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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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楽園はいずこ



■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:星屑隊の隊員


「解放軍からの脱走までは、全員同じ目的。……問題はこっから先」


 史書官の言う通り、俺達に選べる道は2つ。


 交国軍から脱走するか、投降するか。


「チビ達の方に身を寄せた奴らは、交国軍から脱走する気満々……なんだな?」


「そうだよ、悪いかよ」


 脱走派の奴が、不満げに「交国政府は信用できねえ」と言った。


「オレらに存在しない家族や故郷の夢を見せて、騙してたわけだろ?」


「ろくでもねえ! 交国なんてもう、故郷でも何でもねえよっ!」


「そう思って逃げたがるのも、わかるけどさぁ~……」


 交国政府が俺達を騙していたのは事実らしい。


 犬塚特佐が政府を告発して、政府も「オークの秘密」を認めたらしい。


 だから、皆が交国政府を「ろくでもねえ」と言うのもわかる。


 俺だってそう思うもん。


 だけど……。


「ネウロンには、犬塚特佐が来ている。政府を告発した犬塚特佐に保護してもらえたら……交国に戻っても、守ってもらえるんじゃあ……ねえかな?」


「特佐が、オレ達をわざわざ守ってくれるかぁ?」


「告発したってことは、俺達(オーク)に寄り添ったことはしてくれるかもだろ? あの人は、玉帝相手にケンカを売ってんだぜ?」


 交国政府は信用できない。


 けど、犬塚特佐は……交国の英雄は信用できるはずだ。


 交国に戻っても「希望」はあるはずだ。


 ネウロンのチビ達は、ともかく……。


「それに、さ……。交国から逃げてどうするよ? お前ら、交国の外に親戚とか、頼れる友人がいるのか?」


「いるわけねえだろ」


「家族すらいねえのに」


「でも、お前らも交国国内に友人はいるだろ? 大抵、軍関係の奴だと思うけど」


 家族は存在しないとしても、交国にも確かに「人」は存在する。


 頼りになる友達もいるはずだ。軍学校時代の仲間とか……。


 いや、頼りになるかどうかはともかく……友達はいるはずだ。


「そういう奴らと離れて、誰も知り合いのいないところへ……交国の外に飛び出していくって……怖くねえか……?」


「なんだ、ビビってんのか?」


「そりゃあビビるだろ! 敵地で孤立無援になるような話なんだぞ!?」


 多次元世界では、たくさんの争いが起きている。


 交国の支配地域は、まだ治安が良い方だ。交国本土の「故郷」は夢の中の世界だろうと……それでも治安は良かった。


「他国に渡って、そこで幸せになれる保証ってあるのか? 誰も知り合いのいない土地で生きていくより、犬塚特佐や友人を頼って……交国でガマン(・・・)しながら暮らすのも……悪くないかもしれないぜ?」


「軍で、死ぬまでこき使われる可能性があるのに?」


「交国から逃げたら、そこらの国家や組織の戦争や抗争に巻き込まれる可能性もある。逃げても逃げなくても、どっちにしろ危険だろ?」


 むしろ、国外の方が危険かもしれない。


 交国は、今後良くなっていく可能性(・・・)がある。


 犬塚特佐を信じてついていけば、ひょっとすると――。




■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:星屑隊隊長


「交国に戻るのも、1つの手だ」


 犬塚特佐の告発は、茶番劇だろうがな――という話は伏せつつ、そう言う。


 巫術師達はともかく、星屑隊の隊員達は交国に戻るのも1つの手だ。


 犬塚特佐は玉帝の駒だが、「我の強い駒」だ。


 そして、あの人は……善人でもある。


 私の敵だが……しかし、人間としては信頼のおける御方だ。


我々(オーク)は確かに交国政府によって軍事利用されていたのだろう。それは今後も続く可能性はあるが、改善の可能性もある」


「犬塚特佐が、交国を変えてくれるんですよねっ……?」


「…………。その可能性もあるが、世論の問題もある」


 玉帝も交国政府も横暴な存在だ。


 だが、国家は国民あってこそのものだ。


 オークの秘密は明らかになった。


 発覚は「玉帝の駒(いぬづか)による告発」だろうと、明らかになった以上……今までのようなオークの軍事利用は不可能になるだろう。


 何らかの「対策」でもない限りは――。


「交国政府は、オークの置かれた環境を改善せざるを得なくなった。完全には改善されないはずだが、それでも『今よりはマシ』な状況になる可能性は十分ある」


 本当にマシになるかは、私もわからん。


 甘い夢を見たままの方が「マシ」だったのかもしれん。


 真実が明らかになったとしても、辛い現実から救われるとは限らん。


 オークの軍事利用が始まった発端は、交国が力を欲したためだ。しかし、その力は「対プレーローマ」のために必要だったものでもある。


 交国のオーク達が甘い夢を見たままの方が……本人達は幸せだったかもしれない。それが人類全体の幸福に繋がったかもしれない。


 真実は優しくない。強いだけで、皆を救ってくれるとは限らない。




■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:星屑隊の隊員


「隊長にそう言ってもらえると、少し……安心します」


「可能性の話を言っただけだ。……交国が良い方向に変わるとは保証できん」


 緩く腕組みをしている隊長は、そう言いながらさらに言葉を続けた。


 脱走は終わり(ゴール)ではなく、あくまで始まり(スタート)


 国家に頼れない状態で、未知の道を進んでいくことになる。


 それは確かに大変なことだ――と、隊長は言った。


 脱走派の連中が、少しそわそわし始める。揺らいでいる。


「交国のオークが置かれていた環境は、改善に向かう可能性が高い。……だが、特別行動兵に関しては大して変わらないだろう」


「…………」


「むしろ、オークを軍事利用出来なくなった分、そのしわ寄せは特別行動兵に向かうかもしれん。交国政府に適当な『罪』をでっち上げられ、大衆も『罪人は厳しく扱っても仕方ない』と言い始めるかもしれん」


 隊長の言葉を聞いたチビ達の表情が、不安げなものになっていく。


 ヴァイオレットちゃんも……表情を硬くしている。


 ネウロン組(そっち)は決意が余計に固まっちゃったかなぁ……。


 まあ、そっちはマジで逃げるしかなさそうだもんな……。


 説得、無理そうかな。


 ……お前らを見逃すのは、ちょっとだけマズいんだけどなー……。


 交国軍に戻った時、「お前ら、脱走兵を見逃したの?」と責められるかも?


 けど、それはこっちの都合だよな……。


「交国軍に戻る奴らにとって、オレ達を見逃すってことは……脱走兵を見逃すってことだ。それはマズいかもしれないが……何とか見逃してほしい」


 他の脱走派の連中と違い、レンズ軍曹とラート軍曹は決意を固めているみたいだ。チビ達に寄り添い続けている。


「オレ達は交国軍を裏切るが、星屑隊の仲間と争いたくない」


「俺達だって同じですよ~……。なあ、皆……」


 周囲の隊員に問いかけると、皆も肯定してくれた。


 ここにいる皆で争っても、そこまで良いことはない。


 脱走兵を見逃すのはマズいが――。


「俺達だって、チビ達やヴァイオレットちゃんが交国に戻るのは……『やばい』ってことは理解してます。軍曹達とも戦いたくないですよ」


「助かる……」


「つーか、戦って勝てる気しないし~……」


 念のため、所持していた銃を地面に置く。


 こんなもん、今は無い方がいい。


「魔が差す可能性もあるんで、武器は脱走派で管理してください」


「スマン……。そうさせてくれると、正直助かるわ」


「……ちなみに、隊長は~……」


 ほんのり期待しつつ、隊長の意志を問う。


 隊長は、俺達の中間地点にいる。


 けど、さっきの物言いは俺達寄りの気がしたんだが――。


「私も、交国の蛮行に対して思うところ(・・・・・)がある」


「…………」


「拒否されないのであれば、私も脱走に参加させてほしい」


「えっ!? いっ、いいんですか~……?」


 ヴァイオレットちゃんが――めちゃくちゃビックリした様子で――声を上げ、ワタワタしながら隊長を見ている。


 隊長も、ヴァイオレットちゃんの方を見ている。


「た…………隊長。交国軍を抜ける気っスか……?」


「意外か?」


「ええ、かなり……! 解放軍にも入ってなかったのに……」


「彼らの主張も、ある程度は理解できる。私もオークだからな」


 だが、それでも交国軍から逃げる。


 交国が変わる可能性があっても、それでも脱走を続けるつもりらしい。


 そっか。


 そうなのか。


 ……それなら、まあ……。


「ええっと……。俺も、隊長について行きたいですっ……!」


「「「はぁっ!?」」」


「おまっ……! まるで『交国軍戻る派のリーダー』みたいなツラして話を進めてたのに、隊長について脱走する気なんかいっ……!」


「だってさぁ……! 隊長は頼りになるじゃんっ!? 遠くの犬塚特佐(えいゆう)より、近くの頼りがいある隊長の方が……いいじゃんっ」


 そこらの「友人」より、隊長の方がよっぽど頼りになる。


 隊長が脱走するって言ってんだから、ついて行きたいよ。


「脱走するの心配だけど……交国戻っても~……俺達、結局は『交国軍』で働くしかないだろ? それ以外の生き方、教わらなかったし……」


「…………」


「隊長は、交国から逃げた後のアテとか、計画とか……あるんですよね?」


「多少はな」


「お……俺も、ついていっていいですかぁ~……?」


 主体性なくて情けないのは重々承知で、おずおずと問いかける。


 隊長は「私は構わん」と言った。


 ヴァイオレットちゃんも、「どうぞどうぞっ」と言ってくれた。


 交国に戻る派の皆に対し、「いやぁ、悪いねぇ~……」と謝りつつ、そそくさと脱走派の方に近寄る。すると――。


「ズルいぞ、お前っ……!」


「隊長が行くなら、オレ達も行きますよぅっ! 連れてってくださいっ!」


 脱走派の面々が、どんどん増えていく。


 チビ達への貸しや、交国政府への不信。隊長への信頼とか……純粋にチビ達が心配とか……皆それぞれの理由で動き始めている。


 俺のような主体性のない奴もいるけど!


「ええっと……お前らと一緒に逃げていいか?」


 一応、チビ達にも聞いておく。


 ちょっと気まずい思いをしつつ聞くと、チビ達は3人揃って笑って、「もちろんっ!」と言ってくれた。……その笑顔がバツの悪さをさらに強化してくれた。


 多分、ここにスアルタウがいたら……あの子も笑ってくれたんだろうな。


 あんな良い子が死んで……俺みたいな主体性の無いクズが生きてるとか、世界って……マジで不公平だなぁ……と思った。


 意識不明で意見の聞けない副長はさておき、星屑隊の隊員は殆どが「脱走しよう」という意見で固まった。


 ただ、1人だけは……ハッキリと別の判断をするようだった。




■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:防人・ラート


「パイプ……」


「…………」


 皆が脱走派になってくれたが、パイプは俺達から距離を取ったままだ。


 パイプは迷っている様子で目を伏せていたが――。


「……ごめん、僕は交国を……故郷を信じたい」


 パイプはそう言い、「交国軍に戻るよ」と宣言した。





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