」と言った。


 ま、マズい……。こんな、抵抗する間もなくアレが取られるなんて……!


 1人で隊長さんに挑みかかったことを後悔しつつ、わたわたと慌てていると……隊長さんはため息をつきながら、歩み寄ってきた。


「こ、来ないでっ……」


「私を最後尾の車両に呼び寄せ……最悪、最後尾だけ切り離す。そして自爆して工作員(わたし)を殺そうとした度胸は褒めてやる」


 歩み寄ってきた隊長さんは、さっき盗んだ端末を私に返してきた。


 これ押したら最後尾車両(ここ)だけ連結が切れて、皆を巻き込まないように自爆しちゃうのに……。それを知っている様子なのに返すなんて。


「ちなみに、相討ちすら無理だぞ。私は権能を使って別の車両に移動し、キミだけが最後尾車両と運命を共にするだけだ。ただの自殺。無駄死にだ」


「うぅ…………」


「……話をしよう。そのために私を呼びつけたんだろう?」


 隊長さんが木箱の上に座り、私にも適当に腰掛けるよう促してきた。


 実際、話し合いをするつもりで呼んだんだけど……こっちの目論見を完全に看破されているから居心地悪い……。慣れない事はするもんじゃないなぁ……。


「話し合いの前に言っておくが、キミがこんなところで自爆したら……残された者達はどうする? 私はともかく、彼らはどうやってネウロンから脱出するんだ」


「うぅ……」


「短絡的な行動はやめろ」


「じ、自爆は本当に、最後の手段だったんですよぅっ……!」


 相手は「権能を持っている謎の人物」ですもん。皆を害する人かもしれない。


 それどころか、人間ですらないかもしれない。


 最悪の想像をして、対策して何が悪いんですかっ……!


 その対策が何も通用してないどころか、哀れまれてますけど!!


「私が<権能>を使えるのは、バフォメットに聞いたんだな?」


「はい……。気をつけて接した方がいい、と注意されました」


 上手く利用したら、いざという時に役立つぞ――とも言われましたけど。


 隊長さんもバフォメットさんに脱走の手引きしてもらったり、情報をもらっていた様子。だけど、バフォメットさんは「味方とは限らんぞ」とも言っていた。


 繊一号でバフォメットさんが騒動を起こした時、隊長さんが私を(・・)助けようとした(・・・・・・・)――ように見えたってことで、バフォメットさんは隊長さんを殺さないようにしたらしいけど……。


「隊長さんはホント、何者なんですか……? 権能持ちってことは、プレーローマの工作員なのでは……?」


「それ以外の可能性もあるだろう」


「……堕天使とか?」


 権能は源の魔神由来の技術。


 そして、プレーローマは源の魔神が作った。


 だから、権能使いといえばプレーローマの天使だけど……天使達も一枚岩じゃない。プレーローマ内部でも権力闘争が行われている。


 中には権能を持ったままプレーローマを飛び出した天使もいる。そういう天使達は「堕天使」と呼ばれ、プレーローマから追われているけど――。


「先程も言った通り、私は交国生まれのオークだ。味覚も痛覚もない」


「けど、オークに権能が使えるなんて――」


「交国にはそういう技術がある。私が植え付けられた(・・・・・・・)権能<エウクレイデス>も、元々は高位の天使が使っていたものらしいが――」


 普通、権能は人の手に余る技術。


 だけど交国では天使等から手に入れた権能を、自分達で利用している。利用するための技術がいくつかあるらしい。


「交国は<エウクレイデス>を分割し、1つ1つは弱い権能に貶めた。それを私のような者に与え、使わせていたんだ」


「身体に害は――」


「一応ある。本来、権能は天使等でなければ満足に使えないからな」


 神器ほどじゃないけど、権能も使い手を選ぶ。


 権能の中には、身体に受け入れるだけで拒否反応を起こし、最悪は死に至らしめるものもある。受け入れられるように作られたのが天使らしいけど、隊長さんは「オーク」ってことは……本来はまともに権能が使えないはず。


 だけど、交国は「元々強かった権能」を分割して弱体化させ、オークの身体でも何とか受け入れられるように調整したらしい。


「私が与えられた権能は……長時間の連続使用を控えれば、大きな害はない」


 隊長の身体は、分割した権能なら何とか受け入れられた。


 ただ、誰もが同じように受け入れられるわけではない。


「私は運良く適合したが、適合しなかった者達は惨たらしく死んだはずだ。オークは丈夫だが、天使のような権能への耐性があるわけではないからな」


「という事は、隊長さんは交国の人体実験の被害者……?」


「そういう側面もあるが、元々は『玉帝の近衛兵』だ」


「――――」


「悲観するな。近衛兵だったのは、あくまで昔の話だ」


 星屑隊に玉帝の部下が紛れていたとか終わった――と思ったものの、隊長さんは「玉帝とはもう、手が切れている」と言った。


 あんまり信用できない……。


 百歩譲って「プレーローマの工作員ではない」としても、権能なんてそんじょそこらの人が得られるものじゃない。


 交国の中枢に繋がっている人……近衛兵なら、「敵中の敵」と言っていい。だから自爆用端末を握りしめながらフルフル震えていたんだけど――。


「私が玉帝の近衛兵(エージェント)のままなら、繊一号でお前達を犬塚特佐に突き出して終わりだ。そうなっていないだろう」


「で……でもでもっ……私達を泳がせているのかもっ……?」


「泳がせて何になる?」


「それは……」


「隙を見て逃げ出されるリスクを負うより、さっさと捕まえて尋問した方が手っ取り早い。交国の尋問技術にお前達が耐えられるとは思えん」


「お、仰る通りです……」


「私は、お前達の味方ではない(・・・・)。ただし玉帝の敵だ。敵の敵は味方という事で手を組まないか?」


 そう言われても……困る。


 結局、隊長さんの素性はハッキリしない。


 悩んでいると、フェルグス君がフラフラとやってきて、「ヴィオラ姉~、ちょっといいか~?」などと言ってきた。


 いま、隊長さんと大事な話をしているから後でね――と言い、フェルグス君に離れてもらう。最悪の場合、やっぱり自爆しなきゃだし……。


 皆を逃がす事を考えると、リスク高い行動だけど……。脱走に必要な情報はもう記録媒体に書いておいた。私が死んだとしても、それを見たら何とか……何とかなると信じたい……。何とか、隊長さんを巻き込む方法も考えてそれで――。


「…………」


 一度深呼吸をして落ち着く。


 改めて、隊長さんに話を聞いていく。


「……交国のオークである貴方にとって……玉帝は味方のはずでは?」


「玉帝や交国政府は、私達を……オークを騙して軍事利用していた。そんな相手を素直に『味方』と言えるほど、私は交国を盲信できない」


「……前から知っていたんですか?」


「ああ。私が近衛兵だったのは10年以上前の話だ」


 隊長さんは10年以上前に「オークの真実」を知った。


 そして、玉帝や交国政府に失望し……交国から一度は脱走した。


 つらつらとそう語った隊長さんの顔を、じっと見つめる。


「私が、嘘を言っていると思っているのか?」


「……真偽を判定する証拠もないですから、ちょっと疑ってます」


 けど、筋は通っている。


 いまここにいる事は、謎のままだけど――。


「交国から脱走したのであれば……何故、今も交国にいるんですか?」


「復讐のためだ」


「復讐……」


「玉帝達は、私達を機械部品のように扱っている。その恨みは、今も私の中に残っている。奴らに対する復讐をするため、私は交国に戻ってきた」


 隊長の身分――サイラス・ネジ中尉という身分は、偽りのもの。


 死んだ兵士の立場と名前を借り、交国軍に潜入しているらしい。


 軍事利用されていた事実を知っているなら、交国に対して復讐心を抱くのはわかる。筋は通っている……ように聞こえる。


 けど、何か(・・)伏せられているような……。


「交国への復讐がしたいなら……真実を早々に告発したら良かったのでは?」


「オークの真実を、か?」


「はい……」


「私は、告発できるだけの証拠を持っていなかった。だから身分を偽って交国軍に潜入し……何とか復讐の機会をうかがっていたんだ」


「……隊長さんは、何でブロセリアンド解放軍に参加しなかったんですか?」


 彼らと隊長さんは、同じ目的を持っていたはず。


 それなら仲間を増やすために解放軍に入るべきでは――と思って問いかけると、隊長さんは「実際に参加しようとした」と返答してきた。


「しかし、解放軍(かれら)は『サイラス・ネジ』が『二課の憲兵』だと知っていた。憲兵だから加入を断られていたのだ」


 憲兵という立場は、「サイラス・ネジ」に付随してきた立場に過ぎない。


 だから本物の憲兵じゃないらしいけど……解放軍は隊長のことをあくまで「憲兵」だと思っていた。でも、それなら――。


「権能を見せて、全ての事情を話せば良かったのでは……?」


「解放軍は泥船だ。正直……彼らの企みは失敗すると思っていた。だから、そこまで開襟するのは避けた。情報を出し惜しんだだけだ」


「…………」


「まだ、私を疑っているのか?」


「そ、そりゃそうですよ……」


 何せ、証拠らしい証拠がない。


 事件の犯人が「私は怪しいものじゃないよ」と言ってるようなものだし。


 でも、それでも――。


「し、信じたいとは思っているんです……」


「そうか」


 隊長さんは頼りになる人だ。


 権能なんて怪しいものを持っていなければ、まだ「純粋に頼りになる星屑隊の隊長さん」と思う事が出来た。


 実際、私達は隊長さんに助けられてきた。……その裏で隊長さんは権能を使っていたんだろうけど、それでも……助けられていたのは事実だ。


 今は100%信用なんて出来ないけど、交国という強大な相手から逃げようとしているから……味方は1人でも多く欲しい。


「……隊長さんの協力者は、誰なんですか?」


「何のことだ?」


「身分を偽って交国軍に潜り込むなんて、1人で出来る事じゃないでしょう」


 交国軍人の遺体から身分証とかを奪って「私はサイラス・ネジですよ」なんて言い張るのなんて……出来るはずがない。


 元近衛兵で、復讐のために交国に戻ってきたとしたら……計画的に潜入計画を立てていたはず。そんなこと、1人で出来るとは思えない。


「交国への復讐が目的なら、私達と脱走したら困りますよね……? 苦労して潜入していたのに、また脱走するのはおかしいですよね?」


「…………」


「貴方には協力者がいるはずです」


 どこかの組織なり国家の後ろ盾を持っているのでは?


 そう問いかけると――。


「……その通りだ」


 目を閉じた隊長さんが、私の言葉を認めた。


 ただ、詳細を教えてくれるつもりは無いらしい。


「全部教えてくださいよ……!」


「私の言葉を信用するのか? 適当に言った嘘かもしれんぞ」


「真偽は聞いてから考えます。だから――」


「……協力者に関しては、現状、適当な嘘しか言えん」


「なんで――」


「まだ交国軍から逃げ切れていない」


 隊長さんが「協力者」の正体を明かすと、私達が交国軍に捕まった時……その協力者さんにも迷惑がかかる可能性がある。


 尋問された私達が喋ってしまう可能性がある。


「だから、今は言えない。今は聞かないでくれ」


「…………」


「交国軍から完全に逃げ切ったら、『私達』の事を全て明かしてもいい。……私達も、真白の魔神の知識を持っているキミの協力を得たいからな」


「交国から再脱走する動機は、私ですか……」


 苦労して交国軍に潜入したのに、再び脱走の道を選んだ。


 その目的は「多分、真白の遺産関係だろうなー……」とは思っていた。ラプラスさんと違って単なる知識欲じゃないところが怖いなー……。


 隊長さんは「悪いようにはしない」と言っているけど――。


「真白の遺産を悪用しないと誓う。……と言っても、信じてもらえないか」


「……私はスミレさんの記憶や知識を継いだだけの身ですし、大した情報は持っていません。真白の遺産と呼べるものは、作れませんよ……」


 ヤドリギはともかく、本当に大したものは作れない。


 混沌機関ぐらいなら作れるけど。


 仮に遺産を作れたとしても、悪用される危険性がある以上は――。


「隊長さんはネウロンから脱出して、交国の支配圏外に抜けた後は……協力者さんのところに向かう気なんですよね?」


「まあ、そうなるな。私にとって、大龍脈にいるビフロストを頼るより、その方が安全だ。奴ら(ビフロスト)は中立を宣言しているが、それでも俗世から完全に切り離された存在ではない。交国が本気で圧力をかけてきたらお前達を引き渡しかねない」


「…………」


「私達なら、キミ達を一生匿う事もできる」


「私達を飼い殺しにして、交国への復讐を手伝わせる事も出来る」


「…………」


 それは解放軍に入るのと、何が違うんだろう。


 参ったなー……。隊長さんはある意味で頼りになるんだろうけど、解放軍とは別の「反交国組織」に連れ込まれたら脱走した意味があんまり……。


 いや、そもそも、反交国組織なのかすら怪しい。


「私が信用出来ないなら、皆と協力して全力で私を殺しに来い」


「はぇっ……!?」


「私は権能持ちとはいえ、ベースは人間(オーク)だ。睡眠無しで戦い続ける事は出来ない。寝込みを襲えば……殺せるかもしれんぞ」


「そんなこと、出来るわけないでしょう……!?」


 出来たとしても、やりたくないですよ。


 私だけの話に留めて……私だけの罪として、相討ちも考えていたんです。


 隊長さんには、実際に助けられてきた。


 正体不明だから怪しいけど……救われてきた事は確かだ。


 敵の敵は味方――と考えるのは難しい。解放軍という前例のように、「子供達を利用してテロリストに仕立て上げる」という危険性がある。




■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:影兵


「キミは甘い人間だ」


 わかっていた。


 いきなり寝首をかきにこず、話し合いに持ち込んでくる前からわかっていた。


 ……バフォメットもヴァイオレットも、私が「場合によってはヴァイオレットを殺す」と考えていた事までは知らないらしい。


 玉帝達に渡すぐらいなら、ヴァイオレットは殺すべきだ。私達(・・)にとっても<真白の遺産>は価値があるが……既に最低限必要なものは確保した。敵に奪われる危険を冒してまで、これ以上欲張ろうとは思わない。


「とりあえず、私はキミ達についていく。……私の正体に関しては、皆に好きに言いふらすがいい」


 立ち上がり、ヴァイオレットから離れると――。


「た……隊長さんだって、根っこは……甘くて、優しい人なんでしょ……?」


「…………」


「だから私達を助けてくれた。全員を助けてくれた。……単に<真白の遺産>が必要ってだけなら、私だけ連れて逃げれば良かった」


「…………」


「でも、貴方は……星屑隊の皆さんも連れて逃げている。子供達も連れて逃げている。いつでも私だけ誘拐できるのに……そうしない。……優しい人です」


「そう思いたいなら、好きにそう思えばいい」


 優しい人であってほしい。そういう、都合の良い解釈に過ぎん話だぞ。


 ひとまず話し合いに応じてくれた感謝も兼ね、そう忠告する。


 私は……皆が思っているような人間ではない。


 所詮は、復讐のために手を汚し続けている外道だ。


 そう助言してやったのに、ヴァイオレットは私の正体を吹聴する気はないようだった。星屑隊の隊員も、子供達も……相変わらずのアホ面で話しかけてくる。


 ヴァイオレットも他の皆も、お人好しだ。


 そんなだから、私のような外道の食い物にされるんだ。


「隊長っ……! ロッカとバレットのこと、俺ら……何か出来ねえですかね!?」


「アイツら、あんな仲良かったから……何とかしてやりてえんですよ」


「オレらバカだから、隊長が頼りなんですよぅっ……!」


「隊長っ!」


「隊長~っ!!」


「隊長ちゃん~…………」


 …………。


 そんな目で、私を見るな。




■title:ネウロンの空にて

■from:憲兵のパイプ


「せ、繊一号まで……辿り着けるのかっ……!?」


 よくよく考えたら、僕は機兵乗り。


 回転翼機の操縦は、特別得意ってわけじゃないっ!


 一応、軍学校で扱いは一通り習ったけど……! 長距離飛行に慣れているわけじゃない! 専門家じゃないっ!


 この辺には解放軍がいないはずだけど、タルタリカはいるはずだ。地上に降りて休憩するのは無理! タルタリカに襲われる危険性がある!


 というか、既に地上を走っているタルタリカが見えて――。


「うわーっ……! アレ、絶対、僕のこと追ってきてるよねっ……!?」


 プロペラ音を鳴らして飛行している飛翔物に対し、「なんだなんだ」と追ってきているんだろう。というか、既に石を投げてきているっ!


 高度を取っているからさすがに届かない……と、思うけどっ……! 心安まらない! 燃料は持つ計算だけど、さすがに怖いっ!


「あぁ~……! これは絶対、報いだろうなぁ……!」


 結局、最後まで皆に「僕は軍事委員会の憲兵です」と言えなかった報いだ。


 僕なりの正義を持って仕事していたけど、それでも星屑隊の皆にとっては裏切りのようなものだ。解放してもらえるように憲兵ってことを明かさなかったのは……言い訳しようのない自己保身だよね~……!?


「って……! あっ! これっ、自動操縦あるのっ!? あるじゃんっ!!」


 落ち着いてよく操縦席内を確認したら、自動操縦への切り替えボタンあった!


 というか、乗る前にヴァイオレットさんに説明受けてたような……。ラート達との別れが悲しくて、あんまりよく聞いてなかった……!


 マニュアルも用意してくれていたので、操縦しながらめくり、自動操縦に切り替える。特に問題なく、繊一号に向けて飛行を続けてくれている。


 ホッと胸を撫で下ろす。


「…………」


 少し余裕が出来たから、振り返る。


 ラート達と別れた場所の方を見て、皆の無事を改めて祈る。


 憲兵ってことは最後まで隠しちゃったけど……交国に戻って「交国を変える」と宣言したのは本気だ。……交国は変わらなきゃダメなんだ。


 僕の思う正義は、今の交国には……無いかもしれない。


 けど、交国の存在全てが悪だとは思えな――――。


『――――』


「あっ……! 通信、かなっ……?」


 誰かがこちらに呼びかけてくる。


 ラート達じゃない。


 これは……交国軍だ!


「助かった……!」


 急いで通信に応える。


 どうやら、こっちの出している救難信号に気づいてきてくれたらしい。


 遠くに方舟が見える。こちらに来るよう、言っている。


 攻撃してくる気配はない。タルタリカに追跡されているようだから、頃合いを見計らってタルタリカに攻撃するから気をつけて欲しい――と言ってくれている。


「何とか、命を無駄遣いせずに……済んだかな?」


 再び安堵しつつ、皆に感謝する。


 こっちは何とかなりそうだよ。


 皆も……何とか、逃げ切ってね……。




■title:交国軍艦艇<星喰(ほしはみ)>にて

■from:玉帝の影・寝鳥満那


「隊長。救難信号の発信元は、あの回転翼機のようです」


「そう。殺しちゃ駄目だからね?」


 せっかく見つけた手がかりだ。


 丁重に扱わなきゃ。……ひとまずはね。





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