過去:喋る獣
■title:
■from:とある交国軍人
『――――』
機兵のマイクが、何かが動く音を拾った。
部隊の仲間から離れ、先程の戦闘現場に戻る。
やめろ。
戻るな。
お前が――俺が――見つけなければ……。
『■■■■! 何か見つけたのか!?』
『い……いえ……』
下手なウソは直ぐバレた。
機兵のカメラの映像は、上官達にも共有されていた。
俺の機兵の前で、脚を引きずりながら逃げているネウロン人の姿。
恐怖の表情を浮かべ、収容所に向かっているネウロン人の姿。
それは共有されていた。……皆がその存在を知ってしまった。
たった1人の生存者の姿を、皆、知って――。
『せ……戦闘に、巻き込まれた負傷者がいますっ! きゅ、救助の許可を――』
『バカかお前は!? そっ、そいつは……目撃者――いや、テロリストだぞ!?』
『たまたま……! 偶然、ここにいただけですっ!』
『やめろ! ■■■■!! さっさと――』
機兵を跪かせ、下りる。
負傷したネウロン人が、必死に逃げ続ける。
俺から……何とか、逃げ切ろうとしている。
大丈夫ですか――と声をかけても、悲鳴を上げられた。
当然だ。
おかしいのは、俺なんだ。
『■■■■! そいつはテロリストだ! 早く……早く射殺しろっ!』
『ですが……。この人も、武装なんて――』
丸腰だ。
皆、武器らしい武器なんて持ってなかった。
刃物すら、持ってなかったんだ。
それなのに俺達は――。
『敵を侮るなっ! ネウロンには<巫術>というワケのわからない術式がある! 殺さなければ、呪い殺されるかもしれん……!!』
『で、でもっ……』
『■■■■! さっさとしろッ!!』
『早く殺せッ!!』
『チンタラやってんじゃねえよッ!!』
『バレたら、どう責任取るつもりだ!!』
鎮圧部隊の叫び声が聞こえる。
軍人らしさなど、微塵もない。
集団リンチを望む群衆のような声が、通信機から鳴り響き続けている。
俺が何も出来ないでいるうちに、周りにも機兵が――。
『あっ、危ないっ……!』
味方の機兵が飛び込んで来て、地面が揺れた。
落ちてきた瓦礫が、逃げるネウロン人の身体に振ってきた。
彼は悲鳴を上げたが、それでも止まらなかった。
機兵を迂回して……収容所に向かおうとしていた。
必死な様子で。……収容所に宝物がある様子で――。
『命令だ。■■■■、撃て』
『しかし――』
『さっさとしろ!!』
『命令に逆らう気か!?』
『上官の命令に背くという事は、交国に背くという事だぞ!?』
『お前が見つけたんだ!! おっ……お前が! 責任を持って処分しろ!!』
交国軍人は、何をしているんだ。
俺達は、弱い人々を守りにきたはずなのに――。
『■■■■、撃たなければ抗命罪で貴様を裁く!』
『――――』
『上官の指示に従わないなら、軍規で貴様を裁く必要がある!』
『撃て!』
『撃て!!』
『抗命罪で、故郷の家族に迷惑をかけるのか!?』
『――――』
『早くしろ!! 銃を構えろ!!』
『殺せ!! 殺せぇっ!!』
『正義のために! 交国のためにっ!!』
『テロリストを、殺せっ!!』
『撃てッ! 撃てッ!! 撃てぇーーーーッ!!』
『――――――――!!』
無辜の民に、拳銃を向けた。
連射した。
弾倉が空になるまで、連射した。
撃つ直前。
ネウロン人の顔が、つらそうに歪んだ。
『ごめん、ロッカ…………』
聞こえない。
聞こえない聞こえない聞こえない……!
なにも聞こえない! 通信がうるさい! 銃声がうるさい!!
アレは、獣だ!! テロリストだ!!
俺達の敵だ! 獣が……人語を喋るなっ……!!
『あーッ!! あ~~~~ッ!!』
『よ…………よしっ、いいぞ。それで……いい』
『部隊長、後処理は……。このままじゃ、委員会に……』
『■■■■、貴様の責任だ!!』
責任を取れ、と言われた。
急速に冷えていく頭が、「責任」を喜んだ。
贖罪の機会が与えられた。
だが、命じられたのはそんなものではなく――。
『■■■■、化け物の群れを連れてこい!』
『…………』
『奴らに、共食いさせるんだ! 死体を処理させろ!』
『…………はい』
『いいか!? 貴様ら、この事は他言無用だからな!? 誰か1人でも情報を漏らせば……全員……全員、委員会に裁かれるんだからな!?』
『…………』




