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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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守る意味



■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:崖っぷちのドライバ少将


「アラシア。キミにはガッカリだよ。部下の手綱も握れないなんて」


 部下にヴァイオレット君を止めさせつつ、端末を操作する。


 向こうにも僕の尊顔が見えるようにしてあげる。


 ヴァイオレット君がこっちの手中にあるって事も、よく理解させないとね。


『ど、ドライバ少将……!? これは、一体……』


「キミが僕に相談せず、脱走兵を呑気に説得しようとしてたからだよ」


 監視やら、発信器やら、盗聴器を仕掛けて見守ってあげてたわけ。


 キミも他の馬鹿共も、あんまり頼りにならないからね~……。


「キミなりに頑張っていることはわかっていたから、ひとまずキミに任せておいたんだけどさぁ……。説得失敗したんじゃあね? 僕が介入するしかないじゃない」


『介入って……』


「おーい、裏切り者共~。アラシアから離れてくれるかな?」


『少将の命令だぞ! テメエら従え! 両手を上げろ! 妙なマネしたら殺す』


 巫術師達の方を任せたプーリー大尉が、自分の部下達と共に銃を構えつつ、裏切り者共を脅し始めた。


 馬鹿な裏切り者達も、自分達が絶体絶命なのは理解できたらしい。アラシアから離れ、硬い表情で両手を上げ始めた。


 裏切り者達の手から、端末も奪ってもらう。


 このまま、ここから観戦しちゃお。


「そうそう、妙なことはやめてね? 特にフェルグス君、流体甲冑は解こうね? 少しでも抵抗したら、ヴァイオレット君がヒドい目に遭うからね?」


「私は大丈夫! この人は私を殺せな――――」


 ヴァイオレット君の腕を掴み、向こうからよく見える位置に移動する。


 そして、バーを握るように可憐な指を握り、曲がっちゃダメな方向に曲げる。ヴァイオレット君は軽く呻いたものの、悲鳴はあげなかった。


 おやおやおや……思っていたより胆力あるねぇ~?


『ヴィオラ姉!! ドライバ! てめえっ!! よくも!!』


「あのね、キミ達はさ、裏切り者なの。裏切り者に対して寛大な対応していたら、軍の規律が乱れちゃうでしょ? これはね? 必要なことなの」


 先に裏切ったのはそっち。悪いのはそっちだよ――と馬鹿共に教えてあげる。


 バフォメットに遠慮して、技術者として有能っぽいヴァイオレット君は丁重に扱ってあげてたけど……ここまでされたら……ねえ? 仕方ないでしょ。


『なんでヒドいことするの!? 解放軍の人達は正義の味方じゃないの!?』


 巫術師の少女が、画面の向こうでそう叫んだ。


 解放軍の兵士に助け起こされるアラシアに向け、叫んだ。


 アラシアは視線を逸らしている様子だから、代わりに教えてあげよう。


「その通り。正義の味方だよ。脱走なんて悪いことする輩を裁くのは正義なんだ」


『…………』


「我々は玉帝というの暴君に立ち向かうために立ち上がった正義の味方だ。しかし、キミ達は正義の戦いから逃げだそうとしている。それは卑怯な行いだ」


 悪人だ。


 悪人は裁かれなくっちゃね!


 悪いことした奴が何の罰も受けずにいるの、皆きらいでしょ~?


『何が正義の味方だ! テメーラの都合で勝手に決めてるもんだろうが! ガキ共に頼る気満々の雑魚共が、エラそうな口を――』


 アラシアの部下(レンズ)がそう叫んだ。


 それに対し、プーリー大尉が銃を向けた。


 パンッ(・・・)、と音が響き、叫んだオークの身体が軽く曲がった。


 お腹に弾を受け(・・・・・・・)、その身体が揺れた。


 彼らも僕と同じように痛覚ないから、本人は叫んだりしなかった。


 けど、周りの奴らは騒然となった。


『レンズちゃんっ!? レンズちゃぁぁぁんッ!!?』


「おいおい、プーリー大尉~?」


『スンマセン、少将ぅ。怪しい動きしたヤツがいたので、撃ちましたぁ~』


「ふん……。ま、いいけどね」


 相手は叫んだだけだったけど、プーリー大尉が勝手に撃ちやがった。


 プーリー大尉の方がアラシアの1000倍面倒くさい部下だと思っていたし、まあ実際に面倒だから躾けなきゃダメなんだけど……ひとまず許してあげよう。


 最初の一発は、アラシアに(・・・・・)撃たせようと思ったんだけどなぁ。


「はいはい、とりあえず組み分けしようねぇ。巫術師諸君と、オーク諸君は別行動して~。あぁ、あとアラシアにも新しい銃を渡してあげて」


『ドライバ少将! レンズが……! レンズの治療を!』


「アラシア。キミさぁ……」


『コイツらはオレの部下です! 躾ならオレがやりますから……!』


 それが出来てないから、僕が代行してあげたんだよ。


 そっちに応援の兵士(プーリー)を送るだけじゃなくて、別の星屑隊隊員にも兵士を差し向けてあげたんだよ。


 そっちは巫術師の憑依がメンドクサイから、歩兵の数で対応するとして……他には機兵まで送り込んでいる。星屑隊の格納庫の方には機兵を向かわせた。


 機兵。1機だけだけど、使えるようにしてるでしょ?


 困るんだよなぁ……こういう事されると……。


 まあ、お陰様で派手に見せしめ(・・・・)が行えるけどねぇ。


「アラシア、全部キミの所為なんだ」


『…………』


「キミがさっさと脱走兵を1人ぐらい殺せば、僕が尻拭い(サポート)を派遣する必要なかったでしょ? 説得に失敗して捕まって、敵のいいようにやられてたんだから……。むしろ感謝してよ、感謝を!」


 か弱いヴァイオレット君が抵抗してくるけど、頭を机にギュッと押しつけてあげる。力加減間違えたら潰しちゃうかも~。抵抗なんてやめてよねぇ。


「でも、僕は優しいから挽回の機会をあげる! さ、その銃を使って」


『何を――』


死にかけのオーク(レンズ)にトドメを刺してあげるんだ」


 オークらしい耐久力でまだ立っているけど、血を垂れ流している。


 そして、こちらを睨み続けている。……とても反抗的な目つきだ。


 そのオークから引き離した少女巫術師が「レンズちゃんっ!」と叫び、他の巫術師達も「レンズ!」と叫んでいるけど……無駄無駄。


 この状況、ひっくり返せるわけないじゃん。


「あのね。キミ達はもう詰んでるの」


 ヴァイオレット君は取り押さえた。今ならどうとでも料理できる。


 キミ達も、どうとでも料理できる。


 フェルグス君が流体甲冑を使っても無駄。


 歩兵の数で圧倒してやるし、最悪、人質を使えばいい。


 キミ達如きが、この状況をひっくり返せるわけないでしょ?


「さあ、アラシア、早く――」


『レンズの治療を……』


「……アラシア君さぁ」


『そ、そこのグローニャは……レンズと特に仲がいいんですっ! バレットだってロッカと仲が良くて……! 星屑隊の隊員1人でも欠けたら、フェルグス達は言う事聞かなくなりますよ!? だから……だから! 処刑は、さすがに――』


「プーリー大尉。手本を見せてあげなさい」


『あいよぉっ!!』


 プーリー大尉が嬉しそうに返事をしつつ、銃を構えた。


 そして、倉庫内(むこう)で発砲音が響いた。




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:狙撃手のレンズ


「っ――――」


 弾丸が飛んでくる。


 なんとか、耐えないと。


 いま、オレが死んだら、グローニャ達が頭痛で苦しむ。


「――――?」


 発砲音が聞こえたが、弾丸が……まだ飛んできてない。


 少なくともオレには当たってない。


 その代わり、向こうの奴らが騒いでいる。


 一瞬、閉じていた目を開く。


 すると、頭に赤い花を咲かせたプーリーが、ふらついて倒れるところだった。


 誰かが(・・・)プーリーを撃った(・・・・・・・・)


『アラシア……!?』


「あっ、くそ! やべっ……!」


 銃を構えた副長が(・・・)、発砲していた。


 プーリーに向け、発砲していた。


 けど、副長はプーリーから直ぐに視線を切り、別の方向を見た。


 そこにいたのは――。




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「――――」


 やっちまった。


 解放軍に刃向かっちまった。


 咄嗟に、身体が動いて――。


「――――」


 ガキ共を見る。


 驚いた様子で目を見開いているが、苦しんでいる様子はない。


 うっかり、プーリーの頭を撃っちまったが……何とか即死はしてないらしい。


 プーリーは……そのうち死ぬかもだが、その前にガキ共に鎮痛剤を打てば――。


裏切り者(アラシア)を殺せ!!』


「…………あぁ」


 ドライバ少将の怒声が聞こえる。


 解放軍の兵士達が、カチャカチャと音を鳴らしながらオレに銃口を向けてきた。


「……ばかだなぁ、オレ……」


 なんでこんな、バカなことしちまったんだろ。


 でも、仕方ねえじゃん。


 咄嗟に、身体が動いちまったんだから――。




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:弟が大好きだったフェルグス


「先輩っ!」


「副長ちゃんっ!」


「バカ野郎……!!」


 皆が叫ぶ中、口をアホみたいに開きながら副長を見る。


 何故か巫術師(おれたち)の方を見て、苦笑いを浮かべていた副長の身体が跳ねる。


 透明な拳で殴られているみたいに、ビクビクと跳ね、踊る。


 ……解放軍の兵士に、いっぱい……いっぱい、撃たれて――。


「やめろっ! やめろーーーーッ!!」


 ドライバに向け、叫ぶ。


 倉庫の中が火薬の臭いでいっぱいになる中、やっと銃声が止まった。


 副長は床に倒れている。


 ピクリとも動かないまま、床に血だまりを作っていく。


「なんで……なんで副長を……! アンタらの仲間だろ!?」


『先に撃ったのはアラシアだよ。そいつも裏切り者だよ』


 ドライバはウンザリした様子だったが、直ぐに笑顔になった。


『まあ、馬鹿を発見する良い機会だったわけだ!』


「お前……!!」


『よし、今なら許してあげるよ? アラシアのようになりたくなかったら、お前達は大人しくしていなさい。……解放軍に逆らうんじゃあない』


「――――」


 副長は動かないが、オレ達の頭はまだ痛んでない(・・・・・・・)


 副長は、まだ生きている。


 全身を撃たれて死にそうになってるけど、まだ助けられる可能性が――。


『フェルグス君、こっちにはヴァイオレット君がいるんだからね?』


「っ…………」


 流体甲冑を使えば、何とか……勝てる、かもしれない。


 向こうは流体甲冑(オレ)対策として、流体甲冑の装甲でも抜けるような大型の銃とか持ってきてるっぽいけど……上手く、やれば……。


 けど、ドライバのとこにヴィオラ姉が……。


 オレが抵抗したら、ヴィオラ姉が酷い目に――。


『さっさと投降しなきゃ、キミら頭痛で死んじゃうかもねぇ~?』


「投降したら副長を、助けてくれるのかっ……!?」


『そんな要求できる立場だと思ってるの?』


 ドライバはこれ見よがしにヴィオラ姉の腕を掴みつつ、言葉を続けた。


『なんなら、追い打ちしてあげよっか? 死体候補を増やしてあげよっか?』


「クソ野郎がぁッ!!」




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:ラート


『ぐ、軍曹! ダメだぁ! レギンレイヴまで来てる……!』


「偵察とかいいから! 出来るだけ安全なとこに隠れてくれっ!」


 近場にいる星屑隊の隊員に、そう告げる。


 無茶な話だが、そう言うしかない。


 敵は機兵まで出してきた。……俺達がいる格納庫は包囲されている。


 命令さえ下れば、いつでも動けるぞ――と言いたげにしている。


 対して、こっちの機兵は1機(オレ)だけ。


 ヴィオラを人質に取られ、フェルグス達の方も――。


「どうすれば――」


 考えろ。


 思考停止している暇なんてない。


 どうすれば、皆一緒に逃げられる?


 こっちは俺が頑張れば、何とか……切り抜けられるかもしれない。


 けど、下手に機兵を動かしたら……次はバレット辺りが――。


『星屑隊総員に告げる。これより、繊一号脱出作戦を開始する』


「――――」


 通信(こえ)が聞こえた。


 俺達が何度も聞いてきた声。淡々とした声。


 いつも平常心で、俺達を勝利に導いてきた声が――。




■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:星屑隊隊長


「ヴァイオレットは、私が救出する」






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