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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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神器使いと燼器使い



■title:混沌の海にて

■from:使徒・バフォメット


 機動機雷を動かしつつ、ネウロン方面に逃げる。


 敵は推定、黒水守。


 混沌の海での戦いにおいて、交国でも最強格の神器使い。


 奴の神器は混沌の海にすら干渉し、操ってくるが――。


『やはり、完璧には操作できていない』


 こちらに向かってくる4つの魂。


 それを殺すために機雷を差し向け、爆破させていく。


 敵は海を操り、防御と同時に攻撃をしているようだが……奴が操っているはずの混沌が、「機雷の爆発」の方に食いつく事もある。


 大量の混沌を支配下に置いても、全て完璧に操れるわけではない。爆発(エネルギー)に反応した混沌が、黒水守(かいぬし)の手を離れて暴走する事もある。


『――――』


 解放軍の機動機雷を差し向け、海を荒らしながら敵の干渉範囲(・・・・)を見定める。どの程度の範囲の混沌を操作できるか、よく見極めていく。


 それなりに広範囲の混沌を操っている。


 だが、それでも本体(たましい)の周辺1キロ程度だろう。


 観えている魂4つのうち、1つが本物。


 どれも本物に見える動きをしているが、1つを除いて偽物だろう。


 本物を確実に仕留めなければ、敵もこちらを学習していく。……黒水守を仕留めておいた方が、私だけではなくヴァイオレットも動きやすいはずだ。


『――――』


 黒水守に差し向けた機雷が、爆発前に潰された。


 敵の作り出す大波が速度を上げている。


 機雷による攻撃は元々届いていないが、爆発による誘導すら潰してくる。


 単騎の性能において、黒水守の方が圧倒的に格上だ。


 神器を持っていた頃の私でも、混沌の海においては……黒水守に勝てない可能性もある。だが、奴も無敵ではない。


『概ね、そちらの限界は把握した』


 そちらの索敵能力(・・・・)も把握した。


 ネウロン方面に逃げる私を、迷い無く追ってくる。


 即座に私を混沌で押しつぶす事は出来ないようだが……それでも、本体(こちら)の動きはよく掴んでいるようだ。


 おそらく、奴は神器で混沌の海を操るだけではなく、索敵も行っているのだろう。海の動きによって、こちらの動きも掴んでいるのだろう。


 こちらも巫術の眼で敵の位置はわかっているが――。


『混沌の海における索敵能力は、そちらが上か』


 全てにおいて、黒水守の方が格上だ。


 だがしかし、勝機はある。


 ……主導権を握っているのは、今のところ私だ。




■title:混沌の海にて

■from:黒水守・石守睦月


「マズいなぁ……! 主導権握られっぱなしだ」


 敵は推定、バフォメット。


 彼は巫術師であり、神器に匹敵する火力の武器を持っている。


 味方艦隊は複数の時化に飲まれ、大打撃を受けている。それをやってのけたバフォメットの本体は、悠々とネウロンに向けて撤退中の様子。


 撤退がブラフの可能性もあるけど――。


「……界内に逃がしたくないな」


 混沌の海ならともかく、世界の内側で彼との戦闘になった場合、勝てる自信はない。ここで取り逃して、私への対抗策を練られるのも面倒くさい。


 敵は1000年間眠りこけていた戦士かもしれないけど、現代でも通用する戦闘能力を持っている。事実、交国軍の艦隊が玩具のように蹴散らされた。


 今後のためにも、彼を取り逃したくない。


「追うしかないけど、追ってたら主導権握られっぱなしだよね」


 ネウロンに閉じ込め、兵糧攻めにする手もあるけど……それやるとアダム達が危うい。何とかいま仕留めるために追わないと――。


 敵が放ってくる無数の機動機雷を、支配下に置いた混沌の海で押しつぶしていく。押しつぶす前に爆発され、支配下に置いた混沌がかき乱されていく。


 多少、こちらの混沌(ぼうぎょ)を剥がされてもいい。敵の攻撃より、新しい混沌を神器の支配下に置く速度の方が勝っている。


 勝っているけど……さらなる機動機雷(わな)が待ち受けている可能性がある。


「そっちの狙いは……ネウロンに逃げ込むフリして、罠に誘い込む事かな?」


 このままじゃ、その罠に飛び込むしかなくなる。


 それは面倒だから、邪魔させてもらおうかな。




■title:混沌の海にて

■from:使徒・バフォメット


『む…………』


 こちらを追ってくる敵が、少し迂回し始めた。


 こちらの機動機雷(こうげき)を置き去りにして加速し、回り込んできた。


 ネウロン方面への逃走経路(みち)を塞ぐように、回り込んできた。


 そちらに、さらに多くの機動機雷があったのだが――進路を変えざるを得ん。




■title:混沌の海にて

■from:黒水守・石守睦月


「そっちに逃げるの?」


 ネウロンへの道を通せんぼしつつ攻撃を仕掛けると、敵が動いた。


 元来た道ではないけど、それに近い方面に向かって進んでいる。


 ……巫術で流体を練って、混沌の海用の身体を形成し、魚のように泳いでいる様子だけど……速度ならこっちが上かな。


 多数の機動機雷が待ち受けていそうな場所には、行かせない。


 敵が逃げている方向には――。


「ごめんね、第48艦隊の皆さん。ちょっと巻き込むかも……!」


 時化から退避中の第48艦隊の艦艇が多数、航行している。


 犬塚特佐に警告を頼み、バフォメット本体に向けて急ぐ。


 退避中の生き残りに接触された場合、彼らが被害を受けるだけではなく、彼らの方舟をバフォメットに操られる可能性も――。


「…………!?」


 こちらに向け、誘導弾が飛んでくるのを感知した。


 バフォメットが放ったものじゃない。


 退避中の第48艦隊の艦艇が、こっちに向けて誘導弾を放ってきた。


『黒水守! 退避中の艦艇だが、操舵が効かねえどころか火器管制システムが言うことを聞かないらしい!』


 誘導弾を放ってきた艦艇は、10隻以上。


 それらが一斉に牙を剥いてきた。


 おそらく、敵の憑依によるものだが……おかしい。


 バフォメットは特殊な巫術師らしく、憑依中でも本体を動かせる。だが、それにも限度があるはず。同時に複数の兵器を動かす事は出来ないはずだ。


 けど、実際に複数の艦艇がこちらに向けて誘導弾を放ってきた。


 まだ爆発していないため、混沌の海が反応していないけど――。


「そういう事か……!」


 サイラスから報告(はなし)は聞いていた。


 羊飼い(バフォメット)だけではなく、その取り巻きについても聞いていた。


 だが、失念していた。


「退避中の艦艇を、タルタリカで(・・・・・)乗っ取ったのか!」


 誘導弾が殺到してくる。


 そして、こちらの周囲で連鎖的に爆発してきた。


 一気に混沌の海がかき乱される。


 こちらの防御を担う混沌達が、爆発のエネルギーにかき乱されて剥がされていく。先程までの機雷の比じゃない爆発に晒されていく。


 これだけなら、何とかギリギリ……防御できそうだけど――。


「――――」


 敵本体(バフォメット)が動いた。


 巫術で流体を練り、分身を作り上げ、その分身を突撃させてきた。




■title:混沌の海にて

■from:使徒・バフォメット


『燼器解放』


 敵に向け、突撃させた分身に燼器を使わせる。


 憑依で操った敵艦隊の誘導弾攻撃で敵の防御を削り、燼器で一気に焼き払う。


 私でも、さすがに複数の方舟をまとめて操るのは難しい。


 しかし、こちらにはタルタリカがいる。


 巫術が使える個体を混沌の海に潜伏させておき、敵艦隊を密かに乗っ取らせる。


 敵の警戒網が生きていれば、タルタリカ達程度は直ぐに見つかっていただろう。しかし、混沌の海が荒れ狂っている今なら、敵の警戒網も十分に機能しない。


 複数の方舟をタルタリカ達に乗っ取らせ、こちらを追ってくる黒水守に対し、大量の誘導弾を放たせる。それで敵の防御を削り、ダメ押しの燼器を放つ。


 追撃してきた4つの魂。


 それが全て、誘導弾と燼器、そして時化に飲まれ、消えていく。


『混沌の海を操る神器(のうりょく)だろうと、限界はある』


 その限界は機動機雷をけしかけ、計っていた。


 これほどの飽和攻撃に晒せば、さすがの黒水守も耐えられなかったようだ。


『卑怯とは言うまいな』


 最後の魂が消えるのを見送り、呟く。


 これは戦争であって、決闘ではない。


 一騎打ちなどする必要はない。黒水守は格上の相手だった。こちらも手段を選ばず、仲間(タルタリカ)敵艦隊(てき)も活用せねば勝てなかった。


 さすがの黒水守も、タルタリカ達の動きまでは把握しきれていなかったらしい。


『離脱可能な者は、方舟を乗っ取ったままついてこい』


 誘導弾で援護させたタルタリカ達に、方舟を引き続き操作させる。


 敵艦隊には十分な打撃を与え、敵の神器使いも倒した。


 何とか確保できそうな方舟を手土産に、ネウロンに帰還を――。


『…………』


 時化が続いている。


 それは、当然だ。


 私と交国軍の戦闘により、ネウロン近海は大きく荒れ狂っている。


 この程度なら、私は生身でも泳ぎ切れるが、しかし――。


『何だ、この……荒れ方は……』


 ネウロンに近づけない。


 時化が明らかに指向性(・・・・・・・)を持ち、こちらを押し流していく。


 タルタリカ達に操られている方舟が、流れに逆らえず流されていく。


 何者かが(・・・・)混沌の海を操っている。


 だが、そんなことを出来る神器使いは殺したはずだ。


 さきほど、私の手で――。


『――――』


 しかし、死体を確かめたわけではない。


 魂が消える瞬間を見ただけだ。


 奴は本当に死んだのか?


 そもそも、先程消えた魂は神器使い本人のものだったのか?


 4つ全て(・・・・)偽物(・・)だったのでは――。


『くっ…………!』


 大きな波が襲いかかっている。


 囲まれた。混沌が指向性を持ち、私を閉じ込め、押しつぶそうとしてくる。


 まるで、巨大な龍に襲われているような感覚。


 間違いない。黒水守は生きている。


『先程の潰した魂は、全て囮か……!』


 だが、それなら本体はどこにいる?


 巫術で索敵しても、それらしい魂は観えない。


 敵の攻撃で破損したとはいえ、こちらにはタルタリカも使って構築した索敵網がある。だが、それに一切、敵が引っかからない。


 少なくとも10キロ圏内(・・・・・・)にはいない。


 その外から神器を振るっているとしたら、奴の神器(ちから)は常軌を逸して――。




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