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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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木偶の坊のラート



■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:死にたがりのラート


「……わかった。協力する」


『ラートさんっ……!』


 必要な部品を取りに行って戻ってくると、ヴィオラから話があると言われた。星屑隊の皆と話し合って、解放軍から脱走する事を決めたらしい。


 ヴィオラも、星屑隊の皆も解放軍から逃げたい。


 そう思う気持ちもわかるし、それを邪魔する必要はないだろう。


『脱走経路は確保してますっ! 繊一号から逃げた後も……何とかする方法が見つかっているんですっ!』


「…………」


『ただ、フェルグス君達を、どう説得するか迷ってて……』


なんで(・・・)?」


『えっ? いや、その…………皆、私と話すらしてくれなくて……』


「アイツらを説得する必要って、あるのか?」


 そう返すと、ヴィオラが困惑顔を浮かべた。


 肩に誰かの手が置かれる感触がした。


 横を向くと、眉間にシワを寄せたレンズが俺を見ていた。


「クソ馬鹿ラート。説得する必要あるに決まってんだろ」


「なんで?」


「このまま解放軍にいたら、アイツらは死ぬ。それぐらいお前にもわかるだろ」


「ああ。けど、アイツらは交国への復讐を望んでいる」


 フェルグスとグローニャとロッカが、交国に復讐したい動機は本物だ。


 俺達の家族みたいに、偽物じゃない。


 本物のために、命を賭けているんだ。……俺達が「本物だと思っていた家族(もの)」のために命を賭けていた時とは……わけが違う。


「俺達に、フェルグス達がやりたい事を邪魔する権利って……あるのか?」


『ラートさん……? なに、言って……』


俺は(・・)アイツらの復讐を支持する。……手伝ってやりたいんだ」


 俺自身が交国に復讐したいわけじゃない。


 父ちゃんも、母ちゃんも、弟も……全部ウソ。


 俺達は騙されていた。けど、それは……もう、どうでもいい。


 俺は……スアルタウを守れなかった。フェルグスに大怪我を負わせた。


 守るって誓っておいて、何も出来なかった。


 俺の思いも、判断も……全部……全部間違っていたんだ。


「俺にしてやれるのは、アイツらの判断を支持して……手伝う事だけだ」


「ガキ共は解放軍に騙されてんだよ……!」


「交国が、アイツらの家族や平穏を奪ったのは事実だろ」


「そうだけどよぉ……! 解放軍は所詮、ショボいテロリストなんだぞ!? 解放軍の奴らは、交国みたいに……ガキ共を軍事利用しようとしてんだぞ!?」


「…………」


「オレは、グローニャ達を守りたいんだ! 確かに解放軍の言いたいこともわかるが、負け戦なんて御免だ。ガキ共を連れて、逃げさせてもらうぜ」


「アイツらが『逃げたくない』って言ってもか?」


「そうだよ。オレはアイツらを抱っこしてでも逃げるぞっ!」


「それで本当に……アイツらが救われるのか?」


「はぁっ……!?」


「…………どう足掻いても救われないなら、やりたいこと、やらせるべきだろ」


 それを手伝うべきだ。


 フェルグス達と一緒に戦って、守る。


 アイツらがやりたいことを全肯定してやる。


 交国の部品(パーツ)として造られた俺は、戦うしか能がない。


 それなら……フェルグス達の部品として戦う方が……いいだろ。


 そんで……フェルグス達を守って死ねたら――――。


「俺は、フェルグス達の味方でいたいんだ。最後の最期まで」


「だったら、アイツら助けるために協力しろよっ……!」


「俺だって、最初はそのつもりだった。……けど、失敗した」


「…………」


「俺が間違っていたんだ。俺が……最初から、何もしてなきゃ……」


「…………」


「最初から、バフォメットに子供達を預けていれば良かったんだ。俺が助けようと無駄に足掻いた結果、アルは…………」


『アル君が命を落としたのは、ラートさんの所為じゃありません!』


 そんなわけねえ。


 俺の行動が……判断が、間違っていたんだ。


 俺みたいなバカなザコが、勝手に動いてなきゃ……アルは……。


「でも、アルの傍にいたのは俺だ。俺の所為なんだ」


『…………。あの子達を本当に想っているなら、協力してください!』


「逃げて、本当にどうにかなるのか?」


 ヴィオラは賢い。


 ヴィオラの計画通りなら、本当に逃げられるんだろう。


「けど、解放軍や交国から逃げて……アイツらが幸せになれる保証、あるのか?」


『それは……』


「アイツらは復讐したがってる。アイツらのやりたい事を取り上げて、逃げて……結局死んだら……それって、不幸(・・)なんじゃねえのか?」


「そうなる可能性もある。けどなぁ、ラート」


 レンズに胸ぐらを引っ張られる。


 ……怒ってるみたいだ。


「アイツらの判断が正しい保証はない。アイツらは、まだガキなんだ」


「……俺達だって、似たようなもんだよ」


「解放軍如きが、交国軍に勝てるはずがない」


「勝てなくても……復讐、少しでも出来たら……気が晴れるかもしれない」


「オレは! グローニャ達が好き好んで人殺しするのなんざ、見たくねえんだよっ! 正当な復讐だろうと……アイツらに、戦ってほしくないんだっ!」


「……それって、お前の押しつけだろ」


 交国が俺達に「戦争」を押しつけていたのと、何が違う。


 解放軍が……正しいとは言わない。


 けど、それでも、アイツらがやりたがっている事は……復讐なんだ。


「お前のワガママを押しつけてるだけだろ……」


「そうだよ! オレのワガママだが……それでもっ! オレは……! グローニャが血みどろの争いに突っ込んでいって、ボロボロになっていくのなんざ……見たくねえんだよっ……!! アイツら、まだ子供なんだぞっ……!!?」


「…………」


「テメエが戦う理由は、わかるよっ! けどさぁ、オレ達の方がアイツらより年上(にいちゃん)なんだぞ!? アイツらが危ねえのに、指咥えて見守るなんて……。お前っ……! らしくねえぞっ……!?」


 レンズの瞳が潤んでいる。


 俺の胸ぐらを掴んで怒りながら……泣きそうになっている。


 そんなレンズの手に、バレットの手が添えられた。バレットはレンズに「軍曹」と呼びかけながら、俺の胸ぐらから手を離すように促してきた。


「…………」


「ラート軍曹。貴方は、子供達の『判断』を支持しているだけなんですよね?」


「……ああ」


「じゃあ、あの子達が『逃げたい』って望めば……」


「それを支持するよ……」


 俺はもう、ダメだ。


 自分で(・・・)考えたくない(・・・・・・・)


 もう間違えたくない。


 全ての判断を、アイツらに委ねたい。


 ……俺の考えで動いて、全部……失敗したんだ。


 もう…………どうすればいいか、わかんねえよ……。


 俺にはもう、アイツらのやりたいこと……応援するしか……。


「わかりました。じゃあとりあえず、俺達の邪魔しないでください」


「…………」


「その代わり、俺達が子供達を説得できた時は、ラート軍曹も一緒に逃げてください。アイツらには……貴方が必要なんです」


 そんなことない。


 俺なんか、いてもいなくても……どっちでもいいんだ。


「……お前らの好きにしてくれ」


『ラートさん……』


 とにかく、俺は最後までフェルグス達に付き合う。


 それでいいんだ。


 きっと、それでいいんだ。


 俺なんかじゃ、状況は変えられない。


 藻掻けば藻掻くほど……皆を不幸にするんだ。


 皆で好きにしてくれ。


 どんな結果になっても、俺はフェルグス達に付き合うよ。


 付き合って、守って、それで……。


「…………」


 皆から離れ、整備中の機兵に向かう。


 アルが最期に憑依していた機兵。


 これを直さないと……。


 出来れば、これに乗って最期まで戦いたい。


 早く直して、いつでも使える状態にしとかなきゃ……。


 そう思いながら操縦席に乗ろうとしていると、通信が来た。


「はい……」


『ラート。すまねえが、ちょっと来てくれないか?』


「はい、副長」


 指示された場所に向かおうとする。


 すると、レンズ達が近寄ってきた。


 俺が副長達に密告しないか、疑っているみたいだ。


「副長に呼ばれた。ちょっと行ってくる」


「副長は、ガキ共を戦場に送り出す約束破りだぞ。裏切り者だぞ!」


「…………」


「副長は、ラート軍曹に何の用事なんですか?」


「隊長の説得、手伝ってくれって……」


 隊長はまだ、解放軍の軍門に下っていないらしい。


 牢屋で勧誘を拒んでいるらしく、その説得に力を貸してほしいと頼まれた。


 その話をすると、レンズとバレットが顔を見合わせた後、急に「よし、行ってこい」「行ってきてください」と言ってきた。


「その代わり、隊長の居場所を教えろっ……! 調べてこいっ!」


「隊長も……逃がすつもりなのか?」


「当たり前だろ? ……隊長が逃げたいって言うなら、その判断支持するよな? 隊長自身がやりたいこと、邪魔したりしねえよなぁ?」


「ああ……」


 けど、フェルグス達の判断と、隊長の判断は別だ。


 隊長も、自由に逃げればいい。


 フェルグス達も……自由にすればいい。


 俺は、どっちも口を挟まない。


 フェルグス達の部品として、最後まで付き合うだけだ。


 子供達のために戦う。


 俺が戦う理由は、もうそれしか残っていない。


 もう……それしか、無いんだ。





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