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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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心変わり



■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「テメエらの浅知恵で、オレを出し抜けると本気で思ったのか?」


 ガキ共に詰め寄って、余計なこと(・・・・・)を吹き込もうとしているレンズとバレットに「離れろ」と促す。


 オレの言葉だけじゃ、馬鹿野郎共は動かなかっただろう。


 銃口と、それを向ける理由があれば話は別だ。


 オレが銃を構えているのを見たレンズ達は表情を強ばらせている。


「解放軍から脱走するなんて、許されると思ってんのか?」


「「…………」」


「副長。違う。これは、単なる世間話で……」


「黙ってろ。フェルグス。……コイツらは銃殺ものの罪を犯そうとしたんだ」


 解放軍は軍組織だ。


 脱走なんて和を乱す行為、認められるわけがない。


 銃殺して処分するだけの大義名分がある。


「な……何で、先輩がここに……」


星屑隊(てめえら)の動きなんざ、バレバレなんだよ。……あれだけオレに反感を向けてきたら、何を企んでるかわかるに決まってんだろ。馬鹿共が……」


「……ここにフェルグス達が来たのは、アンタの仕込みか」


「その通り。ガキ共(エサ)は何も知らず荷物を運んで、脱走犯(おまえら)という馬鹿が食いついた。オレは釣り針としてお前らをつり上げるだけでいい」


 銃を向けて促し、レンズとバレットに距離を取らせる。


 馬鹿共とガキ共の間に割って入る。


「ヴァイオレットほどの大物がかかるとは、さすがに思ってなかったけどな。……お前、<曙>の病室で大人しくしているはずだろ」


『…………』


「ふん。まあ、大人しく療養するタマじゃねえか」


「副長……頼む! そいつらと、ロッカとグローニャは見逃してやってくれ!」


 背後でフェルグスが叫ぶ。


 クソが。テメエまでアイツらの味方するつもりかよ。


 レンズ達はともかく、流体甲冑を纏ったフェルグスとの戦闘になったら……オレには勝ち目がない。戦闘になったら(・・・・・・・)だが。


「フェルグス。お前まで解放軍を裏切るつもりか?」


「オレは解放軍に残る! オレが皆の分も戦うから、それで許してくれ! ヴィオラ姉達を……逃がしてやってくれ」


「ダメに決まってんだろ。いま、解放軍の和を乱す輩は、誰だろうと許さん」


 交国と戦うためには、被害者同士で一致団結しなきゃダメなんだ。


 オレ達は……1つにまとまらなきゃいけないんだよ。


 余計な感情(もの)をそぎ落としてでも、1つに……。


『副長さん。解放軍は負けます。バフォメットさんですら負けたんですよ?』


「オレ達は負けない。正義は、解放軍(おれたち)にあるんだ」


 端末越しにヴァイオレットを見る。


 ……ヴァイオレットは、まだ脱走していないようだ。


 背景に映っているのは、<曙>の病室だろう。今日の段階ではガキ共の説得だけして、後日、逃げだそうと企んでいたんだろう。


 あるいは……ヴァイオレットだけ残るつもりだったのかもな。


 ドライバ少将は、ヴァイオレットに期待している。ヤドリギなんてものを造って、混沌機関の整備技術を持っているヴァイオレットに期待している。


 バフォメットがガードしてきて勧誘が上手くいってないようだが、それでも最終的には解放軍に勧誘できるはずだ。……こいつらが逃げなければ。


「オレに見つかった以上、お前らはもう脱走不可能だ」


「ここでアンタをブッ倒しておけば――」


「馬鹿が。オレが無策で来たと思うか?」


 馬鹿レンズの言葉を鼻で笑いつつ、勝利宣言をしてやる。


「オレは、まだこの事を誰にも言ってない(・・・・・・・・)


「……まさか」


「だが、オレから連絡がなければ、『メモを見てくれ』と伝えておいた」


 隠しているメモには、「星屑隊が脱走を企てている可能性がある」と書いてある。オレと連絡が取れなければ、奴らを疑えと話してある。


「お前らはいま直ぐ脱走するわけじゃない」


 オレを殺しても無駄だ。自分達を追い詰めるだけだ。


「お前らの脱走準備、まだ終わってないんだろ? それなのに解放軍を敵に回して、繊一号から逃げ切れるのか?」


「テメエ……!」


「ヴァイオレットはまだ、方舟内にいるんだろ? あそこの警備は、テメエらが突破できるものじゃない。ヴァイオレットを見捨てて逃げてみるか? んっ?」


『私は大丈夫ですっ! 脱出計画を前倒しして、逃げてくださいっ!』


 ヴァイオレットは画面にかじりつく勢いでそう言ったが、レンズとバレットの表情は躊躇いに満ちていた。


 んなこと、出来ねえよなぁ?


 仲間を見捨てられねえよなぁ?


 解放軍(おれたち)は見捨てるくせに……!!


「フェルグス、お前も余計なことはやめておけよ。……流体甲冑使って、オレの首を落としたところで意味ねえからな」


「待ってくれ副長! こいつらぐらい、逃げていいだろっ……!?」


「馬鹿なこと言うなッ! いま、解放軍がヤバいのはわかってるだろ!?」


 各部隊の長が、必死に部下の統制を取っているんだ。


 兵士達の不満は爆発寸前だ。既に「交国軍に寝返ろう」と話し合っていた奴らがいたぐらいだ。……奴ら、怖じ気づきやがって……!


「脱走は、全体の士気に関わるんだよ! お前らの脱走を許したら、解放軍が瓦解するかもしれないんだぞ……!?」


「その程度の組織だってことだろ」


「その程度の組織に負けてんだよ、お前らは」


 挑発してくるレンズに、銃口を突きつけ続ける。


 そのレンズの隣で青ざめているバレットは、大した相手じゃない。


 戦うのが怖くて、銃すらまともに握れないザコだ。


 いまここで注意を払うべきは、フェルグスとレンズの2人だけ。……倉庫内を移動し、その2人を視界に収められる位置に移動する。


 オレが殺された時の保険を用意しているとはいえ、無駄死には御免だ。オレには……まだやることがあるんだ。


 オレは、交国に復讐するんだ。


 死んだ親友のためにしてやれることは、もう……復讐しかないんだ。


「お前達に出来るのは、首謀者を突き出して……これからも解放軍に忠誠を誓う事だけだ。そしたら誰も殺さないでおいてやる」


 脱走計画を仕切っていた星屑隊隊員は、おそらくレンズだろう。


 レンズはさすがに罰を与える。さすがに殺しはしねえが……二度と銃を握れない手になるのも、覚悟してもらう必要がある。


 あとはヴァイオレットだな。……軟禁中なのに、外部と連絡が取れているコイツは危険だ。処遇は、ドライバ少将に任せるが……罰を与えてもらわないと。


 ……バフォメットが交国軍にやられたのがマジなら、もうヴァイオレットを守れる奴はいない。


「詰んでんだよ、お前らは。…………馬鹿野郎共が」


 全員、オレの指示に従ってりゃ良かったんだ。


 ……なんで誰も、オレの言うこと聞いてくれねえんだよ。


 星屑隊も、整備長も、パイプも隊長も……!


 正しいのは解放軍(おれたち)なのに――。


「悪いのは……交国だってこと、お前らだってわかってるだろ……?」


『そこは仰る通りですけど、でも……わかってくださいっ!』


 ヴァイオレットが、画面越しに懇願してくる。


『交国は確かに悪い事をしています! けど、それでも解放軍の戦力で交国に勝つのは不可能です! 蜂起失敗しているのは、副長さんもわかってるでしょ!?』


「勝てるさ! 絶対に解放軍(せいぎ)が勝つ!」


『勝てませんよ! このままじゃ、貴方達は負けて皆殺しに――』


「そうならないよう、統率取ってんだろうが!!」


 それを乱しているのはお前達だ。


 正しいのはオレ達で、間違っているのはお前達だ。


「逃げるのは卑怯者のすることだ! 戦わなきゃ、交国はこれからも横暴を働き続ける! 逃げたところで……追いかけてきた交国軍に殺されるだけだぞ!」


「「『…………』」」


「オレ達は、正当な復讐をしているんだ!」


 まだ比較的話のわかるフェルグスに向け、「そうだろ!?」と叫ぶ。


 フェルグスは黙って俯いている。


 それでも、コイツはまだ味方のはずだ。


 オレ達は、同じ目標に向けて歩み続けているはずだ。


『正義、正当と叫びながら……子供達を大人の復讐に巻き込むつもりですか!?』


「黙れッ! 他人のお前が、口出しすんじゃねえよッ!」


 オレ達の痛みを理解できるのは、同じ被害者だけだ。


 ヴァイオレットは所詮、他人だ。


 他人のくせに……わかったような口を利くな!




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:復讐者・フェルグス


「ふ……副長っ! 頼む……!」


 マズい。


 この状況は、さすがにマズい……!


「ヴィオラ姉達は、逃がしてやってくれ! オレは残るから……!」


「ダメだ」


「頼むっ……!」


 膝と手をつき、副長に頭を下げる。


 頼むから、皆のことは見逃してくれ。


 副長だって、皆のこと大好きだったろ!?


 星屑隊の皆が馬鹿騒ぎしてるの、いつも優しい顔して見守ってたじゃん!


 皆がやりすぎた時、怒りながらも尻拭いしてあげてたじゃん!


 特別行動兵(おれたち)の事も、構ってくれたじゃん!


 黒水に残って、オレ達の面倒見てくれたじゃん!


 オレの弱音も、厳しいこと言いながら……最後まで聞いてくれたじゃん……。


「皆のこと、見逃してやってくれ……」


「…………」


「オレ、やだよ……! アンタと星屑隊の皆が争って憎み合うの、見たくねえよっ……! オレが、皆の分も戦うから――」


「ダメだ」


 顔を上げ、副長の顔を見る。


 副長は、見たことないぐらい冷たい顔をしていた。


「脱走自体を許せないんだ。解放軍の弱体化は、一切許さん」


「ほ、星屑隊の皆は……アンタにとって、弟みたいなもんだろ!?」


「…………違う」


「皆のこと、呆れたり叱ったりしながら、それでも大事にしてたじゃんっ!」


 解放軍の「捕虜」にした後も、大事にしていた。


 守ろうとしていた。


「レンズ達に銃向けるのは、やめてくれ! 兄弟で……殺し合うようなもんじゃねえか!? アイツらのこと、許してやってくれよ……!」


「気持ち悪いことを言うな。星屑隊は…………解放軍が蜂起した後、解放軍の兵士にするために……面倒を見てやってただけだ……」


「…………」


巫術師(おまえら)だって、そうだ。解放軍の兵士として使えそう(・・・・)と思ったから、最低限、世話してやってただけだ」


 副長はレンズ達に銃口を向け続けている。


 家族を見守る目つきじゃない。


 敵に向ける目つきをしていた。


「お……オレ達はそうだったとしても、星屑隊は、違う。……なんで副長、悪者ぶるんだよ。アンタ、そんなんじゃないだろっ……!?」


「黙れ。この状況を何とかしたいなら……お前達はオレを殺して、解放軍も倒すしかない。……馬鹿のお前らでも、それが不可能なのはわかるだろ?」


「「「…………」」」


「いつまでガキの理屈をこねてんだ……。いい加減にしろッ!!」


 何でこんなことになったんだ?


 星屑隊の皆、誰も悪くないんだ。


 副長だって……絶対、本心じゃない。


 悪ぶってるだけなんだ。……こんなの、ホントの副長じゃない。


 でも、どうしたらいい?


 どうすれば……ヴィオラ姉達だけ、逃がすことが……。


「みぃん……」


「…………」


 鳴き声が聞こえた。


 見ると、フワフワマンジュウネコのマーリンが、トコトコと近づいてくるとこだった。……なんでお前、まだここにいるんだよ。


 逃げろよ。


 オレはお前にも、皆にも……死んでほしくないんだ。


 ……なんでこんなことに……。




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「とりあえず、レンズとヴァイオレットには責任を取ってもらう」


 フェルグスは、うなだれたまま顔を上げない。


 レンズはまだ抵抗する気がありそうだ。……ムカつく目つきしてやがる。


 クソ生意気なガキみてえな目つきだ。


「ガキ共。お前らは訓練に戻れ。レンズはついてきてもらう」


「クソ野郎が……」


「何とでも言え、裏切り者(クソガキ)


 悪いのは交国なんだ。


 それもわからない馬鹿共は、しっかり躾ける必要がある。


 オレ達を救ってくれるのは、復讐だけなんだ。


『もう……やめましょう。副長……』


「…………」


 電子音が響く。


 ヴァイオレットが映っている端末から聞こえた。


 だが、これは……ヴァイオレットの声じゃない。


「……ラート?」


『フェルグス。お前も(・・・)、逃げるべきだ』


 端末からラートの声が聞こえる。


 淡々とした声色だが、確かにラートの声が聞こえる。


『俺が言えた義理はないかもしれない。けど、お前も逃げるべきだ』


「おい、待て……! お前まで、コイツらの味方するつもりか!?」


 どこかから、通信を繋いでいるんだろう。


 ラート。


 お前まで……オレを、裏切るのか?




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:ラート


『ラート、お前、話が違うぞ……!』


「…………」


 通信機越しに、副長の声を聞く。


『お前、最期までフェルグスに付き従うつもりって言ってただろ!?』


「……はい」


『そのフェルグスが解放軍に残って戦うって言ってんのに……!』


「そのつもりでした」


 ついさっきまで、そう決めてた。


 自分で判断するのがつらくなって、思考停止していた。


 けど、気が変わった(・・・・・・)


 伝えたいことがある。


 いや、伝えなきゃ(・・・・・)いけない事(・・・・・)があるんだ。


『もし仮にフェルグスを説得できたところで、無駄だ。諦めろ』


「副長と解放軍がいるから……ですね?」


『そうだよ。オレを殺してもいいが、そしたらテメエらも道連れだぞ』


 副長が苛立った様子で言葉を続ける。


『オレも解放軍も、裏切り者は許さん。テメエらがそのつもりなら、解放軍の全兵力で相手してやる。テメエらは、もう詰んでんだよッ!!』


「けど、副長が味方になってくれれば……状況は変わる」


 副長の話によると、この件はまだ副長しか知らない。


 じゃあ、副長さえ心変わりしてくれれば……解放軍とやり合う必要はない。


「フェルグスだけじゃなくて、副長も説得できれば……丸く収まるはず」


『収まらねえよ……! オレには、交国もお前らも許す理由がない!』


 副長の言うことは間違っていない。


 副長の立場なら、何も間違っていない。


 副長だって……被害者なんだ。


「――――」


 操縦席の外をチラリと見る。


 外に出ていた星屑隊の隊員達が、慌てて戻ってきている。


 慌ただしく準備(・・)を進めている。


 出来れば、副長を説得したい。それが一番穏便に片付く。


 だが、それがダメなら、指示通り(・・・・)時間稼ぎして仕掛けるしかない。





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