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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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英雄乱舞



■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:防人・ラート


「犬塚特佐が来たのか!? 1人で……!?」


 白瑛が<曙>を蹴りで(・・・)落下させ、艦橋に攻撃を加えるのが見えた。


 あの機体。あの動き。犬塚特佐のモノだ。


『ブロセリアンド解放軍! 大人しく投降しろ! お前達の負けだ!』


 曙を足蹴にした白瑛から、犬塚特佐が降伏勧告を行っている。


 敵も呆気に取られ、犬塚特佐の方を見ていたが――。


「あっ……!」


 犬塚特佐に対する攻撃命令が出たのか、レギンレイヴ達が攻撃を開始した。


 俺達の近くにいたレギンレイヴは、相変わらずこっちに襲いかかってくるが――遠くから射撃してきたり、まだ基地にいた機体は特佐に向かっていく。


 その全てを巫術師が遠隔操作しているはずだ。


 いくら犬塚特佐でも、慣れない巫術師相手は――。


「犬塚特佐! 敵機兵との接近戦は避けてください! 巫術で機兵を奪われたら終わりですよ!!」


 特佐は味方――ってわけじゃないが、つい、警告してしまう。


 犬塚特佐には個人的な恩義がある。出来れば助けに行きたいが……何もかも助ける余裕はない! 子供達と星屑隊の仲間を優先させてもらう。


『ラートか!? 良かった、お前、無事だったのか!』


「っ…………」


『ちょっと待ってろ! 直ぐにこいつらを倒して、そっちに行くから!』


 俺は交国軍からも脱走する。特佐にとって、俺は敵のはずだ。


 だが犬塚特佐はそれを知らないから、いつも通りの親しげな声をかけてきた。


 そして、洗練された機兵捌きを見せ始めた。




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:英雄・犬塚


「ラートが戦闘中とは、なかなか良いところに来たなっ……!」


 生きてて嬉しいうえに、アイツの戦闘を生で見ることが出来るとは!


 じっくり観戦したいところだが――。


「レギンレイヴか。情報通りだな」


 ラート達と戦っていたと思しき機体だけではなく、基地内で動き出した奴もいる。ラートの機兵を倒すため出撃した奴らだろう。


「ざっと30機、ってとこか」


 ネウロン内に潜伏していた情報部の話通りだ。


 ブロセリアンド解放軍は泥縄商事からレギンレイヴを――プレーローマの機兵を仕入れたらしいが、出処はおそらく……。


「とりあえず蹴散らすか。ラート達を助けるためにも……!」


 情報によると、解放軍のレギンレイヴは全て遠隔操作されている。


 それも、巫術とかいう術式を使って。


 それなら……示威のために全部ブッ壊しても、死人は出ねえだろッ……!




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:防人・ラート


「特佐……!」


 基地に現れた犬塚特佐の<白瑛>に対し、レギンレイヴの群れが襲いかかる。


 遅れて出撃しようとしていた奴らが、一番最初に戦闘を開始した。


 16機のレギンレイヴが横並びになり、それぞれ射撃を開始したが――。


『ハァ? なんだァ、テメエら……! 素人みてえな射撃しやがって!!』


 犬塚特佐は最小限の動作で弾丸を回避する。


 あるいは、生成した剣で切り払っている。


 レギンレイヴだけではなく、基地にあった砲塔も攻撃を行っているが――犬塚特佐は全ての攻撃をくぐり抜けていく。


 氷上を滑るように、凄まじい速度で敵機に接近戦(・・・)を仕掛けていく。


「特佐! 接近戦は……! ぐッ……!?」


『まあ見てろ! 巫術とやらは、俺には効かねえよ(・・・・・)ッ!』


 俺に斬りかかってきた敵機の攻撃を受けつつ、特佐の言葉を聞く。


 巫術が効かないって、どういう――。


 俺が敵の対処にモタついているうちに、犬塚特佐はレギンレイヴの群れに突っ込み、斬りかかった。


 レギンレイヴ達も銃を捨て、接近戦用の装備を生成し始めたが――遅い。


 白瑛はすれ違いざまに数度、剣を振った。指揮者の指揮棒のように自信たっぷりに振るい、4機の機兵を破壊した。


 脚部関節。両腕関節。装甲の弱い場所を素早く切り裂き、最後の1機は首を切り飛ばし――納刀するように――胴体に剣を叩き込んだ。


 攻撃を受けた敵機が倒れ、あるいは爆発する中、無事な機兵が泡を食って散開していく。一度距離を取り、四方八方から白瑛を襲おうとしたようだが――。


『――――』


 白瑛が両手で何かを投げた。


 地上を走行し、移動していたレギンレイヴの群れが立て続けに転倒(・・)する。


 なんだ。何かを投げたのか?


 流体装甲で作った短剣(ナイフ)か?


 まさか、それを投げて敵機の関節をまとめて破壊したのか……!?




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:英雄・犬塚


「悪くない動きだが、メッキが剥がれてんぞ巫術師(しろうと)共!」


 流体装甲製の短剣を6本同時に投じる。


 慌てて逃げようとした敵機の関節に向け、投じる。


 関節に突き立った短剣が動きを阻害し、敵機が次々転んでいく。


 射撃能力は素人。接近戦の動きはまあまあだが、俺がちょっと突っ込んできただけで慌てて距離を取ったのは全然ダメだ! そこは攻めてこいよ!


 こっちは長物(つるぎ)をテメエらの味方に突き立てて放棄してやったんだ。単純構造で小さな短剣程度なら瞬時に作れるが、長剣や槍は生成までもう少し時間かかるんだから、それ作る前に距離詰めてこいよ……!


 その判断ミスで好機を失い、機体も失っていくんだよ!


「得意の巫術(てじな)はどうした!? 下手なダンス踊ってる場合か!?」


 基地の砲塔や、敵機の射撃を回避しつつ移動する。


 砲塔は大した驚異じゃない。


 繊一号にあった砲塔の位置は把握しているし、斜角と弾速も頭に入っている。ここは交国軍の基地だ。大改造していない限り、その情報(スペック)は労せず手に入る。目をつぶっていても回避可能な賑やかしだ。


 レギンレイヴは逆鱗より高性能だが、使っているのが素人で――。


「俺が相手じゃ、分が悪すぎるぞッ……!!」


 1機、2機と破壊する。


 両手に生成した槍をすれ違いざまに刺し、混沌機関を刺し貫く。


 俺が何年、プレーローマと殺し合ってると思ってる。


 レギンレイヴなんざ、見飽きてんだよ!!


「跳ね回るしか能のない小僧共! さっさと降伏したらどうだァッ!?」


『うるさいっ! くたばれッ! 交国軍ッ!!』


 斬りかかってきたレギンレイヴの攻撃を回転回避しつつ、足払いを仕掛ける。


 敵機兵の動きは――巫術師の動きは――神経接続式の動きに近い。


 だが、まだまだだ。……鍛えたら面白いことになりそうだがな!




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:狙撃手のレンズ


「犬塚特佐が来てんのか……!?」


「来てるの!?」


 そりゃ是非みたい。


 キャスター先生に怒られつつ、パイプと一緒に来た道を戻って地上(・・)に戻る。犬塚特佐の戦闘は観戦チケットなんて売ってないしな……!


「大立ち回りやってんな……!」


 基地でレギンレイヴ部隊相手に戦闘しているが、既にレギンレイヴがゴロゴロと地面に転がっている。腕や足を切り飛ばされたり、胴体に一撃を受けている。


 犬塚特佐の操る白瑛は敵機兵の攻撃どころか、他の攻撃も全て回避していく。身体中に目がついていたとしても、あそこまで回避するのは普通無理だ。


 やっぱり、交国の英雄は本物だ。


 交国政府は嘘だらけだとしても、あの人は本物の――。


「当たった!! 犬塚特佐……!」


 身を乗り出しながら観戦していたパイプが叫ぶ。


 確かに当たった。


 白瑛が被弾した。


 被弾、したんだが――。


「いや、今の、自分で当たりに行ったぞ……?」


 回避行動を取るまでもない攻撃だった。


 それなのに、特佐は機兵の腕を動かし、その攻撃を――誘導弾を掴んだ。


 爆風の中から現れた白瑛は、さすがに指ぐらい壊れたと思ったが――。


「無傷じゃねえか! 噂には聞いてたが、どんだけ硬いんだ……!?」




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:英雄・犬塚


「あっぶねえッ……!!」


 俺の動きも悪いが、敵はもっと悪い!


 さっきの誘導弾、市街地に(・・・・)向かってた(・・・・・)


 町には何の罪もない住人がいるはずだ。


 罪があったとしても、そりゃあ解放軍(てめえら)の仲間ってことだ。


 どっちにしろ、狙うもんじゃねえだろッ……!!


「ド下手くその素人が……! 誘導弾すらまともに使えねえのかッ!?」


『ひッ……?!』


 襲いかかってくるレギンレイヴ達に対し、蹴る殴る等の暴行を加えて撃退。


 ちょっと邪魔だ。お前らは後!!


「お前か!? お前かお前かお前かお前だなーーーーッ!?」


 ド下手くそ誘導弾使い(レギンレイヴ)に、白瑛の鉄拳をお見舞いする。


 加速を乗せた一撃。だがまだ倒せないし、一撃で終わらせてやる気はない。


 鉄拳を連続で振るい、躾をしてやる。


「テメエら! おもしれえ術式! 使えるくせにッ!! 身の丈に合わない! レギンレイヴ(おもちゃ)で!! 分不相応な犯罪(テロ)やってんじゃねえッ!!」


 情報部の話によると、解放軍の巫術師には若い奴が多い。


 中にはマジモンのガキもいる。……そもそも、そういう奴らを特別行動兵として戦わせていたクソは交国政府で、俺もそれに加担してるようなもんだが……!!


「覚悟はともかく!! 半端な技術で!! 火遊びしてんじゃねえッ!!」


 連打(なぐる)連打(なぐる)連打(なぐる)連打(なぐる)連打(なぐる)連打(なぐる)連打(なぐる)


 敵機に転倒を許さず、殴りつけまくる。


 膝を折りそうになったら、下方からアッパー放って無理矢理立たせる。


 いつの間にか、ド下手くそ誘導弾使いのレギンレイヴは動かなくなっていた。クソが……! 怖くなって遠隔操作解除して逃げやがったな……!?


「中身見つけたら、尻をハリセンで叩いてやる……!!」


『死ねぇッ! 交国軍ッ!!』


 背後から斬りかかってきた機兵2機の攻撃を、両手で受ける。


 ほら、受けてやったぜ。


「得意技、使って来いよ」


 憑依強奪(それ)だけが、テメエらの使える必殺技だろ?




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:解放軍の巫術師


『死ねぇッ! 交国軍ッ!!』


 姉さんの仇……!


 仲間と共に斬りかかったが、敵は素手に剣を受け止めてきた。


 けど、そりゃ悪手だぜッ!


『憑依してや――――』


『おい、コイツ……!?』


『――――』


 なんでだ?


 こいつ、ただの交国軍人だろ?


 ネウロン人ですらない。


 それなのに――。


『おいおい。得意の憑依は、まだ仕掛けてこないのか?』


『なんだコイツ……! 憑依できない(・・・・・・)っ!?』


『どうした? チャンスやってんだから、さっさとやれよ』


 憑依を仕掛けているのに、まったく憑依できない。


 向こうも巫術で押し返している? 違う、そんな感覚じゃない!


 人間の身体に憑依を仕掛けようとした感覚に似ている。


 そもそも、憑依できない物(・・・・・・・)みたいな――。


『そっちの手番は使い切ったな? じゃ、俺の番――』


『『…………!!』』


 剣を捨て、仲間と一緒に後退する。


 けど、遅かった。


 こっちの後退より早く、敵が懐に飛び込んで来た。


 仲間も、俺も、腹を手刀(・・)で貫かれて――。




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:解放軍兵士


「…………」


 飛んできた破片で怪我した腕を押さえつつ、基地内の戦闘を見守る。


 レギンレイヴの群れが、たった1機の機兵に群がる。襲いかかる。


 だが、その全てが子供のようにあしらわれている。


 敵の機兵は全ての攻撃を踊るように回避していく。


「なにが、交国の英雄だ……」


 敵機の手に誘導弾が当たるのが見えた。


 あと、敵機の手に剣や槍が当たり、受け止められるのも見た。


 それどころか、敵機は蹴りや拳も振るっている。


 流体装甲で破損を直せるとしても、殴打は無茶だ。フレームがダメージを受けたら、流体装甲で直すのも不可能なのに――。


「……ただの、バケモノじゃねえか……」


 敵機健在。


 立ち向かったレギンレイヴは、全て基地の地面に倒れ伏している。


 対する敵機は――白瑛は、まったくの無傷。


 フレームにダメージが入っているはずなのに、その様子すらなかった。


 何なんだ、あの機兵。


 …………本当に、機兵……なのか?




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:防人・ラート


『おう、ラート! 助けるつもりだったんだが、助けられちまったな!』


「いや、俺は、何も…………」


 基地に30機以上のレギンレイヴの残骸が転がっている。


 俺達が数機のレギンレイヴに手間取っているうちに、犬塚特佐は無傷で敵機を片付け、快活に笑っていた。


 レギンレイヴ以外にも基地の砲塔が特佐を狙っていたはずだが……攻撃が止んでいる。白旗が揚がっている。


 犬塚特佐による蹂躙は、解放軍兵士達の心も折ったようだ。


『謙遜するなよ! そっちの機兵、全部片付けてくれたじゃねえか! 3機残っているが……そいつはお前の仲間か!? 巫術師の仲間ってことか!』


「…………」


『ま、色々と積もる話があるんだが……お前が無事で良かった! こっち来い! ここに乗り込んできたのは一応俺1人だが、直ぐに他の仲間も――』


「…………」


『……ラート。お前は、交国(おれたち)の敵じゃねえよな?』


「…………。敵ではありませんが、味方でもありません」


 ヴィオラや子供達は、交国には任せておけない。


 俺は、あいつらについていく。


 あいつらを守って、交国から逃げる。


「犬塚特佐。俺は脱走兵に――」


『馬鹿! 正気か!? いや、そういう判断する事情もわかるっ! お前もショックだったよな!? 交国政府の、所業が――』


自分達(オーク)だけの問題じゃないんです。だから俺は交国から――」


 白瑛が繊一号の基地から飛び立った。


 高速飛行を開始し、こっちに迫って――。


『喋るな! 続きはお前を止めてから聞いてやるッ!!』


 両手に剣を生成した白瑛が一気に距離を詰め、斬りかかってきた。


 片方は、何とか止められそうだが――。


『ラートッ!!』


「っ……! すまんっ! フェルグス!!」


 必死に剛剣を1本止め、もう1本はフェルグスに任せる。


 犬塚特佐はそれでも力で押してこようとしたが――空中で後転した。


 後転しつつ、グローニャの射撃を回避した。


『ラート……。頼むから、死んでくれるなよッ!』


 そう言い、犬塚特佐が――白瑛が襲いかかってきた。




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