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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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それぞれの道、それぞれの選択



■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:憲兵のパイプ


「僕は交国軍に戻ります」


 ここまで皆と一緒に逃げたのは、解放軍から逃げるためだ。


 ここから先は、同じ道は歩けない。


「パイプ、交国は俺達を騙していたんだ。戻ったところで……」


「交国政府も、オレ達を騙してたのは認めてんだぞ?」


 ラートやレンズの説得に対し、「政府が認めたという話すら、解放軍の偽情報って可能性もある」と返す。


「仮に事実だったとしても、それでも僕は交国軍に戻るよ」


「そんなこと言うなよ……。一緒に行こうぜ」


 駄目だよ。


 僕とキミ達とでは、立場が違う。


 僕は皆を騙して、星屑隊に隠れていた憲兵だ。……憲兵としての仕事が間違っていたとは思わないけど、僕が皆についていくべきではない。


 一緒に逃げていたら、ついつい魔が差して交国政府にキミ達を突き出すかもしれない。交国のためには、そうする方が正しいと考えて――。


「交国は、僕達(オーク)に嘘をついてきたのかもしれない。けど、人類の敵であるプレーローマと戦っているのは揺るぎない事実だ」


「…………」


「僕は人類を救いたいんだ。そのためなら利用されたっていい。交国軍の兵士として、最後までプレーローマと戦いたいんだ」


 憲兵の仕事も、間接的に対プレーローマのためになっている。


 まあ……本当に憲兵の仕事をするのであれば、キミ達の事も突き出すべきなんだろうけど……それはしたくない。ラート達の気持ちも一応、理解できるし。


 ラートは「けどよ!」と叫びつつ、言葉を続けようとしたけど――。


「パイプの判断も間違っているとは言い切れない」


 隊長が割り込んできて、さらに言葉を続けた。


「交国が対プレーローマのために力を入れているのは事実だ。それゆえに我々を軍事利用していたわけだが――」


 隊長が僕の顔を見つめてくる。


 ……貴方は憲兵なのに、そっち側に行くんですね。


 どういうつもりなのか……よくわからないけど……。


「交国軍に戻っても、茨の道を進む事になるぞ」


「構いません」


 最終確認のような隊長の言葉に頷く。


 覚悟している。


 オークで、そのうえ解放軍の捕虜になっていた僕が……交国軍に戻っても疑いの目で見られるかもしれない。


 軍事委員会の立場なら、「コイツは解放軍の考えに賛同してしまったかもしれない」と考えるだろう。


「家族がいなくても、僕には戦友がいます」


 その戦友にはラートやレンズ、そしてバレットも含まれていたんだけど……彼らとはここまでだ。


「守るべき国民もいます。家族が幻だったとしても、僕が大事にしたい存在は……まだ交国にいます。僕はその人達のためにも戦いたいんです」


 誰かがプレーローマと戦う必要がある。


 誰かが戦わないと、人類は滅ぼされる。


 その人類の枠組みの中には、戦友(ラート)達も含まれる。


 キミ達が交国から逃げた後だって、ずっと含まれ続ける。


「パイプ軍曹。アンタが交国軍に戻って、オレ達の事を売らない保証は――」


 そう問いかけてきた隊員に、「絶対に売りません」と返す。


「ただ、その証拠は……用意できません。信じてもらうしかない」


 信じてもらえないなら、ここで射殺してください。


 そう告げる。


 僕は未だに正体を隠している。憲兵という正体を、皆には隠している。皆には……僕を撃つ権利があると思う。


「撃ち殺されても文句は言いません。皆が国を捨てる気持ちもわかるから……」


「クソ真面目ちゃんめ」


 星屑隊の隊員達が、呆れ顔や困り顔を向けてくる。


 けど、銃口を向けてくる人は1人もいなかった。


「マジでどうする? パイプ軍曹以外は皆逃げるわけだが……このままパイプ軍曹だけ軍に戻すってマズくないか?」


「問題あるまい。パイプに逃亡先や、逃亡方法を教えなければいい」


 隊長はそう言った。


 交国もネウロンの地下に地下施設がある事は察している。ただ、完全には把握は出来ていない。


「こういう場所があること自体は把握されていても、これ以上の情報を渡さなければ……我々が軍に捕まる事はそうそうない」


「僕は皆のことを売りません。……けど、拷問や自白剤を飲まされた時、何も情報を漏らさずにいる保証はないので……」


 隊長の言う通り、これ以上の情報を渡さないでください。


 そう頼む。拘束とか目隠しして、その辺に置いていってもらってもいい。


 いや……それだと飢え死にしちゃうかな……?


「クソ真面目な兵士に対して、拷問や自白剤を飲ませるような軍に戻る必要あるかぁ……!? 下手したら殺されるんだぞ……!?」


「あとはパイプ軍曹だけなんだ。いっそのこと……一緒に……」


「ごめん。これが僕の選択なんだ」


 僕はこの道を選ぶ。


 交国政府に処刑されるとしても、今までと同じ道を歩き続ける。


 皆と同じ道は行けないよ。


 交国政府が嘘をついていたとしても……交国が「プレーローマと戦う正義の国家」だと思いたい。僕は……交国の正義を信じたい。


 ただ、交国が全て正しいわけではない。


「交国は過ちを犯している。それが事実なら、僕はそれを正していきたい」


 誰かが不正と戦わなければ、現状は変わらない。


 難しい事だと思う。交国は強大な国家だ。


 けど、今なら……犬塚特佐がいる。


 交国の罪を告発した犬塚特佐が、交国を正してくれるはずだ。犬塚特佐任せにせず、それを手伝っていきたい。


 交国がまともになれば、オークやネウロンのような悲劇はもう起きないはずだ。……誰かが戦わなきゃいけないんだ。


 憲兵として、兵士だけではなく国家の襟も正していきたい。


 たとえ、憲兵でいられなくなったとしても――。


「決意は固いか」


「はい」


「では、一時的に拘束させてくれ。後で必ず解放する」


「了解です」




■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:防人・ラート


 パイプは自ら拘束された。


 オークの秘密が明らかになった後も、ブレずに「交国軍人」の立場を貫く。


 その姿勢に対し、俺達の方が揺り動かされたものの……結局、パイプに続いて「軍に戻る」という選択肢を取る奴は出なかった。


 だから、パイプ以外は「今後の話」を聞く事になった。


「問題はネウロンから脱出する方法だよな? それはアテ、あるんだよな?」


 隊員の1人の問いを皮切りに、ヴィオラに視線が向かった。


 ヴィオラは頷き、「その方法も用意しました」と語った。


「こことは別の場所に、方舟があります。しばらく移動する必要はありますが……殆ど地下列車で移動できるので……」


「その方舟も、真白の魔神ってヤツが大昔に用意していたものか?」


「はい」


 ヴィオラはそう言い、史書官の方をチラリと見た。


 脱走を手伝ってくれたとはいえ、史書官は交国政府との繋がりもある。


 一応、「口外しない」と言っているが、念のため「方舟がどこにあるか?」の詳しい情報を聞かせるつもりはないようだ。


「バフォメットさんが、『今もある』と教えてくださったんです。1000年前の骨董品ですが……なんとか、動くはずです」


「……ホントに動くのか?」


 バフォメットの情報によると、「大きく破損しているわけではない」との事。


「試運転は~……そこまでしてないそうですが」


「おいおいおい……! 大丈夫なのかっ……!?」


「仮に壊れていたとしても、そこの設備があれば何とかなります」


 そう請け負ったヴィオラに対し、皆が安堵の表情を向ける。


 そんな中、呑気に紅茶を飲んでいる史書官(ヤツ)が問いかけてきた。


「ネウロンから逃げた後は? どうするのですか?」


「それは……」


 バフォメットから情報を得ているヴィオラも、「ネウロンの外」のことはわからない。けど、とりあえず逃げる必要があるから逃げる。


 だからヴィオラもそこは言いよどんだが、隊長が「アテはある」と言った。


「ほほう? どこに行くおつもりで?」


「それはまだ言えん。ただ、選択肢の1つとして提示できるはずだ」


「では、私も選択肢を提示しましょう」


 史書官はそう言い、笑みを浮かべながら言葉を続けた。


「<大龍脈>はいかがですか?」


「ビフロスト領に行くって事か?」


「ええ、あそこなら交国軍とはいえ、簡単には手出しできません」


 ビフロストは交国だけではなく、プレーローマ相手にも中立を守っている。


 外交関係はあるし、ビフロストも無敵の組織ではないが……それでもビフロストの領地に入り込んだ人を「売り渡す事はしない」と史書官は請け負った。


「永住権の付与は私の権限では無理ですが、3~6ヶ月程度の滞在許可なら私の方で用意できます」


「短いな……」


「1人ならともかく、これだけの人数ですからね」


 史書官はそう言い、整備長をチラリと見た。


 整備長は「あたしも昔、ビフロストには世話になった事がある」と言った。


「あたしの故郷に交国が侵攻してきた時も、匿ってもらった。まあ最終的に出て行かざるを得なくなったが……大龍脈なら交国も簡単には手出しできない」


「情報も色々入ってきますから、今後の身の振りを考えるのに悪くない避難先だと思いますよ?」


「悪くない選択肢だ」


 整備長だけではなく、隊長もビフロストを認めているようだった。


 ただ、「どうやって大龍脈(ビフロスト)に辿り着くか」という問題はある。


「ネウロンから大龍脈に向かう航路は限られる。交国軍が網を張っていた場合、大龍脈に辿り着く前に捕まる可能性が高い」


「そこはご心配なく。近場で仕事をしていたビフロストの商船があります」


 ビフロストは色んな国や組織と中立関係を結んでいる。


 その関係は武力だけではなく、龍脈灯台や龍脈通信(インフラ)の提供によって成り立っている。ビフロストの商船に手を出せば、交国だろうとインフラの一時凍結などの措置が取られてしまう。


 だから、商船に乗り込めば簡単には手出しされない。


 交国が正式な外交ルートでビフロストを小突きつつ、「脱走兵を引き渡せよ!」と言ってきても、上手く誤魔化す自信はあるらしい。


「私なら、それぐらいの手配なら出来ますよ」


「モロに俺達の脱走手伝ってるけど、大丈夫か?」


「バレなきゃいいんですよ。バレなきゃ」


「史書官って、歴史調査している調査員だろ? 外交問題に発展するようなことを何とかできる権限、ホントにあるのか……?」


 少し心配でそう問いかけると、史書官は「余裕です!」と宣った。


 それだけだと、どうにも心配だったが――。


「ラプラスなら可能だ。交国軍との喧嘩は出来ないが、キミ達を一時的に匿うぐらいは出来るだろう」


「エノクさんがそう言うなら、大丈夫そうだな」


「何で私じゃなくてエノクの言葉を信じるのですか? ねえ」


 とりあえず信じるって言ってんだから、いいじゃねえか――と誤魔化す。


 史書官は唇を尖らし、文句を言いたげにしていた。だが、「まあいいでしょう」と言い、「しかし条件があります」と言ってきた。


「皆さんを助けるのは慈善事業ではなく、情報提供の見返りです」


「その『見返り』になる情報は、私が用意すればいいんですよね?」


 ヴィオラが胸に手を当てながらそう言うと、史書官は頷いて肯定した。


 多次元世界の歴史蒐集を行う<雪の眼>にとって、ヴィオラは実質的な生き証人だ。当事者じゃなくても、1000年前の真白の魔神に関する知識や記憶を持っているから貴重な証言が沢山取れる。


「私の権限でも皆さん全員を3~6ヶ月は大龍脈で匿う事が出来ます。ただの(・・・)脱走兵なら交国も、ビフロストと大喧嘩してまで取り返そうとしたりしないでしょう」


「…………」


「ビフロスト上層部は余所との外交関係を重視しているので、『単なる大龍脈に逃げ込んだ人』ならアレコレ理由つけて突き出すでしょうけどね」


「あんま頼りにならねえじゃねえか……!」


「今回の場合は、ちょっと事情が違う」


 史書官の心配になる発言を補足してきたのは、整備長だった。


 雪の眼にとって、ヴァイオレットという重要な証言者は喉から手が出るほど欲しい。そして、雪の眼はビフロスト上層部を黙らせるだけの権限も持っている。


 だから、ヴァイオレットが無事なら雪の眼は意地でも匿ってくれるらしい。


「ヴァイオレット様の証言次第では、短期間匿う以外のサービス提供も出来ます」


 ビフロストは多方との繋がりを持っている。


 交国でも簡単には手を出せないところに逃がして、移民として受け入れてもらう交渉も出来るらしい。証言の価値次第ではそこまでしてくれるらしい。


「プレーローマへの移民手配もできますよ。人類絶滅派とかオススメです」


「絶対にイヤだ」


 皆もプレーローマ行きはさすがに嫌らしい。死にに行くようなもんだからな。


 史書官は「そこまで悪くないと思うんですけどねぇ」と言ってるが……交国が悪い事してても、それ以上に悪いプレーローマなんか行きたくねえよ……。


「まあ、とにかく、ヴァイオレット様がいるので私もサービスしますよ。先程の脱走手伝いに関しては~……今後も良い関係を築くための無料サービスとしておきます。よく検討して大龍脈に来てくださいね~?」


「は、はい……。検討は、するんですが――」


 ヴィオラが隊長に視線を送った。


 史書官もそれに続く。


 隊長も「ネウロン脱出後のアテ」があるらしいが……一応は部外者の史書官がいるので、それをいま話す気はないらしい。


「…………」


 俺も一応、アテがある……のかな?


 黒水で、俺は黒水守への協力を依頼した。


 黒水守は協力を約束してくれた。


 あの人なら、俺達が交国軍から逃げた後も手を貸してくれるかもしれない。


 でも……あの件はあまり口外するわけにもいかないし、とりあえず伏せておくべきか。現状、黒水守の力を借りなくても脱走できそうだし……。


 あんまり言いふらすと、黒水守の立場を悪くする可能性もある。


「とりあえず、史書官(わたし)の紹介状を渡しておきますね」


「ん? アンタは俺達と一緒に来ないのか?」


 史書官はヴィオラに歩み寄り、電子媒体だけ渡してきた。


 そして俺を見上げつつ、「私はネウロンでの調査が残っているので」と言った。


「もう少し皆さんと一緒にいる予定ですが、ネウロンでの調査に戻る予定です」


「危なくねえか? 交国軍と解放軍の戦闘に巻き込まれるぞ」


「両陣営が争っているから、その混乱に乗じて色々調べられるのですよ」


「あー……なるほど」


「大龍脈についたら別の史書官が迎えに来るので、諸々の証言はそちらにしちゃってくださいな」


「アンタがオレ達から離れた後、交国に売らない保証はあるのか?」


 星屑隊の隊員が疑いの目つきで史書官を見つつ、そう言った。


 史書官はケロリとした様子で「私を信じてもらうしかないですね」と言い放った。皆、史書官を信じ切れないみたいだが――。


「信じてもらえない場合、私はエノクに守ってもらいながら逃げます。あ、その後も私の用意した紹介状を使ってもらって大丈夫ですよ」


「……この数相手に逃げられると思ってんのか?」


「やめとけやめとけ。そこの護衛の兄ちゃん、マジで強えから……」


 そう言い、止めてきたのはレンズだった。


 繊一号から逃げる時、エノクさんが戦っているところを見ていたらしい。


 疑ってたわけじゃないが、エノクさんは護衛としても強いんだな。


 副長が危うい状態だから、出来れば副長が回復するまでついてきて欲しいが……さすがに史書官の調査優先らしい。


 いま診てもらえるだけでも助かります――と礼を言うと、エノクさんは首を横に振り、「気にするな。これもサービスの一環だ」と言い、キャスター先生と共に副長のところへ戻っていった。


 ともかく、俺達は交国軍から脱走する。


「急いで移動したいところだが、ひとまずここで準備を整えよう」


 隊長はそう言い、皆を動かし始めた。


 俺達は交国軍を抜けるから、もう軍の階級は意味ないんだが……それでも皆にとって隊長は隊長のままらしい。


 まあ、俺も同意見だ。


 隊長にリーダー務めてもらった方が、色々と捗るし……頼りになるしな。




■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「…………」


 隊長さんも、このまま逃げるつもりなんだ。


 その事は……純粋に喜ぶべきなのかもしれない。


 けど……事前に聞いていた情報(・・・・・・・)が、どうしても気になる。


 どうしよ……。


「ヴァイオレット」


「あっ! は、はいっ……!」


 黙って隊長さんを見ながら考えていたら、隊長さんに呼ばれた。


 慌てて駆け寄ると、「少し相談したい事がある」と言われた。


「負傷した手は、何とか動くか?」


「はい、何とか。細かい作業は難しいですが……」


 副長さんの手術も参加します――と言ったけど、それは断られた。


 その手でやるのは危ない、と。


 ちょっとした手伝いぐらいは出来るはずだけど……。


「酷使して悪いが、少し頼みたい事がある」


「は、はい……。私に出来る事でしたら、何でも……」


 何だろ?


 副長さんの事じゃ、無いみたいだけど――。





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