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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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太母の遺志を継ぐ者



■title:犬塚隊旗艦<瑕好>にて

■from:黒水守・石守睦月


『黒水守。貴方は交国に忠誠を誓っていますか?』


「もちろんです」


 犬塚特佐麾下のお嬢さん(カペル)と手を繋いだ後、玉帝の問いに答える。


「ただ、私は交国以外も大事にしています」


『…………』


「元流民の身として、多次元世界で虐げられている流民達の窮状を救いたいと思っています。そのために……交国に仕え、交国を利用(・・)しています」


『…………』


「交国は多次元世界指折りの国家です。その力があれば、流民を救うことも不可能ではない……と考えています。ただ、現状ではそれも難しい」


 交国に来た時、玉帝達に一度語った内容を繰り返す。


 今回は神器による真偽判定付きだけど――。


「流民を救うためには、プレーローマを滅ぼす必要があります。彼らこそが多次元世界が荒れている諸悪の根源です。交国で命がけで戦っていれば……いずれプレーローマを滅ぼすのも不可能ではない、と考えています」


いまウソついた(・・・・・・・)


「――――」


 お嬢さんが、犬塚特佐の手を引きつつそう言った。


「『プレーローマを滅ぼすのも不可能ではない』は……ちょっと、ウソついた」


「あぁ……。そうですね、そこはちょっと言い過ぎました」


 少し、言葉を訂正するべきか。


「交国でも……プレーローマを滅ぼすのは難しい。奴らはそれだけ強大な敵です」


『…………』


「しかし、人類文明の中で最も頼りになる『理性的な国家』は交国です。プレーローマを倒し、流民を救う可能性が一番高いのは……交国だと考えています」


 玉帝の視線を受け、お嬢さんがおずおずと頷いた。


 今のはウソじゃない――と太鼓判を押してくれた。


「領主の身でありながら、生意気にも交国を『利用』している身ですが――」


『それは別に構いません。元流民の貴方が、交国に滅私の忠誠を誓ってくれるとは思っていません。お互いに利用しあいましょう』


 玉帝は「では、これで――」と言い、通信を切った。


 不意をつかれた犬塚特佐は「あっ! こらっ! 俺の話はまだ――」と言ったが、一歩遅かった。玉帝はさっさと会議を打ち切ってしまった。


 渋面を浮かべる犬塚特佐に代わり、機器の操作をしてくれていた寝鳥満那さんが「とりあえず、最優先はヴァイオレット特別行動兵という事で――」と言った。


「黒水守は、引き続きネウロン近海の沈静化をお願いします。それを行いつつ……ネウロンから出て行く方舟がいたら拿捕をお願いします」


「了解です」


 玉帝との通信は切れたけど、お嬢さんがまだこちらを見ている。


 早く神器を切ってくれ~……ボロが出ちゃうでしょ~……と内心思いつつ、ジッと見ているお嬢さんにニコリと微笑む。


 こっちの笑顔にビックリしたのか、慌てて視線を切ってくれた。神器も切ってくれたようだ。……ちょっとヒヤリとしたけど、真意(・・)がバレなくて良かった。


 今後の事について、もう少し話をしていると――。


「逃げた星屑隊と第8巫術師実験部隊隊員の顔写真とかありますか? 私、彼らと黒水で会っているはずなんですよ」


「星屑隊は鮮明な写真があるんだが、第8の方はその手のが無くてな」


「そうなんですか?」


 犬塚特佐は首元を掻きつつ、「軍事委員会の担当者の不手際らしい」と言った。


「ただ、監視カメラや戦闘記録映像に第8の隊員の映像が残っていた。で、問題のヴァイオレット特別行動兵の顔が……これらしい」


「ああ、やっぱり……!」


 会議室のディスプレイに表示された写真を見つつ、声をあげる。


 出来る限り、わざとらしくないように――。


「この子も知ってるのか? 黒水守」


「ええ、やはり黒水に来ていた特別行動兵です。先日、犬塚特佐も黒水に来ていたでしょう? あの時も、星屑隊と行動を共にしていたはずですよ」


 部下から報告を聞いたし、実際に会いましたよ――と言っておく。


 黒水で黒水住民の(・・・・・)誘拐未遂事件が発生し、その現場に星屑隊が居合わせた。彼らが犯人達を取り押さえてくれたもの、黒水警備隊のミスで星屑隊ごと取り押さえてしまったんですよ――と語る。


 事件は表向き、そういう事にしておいた。


 被害者だけすり替え、誤魔化しておいた。……念のため。


「事件後にウチに招待して食事をごちそうしたんです。お詫びと、カトー特佐絡みの聴取も兼ねて……」


「俺は見逃していたらしい。まさか、星屑隊と<真白の遺産>絡みの女の子が一緒にいるとか……想像もしてなかった」


「この子も、交国軍から逃げちゃったんですね」


「あぁ……。だが、捕まえてやるさ」


「…………」


 ヴァイオレットさんの映像を見ても、犬塚特佐達は特別な反応をしていない。


 事前に見ていたからなのか、あるいは……表情を取り繕っているのか。


 ひとまず、会議はここでお開き。


 犬塚特佐と寝鳥満那さんは会議室に残り、私とお嬢さんは退出する事になった。


 お嬢さんに「神器使い同士、仲を深めるためにお茶でもしませんか?」と誘ったものの……「特佐にナンパについていっちゃダメって言われた……!」と怯えた表情で言われ、逃げられてしまった。


「そ……そんな怖がらなくてもいいのに~……」


 肩を落とし、大人しく1人で食堂に向かう。


 食事して、ひとまず寝よう。寝て、府月に行こう……。




■title:犬塚隊旗艦<瑕好>にて

■from:英雄・犬塚


「…………で? このヴァイオレットって嬢ちゃんは何者なんだ?」


「ですから、<真白の遺産>絡みの……」


この顔はなんだ(・・・・・・・)って聞いてんだよ」


 ついさっき洗い出した映像を表示した端末を軽く叩きつつ、満那を問い詰める。


 真白の遺産絡みの女ってだけで、追うのはわかる。真白の魔神にはそれだけの価値がある。良くも悪くも確保しなきゃいけないものだ。


 だが、それ以前に(・・・・・)……この嬢ちゃんは何者だ!?


何でコイツが(・・・・・・)、ネウロンで特別行動兵やってんだよ!?」


「落ち着いてください、犬塚特佐。2人きりとはいえ……」


 満那は苦笑しつつ、言葉を続けた。


「一応言っておきますが、貴方の言う『コイツ』を現す人物と、ヴァイオレット特別行動兵は別人です。その事は、貴方もよくご存知でしょう?」


「わかってるよ! じゃあ、この嬢ちゃんは何者なんだ……!?」


「さあ? 戈影衆(わたしたち)も詳細は知りません」


「玉帝は、この子が何者か知っているんだな?」


 満那が肩をすくめる。本当に知らないのか、口止めされているのか……。表情ではうかがい知れない。


 とにかく、重要人物のようだ。


 ここまで来ると、<ヤドリギ>なんてものは些細な存在だ。


 ()を解き明かすためにも、この特別行動兵を捕まえないと……。


「最悪、死んでいても構いませんが……腐乱死体や挽肉の状態で見つかるのは困ります。銃弾を2、3発撃ち込む程度で勘弁してあげてください」


「生け捕りにしてやるよ。色々と聞きたい事があるからな」


「捕まえたら、直ぐに我々に引き渡してください」


「俺が話を聞いた後でな」


 しかし、このヴァイオレットって嬢ちゃん……ラート達と一緒にいるのか。


 ……ラートの奴、大丈夫か?


 ろくでもない目にあってそうだが……。




■title:犬塚隊旗艦<瑕好>にて

■from:玉帝の影・寝鳥満那


「主上。黒水守も彼女と面識があるようです」


『ええ、把握しています』


 犬塚特佐と別れた後、1人で玉帝と話をする。


「この特別行動兵が黒水にいたという事は、素子とも会っていたのでしょうか?」


『いいえ。第8巫術師実験部隊が黒水に滞在していた時、素子は不在でした。出会っていたら、素子が何らかの反応をしているでしょう』


 それはどうだろうか。


 素子なら、ヴァイオレット特別行動兵を見て「異常」に気づいたとしても、私達に何も報告しなかった可能性もあると思う。……素子を信用するのは危険だ。


 犬塚特佐も黒水でこの特別行動兵の顔を見ていてもおかしくなかったけど……あの反応を見るに、特佐は本当に顔を知らなかったんだろう。


 とにかく、必ず確保してみせます――と誓う。


 主上のためにも、自分を追い詰めるためにも誓っておく。


「ところで、森王七百七十八号は予定通り確保しました」


『銀は――』


「特佐には隠しています」


 交国の良心である犬塚特佐に、この事を知られるのはマズい。


 我々が彼を確保したと知ったら、「無事で良かった」と喜ぶかもしれない。喜びつつ、「俺に渡せ」と身柄を持って行かれる危険がある。


 失敗作の中の失敗作如きのために、身内同士で争うのは勘弁してほしい。


「森王七百七十八号も、必要であれば使って(・・・)も構いませんか?」


『もちろん。アレは役目を終えました。生かしておく必要はありません』


 使っても、使わなくても処分は行う。


 ただし、犬塚特佐には気づかれないよう……こっそりと処分する。


 これも交国のためだ。




■title:交国首都<白元(びゃくがん)>にて

■from:二等権限者・肆號玉帝


「…………」


 満那との通信を終え、しばし、何もしない時間を過ごす。


 いつもなら、こんな風に時間を浪費しない。


 しかし、今回の案件は交国と人類の未来に関わる重大案件だけに……どうしても心がざわめく。満那が率いる<戈影衆>と<燭光衆>上手くやってくれると信じるしかない。


 何とか気持ちを切り替え、別の調査資料に目を通す。


 その件について、別の部下に指示をする。


「……例の件に関する調査資料を見ました。アップルカンパニー、林檎食品、りんご物産を調べなさい。各社の資金の流れを洗い直しなさい」


『ACと林檎食品は、昔から交国に尽くしてきた者達ですが……』


「だからこそです」


 本人達が無自覚なまま、外部に資金を流している可能性が高い。


 ()を追い詰めるためにも、もう少しカードが欲しい。


 急ぎなさい――と部下を促し、通信を切る。


「……銀や満那達だけに、任せておける話ではない」


 ヴァイオレット特別行動兵。


 まさか、交国軍に紛れていたとは……。


 紛れ込めていた事にも、不審な点がある。


 何者かが彼女に関するデータを改ざんしていた痕跡がある。


 やっと見つけた金の枝(・・・)です。


 必ず、確保しなくては。


「絶対に……取り戻してみせます。我らが希望(メサイア)……我らが太母よ」






【TIPS:太母】

■概要

 交国の真の建国者。玉帝が崇め、盲信する救世主(メサイア)


 <ブロセリアンド帝国>から分かれた28の国家の1つ、大ブロセリアンドのオーク達を支配下に置き、「交国のオーク」として軍事利用を始めた存在。


 【占星術師】と手を結びつつ、後に<黒水>となる土地に交国の首都を置き、「人類救済」を目論んでいた。だが、真白の魔神の使徒に襲撃されて死亡した。


 後に復活(・・)したが、発狂した真白の魔神の使徒に射殺されて再び死亡した。玉帝は太母に代わって<交国計画>と交国の運営を引き継ぎ、交国を多次元世界指折りの巨大軍事国家に成長させた。


 しかし未だ<交国計画>は破綻し続けており、「交国のオークの真実」程度の問題で交国国内は揺れてしまっている。


 玉帝は「あの時、真白の魔神の使徒から玉帝を守れていれば、既に人類は勝利していた」と悔やみ続けている。





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