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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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果たされない約束



■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:防人・ラート


「結構、内陸部まで移動したよなぁ。こんなバカデカい地下鉄とは……」


 繊一号から脱出して、1日経った。


 脱出後も大きな事件があった。あったが……何とか、誰1人欠けることなく、俺達は移動し続けている。1000年前の地下列車を使って移動を続けている。


 地下を進んでいるとはいえ、列車は相当な速度で進んでいる。おかげで繊一号からかなり距離を取れたはずだ。


 交国軍の追っ手が来る様子はない。


 真白の魔神が大昔に作った<大防衛網>は広大だ。魔物事件でネウロンが荒れた影響もあり、さすがの交国でも全ては把握出来ていないようだ。


 内陸部の地下にある大防衛網は、特に把握されていないはずだ。


 交国軍はタルタリカを蹴散らしてきたが、タルタリカとの戦いで取り戻した場所は海沿いの地域や半島が主。大陸の奥地に関しては、ほぼ手つかずの状態だ。


 取り返したところで維持が面倒だから後回しになっていた。そんな場所の地下を移動しているため、待ち伏せにあいそうな様子もない。


 先頭車両で列車の端末を見て、経路設定をしていたヴィオラに聞くと、「地下を探っている交国軍もいます」と教えてくれた。


「侵入者用の監視網が設置されてて……ここからでもそれが確認出来るんです」


「ほー……そんなものが……」


 監視カメラとかの映像を見せてもらっていると、ヴィオラが微笑んで「大防衛網は防衛用の設備ですからね」と言った。


「真白の魔神は、ネウロンでの……本土決戦が起きた時に備えて、大防衛網を作りました。だからこういう監視網も充実しているんです」


「なるほどね」


 その監視網で、一部の交国軍が地下を捜索しているのもわかっている。


 だが、防衛用に入り組んだ構造になっているため、向こうは全貌を掴めてない。


「方舟を隠してある目的地の監視網も、何とか生きてます。敵はそこを発見している様子がないので、先回りされることは無いはずです」


「何らかの方法で追跡(・・)されてたり、ネウロン脱出まで時間がかからなければ……これ以上は交国軍とやり合わずに済みそうだな」


「ですね。少なくとも、ネウロン内部は……今のところ大丈夫だと思います」


「問題は界外に出た時か……」


 なんて事を話していると、列車が徐々に減速し始めた。


 ヴィオラが事前に設定していた場所に停車しようとしているようだ。


 ただ、停車しようとしている場所に、方舟はない。


 ここはネウロンにおける旅の終点じゃない。あくまで通過点だ。


 ……パイプと、史書官達を下ろすために立ち寄った場所に過ぎない。




■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:防人・ラート


「なあ……パイプ、考え直さないか?」


「いや、僕は交国軍に戻るよ」


 パイプを列車から下ろし、拘束や目隠しを解く。


 パイプとはここでお別れ。まだ交国軍に見つかっていない地下施設で解放し、あとは……自力で交国軍に戻ってもらうことになっている。


 戻るための手段は用意したが……それでも引き留める。けど、パイプの意志は固いらしく、苦笑しながら「ごめんね」と言ってきた。


「助けてもらったのに、キミ達を裏切る結果になっちゃって……」


「いや、別に裏切ったわけじゃないだろ……。お前はお前の信念を貫こうとしているだけだ。……でも、一緒に行けないのは寂しい」


 寂しいし、心配だ。


 交国はオークを軍事利用している。改善の兆しはあるが、それでも……解放軍の蜂起地にいたパイプを、交国軍が素直に受け入れてくれるかは……賭けだ。


 それでもパイプは「繊一号に戻って、犬塚特佐の部隊に降伏するよ」と言った。


「…………」


「そんな顔しないで。キミは自分達の心配だけしてくれ」


「でも……」


「ラートが心配する気持ちもわかる。けど、僕はそこまで悲観していない。むしろ……キミ達の方が心配だよ」


 真面目で思慮深いパイプは、別れ際まで俺達を心配してくれた。


 頭ごなしに「キミ達も交国軍に戻るべきだ」とは言わなかったが、「交国から逃げた後、色々と大変だと思うけど……」と心配してくれた。


「それでも……応援してる。お互い大変だろうけど、何とか生き残ろう」


「うん……」


「それはさておき、ごめんね? キミ達と一緒に行けないのに……繊一号まで戻る手段まで用意してもらっちゃって……」


 パイプはそう言い、横に鎮座している回転翼機を見つめた。


 交国軍に戻るパイプには、ヴィオラ達が回転翼機を用意してくれた。バフォメットが交国軍から奪って保管していたものらしい。


 繊一号の傍で解放して、直ぐに交国軍に戻れるようにしてやるべきだったかもだが……犬塚特佐がうろついている近所で解放すると、脱走兵(おれたち)が捕まりかねないから……結構、距離を取っちまった。


 整備長達と一緒に、回転翼機の調子を見てくれていたヴィオラが微笑し、「これ1つ持っていても、私達には使い道ないので……」と言ってくれた。


「救難信号も使えるようにしておきました。繊一号に到着する前に、交国軍に回収してもらえるかもです。ここは内陸部で町もないので、解放軍と出くわすことはまずないと思いますが……お気をつけて」


「うん。ありがとう」


「低空飛行も避けろよ。タルタリカに石を投げられるかもだし」


「わかってる。大丈夫だよ」


 そう言って笑うパイプの事が、どうしても心配だった。


 交国に戻るパイプの今後が心配で、アレコレ考えていると……ついつい涙ぐんでしまった。


 俺のそんな姿を見たパイプは笑ったが――。


「お前だって、泣いてるじゃん……」


「ははっ……。やっぱり、友達と別れるのは……寂しいからさ……」


「うん、うんっ……」


 思わずパイプに抱きつく。


 お互いに抱きしめ合い、お互いの無事を祈り合った。


 パイプは……絶対、大丈夫だ。


 交国政府に騙されていても、それでも交国に戻ろうとしている真面目な兵士なんだ。そんなパイプを交国軍が手荒く扱うなんて……さすがに、無いはずだ。


「犬塚特佐を頼れ……! あの人なら、絶対、悪いようにしないからっ!」


「うん……」


「パイプ……。俺達、また会えるよなぁ……?」


「きっと会えるさ! その時は……また、味方同士がいいな」


 再会も、立場も……その通りになるのは難しいかもしれない。


 けど、そうなってほしい。


「僕は交国に戻ったら……今まで以上に努力してみる。交国を内部から変えてみせる。キミ達が戻ってこれるぐらい、まともな国に変えてみせる」


「うん……」


「犬塚特佐なら、きっと交国を変えられる。もちろん特佐任せにせず、僕の方でも頑張ってみるよ。……交国の英雄と違って、大したことは出来ないだろうけど」


「そんな事ねえよ。パイプなら出来るさ」


 多分、犬塚特佐1人だけじゃダメなんだ。


 パイプみたいなしっかりした奴が大勢いて……皆で一丸になって立ち向かえば、交国だって……きっと、変わる。


 そう思いつつも逃げようとしている事について謝ると、パイプは首を横に振って、「キミにはキミの役目がある」と言ってくれた。


「ヴァイオレットさんや子供達を、守ってあげてくれ」


「うん……」


「準備出来たよ」


 整備長がそう言いつつ、近づいてきた。


 そろそろ時間だ。


 パイプの手を握り、元気でな――と見送る。


 他の隊員達もパイプの無事を祈り、1人1人が別れの挨拶をしている。


 バレットとロッカ……そして2人にそれぞれ付き添っているメンツは見送りに参加できていない。あの2人は……いま、ちょっと難しい状況に置かれている。


 大怪我を負っている副長も、さすがに見送りに参加できてないが――。


「隊長も、お気をつけて」


「交国軍に戻ったら、脱走兵(わたしたち)の情報は洗いざらい吐いてしまえ」


 隊長はパイプと握手しつつそう言い、さらに言葉を続けた。


「お前が持っている程度の情報なら、バレても問題ない」


「すみません……」


「気にするな。まずは自分の身を第一に考えろ」


「ありがとうございます……」


 敬礼したパイプを見送る。


 無事を祈りつつ。これが今生の別れにならないよう、祈りつつ――。




■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:弟が大好きだったフェルグス


「元気でな~~~~!」


「元気でねーーーーっ!」


 飛んで行く回転翼機の翼の音に負けないよう、グローニャと一緒に大声を出す。


 声は届かなかったかもだけど……パイプは窓越しに敬礼してくれた。


 それに敬礼を返すか迷ったけど……手を振り続ける事にした。オレは軍人じゃない。けど……パイプにも世話になったし、元気でいてほしい。


 見えなくなるまで手を振ろうとしたけど、隊長が「行くぞ」と皆に言ってきたから、手を振り続ける事は出来なかった。


「交国軍の衛星なり偵察ドローンに見つかる可能性もある。急ぎ、地下に潜ろう」


 追ってきても、急いで列車で逃げ出して……爆弾とかで落盤を起こしつつ逃げる予定だけど、「急ごう」という話になった。


 最後にもう一度、「元気で」と言って列車に戻ろうとしていると――。


「…………」


「わっ……! な、なに……?」


 史書官の護衛さん(エノク)が、オレの顔をジロジロと見ている。


 にゃぁん、と鳴きつつやってきたマーリンを手の甲で撫でつつ、護衛さんと視線を交わす。にらめっこでもしたいのかな……。


「オレの顔、なんかついてる?」


「いや、キミの目を見ている」


「アンタの両目、包帯で覆われてるけど……見えんの?」


「問題ない。もう少しだけ診せてくれ」


 皆に置いて行かれるか少し不安だったけど、地下道で隊長と史書官達が話をしている。向こうの話には混ざれないけど、少しぐらいは時間の余裕がありそうだ。


 護衛さんはオレの顔に触りつつ、オレの「目」を確かめてきた。されるがままになっていると、満足したのか手を離してくれた。


「そちらの目も、問題ないようだな」


「そりゃあ、目はケガしてねえもん」


「だが気をつけておけ。お前の視界()に寄生虫がいる可能性がある」


「は?」


 寄生虫(それ)に気をつけろ――って言われたけど、そんなのどう気をつけろって言うんだよ。具体的な方法か、薬でもくれよ……と言ってみる。


 けど、護衛さんは「ワタシの気のせいかもしれない。そこまで深く気にするな」と言った後、史書官の方へ歩いていった。


「なんなんだ……あの人。変なの……」


「みぃ~ん♪」


「お前もそう思うか?」


 同意するように鳴いたマーリンの喉を、機械の指でそっと撫でる。


 調整がちょっとムズいけど……マーリンは満足そうにゴロゴロ鳴いてくれた。


 けど……やっぱ、この義手はヴィオラ姉の言う通り「よくないもの」かも。


 ネウロンから脱出した後、機会があれば変えてもらおう。戦闘用なら悪くねえんだけど……解放軍に爆弾(・・)とか仕掛けられてたら怖いしな。


 それに……マーリン撫でてやるなら、もっと柔らかい指がいいだろうし。


「オレはしばらく、この硬い手だから……。もっとイイ感じに撫でてほしかったら、ヴィオラ姉やラートに構ってもらえ」


 そう言ったけど、マーリンは「みぃん」と鳴いてオレに身体を寄せてきた。


 かわいいヤツめ~……!




■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:星屑隊隊長


「それでは、私とエノクもここで失礼しますね」


「ああ」


 雪の眼・史書官殿とその護衛も、ここでお別れだ。


 出来れば……パイプが無事に犬塚特佐のところに辿り着けるよう、この2人にもついていって欲しかった。だが雪の眼には雪の眼の都合があるらしい。


 もうしばらく、真白の魔神が遺した地下施設や地下道を探索したいらしい。雪の眼の調査のために。


「史書官さんよ、頼むから交国軍にオレらのことバラさいないでくれよ~」


「大丈夫大丈夫。しっかり喋りますからねっ!」


「大丈夫じゃねえ……!」


 星屑隊隊員の軽口に、史書官殿が軽口を返した。


 まあ、喋ってもらっても構わん。史書官が何を言ったところで大勢に影響はあるまい。……我々がネウロンから逃げるアテがあるのは、交国も察している。


 向こうの情報は、黒水守が可能な限り収集してくれている。


 玉帝達も――黒水守を全面的に信用していないため――情報は絞ってきているため、油断はできない。だが、今のところ交国軍は我々に追いつけるだけの材料は用意できていないようだ。


 問題は界外に出た後。


 そこを突破してしまえば、後は……信頼できる者達(ロレンス)が迎えに来てくれる。彼らの手を借りれば、雪の眼の紹介状無しでも交国の支配圏から抜け出すのも不可能ではない。


 私に対し、疑いの目を向けてきている者がいるが……彼女とは、後で話をしておこう。何とか説得するしかない。


「我々は逃げつつ落盤を起こし、交国軍の追跡を妨害するつもりです。下手にうろついていたら落盤に巻き込まれる危険性があるので、そこは注意してください」


「大丈夫ですよ。ひとまず皆さんが行った方向には近づかない予定です」


 史書官殿はヴァイオレットから貰った地下の一部の地図を見つつ、「どこから行きましょうかね~」と嬉しげに言っている。


 ここで雪の眼と離れられるのは、大変都合がいい。


 あとに残った者達だけなら……私でも丸め込めるはずだ。


「それと……これ(・・)をお願いします」


「はいはい。確かに預かりました」


 雪の眼の2人が、手を振りながら地下の闇に消えていく。


 それがちゃんと去ってくれるか警戒しつつ、列車に乗り込む。


「行くぞ」


 界外脱出用の方舟がある目的地まで、もうしばらく移動しなければならん。


 交国の追跡や索敵網をかいくぐりつつ、誤魔化しつつ移動する必要があるため……数日がかりになる。だが、方舟までは問題なく辿り着けるはずだ。




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