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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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消えた久常竹



■title:犬塚隊旗艦<瑕好>にて

■from:英雄・犬塚


「久常中佐ですが……まだ見つかっていません」


「そうか……。それらしいモノとかも……」


「はい、まったく」


 カペルを休ませた後、部下から報告を聞く。


 久常竹中佐――ウチの愚弟は解放軍に捕まっていたはずだが、現在行方不明。


 既に死体になっている可能性も覚悟していたが……それらしい死体も見つかっていないらしい。繊一号にあった新しい死体は全て調べているが、その中には愚弟のものはなかった。


 解放軍のネウロン最大の拠点だった繊一号は押さえたため、ネウロンにおける解放軍との戦いはもう消化試合みたいなものだが――。


「ただ、犬塚特佐が繊一号に襲撃をかける直前には目撃情報があります。その後の行方はわかっていません」


 繊一号に潜伏し、活動していた情報部の人間や、捕虜にした解放軍兵士から目撃情報は上がっている。数日前に移送された――という様子もないらしい。


 となると、繊一号から取り逃した奴らが連れて行ったのか?


 あるいは……まだ死体が見つかっていないだけなのか……。


「久常中佐が自分で逃げた可能性は――」


「無理だろ。アイツその手の事も苦手だったし。とことん軍人向いてないんだわ」


 昔、機兵に乗りたがっていたので、玉帝に内緒でこっそり乗せてやった事あるんだが……その時も散々な結果だった。


 あの時、「初めてにしてはよくやった!」などと褒めず、「お前、軍人向いてないからやめとけ」とハッキリ言っておけば――。


「オズワルド・ラート軍曹達が、誘拐したんでしょうか……? 彼ら、交国軍から逃げるつもりなんですよね……?」


「人質としてか? それは…………まあ、あるかもしれないが……」


 いっそのこと、ラートがさらってくれた方が安心かもな。


 ……いや、いくらラートが優しくても、竹がやった事を考えるとマズいか。竹には報復されるだけの理由がある。因果応報と言えばそこまでだが――。


「…………。竹に関しては後回しでいい。アイツも軍人だ。いつか死ぬ覚悟は……出来ていたはずだ。捕虜として連れ回される覚悟もな」


 優先的に探そうとする部下に釘を刺しておく。


 俺個人としては――愚かとはいえ――可愛い弟を助けてやりたい。


 だが、まだ軍人としての仕事を果たしていない。ウチの弟を探すのはついででいい。……仮に人質にされたところで、玉帝相手には無意味な人質だしな。


 報告をしてくれた部下が下がった後、鼻息を漏らしながら目元を揉む。……ネウロンでの戦いはほぼ決着ついたが……まだ頭の痛い案件は残っているようだ。


 ラートも……何とか交国軍に連れ戻したい。


 奴らが脱走している件は、今のところ俺と部下達しか知らん。私情で判断していると言われるかもしれんし、言い訳出来ない判断だが――。


「アイツは、交国軍に必要な人材だ」


 ラートは元々、優れた機兵乗りだった。


 自己評価が死んでいるが、それでも奴が腕利きなのは確かだ。


 それに……繊一号で戦ったラートは、前よりずっと強くなっていた。機兵の動かし方が根本的に変わっているように見えた。


 今のラートは、明らかに普通の機兵乗りと違う。アイツに協力してもらって色々と分析したら、交国軍の機兵乗りの常識が大きく変わる……かもしれない。


 ラート達の「脱走」をまだハッキリ報告していないのは半分私情だが、ラートの場合は「交国全体の利益になる」という可能性もある。


 軍人としては良いとこなんて1つもない竹と違って……。


 そんな事を考えていると、満那がやってきた。


「おい、満那。お前らが繊一号をウロウロしてたって報告を聞いたんだが?」


「ずっと船室に閉じこもっていろと? それは無理ですよ。我々は主上から仕事を仰せつかっている身ですから」


 方舟がネウロンに着くやいなや、いつの間にか下りて好き放題見て回っていたらしい満那を睨んでおく。


 お前らに置いて行かれて、1人で「皆さん、船室にいますっ!」と誤魔化していたヒスイが可哀想だったぞ――と言うと、満那は笑って「可哀想で可愛いでしょう?」などと言いやがった。コイツは嫌なヤツに育っちまったなぁ……。


「ヒスイがお前みたいに成長したらと思うと……頭が痛くなるよ」


「久常中佐が行方不明の件に比べたら、大した話じゃないでしょう? あと、犬塚特佐お気に入りの……オズワルド・ラート軍曹でしたか? 彼が所属する星屑隊が脱走した件などと比べたら、大した問題ではありませんよ」


 満那の台詞に、思わず舌打ちする。


 竹の件はともかく、ラート達の件は隠しておいたのに……。


 満那達は独自に調べ上げ、「私達も知ってますよ」と刺してきたんだろう。昔はもっと可愛げあったのに……すっかり嫌な工作員らしくなっちまった。


「星屑隊は……まだ説得できる。委員会には報告しないでくれ」


「それは構いませんが、主上は特佐が説得してくださいね?」


「わかってる」


 玉帝は外道だが、道理はわかってくれる。


 ラートが交国にとって必要な人材だと示せば、恩赦を与えてくれるだろう。


 人の心がない女だが、国家の利益には敏感だからな。


「ところで……お前達の方で竹を見なかったか?」


「見つけていたら報告しますよ。そういう約束でしょう?」


 満那は「久常中佐は、私達にとって塵芥の存在ですけどね」としれっと言った。


「…………。お前達で確保して、隠しているんじゃないだろうな?」


「何故、そう思うのですか?」


「雄牛計画には、アイツの死も盛り込まれていたはずだ」


 玉帝達にとって、竹は「死んでいた方が都合のいい人材」だ。


 解放軍との戦いで死んだ事にして、死後に英雄としてテキトーに祭り上げるつもりだったんだろう。……アイツがネウロンでやらかしていた事を考えると、さすがにそれはもう無理そうだが……。


「死体が見つかったら、お前らがやった……って可能性も考えるぞ。俺は」


「我々は、久常中佐を殺害しろ――という命令は受けていませんよ」


 満那はニコリと笑ってそう言い、「そんな事より――」と話題を変えてきた。


「主上より捜索依頼の出ていた『例の人物』が見つかったと聞いたのですが――」


「ああ……。結構グロい(・・・)から、覚悟して見ろよ」


 そう言いつつ、端末に表示した写真を満那にも見せてやる。


 首無しの腐乱死体を見せてやる。


 それなりにグロい写真なんだが、満那は眉一つ動かさず、しげしげと眺めている。……まあ、もうこの程度で悲鳴上げるほど乙女じゃないか。


「この死体が、エンリカ・ヒューズ技術少尉(・・・・)ですか?」


「ああ、そうだ。玉帝が『探せ』って言ってた……ヤドリギ、だったか? それの作成者と(・・・・)される人間(・・・・・)の遺体だ」


「作成者というか、『自称』の可能性が高いんですけどね」


 腐乱が酷いが、何とか本人だと鑑定できた。


 捕虜の話だと、例の「バフォメット」という奴が殺害したらしい。首をねじ切って殺害し、解放軍が「降伏勧告に従わない交国軍人への見せしめ」として死体を展示していたらしい。


「目当ての人物が見つかって良かったな」


「良くないですよ……。本人に話を聞きたかったんです、私は」


「そこまで優秀な人間だったのか。まあ、普通なら出来ない『巫術師による遠隔操作』が出来る<ヤドリギ>を作ったってのは……優秀な証明になるのか」


 そこまで優秀な技術者が何でネウロンにいるんだよ――と思ったが、「先日も説明しましたが」と言いつつ、満那が言葉を続けた。


「ヒューズ技術少尉は<ヤドリギ>の作成者と言われていますが、それは『本人の自称』である可能性が高いんです。彼女はそこまで優秀な人間じゃない」


「誰かの成果を横取りした可能性がある……ってことか?」


「あるいは、ネウロンに眠っていた昔の技術を『自分のもの』として発表した可能性があります。そこを問いただしたかったんですが……」


 技術少尉本人が上に上げた報告書も、不明瞭な点が多かったらしい。


 とにかく話を聞こう――と思っていたら、折り悪くブロセリアンド解放軍の蜂起が始まった。それでネウロンにいるヒューズ技術少尉と連絡が取れなくなった。


 玉帝(じぶん)達が起こさせた蜂起で、話を聞こうとしていた人物と話出来なくなったのは間抜けな事だな。


「一応、繊一号にあったヤドリギは確保しておいたぞ」


 起動しておいたら巫術師達が悪さを始めるから、使えなくしているが……玉帝や術式研究所が欲しがっているなら渡す。


 ヒューズ技術少尉の遺体も引き取る――と言ってきたので、「丁重に弔ってくれ」と言うと、笑顔で「もちろんです」と返してきた。


 遺族に引き渡されるか怪しいもんだ。


 満那達が積極的に動いている辺り、色々と思惑があるんだろうな……。




■title:犬塚隊旗艦<瑕好>にて

■from:玉帝の影・寝鳥満那


「大丈夫、私達を信じてください! 犬塚特佐」


「信じてやりたいけど……戈影衆(おまえたち)は玉帝の指示で動いているからな」


 渋面を浮かべた犬塚特佐に微笑みかけ、誤魔化す。


 エンリカ・ヒューズ技術少尉が死んだ。話が出来なくてとても残念だ。


 そして、大変困った事になった。


 主上は「ヤドリギの作り方を理解している」と言い張るヒューズ技術少尉の話を聞きたがっていた。どういう経緯でそれを知ったか、聞きたがっていた。


 過去の記録を参照すると、ヒューズ技術少尉は優秀とは言いがたい人材だった。ネウロンに左遷されて当然の人間だった。


 そんな人間が、ヤドリギという画期的なものを作ったのは……鵜呑みにはできない話だ。


 しかし、彼女が何もかも嘘を言っていたとは思えない。ヤドリギについて知るキッカケが……真白の遺産について知るキッカケが、どこかにあったはずだ。


 報告書が上がってきた時期的に「真白の魔神の使徒(バフォメット)から教わった」というのは有り得ないだろう。


 となると、別のルートで知った技術のはず。


 けど、それを調べるための糸が途切れた。


 手繰り寄せようにも、「エンリカ・ヒューズ」という糸が腐って切れた。


 何とか、途切れた糸の先を見つけなければ。


 ヒューズ技術少尉以外に知っている人物としては、「星屑隊」や「第8巫術師実験部隊」が挙げられる。しかし、どちらも脱走してしまったらしい。


 第8に関しては、軍事委員会の資料に不自然な欠落(・・・・・・)があったのが気になる。第8の構成員に関する資料は、いくつも抜け落ちている箇所があった。


 資料を管理している軍事委員会の担当者は、「ネウロンで起きた諸々の混乱で資料が失われていたようです」などと言っていた。


 彼らが意図的に資料に欠落を生んだのは有り得ない。かといって、偶然にしては話が出来すぎている。……何者かが第8の情報をイジったのかもしれない。


 それはともかく、何とか真実に辿り着かなければ。


 星屑隊と第8は今後も追うとして、他の手がかりも当たってみよう。


「……犬塚特佐。解放軍の幹部を捕縛したんですよね?」


「ああ」


「その尋問に、カペル特別行動兵を立ち会わせてください」


 彼女なら、幹部の発言の真偽がわかる。


 ひょっとしたら、そこから何かわかるかもしれない。


「カペルは今日十分働いた。疲れているから、休ませてやって――」


「特佐~っ!」


「お元気そうですね?」


 満面の笑みを浮かべ、スケッチブックを手に駆け寄ってくるカペル特別行動兵の姿を見て、犬塚特佐が片手で顔面を押さえた。


 元気そうなので、尋問の協力をお願いします。


 交国にとって、とても……とっても大事なことですから。





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