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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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トモダチの輪



■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:崖っぷちのドライバ少将


「ひぃ、ひぃっ……!」


 <曙>から命からがら脱出する。


 犬塚銀がネウロンに来るなんて、聞いてない!


 巫術師共に「奴を殺せ!」と命じたものの、全員、返り討ちにあった。


 もう無理だ! 犬塚銀の<白瑛>に勝てるわけないっ!


「少将、どうしますかっ……!?」


「へ、兵士共に繊一号から逃げるよう命じろっ!」


 皆で一斉に逃げるしかない!


 犬塚銀は強いが、甘い男だ!


 一斉に逃げた兵士共に紛れて逃げ出せば、町から脱出できるかもしれない。


 木っ端の兵士共に紛れて逃げて……なんとか、第二拠点へ――。


「そういえばイヌガラシは!? 奴と泥縄商事社員はどこに……!?」


「同志イヌガラシは行方不明です。他の泥縄商事社員も、姿を消しています……」


「戦闘に巻き込まれて死んだのか、あるいは――」


「あのゴキブリ共が、そう簡単に死ぬかっ……!」


 奴ら、旗色が悪くなったからさっさと逃げたな!?


 くそっ! 泥縄商事の支援が受けられないと、物資確保が難しくなる!


 計画は当初から失敗していた。


 交国軍の刃は、僕らの喉元に突きつけられている。


 ブロセリアンド解放軍は、もうお終いだっ!


 それでも何とか、僕は生き延びないと……! 兵士共を囮に――。


「少将! 車両の準備が出来ました! ただ、繊一号の出入口はどこも混雑しており……途中から、徒歩で逃げる必要も――」


「繊一号から出て20キロ先に、輸送機を回しておきました」


「とにかく逃げよう! よくやった! お前達も来いっ!」


「いえっ! 殿として残りますっ!」


 車の手配に行っていた兵士が、敬礼しながら殊勝なことを言いだした。


 お前如きが殿としての役目を果たせるとは思えないけど、どうでもいい! 僕が逃げられるならどうでもいい! 勝手に頑張って勝手に死ね!!


「うんうんっ! がんばれ! 頑張って僕を守ってね!?」


「最後に、握手(・・)していただけますか!?」


「あぁ? えっ? い、いいけどっ……」


 サッと差し伸べられた手を、咄嗟に取る。


「――――?」


 なんか、いま、チクッとする感覚が……した、ような……?


「あっ、それと通信が入ってます!」


「う、うん……」


 通信してる場合じゃないけど、咄嗟に通信機を受け取る。


 通信先の声に耳を傾けると――。


『えと、えっと、武器を捨てて降伏してっ!』


「…………?」


『オジさんは、解放軍のエラい人なんでしょ? 全員に命令してあげて? 危ない事しちゃ……ダメだよ~……! 逃げるのも、ダメっ』


 通信機から、幼い子供の声が聞こえる。


 不思議と苛つかない。


 それどころか、強い親しみ(・・・)を感じる。


 知らない声なのに、何故か……親友の声のように感じる。


「誰キミ? この状況で……なに言ってんの?」


『言うこと、聞いてくれないの……?』


「えぇっ……? うん、まあ……」


 親友の頼みだろうと、知ったこっちゃない。


 僕は自分が一番大事だし――。


『あれっ? あれぇっ? この人、カペル(・・・)の言う事聞いてくれないっ……! 犬塚特佐(・・・・)ぁ~……! ど、どーしよー……!?』


『そりゃ相手が悪いんだ、カペル。お前は悪くない! 薄情な奴には、お前の力は効きにくいからなぁ~……』


「――――」


 何で、通信に犬塚特佐が割り込んできてんだ?


『その辺の全員に命令(おねがい)してみな? 解放軍幹部を取り押さえろって』


『わかった!』


「…………!」


 通信機を投げ捨てる。


 地面に転がった通信機から、舌っ足らずな声で「その人(ドライバ)を捕まえて~……!」と聞こえてきた。なんだ。なんなんだ、コイツ……!


 なんで、犬塚特佐と親しげに話して――。


「…………」


「えっ!? なにっ!? なんで僕を掴んでくるの!?」


 通信機を渡してきた奴が、僕の腕をギュゥッ……! と掴んできた。


 骨を砕きそうな勢いで……やけに真面目な表情で――。


「いや、だって、大親友(・・・)の頼みですから!」


「はぁっ……!?」


「皆も手伝ってくれ! 大親友(カペル)の願いを叶えるんだぁっ!!」


「…………!?」


 周りの兵士達が殺到してきた。


 解放軍の兵士なのに、叫びながら幹部(ぼく)に掴みかかってきた。


 クスリでもキメたみたいに掴みかかってきて、僕を引きずり倒し――――。




■title:<繊一号>近辺の海中にて

■from:工作員のイヌガラシ


「やれやれ……。もうムチャクチャだよ……」


 犬塚銀の襲来した繊一号から脱出する。


 方舟を潜水艦のように使い、海中を進んで町から距離を取る。


 解放軍はもうダメだ。


 バフォメットが敗北し、相手に犬塚銀がいる以上、現状の戦力で立ち向かうのは不可能だ。……ブロセリアンド解放軍は、もう終わりだ。


「手間暇かけて火種を育ててやったのに……。交国政府め……!」


 解放軍の蜂起にはかなりのリソースを割いていたが、告発も失敗した。


 オークの秘密という問題は燃え始めたが、今のところは交国政府が火をコントロールしている。少なくとも、今のところはコントロールしている。


 解放軍の戦力が一番揃っていたネウロンも……中枢の<繊一号>を叩かれた。あそこに犬塚銀が現れた以上、直ぐに制圧されてしまうだろう。


 今回の工作は失敗した。


 だが、生きていれば必ず「次」がある。


 必ず、次のチャンスが巡ってくる。


「今回は……負けを認めてやろう。……今回はな」




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