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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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渡りに船



■title:ネウロン地下・大防衛網にて

■from:防人・ラート


「全員、無傷とはいかなかったが……またお前達と会えて喜ばしく思う」


 隊長が無表情でそう言うと、皆が苦笑した。


 中には「嬉しそうな顔してくださいよ~」と軽口を叩く隊員もいて、隊長が少しだけ困った様子で「表情筋が死んでいる。無理を言うな」と返した。


 技術少尉の姿はない。


 あの人……結局、繊一号に連れてこられた後、どうなったんだろうな……。


「…………」


 星屑隊は2人を除いて、全員ここにいる。


 逃げる途中に負傷して、少々骨折した奴もいるようだったが……そういう奴らは手当してもらい、この場に顔を見せている。


 ただ、キャスター先生と副長の姿はない。


 先生は負傷していなかったはず。


 副長も、地下には運び込まれた。


 多分、副長は倒れたままで……先生はそれを診ているんだろう。


「特別行動兵の諸君も――いや、もう特別行動兵ではないな」


 隊長はそう言いつつ、子供達の方を見た。


「私達と同じ脱走兵か」


「うん。でも、『フェルグス脱走兵』とか呼ぶのは勘弁してほしいかな」


「当然だ。フェルグス…………君、か? 君付けがいいか?」


 隊長がフェルグスにそう返すと、フェルグスは微妙に嫌そうな顔して、「呼び捨てでいいっス……」「その呼び方、くすぐったい」と言い、皆に笑われた。


 フェルグス達はもう、特別行動兵じゃない。


 交国の言いなりにならずに済む。……ただ、任務を終えて解放されたわけじゃない。今後も危険は多そうだが……それでも、今は「自由」になった。


「巫術師であるキミ達と、バレットとレンズが副長を助け出してくれたのだったな。彼に代わって感謝する」


 隊長は少し頭を下げた後、皆を見渡しながら言葉を続けた。


「解放軍の兵士として積極的に動いていた副長に対し、思うところがある者も多いだろう。だが、彼も連れて逃げるのを許してほしい」


「それはまあ、いいんですけどね」


「隊長がそう仰るなら」


「解放軍はともかく、副長に対して……特別に恨みとかないですしね」


 隊長は、星屑隊の隊員達の言葉を聞き届けた後、第8の面々を見た。


 ヴィオラも子供達も、異議は無いらしい。


「副長、解放軍側の話ばかりしてたけど……それでも他の兵士と比べたら、オレ達のこと気遣ってくれてたし……」


「副長ちゃん、レンズちゃんのこと守ってくれたしっ!」


 ロッカが頭を掻きつつ口を開き、グローニャも笑顔で擁護してくれた。


 グローニャは隣にいたレンズの身体にそっと触りつつ、「副長ちゃんも、レンズちゃんも……他の皆も怪我は大丈夫なのん?」と言った。


 隊長曰く、レンズや他の皆は大丈夫らしい。


 とりあえず命に別状は無い。安静にしておくべきだが、無茶をしなければ直ぐにどうこうなる状態ではない――と教えてくれた。


「まあ、仮に死にそうになったら、お前らからこっそり離れてポックリ逝くよ」


「レンズちゃんっ! そういうヤなこと言わないでっ……!!」


 レンズが笑えない冗談を言い、グローニャがメチャクチャキレた。


 皆も「そうだそうだ」とグローニャを応援し、立場のないレンズは「わ、悪かったって……」と漏らした。


「まあ、オレは何とか大丈夫っぽいが……副長は~…………」


「予断を許さない状況だ」


 そう言ったのは、簡易手術着を着たエノクさんだった。


 キャスター先生と共に、副長の手術を行っていたらしい。


「常人なら、もう死んでいる。しかし彼は交国のオークだ」


 丈夫な身体で、痛覚も無いから何とか持っているらしい。


 交国を憎んでいる副長が、交国の肉体改造(やったこと)の影響で無事なのは……皮肉なものを感じた。いや、今は純粋に喜ぶべきだな。


 ただ、全身を銃弾で撃たれたため、エノクさんでも「絶対に大丈夫」とは請け負えないらしい。キャスター先生も同意見みたいだ。


「彼は交国軍に投降し、もっと良い環境で療養するべきかもしれない。問題は、解放軍幹部とも付き合いのある彼がそれを許されるかどうかだが」


「…………。おそらく、難しいだろう」


 エノクさんの意見に対し、隊長が言葉を返した。


 副長は一応、解放軍幹部ではないが……幹部のドライバ直属の部下だった。交国側も丁重には扱ってくれないだろう。


 解放軍も、大怪我を負っている副長を受け入れる余裕があるとは思えない。……そもそも副長は解放軍に撃たれたんだから、助けてもらえないだろう。


 となると、オレ達と一緒に逃げるしかない。


「彼は、まだ意識を保っている間にこう言った。『オレだけ置き去りにして、出来るだけ遠くに行ってほしい』と言っていた」


「…………」


 巫術師(こどもたち)の心配したんだろうか。


 副長が皆に危害を加えたくないと思っていても……死んじまった場合、子供達はその死を感じ取ってしまう。


「副長も、オレ達と一緒に逃げるべきだ。オレ、副長のことおんぶしてでも連れて行くぞ。……死なせたくねえもんっ」


 フェルグスは義手で腕組みしつつ、そう言った。


 言って、唇をキュッと結んでいる。


 隊長も「可能な限り連れていこう」と言ってくれた。


「しかし皆さん、大変な状況ですねえ……」


 そう言ったのは、のほほんと紅茶を飲んでいた史書官(ラプラス)だった。


 皆が治療を受けたり、物資を確認しているうちに、自分で持って来た紅茶を淹れて飲み始めたらしい。


「交国軍はネウロンに到達しました。このまま解放軍を蹴散らして回るでしょう。貴女達が選べる道は、交国軍に投降するか逃げ続けるかの2つです」


「…………」


「少なくとも、ヴァイオレット様達は逃げる予定なんですよね?」


 史書官がそう問うと、ヴィオラはコクンと頷いた。


 子供達の肩を抱きつつ、肯定した。


「私は……交国政府を信用できません。交国の支配下に戻っても、この子達は都合良く使われるか……もっと酷い目に遭うかもしれません」


「俺もヴィオラの言う通りだと思う。……俺も交国軍から逃げる」


「オレもな。付き合うよ」


 俺とレンズがヴィオラに続いてそう言うと、隊員の中から「連れてってほしいなぁ~……」と手を上げる奴らがチラホラ現れた。


「1人で脱走とか無理だけど、皆でやったら何とかなるかもだし……」


「そういう打算もあるけど、貸しもあるしな」


「貸し?」


「俺達が解放軍から逃げ切れたのは、ガキ共の頑張りもあったからだろ」


 隊員の1人がそう言い、「ガキ共が来てくれなきゃ、危なかった」と言った。


「ロッカとか、結構危ういところを助けてくれただろ?」


「さっきはありがとな。車を直してくれねえと、危ないとこだった」


「えっ、いやっ、スゲー雑な直し方で~……。それに、よくよく考えてみたら、皆を機兵に乗せて運んだ方が早かったかも……」


「それだとお前が戦闘に参加できなくて、ラート軍曹達の負担が増えてた。お前さんの判断は正しかったよ。ありがとな」


「うんうん。貸しは返さないとダメだな」


「貸しなんてねーよ! 星屑隊の皆も、前に繊一号から脱出する手伝いしてくれたじゃんっ……!」


「その後、副長の罠にホイホイかかっちまったけどな~……」


「繊三号の時の貸しもあるからなぁ」


「それも休暇の時に返してもらってる~……!」


 お互いに貸し借りの話をしばししたが、脱走派の隊員達は苦笑しながら「どっちにしろ『逃げたい』と思ってたんだ」と言った。


「だから、渡りに船の話なんだ。俺達もついていっていいか?」


「どうぞどうぞ、歓迎しますっ……!」


 ヴィオラがそう言うと、脱走派の隊員達がこっちに近づいてきた。


 ただ、それは全員ではなかった。


 全員が脱走を目指すわけじゃない。


「このまま……逃げちまっていいものなのかな?」


 隊員の1人が、脱走派(おれたち)を見つつ、言葉を続けた。




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