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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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分身特攻



■title:第59艦隊所属艦にて

■from:交国軍・艦長


「再び高エネルギー反応……! 味方艦艇が飲まれていきます!」


 何が起きている。


 突如、旗艦周辺で高エネルギー反応が観測された。


 それに混沌の海が反応し、海が荒れ始めた。時化が発生している。


 それは一度では終わらず、立て続けに発生している。


 混沌の海ではそういう事故も起こる。方舟が1つ轟沈した際、その時に発生したエネルギーで海が荒れる。それに巻き込まれた方舟(ふね)が沈むという事態が連鎖し、さらに大きな時化に繋がる事もある。


 ちょっとした事故で船団が壊滅する事もある。


 しかし、我々は交国軍・第59艦隊だ。


 輸送船の船団と違い、時化への対策も持っている。完璧に対応できるわけではないが、連鎖轟沈が発生することなどそうそうない。


 そもそも、時化とは別に、不審な高エネルギー反応が何度も観測されている。


 敵の攻撃? 敵が機雷をぶつけてきたのか?


 まさか、そんなはずない。テロリスト共がこちらの索敵網をくぐり抜け、いくつもの機雷を旗艦周辺まで届けられるはずがない……!


 急に通信を繋いで来た犬塚特佐が、「封鎖線を解いて散開しろ! お前達の直ぐ傍に敵がいる!」と言っているが、有り得ない!


 有り得ないはずだが――。


「味方の艦艇が、荒れ狂う海に飲まれ、操舵不能に陥っていきます!」


「<生翼>、<丹呉>、通信途絶! <雷古>より救援要請!」


「<雷古>付近で高エネルギー反応を確認」


 不審な高エネルギー反応の正体が「敵の攻撃」なら……犬塚特佐の忠告通りだ。


 だが、敵はどうやって攻撃している?


 混沌の海はエネルギーに反応し、襲いかかってくる。普段の航行中は混沌を刺激しないようにしているが、敵の機雷や特攻攻撃で時化に巻き込まれることもある。


「敵は、どうやって攻撃している!? 何故、敵自身が時化に潰されない!?」


「わかりませんが、爆発物ではありません。高エネルギー反応は……落雷に類似しています」


「混沌の海で、雷……?」


 敵の新兵器か? 何故、テロリスト如きがそんな兵器を持っている。


 いや、今はそれよりも――。


「高エネルギーの発生源、及び時化から全力で距離を取れ! 時化の中心に引きずり込まれたら、こちらも潰されるぞ!」


 混沌はエネルギーに向けて殺到し、それを押しつぶした後も勢いよく荒れ狂う。


 一種の渦巻きのようなもので、エネルギーの発生源に――時化の中心に向け、強力な波が起こる。流れに身を任せていれば、そこに引きずり込まれる。


 時化に引きずり込まれると、荒れた混沌の海に押しつぶされるどころか、同じく引きずり込まれた味方艦艇と激突する危険もある。


「時化の中心で爆発を観測。退避し損ねた<廉佳>と<戸張>が激突したのかもしれません。さらに時化が大きく――」


「第48艦隊の方へ退避しろ。一度退いて、体勢を――」


「待ってください、艦長。進路上で新しい時化を観測しました。第48艦隊の方でも、同様の現象……あるいは攻撃が観測され始めています」


 我々は、交国軍の艦隊だぞ?


 そこらの弱小国家の軍隊ではない。


 敵の攻撃の正体がわからないまま、ここまで一方的にやられるなど有り得ない。


「テロリストが船員に紛れ込んでいるのでは、ないのか? 船を乗っ取ったテロリスト共が、艦に搭載されている兵器を使って暴れているのでは――」


「その可能性もありますが、それだけとは思えません。観測されている高エネルギー反応は落雷のようなものです。発生源から、熱線のように伸びています」


「……まさか、神器による破壊か?」


 そうだとしても、おかしい。


 部下も同意見らしく、「神器を振るった本人が、時化に押しつぶされるはずです」と言ってきた。


「空間転移能力でもあれば、話は別――」


 艦に衝撃が走った。


 轟音と共に悲鳴が上がり、方舟が大きく揺れる。


 艦橋の機器が、今まで以上に警告音を発し始めた。


「正体不明の高エネルギーの直撃を受けました! 推進器が破損!」


「艦後部との連絡が取れません!」


 我々の方舟(ふね)が大打撃を受けたのは明らかだった。


 それでもまだ、私を含めて生存者はいるが――。


「――――」


 破滅の音が聞こえる。


 プレス機にかけられた缶のように、我々の方舟が潰れていく音が聞こえる。


 高エネルギーに刺激された周辺の海が、この方舟に殺到してくる。


 海に押しつぶされる。


「友軍への情報伝達を優先しろ! 艦の防御は、後でいい!」


 もう間に合わない。


 それなら、我らの死体で勝利への道を舗装してや――――。




■title:混沌の海にて

■from:使徒・バフォメット


『燼器解放』


 流体を練り上げて作った大太刀を振るい、燼器の雷撃を放つ。


 必要な混沌(エネルギー)は、足下(・・)にある交国軍の艦艇から絞り上げる。足りなければ周囲の混沌を無理矢理使う。


 雷撃は、巫術で観測した魂の密集地に向けて放つ。


 混沌の海は暗く、視界が効かない。だが、巫術を使えば魂は観える。観測した魂の群れから敵船の位置を割り出し、そこに向けて雷撃を放つ。


 命中。敵の魂が次々と消えていく。


 殺し損なった魂も観えたが、あれほど仕留めたのであれば、私の放った雷撃に反応した混沌の海が追撃してくれるだろう。


 当然、雷撃の主である私にも、混沌が――時化が迫ってくる。


 我が身が押しつぶされていくのを感じつつ、ギリギリまで攻撃を放つ。


 ただ、これで終わりではない。


『――燼器解放(・・・・)ッ!』


 再び、雷撃を放つ。


 先程、雷撃を放っていた場所から1キロほど離れている(・・・・・)が、まだ敵艦隊を狙える位置にいる。周囲の混沌は既に荒れ狂っているが、構わず放つ。


 我が燼器は、流体を雷撃として放つことが出来る。


 そして、私は巫術師。


 流体を練り、燼器を振るうための分身(からだ)を作る事も出来る。


 神器にしろ、燼器にしろ、それらの武装は我が魂と共にある。


 魂さえ無事なら、憑依先で作り上げ、何度でも振るえる。


 本体(・・)さえ無事なら、分身や分身を作った先で練り上げた燼器が時化に潰されようと、何度でも何度でも何度でも雷撃を放つことが出来る。


 憑依先に十分な混沌(エネルギー)がなければ、雷撃を放つことは出来ないが――。


『混沌など、敵船(・・)から奪えばいい』


 雷撃を放ち、敵船を沈める。


 沈め損ねた船に雷撃越しに憑依し、混沌を勝手に拝借して再び攻撃する。方舟(ふね)から方舟(ふね)に魂だけで跳び移り、さらなる破壊を作っていく。


 ただ、あまり調子に乗りすぎると――。


『む……。混沌機関まで壊してしまったか』


 憑依した先の方舟に、使える混沌機関が無かった。


 やむを得ず、一度本体に戻る。


 本体で流体を練り上げ、小魚型のドローンを作成する。


 それを敵艦隊に向け――魂の群生地に向け、放つ。


 敵旗艦への憑依も、これで事足りた。交国軍はよく警戒しているが、対巫術戦闘は素人だ。巫術を有効活用すれば艦隊だろうが手玉に取れる。


『しかし、敵の対応が早かったな』


 艦隊が2つあろうと、燼器と時化で壊滅させる自信はあった。


 ただ、予定よりずっと早くこちらの存在を気取られてしまい、敵艦隊がさらに散開し始めた。これでは全ての船を時化や攻撃に晒すのは難しそうだ。


 戦端を開いた以上、敵を鏖殺したかったが……それは無理だろう。


 いま、敵艦隊は大混乱に陥っているが……生き残りは必ず、今回の戦いの情報を持ち帰る。交国はそれを分析し、私に対して徹底的に対策を講じてくるだろう。


 交国ほどの大国なら、手痛い敗北で学習してくるはずだ。


 だからこそ、初見のうちに方舟まで奪い、ネウロンを放棄し、混沌の海で奇襲を繰り返していくべきだと提案したのだが――もう遅い。


 このまま、出来るだけ敵を殺していく。


 そのためには――。


伏兵(タルタリカ)前進。混乱に乗じて敵艦隊に取り憑け』


 混乱している敵艦隊が時化から遠ざかろうとしている。


 敵艦隊の逃げる先に伏せておいたタルタリカ達を動かす。


 敵の警戒網が完璧なら、接近前にタルタリカ達はやられるだろう。奴らは私ほど器用ではない。通常なら見つかるだろう。


 だが、敵が大混乱に陥っている今なら、奴ら如きでも取り憑く機会はある。


 敵艦隊を分身で攻撃しつつ、タルタリカの群れを動かしていく。


『これで大打撃を与えられるはず――』


 そう呟いた瞬間。


 私が構築した索敵網の一部が潰される(・・・・)感覚がした。


『――――』


 敵が何かしてきた。


 敵艦隊に奇襲を仕掛ける前に、混沌の海にタルタリカを放ち、索敵網構築を手伝わせていたのだが……タルタリカの一部が一瞬で殺された。


 時化に巻き込まれたような死に方だったが、違う。


 先程死んだタルタリカ達は、敵艦隊から離れている。


 交国本土方面から来た何か(・・)が、タルタリカ達を押しつぶしていった。


 それが、音も無くこちらに近づいてくる。


『新手か。……おそらく、神器使いだな』


 それも、混沌の海(うみ)の戦いに長じた奴だ。




■title:混沌の海にて

■from:黒水守・石守睦月


「相手は噂の巫術師(バフォメット)か。結構、キツそうだなぁ」


 第59艦隊旗艦にこっそり向かっていたけど、進路を変更。


 敵はこちらの動きに感づいたのか、好き勝手やり始めた。


 あれほどの破壊を振りまきながら、時化に巻き込まれずにいるのかと思ったけど……「巫術師」で「神器並みの兵器」を持っているなら、あれぐらいできるか。


 多分、憑依で分身を作っている。


 分身達に自爆特攻を繰り返させているんだろう。いくら分身がやられたところで、それは流体で練り上げた偽者。本体が無事なら何度でも特攻できる。


 やっぱり……巫術は驚異だな。


 普通の巫術師は、あそこまで出来ないだろうけど――。


「力比べと行こうか」


 ネウロンに向かうなら、あの巫術師は倒しておきたい。


 一応、巫術師対策は用意してきたし……神器の暖気が終わるまでそれを使おう。


「犬塚特佐、死刑囚(・・・)を出してください」




■title:混沌の海にて

■from:使徒・バフォメット


『混沌を操っているな』


 タルタリカがやられた原因がわかった。


 敵は混沌の海に意図的に時化を起こし、それで攻撃してきている。


 それも、私のような大雑把な方法ではない。


 混沌の海そのものを操り、攻撃手段にしている。


 交国本土方面からやってきた大波が、索敵網を構築しているタルタリカ達を挽きつぶしていく。次々とタルタリカがやられていくのを観測する。


『敵の本体が、どこかにいるはず……』


 混乱の渦中にある艦隊を放置し、新手の敵を見つけるのに集中する。


 手間取ったが、見つけた。


 タルタリカを潰している大波の後方に、ポツンと漂う魂が見える。


 その魂を守るような形で大波が奔り、タルタリカを殺している。……敵はこちらに迫っている。まさか、混沌の海の中でも私の位置を掴んでいるのか?


 あるいは、私の位置を推測しつつ、動いているのか――。


『行け』


 反撃のため、解放軍から預かった機動機雷(ウィリアム)の群れを放つ。


 ネウロン防衛のために展開している機動機雷だが、交国軍を阻むために「いくらでも使っていい」と言われている。


 巫術が使えるタルタリカ達に憑依させた機動機雷が、大波を迂回し、敵の魂に向かっていく。可能な限り至近距離で爆発させようとしたが――。


『やはり、ある程度は周辺が見えているな』


 観測した魂に向かわせた機動機雷が、全て迎撃された。


 敵の周辺で新たな大波が生まれ、機雷が迎撃された。


 機雷が完全に潰される前に爆破し、それによって混沌の海を刺激する。新たな時化を作ったが、その時にはもう敵は離脱している。


『……時化を、完全にコントロールしているわけではないのだな』


 ならばやりようはある。


 敵に対し、さらに機動機雷を放つ。


 その後方に敵艦隊から奪った混沌機関を移動させ、私の分身を作る。


『――――』


 敵は迫る機動機雷に向け、再び大波を放った。


 先程と同じ事の繰り返し。


 機雷は大波に押し返され、潰される。だから、再び爆破する。


 ただし、軌道は変更する。


 敵の大波を囲む形で機雷を進め、爆破し――。


『燼器解放――!』


 爆破で大波の移動方向を誘導する。敵までの道をこじ開ける。


 敵の攻撃は、混沌の海を使っている。


 上手くコントロールしているように見えるが、時化を完全に操れるわけじゃない。敵本体は時化に巻き込まれないよう、気をつけて移動している。


 敵の大波を機動機雷で散らしつつ、爆破で大波をかき乱す。


 それによってこじ開けた道に、雷撃を放つ。敵に向け、全力攻撃を放つ。


 熱したフライパンに落とした水滴のように、敵の魂が吹き飛んだ。


 雷撃によって、確かに魂を消した。


 だが、大波は消えていない。


 未だ、こちらに向けて侵攻してくる。


 それだけではなく、さらに四つの魂(・・・・)が迫ってきた。


 大波に守られながら――。


星屑隊(やつら)同じ手か(・・・・)




■title:混沌の海にて

■from:黒水守・石守睦月


「ごめんね。囮になってね。生き残っても恩赦とか特にないけど……」


 神器で混沌を操り、大波を起こしつつ、囮にしている死刑囚の皆さんに謝る。


 ふざけんな、ころしてやる、という声が聞こえてきた気がした。多分気のせいじゃないけど、申し訳ない……私はまだ色々やることがあるんだ。


 敵は巫術師。


 暗い混沌の海だろうと、巫術によって魂の位置を捉えてくる。


 けど、「誰の魂か」を区別できているわけじゃない。


 玉帝に用意してもらった死刑囚(おとり)を散開させ、敵の狙いを出来るだけ分散させる。さっきの雷撃、直撃したら私でもさすがにキツい。


「さっさと本体を潰さないとね。死刑囚(みんな)のためにも」




■title:混沌の海にて

■from:使徒・バフォメット


『燼器解放』


 再び雷撃を放つ。


 放ったが、狙った魂は「するり」と雷撃を回避していった。


 そのまま勢いよく混沌の海を泳ぎ、こちらに向かってくる。


 本体(わたし)の位置に気づいたのか?


 敵が「混沌の海への干渉能力」を持っているとしたら、「混沌の海にいる敵の位置」もある程度は把握しているのかもしれない。


 ……少々、分が悪い。


 交国軍相手なら視界差で優位を取れると思っていたが、視界(それ)で負けている可能性がある。射程はこちらの方が上だと思うが――。


『先程……囮の魂を屠った時の雷撃で、こちらの攻撃を覚えたか』


 対応が早い。


 何らかの方法で、こちらの流体(こうげき)のパターンを即時学習した可能性がある。距離を詰めない限り、燼器の一撃はもう入らんかもしれん。


 そもそも、敵の本体がどれかわからん。


 魂は観える。だが、どれが敵の本体かわからん。


 敵は巫術の限界を把握し、囮を使っている。


 敵本体を潰さない限り、下手に燼器を放ったところでまた学習される。


『貴様が、噂の黒水守か』


 混沌の海で戦うなら、かなり厄介な相手だと聞いている。


 海で戦う以上、敵の方が遙かに格上と見るべきだろう。


『――――』


 敵艦隊には、もう十分に打撃を与えた。


 さらに応援を派遣しない限り、立て直すのには時間がかかるだろう。


 解放軍に対する義理立ては、十分果たしたはずだ。


 一度、ネウロンに逃げるのも手だが――。


『――ここで仕留める』


 推定「黒水守」は、かなり厄介な相手だ。


 ネウロンを放棄したところで、コイツが張っている混沌の海に出るのはリスクが高い。まだ私への対処方法を理解しきっていないうちに、仕留めるべきだ。


 黒水守(きりふだ)さえ殺せば、交国軍の動きもかなり鈍るはずだ。


 敵が囮を使い、さらに学習して来ようとするなら――。


『鏖殺すればいい』




■title:犬塚隊旗艦<瑕好>にて

■from:英雄・犬塚


「特佐。ここは一度退くべきでは? 敵の攻撃の正体もハッキリしませんし」


「いや、黒水守に任せよう」


 艦橋で戦況を見守りつつ、待機する。


 黒水守は、交国一の海戦巧者だ。


 黒水守は敵の攻撃方法を掴んだらしい。


 玉帝に頼んで用意させた対策も、上手く活用しているらしい。


 敵がどれだけ強者だろうと……混沌の海で黒水守に勝てるはずがない。


 奴は、ロミオ・ロレンスの弟子だからな。




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