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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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蜂起の黒幕



■title:犬塚隊旗艦<瑕好>にて

■from:英雄・犬塚


「カペルちゃ~ん。貴女の力がどうしても必要なの」


「…………! カペル、お手伝いするっ! しますっ!」


 カペルのやる気につけ込んだ満那に促され、仕方なく捕虜のところに向かう。


 艦内に捕らえている解放軍幹部(ドライバ)に改めて話を聞く。


「…………」


 部下を捨てて逃げようとしていた解放軍幹部は、媚びた笑みを浮かべつつ、ブロセリアンド解放軍の情報をベラベラと喋っている。


 既に一度聞いた内容が多いが、それをカペルにも聞いてもらい――。


「カペル。どうだ?」


「えと……言ってること、よくわかんないけど……。ここは、ウソついてる」


 尋問と同時に、相手の発言を文章データに起こす。


 カペルには、その文章に印をつけてもらう。「ここはウソをついている」と思ったところを、赤い印でチェックしてもらっている。


 文章データには赤い印があまりつけられていない。


 大半、真実を話しているようだ。嘘もついているが……それは自分の体面や、今後の扱いを気にした虚偽発言のようだ。


『僕は騙されていたんですっ! か、解放軍の奴らに、騙されて……担ぎ上げられて……無理矢理、表向きは幹部にされてたってだけで~……!』


「…………」


 保身に走っている解放軍幹部・ドライバを見ていると……また頭が痛くなってきた。ヤツには……誇りってものがないのか?


 ドライバは、我が身可愛さで動き続けている。


 解放軍も部下も売り、「自分は被害者」と言い張っている。交国を恨む者達がいるのは理解できるし、オークであるドライバもその1人だと思うが……さすがに、ここまで醜態を晒されると同情したくなくなってくる。


 ウンザリして視線を逸らすと、逸らした先にいた満那は笑みを浮かべながら尋問の見学を続けている。時折、満那の方から問いを投げている。


 一度尋問を切り上げ、ドライバの発言内容を改めて精査する。


「彼、自己保身ばかりで面白いですね」


 笑顔の満那がそう言うと、カペルが申し訳なさそうに「カペルの勘違いなのかも……」と言った。


「カペルが間違うはずがない。お前の真偽を判定する力は、確かなものだ」


「犬塚特佐の言う通りですよ。貴女の判定能力(それ)は正しいと実証済みです。今回は貴女自身、嘘をつく理由もないですしね」


 カペルは「発言の真偽」を見抜ける。


 これもカペルの神器の力だ。


 カペルは神器で支配下に置いた人間相手なら、発言の真偽がわかる。「どんな嘘をついているか?」に関してはわからないが、真偽の判定だけは出来る。


 この力は「友達化」と違い、個人差はない。


 ドライバのように、支配下に置いても動いてくれない「薄情な人間」相手でも真偽判定は出来る。おかげで荒っぽい方法はあまり使わずに済んでいる。クスリや暴力を使った方法を使う事もあるが、そういったものはカペルには見せない。


「犬塚特佐ぁ……。あのドライバって人、どうなるの……?」


「交国の法で、真っ当に(・・・・)裁くよ」


 処刑、あるいは無期の禁固とか……その辺りだろう。


 末端の解放軍兵士には「寛大な措置を取ってくれ」と玉帝に頼んでいるところだ。彼らが交国に対して抱いた怒りは……多くが真っ当なものだからな。


 中には真っ当と言いがたい奴もいる。そういう奴らや幹部連中は厳しく罰するが、情状酌量の余地がある者達は……そこまで重い罪にならないはずだ。


 再教育を受けてもらう必要はあるかもだが……本人次第では軍に復帰も出来るだろう。それがダメでも別の真っ当な仕事を与えてもらう予定だ。


「裁くって……ころすとか……するの?」


「……場合によってはな」


 カペルには、あまり暗い話をしたくない。


 けど、この子は聡い子だ。俺がどれだけ取り繕っても色々と察する。


 それに……暗い話をしないのは、カペル自身のためだけじゃない。俺自身が後ろ暗い想いを抱き、カペル相手に取り繕っているだけだからな。


「交国も横暴を働いているが……だからといって、全ての罪が許されるわけじゃない。『悪い事をした人』に対して、キチンとした処罰を下さないと……国内の治安が乱れてしまう」


「自分達も、悪い事しちゃお……ってなる?」


「そうだ。まあ、二番目ぐらいに悪いことしてるのは玉帝や俺達なんだが……」


「ちょっと、特佐。戈影衆(わたし)の前で主上の悪口を言わないでくださいよ」


 満那に対し、「本人の前でも言うし、玉帝は気にしねえよ」と返す。


 解放軍兵士が怒る理由はわかる。


 そもそも、玉帝が「解放軍の蜂起」を意図的に起こしたようなものなんだ。


 だが、それでも俺は「交国の秩序」を優先する。


 それが真っ当なものじゃなかろうが、交国の権威が失墜した場合……プレーローマが今以上に調子に乗る。それはマズい。絶対に止める必要がある。


 玉帝も悪いが、人類の敵(プレーローマ)はもっと悪いんだ。


 ちょうど、そんな事を考えていると――。


「犬塚特佐。前線で動きがありました」


「今回の事件の黒幕(・・)が動いたか」


 報告に来た部下が頷き、言葉を続けた。


「プレーローマの軍団が動いています」


 予想通りの動きだ。


 ブロセリアンド解放軍は交国が作った組織だ。


 だが、そうとは知らない<プレーローマ>の連中は、解放軍を密かに支援していた。活動資金を渡すだけではなく、様々な物資を別組織を通して融通していた。


 支援することで、解放軍に「告発と蜂起」という騒動を起こさせた。


 プレーローマにとって、ブロセリアンド解放軍の蜂起の成否はどうでもいい。


 蜂起によって交国軍が「オークの大量離反」が発生したら、その隙に交国へ攻め込む。交国軍どころか解放軍すらも蹴散らし、交国領にいる人間を全て蹴散らしてしまうのが奴らの狙いだったのだろう。


 ただ、プレーローマの企みは半ば失敗している。


 解放軍の蜂起と告発は上手くいかなかった。


 奴らが考えていたほどの混乱は、交国では起きていない。


 それでも多少の混乱は起こせたから、交国領への大規模軍事侵攻は行うつもりらしい。来るなよ、と言いたいが、奴らは交国の都合など知ったことではない。


 交国側も今回の騒動を利用していたから、迎撃態勢は整っているけどな。


 プレーローマはたった単独で多数の人類文明を相手取っているから、態勢整えていたところで必ず勝てる相手とは限らないけどな……。


 部下の報告を聞いた後、ひとまず……解放軍幹部の尋問に戻る。


 プレーローマへの対応協議は、後回しだ。


 俺達がいるのはネウロン。前線のことは担当者達に任せる。


 俺も……近日中に最前線に戻る事になるだろうけどな。




■title:犬塚隊旗艦<瑕好>にて

■from:英雄・犬塚


「黒水守。お疲れさん」


 ネウロン近海の沈静化作業をしていた黒水守が、界内にやってきた。


 作業がまだ終わっていないが、ひとまず休んでくれと言いたいところだが――。


「悪いが会議室に来てくれ。我らが玉帝に、色々報告せにゃならん」


 汚物でも食べたような顔しつつ言うと、黒水守は苦笑して「私も状況を知っておきたいので、助かります」と同行してくれた。


 大人の黒水守はともかく、カペルは休ませてやりたかったんだが……玉帝の要請で同席を求められた。


 俺とカペルと黒水守、そして満那の4人で会議室に入る。


 満那が機械のセッティングを諸々終わらせてくれたので、会議室に入ると直ぐに玉帝のご尊顔を拝む事になった。……尊顔といっても、仮面付きの顔だが。


「ネウロンにいるブロセリアンド解放軍との戦いは、もう少しで終わる」


 あとはほぼ消化試合。


 艦隊の立て直しが終わったら、アイツらに任すのも手だよ――と告げる。


 まあ……アイツらだけに任せたら、玉帝の意向を反映して「解放軍の拠点に<星の涙>を放ちま~す」ってやりかねないけどな。


 そうならないよう、カペルの力を借りてさっさと制圧しないと――。


「それと、玉帝(アンタ)が探していた技術少尉は死亡していた」


 カペルの目元を片手で隠し、大人だけに例の腐乱死体を見てもらう。


 珈琲を飲もうとしていた黒水守が顔をしかめ、カップをそっと机に置いた。食欲失くす写真だったな。スマン。


「ただ……この技術少尉絡みで、面白い話を解放軍幹部(ドライバ)に聞けた」


『ほう?』


「技術少尉が作ったと言い張っていた<ヤドリギ>は、そいつの助手だった特別行動兵(・・・・・)が作ったものらしい」


 技術少尉は、その手柄を横取りしただけ。


 まあ、そこらの特別行動兵が作れるものじゃないから……その特別行動兵自身も別のどこかで作り方を知っただけかもだが――。


「特別行動兵の名前は『ヴァイオレット』と言う。ネウロン魔物事件後、交国軍が保護していた人間だ。だが、記憶喪失らしい」


 保護されたヴァイオレット嬢は、交国軍人を轢き殺そうとするなど問題行動を起こし、特別行動兵として従軍する事になった。


 ネウロンの<ニイヤド>で行われた戦闘を契機に星屑隊と出会い、その後も行動を共にし……現在も星屑隊と逃走中。


「話を聞いた解放軍幹部曰く、このヴァイオレットって子は優れた技術者らしい。何故か混沌機関の整備が出来たり、機兵のプログラムもイジれたり……交国軍のシステムにハッキングを仕掛け、色々悪さも出来るみたいだ」


『そのヴァイオレット特別行動兵は、いまどこにいるのですか?』


「それは…………」


「交国軍から脱走した『星屑隊』と行動を共にしているようです」


 言いよどんだ俺の代わりに、満那が説明を継いだ。


 星屑隊もヴァイオレット特別行動兵も、行方不明。


 地下に潜ったのは確かだが、正確な現在位置は不明。


 ネウロンの地下には1000年前に作られた地下施設や地下道が生きており、それを利用して逃げたんだろう。


 交国軍もネウロンの地下は前々から調べていたが、タルタリカが邪魔で調査は捗っていない。広すぎて、地下の全体像もわかっていない。


 ラート達が逃げ込んだ地下道も調べてみたが……流体装甲の壁を突破した先で、落盤が発生していた。呑気に掘り返したところで、奴らは逃げた後だろう。


「雪の眼の史書官及び護衛1名も、彼らと共に逃げたようです」


 雪の眼に関しては、何とかなるだろう。


 奴らが直接的に交国の行動を邪魔するなら、こっちにも考えがある。……大龍脈を攻め落とすのが不可能でも、ビフロストや雪の眼が困る対応策ぐらいはある。


 邪魔立てするならそれを使うぞ――と脅せばいい。


 ともかく、「ヴァイオレット」という特別行動兵が逃げているわけだが――。


『その特別行動兵、直ぐに追いなさい』


「最優先か? 解放軍の制圧もまだ済んでいないのに?」


『その女は、<真白の遺産>について詳しく知っているかもしれません。そんな存在が好き勝手に歩いていたら、遺産絡みで大変な騒動に発展しかねません』


 ネウロンの地下施設や地下道も、真白の魔神由来のもの。


 どこかに方舟の1つや2つ、あってもおかしくない。


 だから、このまま取り逃してしまえば方舟で界外に脱出しかねない。


 ネウロン近海を黒水守に張ってもらう手もあるが……黒水守も完璧じゃない。24時間ブッ続けで見張り続けるのは不可能だろう。


 ……ラート達を取り逃したのは、俺が思っていたよりも異常事態らしいな。


「つーか……真白の魔神絡みなら、さっさと情報共有してくれよ」


『…………』


「満那には当然伝えてたんだろうが、俺にも教えてくれていいじゃねえか」


 真白の魔神の脅威は、俺も理解している。


 特佐として働いていたら、あの魔神絡みの問題にブチ当たったことは1度や2度じゃない。直接会ってなくても、間接的に手こずらされた事もある。


 玉帝なりの考えもあったらしいが、「貴方の言う通りですね」と言い、改めて情報を共有してくれた。


『ここからは満那達と手分けをして、そのヴァイオレット特別行動兵を最優先で追跡しなさい。解放軍は後回しにしても構いません』


「俺は両方やらせてくれ。解放軍の相手しつつでも、追跡は出来る」


 ネウロンの解放軍制圧も進めるべきだ。


 玉帝達に任せていたら……雄牛計画によって解放軍兵士も、ネウロンにいる一般人もまとめて皆殺しにされかねん。


 カペルの力を借りて、兵士達を支配下に置きつつ……機兵や方舟は犬塚隊(おれたち)が対応していけばいいだろう。


「ところで、プレーローマの方は大丈夫なのか?」


『貴方が心配する必要はありません』


 解放軍の蜂起をコントロールしていたように、プレーローマの動きも把握していたであろう玉帝は、敵の侵攻に合わせて防衛用の戦力も用意していた。


 解放軍の起こそうとした火事が、今のところボヤ騒ぎで終わった以上……プレーローマによる大規模侵攻も跳ね返せるはずだが――。


『逃げた部隊の追跡についてですが――』


「一応、アテはある」


 正確な現在位置がわからないだけで、どこにいるかの目星はつけている。


 奴らが移動したところで、大体の位置はわかるはずだ。


「解放軍の捕虜から、面白いもの(・・・・・)を教えてもらってな。それを使うよ」


 ブロセリアンド解放軍も、脱走兵対策はしていた。


 奴らじゃあ、ラート達は止められなかったが……脱走された後の対策をしていたらしく、それを使えば追跡も不可能じゃないはずだ。


「特別行動兵と逃げている奴の中に、ウチに勧誘したい奴がいるんだが――」


『逃げた女さえ捕まるなら、他は貴方が好きに料理なさい』


「そいつは助かる」


 玉帝はヴァイオレット特別行動兵にご執心らしい。


 まあ、真白の遺産の価値を考えたら……そうなるのもわかる。


 それ以上の理由もあるのかもしれんが――俺の知ったこっちゃない。


「それと……久常竹中佐についてなんだが……」


 血の繋がりがなくても玉帝(じぶん)の子なのに、一切心配しない玉帝に対して声をかける。無駄だろうな、と思いつつ――。


 案の定、玉帝は「いま話し合う必要はありません」と言ってきた。


『そんなことより――』


「聞けよ。久常竹(アイツ)はまだ見つかってない」


 玉帝らしい対応だが、カチンと来て言葉を続ける。


「竹も、何とか見つけ出す。見つかったら……声をかけてやってくれ」


『…………』


「アンタの方から『生きていて良かった』『早く交国本土にもどってきて、退官して療養しなさい』って言ってやってくれ」


 兄貴(おれ)が何を言っても、弟の心には響かない。


 だが、玉帝の言葉なら別だ。


 アイツは玉帝を盲信している。良いことではないが、玉帝自身の口で退官を勧めてくれたら……アイツだって、いい加減諦めて――。


『ネウロン旅団長については些事です。私も貴方も考える必要はありません』


「なんだと……!」


「まあまあ……久常中佐に関しては、『行方不明』ということ以外、わからないんです。他の話を進めましょう」


 割り込んできた満那が、強引に話題を変えてきた。


 玉帝も頷き、言葉を続けてきた。


『良い機会なので、ハッキリさせておきましょう。……黒水守、立ちなさい』


「はっ」


『カペル特別行動兵。神器を起動し、黒水守と手を繋ぎなさい』


「おい待て。それはつまり――」


『ロレンスの元・食客であり、人類連盟と敵対していた元テロリストの石守睦月が……本当に交国の人間になったのか、その真偽を確かめさせてください』




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