表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
362/875

※誓って殺しはしてません



■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「交国の犬がッ……!」


「…………」


 突然、スッと病室に入ってきた隊長さんは、解放軍の兵士を一瞬で制圧した。


 私が拘束を解かれた時にはもう、兵士2人が床に倒れていくところだった。


 解放軍幹部(ドライバ)が隊長に銃を向け、発砲したけど――隊長はそれを僅かに顔を背けただけで回避した。そして解放軍幹部の顔面に掌底を叩き込んだ。


 解放軍幹部の身体が後方に飛び、壁に打ち付けられる。


 そのまま崩れ落ちていく中、隊長さんは床で呻いている兵士の頭を「コツン」と軽く蹴り、気絶させた。……あっけにとられているうちに、制圧してしまった。


「ヴァイオレットを確保した。フェルグス、流体甲冑を使え」


『おっ、おうっ……!!』


 画面の向こうで、フェルグス君が流体甲冑を纏いながら動いた。


 解放軍の兵士達が慌てて銃口の向きを変えたけど、フェルグス君の方が早い。


 フェルグス君は流体の鎧で銃弾を受けつつ、兵士達を蹴散らしていく。


 ただ、向こうの方が多いけど――。


「入り口の兵士を蹴散らしたら、倉庫に立てこもれ。助っ人(・・・)を向かわせた」


 隊長さんはそう言った後、「では行くぞ」と言いながら拳銃を取り出した。


 隊長さんについて行きつつ、言葉を投げかける。


「隊長さん、どうやってここに……!?」


「バフォメットの手引きだ」


「バフォメットさんの!? えっ、まさかバフォメットさんが無事で――」


「いや、奴が水際作戦で行方不明になる前、色々と用意をしてくれただけだ」


 私に色んな情報を渡してくれたように、隊長さんの脱走の手引きもしてくれてたって事……なのかな?


 とにかく逃げるぞ、と隊長が言った瞬間、曲がり角から解放軍の兵士が現れた。隊長は扉のドアノブをひねるような自然な仕草で発砲し、敵を即座に倒した。


「ちょっ……! 巫術師の子達もいるのに、殺しちゃうのは――」


「ゴム弾だ。当たり所が悪ければ死ぬが」


 床に倒れた兵士さんの額に当たったようだったけど……さすがに穴は空いてない。死んでなければいいんだけど……。


「とりあえず、バフォメットが用意している脱出路(・・・)に向かう。お前達も、そのつもりだったのだろう?」


「逃げる前に、フェルグス君達を助けに行かせてください!」


 解放軍は、フェルグス君の流体甲冑を警戒していたはず。


 機兵を持っていけば逆に乗っ取られかねないけど、歩兵の数を揃え、大口径の装備を用意していたら流体甲冑でも危ういはず――。


 それに、ラートさんや他の星屑隊の人達もピンチのはず……!


「そちらは助っ人を向かわせた。問題ない」


「助っ人って……?」


「とにかく、逃げるぞ。説明している暇がない」


「は、はいっ……!」


「ただ、少し寄り道(・・・)をさせてくれ」




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:狙撃手のレンズ


「フェルグスッ! もういい! こっち戻ってこい!!」


『けど、逃げなきゃヤバいだろ!?』


「隊長の指示に従え!」


 倉庫入り口付近にいる解放軍兵士を蹴散らしていたフェルグスを呼び戻す。


 流体甲冑を着込んでいるから、そう簡単には負けないが……クソ野郎(ドライバ)もフェルグスを警戒していたはず。下手したらフェルグスが死ぬ。


 隊長が「立てこもれ」「助っ人を向かわせた」と言ってんだから、ひとまず倉庫内に立てこもるしかない。


 グローニャとロッカを誘導し、倉庫の棚を崩し、棚と物資でバリケードを作る。どの程度立てこもればいいか、わからんが――。


「レンズちゃん……! お腹っ、お腹が……!」


「なんてことねえよ」


 穴の空いたガソリンタンクみたいに、大事なものがドロリと出てくる。


 プーリーのヤツめ、よくもやりやがったな……。アイツ、グローニャ達が頭痛感じてないって事は、頭撃たれて即死してないって事か。悪運の強いヤツ。


「よしよしよし……! よくやった、フェルグス」


 入り口の方から来たフェルグスが、副長を拾ってきてくれた。


 バレットに手当を任せる。……といっても、この傷じゃ……。


「あんまり長くは持たねえぞ……!」


 色んな意味で、マズい状況だ。


 だが、敵が倉庫内に踏み入ってくる様子がない。


 ……なんだ?


「外、誰か来たみたいだぜ」


「チッ……! 解放軍の応援かぁ……?」


 巫術で観測したロッカが、外の状況を教えてくれた。


 けど、ロッカは「でも、2人しか来てないぞ」と漏らした。


 ……まさか、隊長の言ってた助っ人か?




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:解放軍兵士


擲弾(グレネード)用意! 倉庫は破壊しても構わん!」


 相手は追い詰められた狼だ。何やらかすかわからん。


 巫術と流体甲冑はそれなりに厄介だが、まずは擲弾で打撃を与えた後、機関銃や対物狙撃銃で仕留めにかかろう。


 数人の歩兵相手には過剰だが……巫術師は危険だ。抵抗の意思がある以上、ここでキッチリ殺して見せしめにするしかない。


「ドライバ少将との連絡は?」


「取れません……! 人をやって、確かめに行かせたんですが……」


例の技術者(ヴァイオレット)は奪還されたかもな」


 下手したら、ドライバ少将は死んだかもしれない。


 いよいよ、解放軍のメッキが剥げ、中の泥船があらわになっている気がするが……とりあえず今は脱走兵を何とかするしかない。


 いや、いっそのこと、あえて逃がすか……? 脱走兵を追うドサクサに紛れて方舟を奪って、ネウロンから逃げてしまうのも1つの手か……?


 などと考えていると、妙な2人組がやってきた。


「どうもどうもどうも。皆さん、派手にやってますね~」


「…………」


 気安い様子で片手を上げた金髪碧眼の幼女と、両目を包帯で塞いだ怪しい男が近づいてくる。一般人が避難所から出てきたのか?


 つまみ出せ、と命じるまでもなく、部下達が動いたが――幼女は「わあっ、エッチ!」などと言いつつ、チョロチョロ走り回って部下達の手から逃れた。


「皆さん忙しいのはわかりますけど、ちょっと通してくださいよ!」


「何だお前ら……!」


「申し遅れました。私、<雪の眼>の史書官・ラプラスです。諸般の事情で繊一号からオサラバしようと思っているのですが、最近何かと物騒でしょう?」


 兵士達に囲まれた金髪幼女は、揉み手しながら言葉を続けた。


「なので、暇そうにしている方を追加の護衛として雇おうと思っているのです」


「暇そうにしている方……?」


「そこの倉庫に、星屑隊の隊員さんと巫術師さんがいるんでしょ? 暇ならついてきてくださ~いとスカウトしに来たのですよ。某隊長(ネジ)様の紹介で――」


「おい、そいつらを拘束しろ」


「わあっ、えっち~~~~! 私が可愛いからお触りしたいのはわかりますが! 邪魔だから退いてください~っ!」


 要は頭がおかしいヤツらしい。


 あるいは、頭おかしいヤツのフリをしている。倉庫の中の奴らを助けるために。


 とりあえず捕まえて、必要なら後で射殺すれば――。


「エノク! 正当防衛パンチ!」


「ああ」


 解放軍の兵士が蹴られ、飛んで行った。


 両目を包帯で覆った男が、兵士をサッカーボールみたいに蹴飛ばしやがった。


 そのまま、他の兵士にも肘鉄や蹴りを放ち、制圧していく。その後ろで笑顔の金髪幼女が「正当防衛パンチ! 正当防衛パンチ!」などと叫び、はしゃいでいる。


「殺せ……! 射殺しろッ!!」




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:狙撃手のレンズ


「なんだ……?」


 解放軍の兵士が、一向に倉庫内に入ってこない。


 それどころか、外で争う音が聞こえる。


 フェルグスを伴って様子を見に行くと、妙な2人組がいた。


 最初、オレはそいつらが踊っているのかと思った。


 両目を包帯で覆った男が、金髪幼女の手を取って社交ダンスをしているように見えたが……実際は飛び交う銃弾を回避しているらしい。


 金髪幼女が「フハハハハ!」と邪悪な笑い声を上げる中、男は踊るように回避し続ける。幼女を掴んで回避させつつ、拳銃を抜き放った。


 抜き放った拳銃を解放軍兵士に向け、次々とぶっ放し始めた。


「リロードを行う」


 そう呟いた男は幼女から手を離し、代わりに脚を使って(・・・・・)幼女に回避行動を取らせ始めた。サッカーボールのリフティングでも行うように。


 さすがの幼女も「ギョエエエエ!」と言っていたが、それでも弾丸は当たっていないらしい。解放軍の兵士が罵声と弾丸を放っているが、男は手早く再装填作業を行い、社交ダンス染みた反撃動作に戻っていった。


 あっけにとられているうちに、周囲の解放軍兵士がバタバタと倒れていく。


 悲鳴を上げて逃げていった兵士もいたが、男はその後頭部を容赦なく撃った。


 ……倒れた解放軍の兵士達は、一応、死んでないようだ。


 ゴム弾でも使って気絶させたのか?


 それをやってのけた男は無傷だったが――。


「きゅう…………」


 金髪幼女は、ブン回されて目が回ったのか、地面に倒れ伏している。


 男はそれを放置し、再装填作業を行いながらオレを見てきた。


「雪の眼の史書官と、護衛(エノク)だ。端的に言うと、お前達の脱走を支援する」


「あぁ、アンタらか……! 誰かと思った……!」


 前にウチの船に乗り込んできた奴らだ。


 バレット達に「大丈夫だ! 出てこい!」と言い、脱走のために動く。


 動きつつ、雪の眼の話を聞く。


 コイツらは繊一号で調べ物をしていたらしいが、話を聞いていたバフォメットが帰ってこないし、ヴァイオレットも脱走する――と聞きつけ、「じゃあ私達も脱出しますか」と決めてくれたらしい。


「ヴァイオレットを助けに行かなくて良かったのか?」


「向こうは、そちらの隊長さんが向かっているでしょう?」


 起き上がった金髪幼女史書官がそう言い、「子供助けた方がヴァイオレットさんも恩義に思ってくれるはず」と言った。微妙に狡いな、コイツ。助かるけど。


「とりあえず逃げましょう」


 史書官はそう言いつつ、解放軍の車の運転席に乗り込んだ。


 こっちの脱走を手伝ってくれるなら味方だ。


 運転を任せ、皆で乗り込む。


「エノク、負傷者2人の面倒を見てあげてくださいな」


「それはいいが、お前が運転するのか?」


 両目を包帯で覆ってる護衛がそう言った瞬間、車がゆるりと発進した。


 負傷者(おれたち)を乗せているから、急発進しないよう気をつけてくれてるみたいだ。


「おい、誰か。運転を代わってやってくれ」


「大丈夫ですって。私に任せて」


「いや、アンタ、その背丈じゃ前が見えてるか怪し――」


 曲がり角から解放軍の車が飛び出してきた。


 道を塞がれる――と思ったが、史書官は「悪質ターーーーックル!」と叫びながらハンドルを操り、敵車両の後方に回り込んだ。


 そのまま駆け抜けるのかと思いきや、体当たりしやがった。解放軍の車が勢いよくひっくり返り、こっちも相応の振動に襲われる。


 車両の片側が浮いたので、浮いた側に皆で体重をかける。それで何とかギリギリ、横転を回避できた……!! あっぶねえ!!


 後方で凄まじい破壊音が聞こえる。


 勢いよくひっくり返った解放軍の車が、建物に突っ込んだのか? あるいは別方向から来た車に突っ込んだのかもしれない。


「誓って殺しはしてません!」


「誰か運転代われ!!」


「いま走行中ですよ。死んじゃいますよ」


「お前の運転で死人が出るんだよ! 史書官んんんんッ!!」


 停車して運転を代わりたかったが、敵がどんどん迫ってくる。


 停まる暇はない。仕方なく、史書官にハンドルを任せる。


「1回分だけですが、鎮痛剤を盗…………借りてきたので、打っておくのをオススメします。ここから修羅場になりますよぉ!」


 もうなってるよ……! と思いつつ、バレットと手分けしてガキ共に鎮痛剤を打つ。大騒ぎになってるから、いつ死人が出てもおかしくない。


 つーか、そもそも副長が危うい……。


 まだ生きているようだが、オレ以上の重傷を負っている。


「雪の眼って中立の組織だよな? こんなことしていいのか?」


解放軍(テロリスト)とは何の協定も結んでないので、無問題です」


「おいおい……」


「正当防衛ですし。まあ壊滅とかさせちゃダメですから、ここはさっさと逃げましょう! 史書官(わたし)は道端の小石! 皆さん気にしないで!」


 その小石が自我を持って時速100キロほどで走っていいのか?


 いいか……。オレは困らないし。車が横転したりしなきゃ……。


「ね、ねえっ! レンズちゃん達は大丈夫なの!? 死んじゃわないよねぇ!?」


 オレの傷口を必死に押さえているグローニャが、そう叫んだ。


 まだ死ぬって程じゃないが。まあ確かにヤバいかもな。


 死ぬならせめて、グローニャ達から離れたところで――。


「そのまま傷口を押さえておけ。ワタシが何とかする」


 副長を診てくれていた史書官の護衛が、そう言った。


 グローニャは心配そうにしているが、オレより副長を優先するべきだ。


 ……オレの所為で、死にそうになってんだから。


「バカ、ども…………。おれ…………置いて、いけ……」


「喋るなよ副長……!」


「人質の、つもりか……」


「だから、喋んなって!」


 声を張ると、史書官の護衛は「お前も無駄な体力を使うな」と言ってきた。


「……副長(アンタ)だけ置いていけるかよ」


「おれに、人質としての価値はないぞ……」


「知ってるよ」


 副長は、オレ達を庇う必要なかったはずだ。


 それなのに動いた。


 オレが射殺される前に、プーリーを撃った。


 絶対に死なせねえ。借り作ったまま、楽になれると思うなよ。


 そう誓うと、副長は濁った瞳をオレに向けつつ、何か言った。


 声も出せねえほどだったが……多分、「馬鹿野郎」と言ったんだと思う。


 アンタに言われたくねえよ。まったく……!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ