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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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駄作 前編



■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:森王七百七十八号


「ヴゥゥゥ……をヲヲ……!」


 ボクの中に、何かが入ってくる。


 もう、何本も注射針を刺されて――。


「まん……ナァ……! ヲ、オまぁ……エェッ……!!」


「貴方は、何度も機会を与えられた。それを活かせなかったのが悪いんですよ。はい……もう1本いきますよ~……」


「ゴッ?! ぎぃッ!! ォォォヲヲ……?!!」


 ボクを見下してくる女が、笑みを浮かべながらまた注射を打ってきた。


 それも、今度は脳に――。


「安心してください。あなたが無様を晒していることは、犬塚特佐には秘密にしています。あなたの大嫌いな『銀兄さん』には秘密にしてあげます」


「ゥーーッ! フゥ~~~~ッ……!!」


「それとも、知らせてほしいんですか?」


 女が笑いつつ、言葉を続けてきた。


「あの御方は『だから言ったんだ。お前に軍人は向いてない』『これに懲りたら軍なんてやめろ』『お前の所為で、皆が不幸になる』とか……言うでしょうね。不出来な弟に……いつものように説教を始めるでしょうねぇ」


「ヤ……めぇ……ヲヲヲ~~~~ッ……!!」


 あいつは、いつもボクの可能性を摘んでくる。


 犬塚銀も、上から目線でボクのことを批判してくる。


 銀兄さんだけじゃない。他の、皆…………みんなっ……。


 光姉さんも、ボクに……やんわりと「軍をやめた方が」と言っていた。軍人になったボクを、否定してきた。


 灰兄さんは、話しかけても無視する。すがりついて、何とか玉帝(おかあさま)に取り次いでと頼むと……虫でも見るような目つきで見てくる。


 昔は、違った。


 銀兄さんも光姉さんも、ボクが何をやっても褒めてくれた。


 灰兄さんですら、話しかけると返事はしてくれた。「玉帝の子に恥じない人間になりなさい」とは言って説教してきたけど、勉強とか見てくれる事もあった。


 他の兄姉も……ボクのこと、見てくれてたのに……。


 直ぐに、新しく製造された弟や妹の方を構いだして……。


 素子や、満那みたいな奴の方が……認められる。


 素子なんて、回路爺様の足下にも及ばない存在なのに……! メチャクチャな事件も起こしたのに、皆、アイツの方を評価して――。


 満那も回路爺様の後継者候補として育てられて……ダメだったくせに……お母様に上手く取り入って……その傍で、仕事してて……ズルいズルいズルい……!!


 ボクだって、やれば……出来るんだ。


 ボクだって、「犬塚銀」になれるんだ。


 ボクだって、「交国の英雄」になれる……はずだったのに……。


 石守回路の後継者になれなくても……ボクは、それなりに認められるはずだった。一番優秀と言われた素子だって、後継者にはなれなかったのに……。


 ボクは、いっぱい頑張ってるのに……誰も認めてくれない。


 銀兄さんは、昔は……いっぱい、いっぱい……ボクのこと褒めてくれたのに……! 太陽みたいに温かい笑顔で「えらいぞ」「さすがは■だ」「すごいぞ!」って……なにやっても、褒めてくれたのに……。


 今はもう、雨期の曇り空のような顔で……会うたびに説教してくる。時には雷を降らせる事もある。「頼むから、軍を辞めて幸せになってくれ」と雨を降らせる事もある。ボクのやる気を削ぐ言葉ばかり吐いてくる。


 ボクがお母様に……玉帝に認めてもらえないのは、皆の所為だ!


 きっと、皆がお母様によくないことを吹き込んでいるんだ!


 ■■■は軍人に向いてない。


 ■■■は別の道があるはず。


 ■■■に<玉帝の子>という重圧を背負わせないでほしい。


 ボクだけ……失敗作のような口ぶりで……!


 皆がそんなこと言うから、お母様も……ボクにアップルパイを焼いてくれない!


 いっぱいがんばっても、死にそうな目にあっても、お母様はその眼差しすらボクに注いでくれない。仮面を被ったまま、素顔すら見せてくれない。


 あの時だけだ。


 あの時は……ボクのことを見てくれていた。


 あの時は、まだ皆がボクの邪魔してきてなかったから――。


『玉帝! このような場所に――』


『求めるのは報告と成果だけです。新規製作した森王の生育状況は?』


 ボクは優秀だから、赤ん坊の頃だって覚えてる。


 断片的だけど……それでも、覚えているだけスゴい! 覚えていたところで評価されない項目だし……皆には、言ってないけど――。


『森王七百七十七号は順調です。<森王式人造人間>の最高傑作です!』


『……こちらは?』


『ああ、森王七百七十八号ですか……。そちらは廃棄処分を検討中です』


『このまま育てるべき、と言う者もいますが――』


 ……多分、ボクの事を言ってたんだと思う。


 あの頃のボクは、まだ赤ちゃんだった。


 それなのにアイツらはボクのこと、「失敗作」「適合実験はファーストレイヤーに辿り着く事すらなく、失敗しました」「廃人化していない悪運の強さはある」とか言って、上から目線で評価してた。


 ボクだって、成長したら……いっぱい……いっぱい、活躍できるのに……。


 あぁ……。そうだ。あの頃から、周りの奴に邪魔されて――。


『廃人化しておらず、生育状況にも問題ないのでしょう?』


『ええ。ですが、森王としての機能は玉帝の望むものでは――』


『犬塚銀も、森王としては失敗作でした。しかし、彼は軍人として非常に優れた適正を発揮し、私達が後押しなどなくても「交国の英雄」になった』


 お母様の声が近づいてくる。


 ボクが入れられてるガラスに、手が触れる音がした。


『この子も森王としては失敗作でも、交国という国家兵器(・・・・)の構成部品として優れた成果を残してくれるかもしれない』


『それでは――』


『処分保留。適合実験は中断し、生育を続けなさい』


 お母様は、ボクを救ってくれた。


『貴方にも期待しています。七百七十八番目の失敗作(なりそこない)


 お母様は、ボクを見てくれた。


『石守回路並みの失敗作(・・・)になるのは、不可能だと思いますが――』


 お母様は、ボクを評価してくれた。


『貴方が、第二の犬塚銀になりますように』


 お母様のおかげで、ボクはこの世界に生まれてきた。


 けど、お母様が「期待している」と言ったのは……あれが最後だった。


 お母様は七百七十七号ばかり気にしていた。ボクらを作り、色々やってた奴らに七百七十七号の事ばかり聞いていた。


『ようやく……ようやくだ!』


『七百七十七号こそが、交国の希望……いや、人類の希望だ!』


 アイツばっかり、褒められて……。


 ボクのこと、誰も見なくなって……。


 アイツみたいになりたくない。だって、アイツも……結局、アップルパイを焼いてもらえるようになるまで、時間がかかっていたし――。


『銀兄さんみたいに、なればいいんだ』


 お母様は、ボクに「犬塚銀」を期待していた。


 ボクも「犬塚銀」みたいに活躍したら、お母様も……認めてくれるはず。


 だから、ボクは軍人として活躍しようと――。


『機兵乗りは……諦めた方がいい』


『あいつ、また机上指揮でやらかしたって――』


『あんな無能の部下になる奴が可哀想だな』


『大丈夫だろ。あそこまで酷いと、軍学校から追い出されるだろうし――』


 皆、ボクを見くびっていた。


 軍人を目指すボクを邪魔してきた。


 銀兄さんだって……軍学校に入ったボクに「軍人にならなくてもいいんだぞ……?」って言ってきた。まるで、腫れ物でも触るように。


『■には■の才能がある。それを活かすのはどうだ……?』


 自分には、英雄の才能があるから――上から目線で、ボクをたしなめてきた。


 どいつもコイツも、ボクの邪魔ばかり……!


 ボクが悪いんじゃない。周りが悪いんだ。


 周りが……ボクの足を引っ張っているから……!


 それでも、ボクは頑張って――。


『■、やるじゃないか! 次席まで上り詰めたって聞いたぞっ!』


『スゴいわ、■君っ!』


『ま、まあ……! ボクが本気になったら、これぐらい……ねっ!』


 銀兄さんも光姉さんも、喜んでくれた。褒めてくれた。


 努力した。寝る間も惜しんで努力した。


 同学年のバカ達がバカな遊びをしている間も、ボクは机にかじりついた。


 立派な軍人になるために、たくさんの時間を費やした。


 それでも……「次席止まり」だった。


 それに、周りの奴らがいちゃもんをつけてきて――。


『キミは、予想外の事態に弱すぎるな』


『座学は優秀なんだが……。少し、自分の立てた計画に縛られすぎじゃないか?』


『もう少し柔軟に考えなさい。不測の事態に対応できるよう、計画に余裕を作った方がいい。常に最短距離を進もうとするのは博打だ。敵の妨害を考慮して――』


 うるさいうるさいうるさい。


 失敗したとしても、それは周りが悪かったんだ。


 ボクの計画(シナリオ)通りに進めば、一番上手くいくんだっ!


『銀兄さんも、そう思うよね!?』


『あ、あぁ……。……いや、だがなぁ、■……。戦場……机上ほど簡単には――』


 銀兄さんに同意を求めても、曖昧な笑みを浮かべられた。


 そして、ボクを窘めてきた。ボクの計画に口を出してきた。


 ボクの輝かしい人生計画にすら、口を出してきた。


『■……。最前線を志望したって、本気か……?』


『……銀兄さんは、最初からそうだったでしょっ?』


『俺はお前の話をしているんだ。お前は……現場に出るより、長期計画の立案や、兵站管理の方が向いている。統合参謀本部への道も――』


『ボクの人生は、ボクのものだっ! 無責任に口出ししないでよっ!!』


 ボクは「犬塚銀(えいゆう)」になりたいんだ。


 そうしなきゃ……お母様は認めてくれない!


 最前線で大活躍しなきゃ、ダメなんだっ!


 後方でチマチマと算盤勘定していたところで、誰も認めない。誰も見てくれない。いや、周りの奴らはどうでもいい。お母様に認めてもらえればそれでいい。


 お母様の眼差しを賜るには、最前線で英雄的な活躍をするしか――。


『なんで、なんでっ! なんでっ!?』


 ボクの計画は完璧なんだ。


 だが、部下が邪魔をしてくる。


 奴ら……ボクが立てた完璧な計画通りに動いてくれない! ボクの言う通りにすれば勝てるのに! 皆が勝手に動いて……だから、失敗して……!


 その責任を、全部……全部ボクに押しつけて……。


 ボクは悪くない! 悪いのは……無能な兵士達だよっ!


『エミュオンで、功績を……。輝かしい功績を、立てて――』


 交国最大の敵はプレーローマだ。


 そのプレーローマとの戦いで、華々しい戦果を上げれば……お母様も、ボクを見てくれるはず。ボクも、銀兄さんのように大活躍したら――。


『■■中佐。キミの意見は聞いていない』


『なっ……! 何故ですかっ!?』


『私の指示に従ってくれ。私は、キミが誰の子供であろうが、親の権威を作戦立案に盛り込むつもりはない。キミ本人の階級は考慮するがな』


 エミュオン攻略戦だって、ボクの言う通りにしていれば良かったんだ。


 それなのに、アイツ……! ボクの意見を一蹴して……周りの奴らも、「当然だ」と言いたげにヘラヘラと笑っていた。ボクを見下していた!!


『何であんなのが、玉帝の子供なんだ……?』


『玉帝一家の面汚しだな』


『机上の空論を、最前線に持ち込むなよ……。馬鹿馬鹿しい』


『何にも出来ないくせに、口だけは――』


 お前らだって、何にも出来なかったじゃないか!


 兵士を無駄に死なせて! エミュオン攻略も出来なくて……!


『ちゅ……中佐……! きさま、なにを……!?』


 上官は、残念ながら流れ弾(・・・)で死んだ!


 そのおかげで、ボクがエミュオン攻略戦の指揮権を得た!


 ……最初からこうしておけば良かったんだ。


 最初からボクのシナリオ通りに皆を動かせば良かったんだ!


『死んだ奴は無能! 生き残った奴が有能なんだ! さぁ、行け! 戦えっ!』





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