復讐者:アラシア・チェーン
■title:解放軍支配下の<繊一号>にて
■from:肉嫌いのチェーン
「どいつもこいつも……何故、理解しないんだ!?」
色んな視線がオレに向けられている。
敵意だけではなく、恐怖や懇願するような視線が向けられている。
通信を使い、急に話に割り込んできたラートの顔は見えない。
ショボくれていたくせに、今になって声をあげ始めたバカの顔は見えない。
アイツだって……解放軍で戦う覚悟を決めてたくせに……!
「交国を倒さない限り、何も解決しないんだぞ!?」
「交国が悪いことしたのは、オレ達だってわかってる」
敵意を持ってオレを睨んでいるレンズが、そう言ってきた。
「けど……だからといって、解放軍のやってる事が全て肯定されるわけじゃない。解放軍はガキ共を軍事利用している。交国がオークを軍事利用したようにな!」
「解放軍を、あの外道共と一緒にするなッ!!」
お前達は何もわかってない。
解放軍と交国は、全然違う。
「オークと違って、巫術師共は騙しているわけじゃない! 巫術師にも復讐するべき理由があるだろ、って教えてやっただけだ!」
「過程が違うだけで、結果は同じだろ!? 利用する気なんだろうが!!」
「うるさいっ! 解放軍には正義が……大義名分があるんだよっ!」
「それがあれば全て解決されるなら、『プレーローマを倒す』っていう大義名分を掲げた交国は、何やってもいいって言うのか!?」
「――――奴らの大義は、ウソに決まってる!!」
それっぽい事を言ってるだけだ。
実際は、プレーローマなんてどうでもいいんだ。
玉帝達は、巨大軍事国家の支配者層の地位さえ維持できればいいんだ。オークを利用して強国を作り、それで弱い者イジメして満足してるクソ共なんだよ……!
「フェルグス! お前だって、解放軍のやり方を支持してるだろ!?」
「…………」
「お前の望みを叶えてやれるのは、ヴァイオレットやレンズ達じゃない! お前がやりたい事は、解放軍にあるんだろ!?」
うつむいているフェルグスに問いかける。
強く問いかけると、フェルグスは顔を上げ、苦しそうな表情を見せた。
■title:解放軍支配下の<繊一号>にて
■from:復讐者・フェルグス
「オレは、自分で望んでブロセリアンド解放軍に入ったんだ」
レンズ達が持って来た端末に向け、そう告げる。
端末にはヴィオラ姉が映っていたけど、それがラートに切り替わった。
ラートは機兵の操縦席にいるみたいだ。
「特別行動兵の時みたいに、無理矢理戦わされるわけじゃない。オレは……ちゃんと自分で選んだんだ」
『…………』
「解放軍が巫術師を利用しようとしているのは、わかってるよ。でも、オレはそれでもいいんだ」
『…………』
「だって、オレも解放軍を利用している。お互い様なんだよ」
オレ1人で戦っても、きっと直ぐ負ける。
……多分、ヴィオラ姉の言う通り、解放軍は負けるんだろうけどな。
それでも、オレは交国に復讐したいんだ。
戦って、ぐちゃぐちゃになって死ぬとしても……復讐したいんだ。
勝てなくても、解放軍もいたら……少しは長く戦える。
いずれ負けるとしても、交国に長く復讐できる。
オレにはもう、これぐらいしか……出来ることがないんだ。
「オレは解放軍に残って戦い続ける。戦い続けたいんだ」
交国を倒すか、オレ自身が死ぬまで戦い続ける。
「それがオレの復讐だ」
アルのためにやってやれる、たった1つの事だ。
オレは復讐すると決めたが、皆がそれに付き合う必要はない。
「皆は好きにしてくれ。脱走してくれるのは……正直、嬉しい」
『フェルグス……』
「オレ……お前らに……死んでほしくねえもん……」
逃げてほしい。
出来れば、副長にも。
けど……副長は、逃げてくれそうにない。
メチャクチャ怒っている様子で、銃を構え続けている。
どうすりゃいいんだ。
オレは交国に復讐したい。戦いたい。
でも、皆に死んでほしくないんだ。
それ両方なんとかしたいのって……ワガママなのかなぁ……。
■title:解放軍支配下の<繊一号>にて
■from:ロッカ
「お、オレは……。お前にも、死んでほしくねえよ……」
フェルグスの「死んでほしくねえ」って言葉に返答する。
オレと違って、フェルグスは覚悟が出来ている。……死ぬ覚悟が出来ている。
それはスゴいことなのかもしれないけど、「スゴくない」と言いたい気持ちもある。……オレだって、お前に死んでほしくないよ!
アルにだって、死んでほしくなかった!
「オレは……!」
「おい、ロッカ! テメエも解放軍裏切るつもりか!?」
「ひっ……!」
副長の怒鳴り声が、ムチみたいにオレを叩いてきた。
銃まで向けてきた。
怖くて身をすくめていると、「逃げていいんだよ!」と声が聞こえてきた。
「お前達まで解放軍に付き合う必要はない! 逃げていいんだよ!!」
「ば、バレット……」
「バレット、テメエ!!」
オレ達に声をかけてくれたバレットに対し、副長がキレた。
バレットは震えている。副長に銃を向けられて、脚までガクガク震えている。
それでも、真っ直ぐオレの方を見ている。
「そっちにいちゃダメだ……。3人共……こっちに来るんだ!」
バレットはそう言いつつ、オレ達の方へ歩き始めた。
震える足を、一歩ずつ前に動かして――。
「寄るな! この裏切り者がっ……!!」
「なんで……。なんでこんなこと、するんですか……チェーン先輩」
けど、銃を手に割って入ってきた副長が、バレットを止めた。
「こいつらは戦うべきなんだ。ネウロン人として、ネウロンの自由を勝ち取るために戦うべきだ。逃げたら……今までの犠牲が全部無駄になるんだぞ!?」
「貴方達は、勝てないでしょ!? 交国軍に蹴散らされるだけでしょ!?」
「やってみねえとわからねえだろうがッ!!」
「アンタらの都合に! 子供達まで……巻き込まないでくださいよぅっ……!」
バレットは震えるどころか、もう泣いていた。
ボロボロと涙を流し、両手を広げて副長に言葉を投げ始めた。
「なんで、この子達には『戦え』って言うんですか!?」
「はぁ……? そんなの決まって――」
「先輩は、俺に『戦わなくていい』って言ってくれた! 俺が戦えなくなって、ダメになって……交国本土に送還されそうな時、『整備士になれ。戦わず、星屑隊を支えてくれ』って言ってくれたじゃないですかっ!!」
「っ…………。そ、それは……」
今までずっと真っ直ぐだった副長の視線が、少し、揺らいだ。
「戦うの怖くなってダメになった俺に、星屑隊っていう逃げ場を用意してくれたのは……先輩だった! 貴方が隊長に頼み込んでくれたんでしょ!? 整備長に土下座して、俺に色々教えてやってほしいって言ったんでしょ!? それも……俺の見てないところで……!!」
「お……お前は、不良品として殺処分されるところだった」
「だから、助けてくれて――」
「違うッ!! なっ、なにもかも交国の思い通りにされるのがイヤだから……そうしてやっただけだ……! そ、それに……! そう……した方が……」
副長がバレットに向けた銃口も、揺らいでいる。
「お前を、解放軍に入れやすいと思ったんだ……」
「…………」
「オレは、お前の命の恩人だ! なくしていたはずの命を、オレが拾ってやったんだ……! だから、その命、オレのために使えよっ!」
「…………先輩」
「機兵に乗って出撃しろって言わねえからさ……! 整備士として、これまで通りオレ達を支えてくれよっ! お前は、オレに恩返しを――」
「オレはバレット達と逃げる!!」
副長に向け、叫ぶ。
それ以上、イヤなこと言わせないために。
オレの本心を伝えるために。
「ネウロンの自由とか、命の恩人とか、知らねえっ! オレ達の命は、オレ達のもんだっ! 解放軍や交国のものじゃないっ! 副長のモノでもないっ!」
「ロッカ……! お前……お前まで解放軍を――」
「裏切り者とか、恩知らずとか好きに言ってくれ!」
解放軍に一度入っておいて、ヤバくなったら逃げ出すとか……ダサいことしてる自覚はある! 怖がってるの、ダサいのわかってるよ……!
「そう言われても、オレは必ず生き残ってやる! 泥水すすってでも、皆と生き残って……! それでアニキと再会して、絶対に謝る! 許してもらえなくても謝って、アニキのことも守るっ!」
オレのアニキは、まだ「死んだ」と決まったわけじゃないんだ。
オレの希望は、まだ生きている。
「ふざけんなッ! 解放軍はネウロン人を守ってやってんだぞ!?」
「いつ守ったんだよ!? ネウロンで戦ってるだけだろ!?」
怒る副長に叫ぶ。
副長がもっと怒りそうになってる。
その調子……その調子で、オレに銃を向けろ!
バレットに向けるな!!
副長とバレットは、軍学校の先輩と後輩で、同じオークなんだろ?
そんな2人が、こんな形でケンカするなんて……絶対ダメだ!
「解放軍はザコ軍隊だ!」
「なっ……!」
「解放軍なんかに、アニキを任せてらんねえ! オレは逃げて、アニキも見つけ出して一緒に逃げてやるっ! 解放軍はザコだから交国に勝てない! だったら、アンタらはネウロンもアニキも守れね――――」
「この、クソガキッ……!!」
副長の銃口が、オレに向いた。
足がガクガク震える。
バレット、こんな気持ちなのかな……。いや、もっと怖がってるか。
でも、これで、バレットのこと、守れて――。
「うわあぁあぁああぁ~~~~っ!!」
「ぐッ……?!」
副長が横に吹っ飛んだ。
情けない声を上げながら、一気に突っ込んできたバレットに体当たりされ、吹っ飛んだ。バレットが、副長の銃を奪おうとしてる!
「クソがぁッ!!」
「あうッ……?!」
「ばっ、バレット!!」
副長は倉庫の床に倒れたものの、バレットに蹴りで反撃した。
そのバレットに向けて、再び銃口が向こうとしたけど――。
「動くな」
「――――」
今度は、レンズが副長に銃を向けていた。
両腕を使って、しっかりと銃を向けていた。
■title:解放軍支配下の<繊一号>にて
■from:狙撃手のレンズ
「動くなよ、副長。オレの射撃の腕は、アンタもよく知ってんだろ」
「レンズ、テメエ……!」
抑制器付きの銃を、副長に向ける。
バレット達が気を引いてくれたおかげで、念のため持って来ていた銃を出す事が出来た。……撃ったところで、解決する事は少ないが……。
「恩知らず共が……! オレは、お前達のために――」
「頼んでねえと言いたいところだが、アンタなりに……考えて動いてるのはわかる。……でもな? アンタはオレ達に復讐を押しつけてるだけなんだよ」
交国が悪いのは事実だ。
けど、解放軍に入って復讐するってのは飛躍しすぎだ。
復讐というゴールを定めて、過程に「それっぽい大義」を散りばめているだけだ。……そうすりゃ、アンタの良心が少しは救われるかもしれねえけどな。
押しつけがましいんだよ、アンタらの考えは。
「アンタのことは尊敬していた。上官として信頼していた。でもダメだ。あの世に行きてえならテメエらだけで行け。ガキ共を巻き込むのはやめろ……!」
「お前、交国にされたことを忘れたのか!? まだ奴らを信じているのか!?」
「交国を信じているわけじゃない。……信じていたのは確かだけどな」
交国は「正しいこと」をしていると思っていた。
前は、そう思えた。信じていた。
「信じていたから、オレは……グローニャ達が戦うのは『仕方ない事』だと思っていた。ガキ共が『悪いことするはずない』とわかっていても、特別行動兵として戦わされている事実を……世間向けの禊ぎだと思っていた」
巫術師は、同じネウロン人にすら避けられる存在になっていた。
けど、ガキ共が頑張って戦えば……皆も認めてくれると思っていた。
ガキ共の頑張りを、正当に評価してくれると思っていた。
こいつらが、また故郷で受け入れてもらえると思っていた。
「だからオレは、グローニャが戦うのは『正しい』と思っていた。オレ達がついていれば、死なせず、タルタリカとの戦いを終戦まで導けると思っていた」
「…………」
「そういう未来を信じられなくなったのは、交国がウソにウソを重ねていると知ったからだ。だから……交国のことはもう信じてねえ」
「だったら、解放軍を信じろ!」
「アンタらに付き合って戦ってたら、死ぬだけだろうが……!」
それはダメだ。
軍人のオレ達はともかく、ガキ共はダメだ。
頑張った先に、何のご褒美もない戦いだ。
……ガキがそんなものに、人生賭けていいはずねえだろ?
「戦う必要があるんだ! お前は騙されるどころか、虚仮にされてたんだぞ!?」
「…………」
「お前が『妹達のため』と思って作ったぬいぐるみは、全部ムダだったんだ! ぬいぐるみも全部、ゴミ箱に放り込まれてんだぞ!?」
「…………」
「作ったぬいぐるみどころか、それ作るために費やした時間全てが無駄で――」
「あぁ、確かに無駄だったかもな!!」
そこは確かにムカつくぜ!
オレ達を騙していた担当者は、せっせとぬいぐるみを作っていたオレを笑っていたのかもな! バカなことやってると思ってたのかもな!
でも、それでも……無駄か否かはオレが決める。
確かにオレは交国に騙されていたが――。
「ぬいぐるみを妹達に向けて作ったのは、無駄だったかもしれねえ! 幻の妹達にねだられなきゃ、オレがぬいぐるみなんか作り始めるわけねえだろ……!」
そこは確かに騙されていた。
確かに、無駄だったかもしれない。
「けどな? 全部無駄だったわけじゃねえんだよッ!」
ぬいぐるみをキッカケにバカなケンカして、ネウロンにトバされた。
ろくな目にあわなかった。
だが、それでも――。
「作っている時、オレが『楽しい』って思った時間は……無駄じゃない! オレは、あの時間を心地の良いものだと思っていたんだ!!」
似合わねえのはわかってる。
ぬいぐるみ作りなんて、強面のオレには似合わねえよ!!
けど、それでも……楽しかったんだよ!!
楽しかったから、今まで続けてこれたんだよ!!
楽しい、と思っていたのは……妹達の笑顔があったから――って理由もあるだろうよ。けど、それだけじゃねえんだよ。
「贈りたい相手が幻だったとしても、オレは……『全部無駄だった』なんて言わない! オレは、ぬいぐるみ作ってる時間が好きだったんだ!」
「…………」
「あの気持ちは……あの感覚は、幻じゃない! 確かに存在していた!」
「それ含めて、交国に騙されてたって話なんだよ……」
銃を手に握ったまま、副長がオレを睨み続けてくる。
「お前がどう言おうと、結局は無駄な時間――」
「ムダじゃないもんっ! グローニャ、うれしかったよ!?」
後ろからグローニャの声が聞こえた。
オレの傍に駆け寄ってきて、服の裾を軽く引っ張ってきた。
「レンズちゃんの作ってくれたぬいぐるみ、グローニャ、とっても嬉しかった! グローニャ……いっぱい、いっぱい……嬉しかった!」
「……グローニャ」
「レンズちゃんがやってきたこと、ぜんぜん、ムダじゃないよっ!」
あぁ……クソ……。いま、そういうこと言うなよ。
目が潤んで、副長狙えなくなるだろ。
片手で銃をしっかり握ったまま、空いた手でグローニャの頭を撫でてやる。
ありがとな、と小声で礼を言う。
お前がいてくれて、良かった。
お前のおかげで……胸を張って言えるよ。
無駄じゃなかったって――。
「……オレの後ろに隠れてろ、グローニャ」
「うんっ……」
「絶対、守るから」
大事だと思っていた家族は、存在していなかった。
けど、大事にする過程で得たものが、全て無駄だったわけじゃない。
交国軍人になる過程で得た全ても、無駄じゃない。
血と汗と涙を流して磨いた技術で、グローニャ達を守れる。
それなら、無駄じゃない。
「副長、アンタの言い分も……多少は理解できる」
支持するかは別だが、気持ちはわかる。
「交国にムカつくのはわかる。けど、交国と喧嘩する暇はねえんだ」
「裏切り者……!」
「なんとでも言ってくれ。……けどな、副長」
銃口を少し下ろす。
副長を見据えつつ、銃口は外す。
「アンタも一緒に来いよ。……今なら、まだ間に合う」
ドライバ達に加担して、ガキ共を戦争に誘うアンタはクソ野郎だ。
けど、それがアンタの全てじゃない。
頼むから……元の副長に戻ってくれ。
皆の兄貴みたいな、陽気で頼りがいのある副長に戻ってくれよ……。
■title:解放軍支配下の<繊一号>にて
■from:肉嫌いのチェーン
「なんだよ、その目つきは……」
「…………」
「オレを……哀れんでんのかぁ、レンズッ!!」
レンズが僅かに銃を下ろすのと共に、その視線に籠もっていた敵意が消えた。
オレを……哀れむような目つきになっている。
「一緒に行こうぜ、副長……。頼む……オレにアンタを撃たせないでくれ!」
「舐めやがって……!」
銃口が下りているのは好機……じゃない。
オレが反撃の弾丸を放つ前に、レンズは正確に撃ってくるだろう。
一撃でオレの脳天に穴を開けてもおかしくない。
馬鹿共にとって、オレはもう敵なんだ。交国みたいな敵なんだ。
敵に対して、容赦する理由はない。
レンズが銃口を下ろしたのは……下心あってのことだ。
オレを「説得」して、解放軍に脱走を知られないようにするためのもの。
逃げた後、オレを殺そうとしてくるに違いない!
オレがコイツらを利用していたように、コイツらもオレを――。
「馬鹿野郎共が……! 交国や現実から目を背けて逃げて、何になる!」
「ガキ共を戦わせず済む。……コイツらを守れる」
レンズは余程オレを舐めているのか、泣きそうな顔でオレを見ている。
その隣にいるグローニャも、似たような目つきでオレを見つめてくる。
「オレ達も解放軍も、交国なんてバカでかいものに立ち向かえるほど強くない」
「っ…………」
「交国が悪いのはわかるが、戦ったところで勝てる相手じゃない! オレはコイツらを死なせたくねえんだよ! 守りたいんだよ……!」
「臆病者……!」
「その通りだよ! でも、オレ達は大事なものを守りたいんだ! 少なくともオレにとって……交国を罰するとか、ネウロンの主権を守るとか……そういう大きな事より、近くにある小さな命を守りたいんだよっ!」
「チェーン先輩……。先輩も一緒に逃げましょうよ……」
ロッカに付き添われたバレットが、足を震わせながら立ち上がる。
生まれたての子鹿みたいに足を震わせ、立ち上がる。
……オレを見下すために。
「副長の憎しみは、理解できます。でも、死んじまったら……命と一緒に、その感情すら消えちまうんですよ?」
「…………」
「憎しみなんかと心中するより、子供達と一緒に生きてください……!」
「黙れよ」
解放軍が負ける前提で話やがって。
バカ共が。
…………わかってるよ、オレだって。
解放軍がヤバいってことは……わかってるんだ……!
言うことを聞かない捕虜は拷問したり、殺したりする。ただ殺すだけじゃない。解放軍の団結を高めるために……皆で「共犯」になるための道具にしたりする。
悪いのは交国だが、解放軍も「軍」と呼べるほど立派じゃないのはわかってる。交国軍の方が強いし、蜂起失敗してるのもわかってんだよ……!
わかってるから、必死に……支えてんだよ!
解放軍が抱えている問題は、解決していけばいい! 根っこまで腐っている交国と違って、解放軍は……まだ、やり直せるんだ。立て直せるんだ。
それをするのに、お前らがいたら……心強いと、思っていたのに――。
「オレの憎しみが理解できるだと? 知ったような口を利くな、不良品!」
「ぅ…………」
「副長っ! なんでバレットに、そんなこと言うんだよっ!?」
「事実だろうが! そいつは戦えない不良品で、オレが助けてやったんだぞ!?」
口からどんどん、言っちゃいけねえことがこぼれてくる。
けど、これがオレの本心だ。
星屑隊の馬鹿共の尻拭いしていたのは、解放軍の兵士として役立つから。
バレットを助けてやったのは……恩を、売れるからだ。
めんどくさいガキ共の子守をしてやったのも、下心あっての事なんだ。
復讐のためなら、何だってする。
それがオレだ。
アラシア・チェーンだ。
「副長……。もういいじゃん、コイツらが解放軍で戦うのは無理だ」
苦しげな表情のフェルグスが、そっとオレの銃を奪おうとしてきた。
銃を守る。
これがないと、コイツらへの対抗手段が――。
「副長。もう、コイツらを自由にしてやってくれ」
「…………」
「オレは解放軍に残るから……。お願いだから……」
「…………クソ共が……」
皆がオレを裏切ってきた。
皆のために奔走しても、意味がなかった。
オレの企みなんて、何の意味も無かったんだ。
怒り以上に、落胆の感情が身体を麻痺させてきた。
オレは…………なんのために、今までずっと――。
■title:解放軍支配下の<繊一号>にて
■from:復讐者・フェルグス
『フェルグス君。フェルグス君も、私達と一緒に……!』
「だから、オレは――」
何故か殆ど喋ってなかったヴィオラ姉が、声をかけてきた。
それを拒むために、同じことを言おうとしたが――。
『フェルグス。聞いてくれ』
ラートが言葉でオレを制止してきた。
『お前に伝えたいことが、2つある』
「…………」
『まず、俺の個人的な願いなんだが……俺はお前や皆に死んでほしくない。……スアルタウにも、生きててほしかった』
わかってる。
ラートだって、そう思ってくれてるよな。
それはいいんだ。
あとはその「皆」から、オレを取り除いてくれたら――。
『お前が解放軍に残るなら俺も残る。でも……このまま解放軍で戦っていたら、お前が死ぬのは目に見えている』
「いいんだよ。オレはそれで――」
『俺は嫌なんだ。……もう失いたくないんだ』
「ありがとな。けど、オレの人生はオレのものだ」
ラートの気持ちに感謝する。
けど……いいんだよ、もう。
オレにはもう、オレの命しか残ってないんだ。
「オレの好きにさせてくれ」
そう言って、ラートとの会話を終えようとしたけど――。
『じゃあ、もう1つの伝えたいことを伝えておく』
「…………?」
機兵の操縦席にいるラートが、何か操作し始めた。
機兵を操縦しているわけじゃない。
機兵の端末をイジっているみたいだった。
『いま、俺は……アルが最期に乗っていた機兵の操縦席にいる』
「――――」
『そこに、あったんだ。音声データが』
そう言い、ラートはそのデータの再生を始めた。




