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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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乱入者



■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:弟が大好きだったフェルグス


「また新手かよっ……!」


 グローニャがレンズとの連携でレギンレイヴ1機奪った。


 けど、まだまだ敵が沢山いる。


 何故か<逆鱗>は来ないけど、巫術師が操るレギンレイヴは次から次に飛んでくる。ラート達が倒してもキリがない。


「史書官! 爆撃来るぞ! どっかに退避を――」


 銃を持って窓から身を乗り出し、空を見ていたレンズが叫ぶ。


 レンズの見ている方向を見ると、レギンレイヴがいた。爆撃しようとしている。


 さすがにマズい――と思ったが、爆撃前に敵が爆発した。


 グローニャが素早く狙撃し、敵が作った爆弾を破壊したらしい。


 その爆発の衝撃に吹っ飛ばされたレギンレイヴが、空中で大きく体勢を崩して降ってくる。けど、別方向にも攻撃を仕掛けてくるレギンレイヴが――。


「向こうも爆撃してくるつもりだ……!」


 グローニャに期待したいが、グローニャに敵が襲いかかる。


 振り下ろされた剣に対し、グローニャは狙撃銃を棍棒のように振った。迎撃しきれず切られたが、あの程度なら流体装甲で修復できる。


 けど、オレ達の方は――。


「対ショック姿勢で凌いでください!」


 史書官が叫ぶ中、敵レギンレイヴの放った誘導弾が飛んでくる。


 グローニャは動けない。目の前の敵で手一杯。


 けど――。


「ラート……!!」


 ラートの操る逆鱗が、誘導弾とオレ達の間に割って入ってきた。


 機銃で素早く撃ち落としていき、撃ち漏らしは盾で防いでくれた。


 近くで起きた爆風で車が大きく揺れたけど、直撃はしてない!


 爆発を凌いだラートが何かを投げた。オレ達の上空を飛び越えていくレギンレイヴに対し、ワイヤーを投げ、それで敵を捕まえ――。


『フェルグス! 頼む!!』


「…………!」


 ラートの意図を察し、流体甲冑を纏いながら車から飛び出す。


 走る。


 ラートの操るワイヤーに捕まったレギンレイヴが、空中でつんのめり、近くの広場に頭から落下した。その落下で、大きな土煙と風が巻き起こる。


『…………!!』


 風に逆らいつつ、落下したレギンレイヴに迫る。


 敵はまだ生きている。


 体勢を立て直し、ラートを反撃しようとしているが――。


『やらせるかよッ!!』


 流体甲冑で飛びつき、憑依開始。


 先客の巫術師(たましい)を蹴っ飛ばし、レギンレイヴを奪う。


 ちょっと頭部が壊れているけど、流体装甲で強引に直す。


 直しつつ、地面に落ちていくオレの身体を機兵の手で受け止める。


 まだ死ぬわけにはいかない。守るんだ! 今度こそっ……!


『オレの身体、頼む!』


 近くまで走ってきた車に身体を託し、戦闘に参加する。


 オレ用のレギンレイヴを確保してくれたラートは、グローニャを助けに走っている。敵のレギンレイヴに横合いから斬りかかり、素早く斬り倒した。


 敵は倒れながらラートの機兵に手を伸ばし、掴んだけど――。


『…………!?』


 ラートの機兵に憑依しようとした敵の魂が、弾かれた(・・・・)


 巫術の眼で、それを目撃する。


 初めて見るものじゃない。バフォメットに憑依をしかけた時、オレや皆が憑依を弾かれた時と同じ光景……!


『ラート! お前、敵の憑依を弾かなかったか!?』


『やっぱ、お前にもそう見えるか……!』


 ラート機の背中に飛んできた射撃を装甲で防御して庇いつつ、話しかける。


 ラートも敵に憑依を仕掛けられている自覚はあるらしい。


『なんか、さっきから敵に憑依されねえんだ! これって弾いてんのか!?』


『多分――――』


 敵に向かって煙幕弾を撃ち、少し時間を稼ぐ。


 その隙にラート機に触れ、試しに憑依を仕掛けてみたんだが――。


『ああ、やっぱ弾いてる! 試しにオレも仕掛けてみたが、憑依できねえ!』


 バフォメット相手に憑依しかけた時に近い。


 近いけど、バフォメットの時のような強さは感じなかった。


 バフォメットの時は、「バカデカイ岩」を押している感覚に近かったけど……ラートの方は「無理をしたら押せそうな岩」を押している感覚だ。


 時間をかけて、憑依に集中したら乗っ取れそうだけど……一瞬じゃ無理だ。


 けど、ラートの機兵には魂1つしか観えない。


 それは当然、ラートの魂なんだが――。


『どうやって巫術防御してんだ!? ラートは巫術師じゃねえだろ!?』


『俺にもわからん! 詳しい話は、ここを切り抜けた後だ!』


『おっ、おうっ!』


 飛びかかってくる敵に、ラートが向かっていく。


 大丈夫か――と思ったが、ラートは今まで見た事ない動きで動いている。元々強かったと思うけど……今日のラートの動きは今までと全然違う。


 まるで、巫術師(おれたち)みたいな――。


『フェルグス!』


『っと……!!』


 飛んできたレギンレイヴの攻撃を受けつつ、もつれ合いながら地面に落ちる。


 憑依を仕掛けてきているけど――。


『憑依の力比べやりたいなら、相手を選ぶんだなっ……!!』


 逆に押し返し、奪う。


 これで1機倒して、1機確保した。


 これなら――。


『ロッカ!!』


 叫び、呼ぶと――もう来ていた。


 史書官の運転する車が、凄い速度でやってきた。


 そこからバレット達に付き添われ、ロッカが下りてくる。


 奪った機兵をロッカに預け、戦闘に戻る。


 まだ皆が逃げ切ってないし、ヴィオラ姉達も――――。


『あっ……!!』


 敵の機兵が、オレ達から離れたところに攻撃を仕掛けた。


 向こうには、ラートが護送していた星屑隊の隊員(みんな)が隠れているのに――。


『やめろっ!!』




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:星屑隊隊員


「ぐぅ…………。て、テメーラ、無事かぁ……!?」


 横転した車の中で、仲間の体重で押しつぶされつつ呼びかける。


 返事はまばらだが、多分……無事のはずだ。


 ラート軍曹にチビ達の援護を任せ、こっちはこっちで逃げていたが……飛んできた敵機に車両を蹴り飛ばされた。


 一緒に逃げていた他の車両も横転し、足止めを食らっている。


 あーあ……。強がってラート軍曹を行かせてなきゃ、こんなことには――。


「……ここまでか」


 敵レギンレイヴの影が覆い被さってくる。


 諦め、目を閉じる。


 ……どうせ、オレ達は戻る故郷も待ってる家族もいないし――。


『おい! 皆、大丈夫か!?』


「その声……」


 観念していたが、「その時」は来なかった。


 ロッカの声が聞こえる。


 敵機兵の胴体に剣を突き刺し、押し倒した機兵からロッカの声が聞こえる。


 ギリギリのところで助けられたらしい。


 車から這い出て礼を言おうとすると――。


「おわっ……!」


『ちょっとガマンしてくれ! 直してみる(・・・・・)っ!』


「なお…………。なんだって?」


 ロッカの操るレギンレイヴから「どばっ」と流体が吹き出した。


 それが雨のように――あるいは触手のように、オレ達の車に落ちてきた。




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:機械に興味津々ロッカ


『敵機兵の相手、頼む!』


 ラートとフェルグスとグローニャに、敵の相手を任せる。


 星屑隊の皆の車が横転したり、完全にひっくり返っている。


 そのうえ、車から油が漏れ出してる。


 敵機兵の攻撃で壊されたみたいだ。このままじゃ、皆が死んじまう……!


『まずは油を……!』


 地面を流体で覆い、緩く固める。


 漏れた油を流体装甲の床で塞ぐ。


 次に穴の開いた燃料容器を流体装甲で蓋をする。雑に蓋をしておく。あくまで応急処置! あと少し持てばいい!


『――――』


 一時的に車に憑依し、手早く診断する。


 あちこちボロボロになってるけど、最低限……走れる状態に戻せればいい!


 バレットに教わった整備の知識を頑張って引き出す。


 機兵の流体装甲を巫術でこねくり回し、車の破損箇所用の部品を作る。時間ないから、そんな良い物作れねえけど……! これで何とか――――。


『出来た! 行けるはずだ!』


 壊れた車の車体も、流体装甲で補強した。


 混沌機関から切り離した流体装甲は、そのうち溶けて消えちゃうけど……あと数分持てばいい! それだけあれば、皆も逃げられるはず……!


『何とか走れそうだ! すまん、助かった!』


『気をつけて! オレ達が絶対、守るからっ……!!』


 再び走り出した星屑隊の車を守りつつ、敵と戦う。


 オレはフェルグスみたいな近接戦闘技術無いし、グローニャみたいな射撃技術も無い。お世辞にも「戦闘が得意」と言えないヘボ巫術師だ。


 けど、それでも――。


『やらせねえぞ!』


 大楯を作り、敵の攻撃から星屑隊の車を守る。


 ヘボ巫術師のオレでも、盾にはなれるぞっ……!


『ぜったい……絶対! 皆で生き残るんだ!!』


 皆みたいに出来なくても、オレが出来ることをやるんだ。


 バレット達と一緒に……生き残るんだ!




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:防人・ラート


『ラート軍曹! こっちは全員到着しました!』


「皆、無事か!?」


『無事です! 負傷者いますが、大した怪我じゃねえですよっ……!』


『チビ共や、軍曹達のおかげです!』


 星屑隊の隊員達が、町中にある(・・・・・)脱出予定地点に辿り着いた。


 あそこまで辿り着いたなら、一安心だが――。


「隊長、ヴァイオレット! そっちは――」


『もう少し時間がかかる。援護を頼む』


「了解! グローニャ、ロッカ! お前らは脱出予定地点(そこ)を守ってくれ!」


『リョカ~イ!』


『了解っ!』


「フェルグス! 隊長達の援護に向かうぞ!」


『あいよっ!』


 敵の歩兵部隊は、もう機能してない。


 多くの解放軍兵士が混乱して逃げ惑っている。こっちを追う余裕は無さそうだ。


 けど、巫術師達が操るレギンレイヴはまだまだいる。


 俺達を親の仇みたいに襲ってくる。


 交国軍人(オレ)に関しては、間違いとは言い切れないか……!


 けど、悪いが負けてやれねえ。死んでやれねえ。


『ラートは無理しすぎるなよ!? 巫術師(おれたち)の身体は先に逃げてるけど、お前はまだ操縦席にいるんだからな!?』


「大丈夫だ! 任せろ!」


『こういう時のお前の「大丈夫」は微妙に不安なんだよぉ~……!』


 フェルグスに「信じてくれ」と言おうとした。


 言おうとして、その言葉を飲み込む。


「――――」


 基地の方で海門(ゲート)が開いている。


 解放軍の増援?


 いや、違う。


 あれは――。


「なんで……。なんで、あの人がいるんだよ……!!」




■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:崖っぷちのドライバ少将


「おい、誰だ! 勝手に海門(ゲート)を開いたのは!」


「外部からハッキングを受けています! バックドアを仕掛けられていたようで……! 外部操作によって海門を開かれました!」


 基地に開いた海門は小さなものだった。


 方舟は通れない程度のものだ。


 そこから真っ白い機兵(・・・・・・)が侵入してきた。


「――――」


 血の気が引く。


 交国軍人なら、アレが「何」なのかよく知っている。


 つい最近、交国本土でも活躍していた特別な機兵。


 というか、アレは交国本土にあるはずじゃ……!


「侵入者を攻撃しろ!! 脱走兵など、もうどうでもいいっ!」


 方舟を離陸させつつ、命令を飛ばす。


 アレはダメだ。あの機兵はダメだ。


 界内への侵入を許した時点で、マズい……!


「<白瑛(びゃくえい)>、来ますッ! <曙>に真っ直ぐ!!」


「迎撃! 止めろぉ!! 誰か! 早く――――」




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:英雄・犬塚


「――――」


 離陸を始めていた<曙>に全力加速で突っ込む。


 速度を乗せた跳び蹴りをお見舞いし、方舟の体勢を崩して叩き落とす。


 流体装甲の剣を生成し、それを艦橋に突き立て、無差別通信を行う。


「ブロセリアンド解放軍の諸君ッ! 犬塚銀が来てやったぞ!!」


 大人しく投降するなら、サインの1つぐらい書いてやる。


 大人しく投降しないなら、覚悟を決めろ。





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