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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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殺人機械の判断



■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:使徒・バフォメット


『邪魔するぞ』


「…………!!?」


 ヴァイオレットのいる病室に入る。


 急な訪問だった所為か、ヴァイオレットが無言でバタバタと暴れ、ベッドに戻っていこうとしている。慌てている所為か、転んでしまった。


 呻いているヴァイオレットを起こしてやると、「な、なにもしてませんよっ……!」などと誤魔化し始めた。


 解放軍の馬鹿共はともかく、私は知っている。


 端末で方舟のシステムに侵入している事も知っている。先程慌ててベッドに戻ろうとしたのが、それを知られまいと考えた行動なのも察している。


 止める気はない。好きにすればいい。


 私は解放軍と手を結んでいるが、全面協力しているわけではない。解放軍の手中から何とか抜け出そうと悪戦苦闘しているヴァイオレットを止める気はない。


『医者に安静にしてろ、と言われなかったのか』


「言われてますけど……。私、もう外を出歩けま――」


 強がったヴァイオレットが、負傷していた場所を押さえ、顔を歪めた。


 まだ完治していないのだろう。手を貸し、せめてベッドに座らせる。


 ……その状態で足掻くぐらいなら、私に頼ってくれてもいいのだが。


 お前はスミレではないが、それでも……私にとっては無視できない存在だ。他の者達ならともかく、「スミレの身体に宿った魂」なら、少しは配慮するつもりだ。


『フェルグス達や、星屑隊と連絡が取りたいのか?』


「な……なんの話ですかっ?」


『私はこの方舟(ふね)にもちょくちょく憑依している。お前の行動も把握している。咎めるつもりはないから、慌てて隠す必要はない』


 慌てて怪我をされる方が困る。


 そう告げると、ヴァイオレットは何とも言いがたそうな表情を浮かべた。


『私には、お前の行動を止める権利はない。ただ……お前の身体は、元々はスミレの身体だ。あまり粗末に扱わないでくれ』


「す、すみません……。娘さんの身体を、私は……」


『今は、お前の身体だ。気にしなくていいが、もっと自分を大切にしろ』


 病室に沈黙が流れる。


 その居心地の悪さに押され、言葉を投げる。


『何故、他人のために動ける』


「え?」


『お前は、フェルグス達に「助けてほしい」と言いたいわけではないのだろう? 奴らの事が心配だから、何とか話をしたいだけなのだろう?』


 ドライバ達は巫術師達の決心が鈍らないよう、動いている。


 その一貫として、フェルグス達を心配するヴァイオレットも遠ざけている。病室に閉じ込め、外部との接触を断っている。


 ヴァイオレットの持つ「知識」も目当てにしているようだが、今のところは私が目を光らせ、止めている。……私がいなくなれば話は別だろうが。


 それはさておき――。


『何故、そこまで奴らに肩入れする? 信頼する?』


「……大事な人達ですから」


『1年か、それに満たない程度の付き合いだろう?』


「フェルグス君達を気にかけていたのは……命の恩人だからです。少なくとも、最初はそうでした」


 ヴァイオレットが目覚めた時、傍にはフェルグス達がいた。


 自分を記憶喪失と勘違いし、右も左もわからないヴァイオレットに対し、フェルグスとその両親は手を差し伸べたらしい。


「そこで助けてもらってなきゃ、私、多分死んでたと思うんですよ……」


『その恩義を返すために、無理をして動いているのか』


「無理じゃないです。私のやりたい事ですから」


『すまん』


「はぇ……?」


『目覚めたばかりのお前が死にかけたのは、私に大きな責任がある。お前……というか、スミレの遺体(からだ)は、本来は私の傍で眠っていたものだからな』


 私は1000年ほど眠っていた。


 スミレの遺体を、どう扱うか迷い、現実から逃げた。


 そして契約者に起こされたのだが、その契約者が死んでしまった事で、私の目覚めも半端な状態で止まった。身体を上手く動かせない状態だった。


 後に何とか自分で再起動したが、直ぐには動けなかった。


 だが、直ぐにでも交国軍に対応しなければ……スミレの身体が交国軍に奪われる可能性があった。


『だから、私はタルタリカにスミレの身体を預けた』


 交国軍の魔手から、スミレを逃がそうとしたのだ。


 結果、半端なところで放り出す事になってしまったが……。


 その事で謝罪すると、ヴァイオレットは苦笑しながら「まあ、何とか無事だったので……結果オーライってことにしましょうよ」と言ってきた。


「そういえば……貴方の眠っていた場所には、バレットさん達が……交国軍が来ていたんですよね」


『あのバレット(オーク)は命令されて、直ぐに別の場所に行ったようだったが……他の部隊が私達の眠っていた場所を漁ろうとしていた。そのため私はタルタリカに命じ、奴らを殺し、お前を逃がした』


「それで、私はフェルグス君達に拾われたんですね……」


『あぁ。……………………いや、待て? おかしくないか?』


「へ? 何がです?」


『お前は、交国軍に捕まったのでは?』


 実際、特別行動兵という立場でこき使われていた。


 てっきり、私が逃がした後で捕まったのだと思っていた。


 お前を逃がすために使ったタルタリカは、何者かに殺された様子だったからな。


『交国軍がタルタリカを殺し、タルタリカが飲み込んでいたお前が捕まったのかと思っていたのだが……。お前は保護していたのはネウロンの一般人だったのか?』


「え、ええ……。タルタリカなんて、私の傍にいなかったですよ……?」


『ふむ……。まあ、奴らの死体は消えるからな』


 タルタリカ共は、(コア)以外は流体で出来ている。


 脳が壊れた時点で、流体を維持できなくなり、身体は溶けてしまう。


 おそらく、スミレの身体を託したタルタリカは交国軍に殺され、最終的にタルタリカの死体は溶けて消えた。


 タルタリカの中に隠されていたスミレの身体――もとい、ヴァイオレットだけがフェルグス達に保護された、という事だろう。


 ネウロンの一般人が、タルタリカを殺せるはずがない。


『スマン。どうでもいい話で、話の腰を折ってしまったな』


 謝罪し、続けてもらう。


 フェルグス達を気遣う理由、「命の恩人」だけではなさそうだ。


「今も、フェルグス君達の事を命の恩人だと思っています」


『…………』


「ただ、自分が記憶喪失ではなく……最初から記憶が存在しない人造人間(もの)と知ってからは……私達には『あの子達しかいない』って気持ちも抱き始めたんです」


 自分には何も無い。


 だからこそ、親しい者達を失いたくない。


「私には、あの子達以外いないので……」


『家族だと思っているのか』


「ですかね……。前々から、あの子達の『おねえちゃん』のつもりでしたが」


 そう言ったヴァイオレットは、恥ずかしそうに頬を掻いた。


「自分に何もないから、自分以外の存在に依存するって……なんか私、寄生虫みたいですね。あはは……」


『そんな事はない』


「フェルグス君達は、会いに来てくれなくて……。私、もうどうでもいいって思われてるのかな~……とも、思っちゃったり……!」


『奴らは、お前を意識している様子だった』


 解放軍が、お前達の再会を邪魔している――という事情もある。


 しかし、それだけではない。


 フェルグス達自身、いまお前と会うのは気まずい様子だった――と伝える。


『奴らは自分達がやっている事が、「悪い事」という自覚があるのだろう』


「…………」


『お前に叱られるのが怖いだけで、お前を嫌っているわけではないはずだ。気に病まず、気にせず、接触すればいい』


「……ありがとうございます」


『お前は寄生虫などではない。お前達は家族だ』


 家族にとって、血の繋がりは絶対ではない。


 私など、元は単なる神器(どうぐ)だった。


 自我が芽生え、スミレと出会い、彼女と同じ時を過ごすうちに……私にとってスミレは必要不可欠な存在になった。血の繋がりなどなくても、私達は家族だった。


 少なくとも、私はそう認識している。


 ……スミレの本心はわからんが……私にとって、スミレは一番大事な存在だった。彼女のためなら何でも出来た。命だって惜しくなかった。


 スミレはとても優しくて、とても愛らしい子だった。


 欠点は、私より先に逝ってしまった事ぐらいだ。


『私は無骨な兵器(ひとごろし)だが、お前の気持ちも……わかる。その気持ちを尊び、大事にすべきだと思う。彼らもお前を大事に想っているのだろう』


 大事だからこそ、遠ざけたい時もあるのだろう。


 私も……そういう時期はあった。


「でも、今のフェルグス君達にとって……私なんかの考えは、余計なお節介みたいですけどね……。戦ってほしくないって言っても、あの子達は……」


『では、諦めるか?』


「…………」


『奴らの行動を縛る権利は、家族すらないかもしれん。だが、お前が奴らを説得したり、提案をするのは自由だ。やるだけやってみればいい』


 ヴァイオレットはしばし黙っていたが、「そうですね」と言って頷いた。


 そして、おずおずと私を見上げてきた。


「ち、ちなみに……フェルグス君達や、星屑隊の人達に連絡を取るお手伝いって……してもらえたりは~……」


『今は忙しい。後なら手伝えるかもしれん』


 もう少し早く相談してくれれば、それぐらい手伝っても良かった。


 ただ、この後も人と会う予定がある。戦闘の予定もある。


 私の方から、もっと早くヴァイオレットに提案していれば良かったのだが、少しだけ……気が進まなかった。この娘と会うのは、正直あまり気が進まない。


 どうしても、スミレの事を思い出し、ため息が出そうになる。


 スミレは私にたくさんの感情をくれた。どれも良い物ばかりだった。良い物ばかりだったからこそ、スミレの死を強く認識するのは……良い気分ではない。


『後があるかは、わからんがな』


「……ひょっとして、戦闘に行くんですか?」


『ああ』


 ネウロンに交国の艦隊が迫っている。


 ただの艦隊だけなら、どうとでもなるが――。


『帰ってこれない可能性もある。その場合、約束は守れない』


「今って、相当マズい状況なんですか……?」


『解放軍は遠からず負ける』


 相手が悪い。そのうえ解放軍は弱い。


 弱い事は別にいい。自分の弱さを認識出来ていないのが一番の問題だ。


「負けるのがわかっているのに、解放軍への協力を続けるんですか?」


『私も、ネウロンでやるべき事を……契約者の妻子捜しが済んでいない』


 ひょっとしたら、ネウロンにはいないのかもしれん。


 その可能性はわかっていた。面倒だから、せめてネウロンにいてくれと思っていたが……そう都合良くいかないらしい。


『解放軍は泥船だが、もう少し付き合ってやろうと思う』


「そうですか……」


『それはさておき、本題に入らせてもらう。……すまなかった』


 戸惑うヴァイオレットに頭を下げる。


『私の都合で、スミレの記憶を移植した件だ。すまなかった』


「あ、あぁっ……! それは、仕方ないことですよ……。私は別に、気にしてませんからっ……! そもそもこの身体、スミレさんのものですし」


 ヴァイオレットは苦笑いを浮かべ、「気持ちはわかります」と言った。


「自分の記憶がろくにない私でも、生き返らせたい人はいますから。……私が貴方の立場なら、きっと同じことをしています」


『恨んでくれていい。結果的にお前が無事だったとしても』


「恨みませんよ……。そういう事をしている暇もありませんし」


『……そうか。……で、詫びの品というわけではないが、これを渡しておく』


 データの入った端末を渡しておく。


 解放軍から隠せるよう、小型の端末を用意しておいた。


 そう説明すると、ヴァイオレットが表情を強ばらせた。


「ま、まさか……真白の魔神のバックアップデータとか……?」


『さすがに違う』


 アレがどこに行ったかは、私は本当に知らん。


 この端末に入れておいたのは、単なる情報だ。


 ヴァイオレットはスミレの知識や記憶を受け継いだとはいえ、スミレでも知らないことは沢山ある。有用な情報を出来る限りまとめておいた。


『お前がどういう判断をするにしても、役に立つはずだ』


 ヴァイオレットの手に握らせておく。


 私は、ここに戻ってこれるかわからん。


 もうすぐ解放軍が望んでいる水際作戦が始まる。くだらん作戦で、解放軍の首が絞まるだけだと思うが……奴らはアレを望んでいる。


 もう少し、付き合ってやるしかない。


 戦闘が避けられないため、下手をすると私は死んでしまうだろうが……それは別にいい。スミレと同じ場所に逝けるなら、悪くない。


 ただ、スミレの身体を受け継いだ者が傷ついていくのは良いことじゃない。情報ぐらいは渡しておく。この子なら、上手く活用できるはずだ。


 内容を軽く説明すると、ヴァイオレットは驚きながら「いいんですか?」と問うてきた。


「私にだけこの情報を渡すのって、解放軍への裏切りになるかもですよ……?」


『大した問題じゃない。お前に、他人のことを気にする余裕があるのか?』


「でも……」


『守りたい者達がいるのだろう。そちらに集中しろ』


 ヴァイオレットから離れつつ、告げる。


『ヴァイオレット。お前は、(おの)判断(こころ)に従え』


 私はそれで失敗した。


 ネウロン人を信じ、大事な娘を失った。


 だが、それはあくまで私の失敗だ。


 この子は、好きにすればいい。


 大した手伝いは出来ないかもしれんが、本懐を遂げられるよう祈っている。




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:使徒・バフォメット


『まだ生きていたか』


 ヴァイオレットと別れた後、繊一号内にあった牢屋の1つを訪れる。


 牢屋に入れられた男に問いかける。


『……というより、まだ脱走していないのか、と言うべきか?』


「…………」


 私との戦闘の傷が、まだ癒えていないようだ。


 ただ、ドライバ達にも痛めつけられているようで、回復の兆しはない。


 しかし、脱走も不可能ではないはずだ。


 ドライバ達には、コイツが権能持ち(・・・・)と話していないからな。


『ドライバ達は、何故かお前を「軍事委員会の憲兵」だと言っている』


「…………」


『実際は違うはずだ』


 何者か見定めるために、ドライバ達にも情報を伏せて見張っていたのだが……コイツはまだ化けの皮を被り続けているようだ。


『ただの憲兵が、権能を持っているはずがない』




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:影兵


『お前は何者だ?』


「…………」


『何が目的で、どこの勢力に所属している?』


「…………」


『……私相手に、わざわざ権能(きりふだ)を使ったという事は……ヴァイオレットを守ろうとしているのか?』





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