乱入者
■title:解放軍支配下の<繊一号>にて
■from:弟が大好きだったフェルグス
「また新手かよっ……!」
グローニャがレンズとの連携でレギンレイヴ1機奪った。
けど、まだまだ敵が沢山いる。
何故か<逆鱗>は来ないけど、巫術師が操るレギンレイヴは次から次に飛んでくる。ラート達が倒してもキリがない。
「史書官! 爆撃来るぞ! どっかに退避を――」
銃を持って窓から身を乗り出し、空を見ていたレンズが叫ぶ。
レンズの見ている方向を見ると、レギンレイヴがいた。爆撃しようとしている。
さすがにマズい――と思ったが、爆撃前に敵が爆発した。
グローニャが素早く狙撃し、敵が作った爆弾を破壊したらしい。
その爆発の衝撃に吹っ飛ばされたレギンレイヴが、空中で大きく体勢を崩して降ってくる。けど、別方向にも攻撃を仕掛けてくるレギンレイヴが――。
「向こうも爆撃してくるつもりだ……!」
グローニャに期待したいが、グローニャに敵が襲いかかる。
振り下ろされた剣に対し、グローニャは狙撃銃を棍棒のように振った。迎撃しきれず切られたが、あの程度なら流体装甲で修復できる。
けど、オレ達の方は――。
「対ショック姿勢で凌いでください!」
史書官が叫ぶ中、敵レギンレイヴの放った誘導弾が飛んでくる。
グローニャは動けない。目の前の敵で手一杯。
けど――。
「ラート……!!」
ラートの操る逆鱗が、誘導弾とオレ達の間に割って入ってきた。
機銃で素早く撃ち落としていき、撃ち漏らしは盾で防いでくれた。
近くで起きた爆風で車が大きく揺れたけど、直撃はしてない!
爆発を凌いだラートが何かを投げた。オレ達の上空を飛び越えていくレギンレイヴに対し、ワイヤーを投げ、それで敵を捕まえ――。
『フェルグス! 頼む!!』
「…………!」
ラートの意図を察し、流体甲冑を纏いながら車から飛び出す。
走る。
ラートの操るワイヤーに捕まったレギンレイヴが、空中でつんのめり、近くの広場に頭から落下した。その落下で、大きな土煙と風が巻き起こる。
『…………!!』
風に逆らいつつ、落下したレギンレイヴに迫る。
敵はまだ生きている。
体勢を立て直し、ラートを反撃しようとしているが――。
『やらせるかよッ!!』
流体甲冑で飛びつき、憑依開始。
先客の巫術師を蹴っ飛ばし、レギンレイヴを奪う。
ちょっと頭部が壊れているけど、流体装甲で強引に直す。
直しつつ、地面に落ちていくオレの身体を機兵の手で受け止める。
まだ死ぬわけにはいかない。守るんだ! 今度こそっ……!
『オレの身体、頼む!』
近くまで走ってきた車に身体を託し、戦闘に参加する。
オレ用のレギンレイヴを確保してくれたラートは、グローニャを助けに走っている。敵のレギンレイヴに横合いから斬りかかり、素早く斬り倒した。
敵は倒れながらラートの機兵に手を伸ばし、掴んだけど――。
『…………!?』
ラートの機兵に憑依しようとした敵の魂が、弾かれた。
巫術の眼で、それを目撃する。
初めて見るものじゃない。バフォメットに憑依をしかけた時、オレや皆が憑依を弾かれた時と同じ光景……!
『ラート! お前、敵の憑依を弾かなかったか!?』
『やっぱ、お前にもそう見えるか……!』
ラート機の背中に飛んできた射撃を装甲で防御して庇いつつ、話しかける。
ラートも敵に憑依を仕掛けられている自覚はあるらしい。
『なんか、さっきから敵に憑依されねえんだ! これって弾いてんのか!?』
『多分――――』
敵に向かって煙幕弾を撃ち、少し時間を稼ぐ。
その隙にラート機に触れ、試しに憑依を仕掛けてみたんだが――。
『ああ、やっぱ弾いてる! 試しにオレも仕掛けてみたが、憑依できねえ!』
バフォメット相手に憑依しかけた時に近い。
近いけど、バフォメットの時のような強さは感じなかった。
バフォメットの時は、「バカデカイ岩」を押している感覚に近かったけど……ラートの方は「無理をしたら押せそうな岩」を押している感覚だ。
時間をかけて、憑依に集中したら乗っ取れそうだけど……一瞬じゃ無理だ。
けど、ラートの機兵には魂1つしか観えない。
それは当然、ラートの魂なんだが――。
『どうやって巫術防御してんだ!? ラートは巫術師じゃねえだろ!?』
『俺にもわからん! 詳しい話は、ここを切り抜けた後だ!』
『おっ、おうっ!』
飛びかかってくる敵に、ラートが向かっていく。
大丈夫か――と思ったが、ラートは今まで見た事ない動きで動いている。元々強かったと思うけど……今日のラートの動きは今までと全然違う。
まるで、巫術師みたいな――。
『フェルグス!』
『っと……!!』
飛んできたレギンレイヴの攻撃を受けつつ、もつれ合いながら地面に落ちる。
憑依を仕掛けてきているけど――。
『憑依の力比べやりたいなら、相手を選ぶんだなっ……!!』
逆に押し返し、奪う。
これで1機倒して、1機確保した。
これなら――。
『ロッカ!!』
叫び、呼ぶと――もう来ていた。
史書官の運転する車が、凄い速度でやってきた。
そこからバレット達に付き添われ、ロッカが下りてくる。
奪った機兵をロッカに預け、戦闘に戻る。
まだ皆が逃げ切ってないし、ヴィオラ姉達も――――。
『あっ……!!』
敵の機兵が、オレ達から離れたところに攻撃を仕掛けた。
向こうには、ラートが護送していた星屑隊の隊員が隠れているのに――。
『やめろっ!!』
■title:解放軍支配下の<繊一号>にて
■from:星屑隊隊員
「ぐぅ…………。て、テメーラ、無事かぁ……!?」
横転した車の中で、仲間の体重で押しつぶされつつ呼びかける。
返事はまばらだが、多分……無事のはずだ。
ラート軍曹にチビ達の援護を任せ、こっちはこっちで逃げていたが……飛んできた敵機に車両を蹴り飛ばされた。
一緒に逃げていた他の車両も横転し、足止めを食らっている。
あーあ……。強がってラート軍曹を行かせてなきゃ、こんなことには――。
「……ここまでか」
敵レギンレイヴの影が覆い被さってくる。
諦め、目を閉じる。
……どうせ、オレ達は戻る故郷も待ってる家族もいないし――。
『おい! 皆、大丈夫か!?』
「その声……」
観念していたが、「その時」は来なかった。
ロッカの声が聞こえる。
敵機兵の胴体に剣を突き刺し、押し倒した機兵からロッカの声が聞こえる。
ギリギリのところで助けられたらしい。
車から這い出て礼を言おうとすると――。
「おわっ……!」
『ちょっとガマンしてくれ! 直してみるっ!』
「なお…………。なんだって?」
ロッカの操るレギンレイヴから「どばっ」と流体が吹き出した。
それが雨のように――あるいは触手のように、オレ達の車に落ちてきた。
■title:解放軍支配下の<繊一号>にて
■from:機械に興味津々ロッカ
『敵機兵の相手、頼む!』
ラートとフェルグスとグローニャに、敵の相手を任せる。
星屑隊の皆の車が横転したり、完全にひっくり返っている。
そのうえ、車から油が漏れ出してる。
敵機兵の攻撃で壊されたみたいだ。このままじゃ、皆が死んじまう……!
『まずは油を……!』
地面を流体で覆い、緩く固める。
漏れた油を流体装甲の床で塞ぐ。
次に穴の開いた燃料容器を流体装甲で蓋をする。雑に蓋をしておく。あくまで応急処置! あと少し持てばいい!
『――――』
一時的に車に憑依し、手早く診断する。
あちこちボロボロになってるけど、最低限……走れる状態に戻せればいい!
バレットに教わった整備の知識を頑張って引き出す。
機兵の流体装甲を巫術でこねくり回し、車の破損箇所用の部品を作る。時間ないから、そんな良い物作れねえけど……! これで何とか――――。
『出来た! 行けるはずだ!』
壊れた車の車体も、流体装甲で補強した。
混沌機関から切り離した流体装甲は、そのうち溶けて消えちゃうけど……あと数分持てばいい! それだけあれば、皆も逃げられるはず……!
『何とか走れそうだ! すまん、助かった!』
『気をつけて! オレ達が絶対、守るからっ……!!』
再び走り出した星屑隊の車を守りつつ、敵と戦う。
オレはフェルグスみたいな近接戦闘技術無いし、グローニャみたいな射撃技術も無い。お世辞にも「戦闘が得意」と言えないヘボ巫術師だ。
けど、それでも――。
『やらせねえぞ!』
大楯を作り、敵の攻撃から星屑隊の車を守る。
ヘボ巫術師のオレでも、盾にはなれるぞっ……!
『ぜったい……絶対! 皆で生き残るんだ!!』
皆みたいに出来なくても、オレが出来ることをやるんだ。
バレット達と一緒に……生き残るんだ!
■title:解放軍支配下の<繊一号>にて
■from:防人・ラート
『ラート軍曹! こっちは全員到着しました!』
「皆、無事か!?」
『無事です! 負傷者いますが、大した怪我じゃねえですよっ……!』
『チビ共や、軍曹達のおかげです!』
星屑隊の隊員達が、町中にある脱出予定地点に辿り着いた。
あそこまで辿り着いたなら、一安心だが――。
「隊長、ヴァイオレット! そっちは――」
『もう少し時間がかかる。援護を頼む』
「了解! グローニャ、ロッカ! お前らは脱出予定地点を守ってくれ!」
『リョカ~イ!』
『了解っ!』
「フェルグス! 隊長達の援護に向かうぞ!」
『あいよっ!』
敵の歩兵部隊は、もう機能してない。
多くの解放軍兵士が混乱して逃げ惑っている。こっちを追う余裕は無さそうだ。
けど、巫術師達が操るレギンレイヴはまだまだいる。
俺達を親の仇みたいに襲ってくる。
交国軍人に関しては、間違いとは言い切れないか……!
けど、悪いが負けてやれねえ。死んでやれねえ。
『ラートは無理しすぎるなよ!? 巫術師の身体は先に逃げてるけど、お前はまだ操縦席にいるんだからな!?』
「大丈夫だ! 任せろ!」
『こういう時のお前の「大丈夫」は微妙に不安なんだよぉ~……!』
フェルグスに「信じてくれ」と言おうとした。
言おうとして、その言葉を飲み込む。
「――――」
基地の方で海門が開いている。
解放軍の増援?
いや、違う。
あれは――。
「なんで……。なんで、あの人がいるんだよ……!!」
■title:解放軍鹵獲船<曙>にて
■from:崖っぷちのドライバ少将
「おい、誰だ! 勝手に海門を開いたのは!」
「外部からハッキングを受けています! バックドアを仕掛けられていたようで……! 外部操作によって海門を開かれました!」
基地に開いた海門は小さなものだった。
方舟は通れない程度のものだ。
そこから真っ白い機兵が侵入してきた。
「――――」
血の気が引く。
交国軍人なら、アレが「何」なのかよく知っている。
つい最近、交国本土でも活躍していた特別な機兵。
というか、アレは交国本土にあるはずじゃ……!
「侵入者を攻撃しろ!! 脱走兵など、もうどうでもいいっ!」
方舟を離陸させつつ、命令を飛ばす。
アレはダメだ。あの機兵はダメだ。
界内への侵入を許した時点で、マズい……!
「<白瑛>、来ますッ! <曙>に真っ直ぐ!!」
「迎撃! 止めろぉ!! 誰か! 早く――――」
■title:解放軍支配下の<繊一号>にて
■from:英雄・犬塚
「――――」
離陸を始めていた<曙>に全力加速で突っ込む。
速度を乗せた跳び蹴りをお見舞いし、方舟の体勢を崩して叩き落とす。
流体装甲の剣を生成し、それを艦橋に突き立て、無差別通信を行う。
「ブロセリアンド解放軍の諸君ッ! 犬塚銀が来てやったぞ!!」
大人しく投降するなら、サインの1つぐらい書いてやる。
大人しく投降しないなら、覚悟を決めろ。




