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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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破綻した夢



■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:使徒・バフォメット


『話が違う。どういうつもりだ、ドライバ』


「怒らないでよ……。こっちもさぁ……色々あるんだよ……」


 報告会終了後、そそくさと逃げ出したドライバを追う。


 ドライバの執務室まで追い込み、「話が違う」と問いかける。


『混沌の海で水際作戦? しかも戦うのは私とタルタリカ? いつそんな作戦が決まった。私は了承していない』


「いや、だって……! もし水際作戦するなら、自分とタルタリカが適任……他の巫術師は外した方がいいって言ったのキミじゃん!」


『それは「仮にやるとしたら」の話だ』


 昨日、私はドライバと今後の話をしていた。


 ドライバ達の会話を巫術で盗み聞きし、交国軍の艦隊がネウロンに迫っている情報を聞き、それにどう対応するか問いただした。


 その席で対応方法に関し、提案したのだが――。


『私は敵艦隊を「界内(ネウロン)に引き込んで戦うべき」と提案した』


「うんうん……。そう言ってたねぇ……」


『貴様は「検討する」と言った』


「検討したさ! けど……キミの作戦は……キミ以外賛成しないよ! ネウロン内部で戦うなんて……皆が反対するに決まってるっ!」


 反対されるのはわかっていた。


 ドライバの「検討する」という言葉が、その場しのぎなのもわかっていた。


 だが、ドライバが報告会で「敵艦隊は水際作戦で対応する」などと言い出すのは理解に苦しむ。部下達を黙らせるため、その場しのぎで言ったのだろう。


 ドライバの顔を立て、報告会の場では黙っておいてやったが……水際作戦はやるだけ無駄だ。好機を逃すと言ってもいい。


 今からでも撤回しろ――と言ったが、ドライバは拒否してきた。


「あのさ! 僕にも解放軍幹部としてのメンツがあるの! 一度言い出した作戦を『やっぱやめまーす』なんて言えるわけないでしょ!?」


『メンツで戦争をしても、ろくなことにならんぞ』


「失うものがないキミと違って、僕らには色々失うものがあるの! 界内に敵を引き込んで戦ったら……ネウロンの町も大地もボロボロになるよ!?」


 それはそうだろう。


 交国軍は手段を選ばない軍隊らしいからな。


 ネウロン界内で迎え撃つ場合、敵は<星の涙>を使ってくるだろう。


 敵の運動弾爆撃が、ネウロンの都市に降り注ぐ可能性は高い。ネウロンを支配していた交国なら、爆撃経路の計算も既に終わらせているだろう。


 降り注ぐ流体の雨は、かなりの高精度で都市に落ちてくるだろう。


 だが、それは別にいいのだ(・・・・・・・・・)


 ドライバと私とでは、見解の相違があるようだが――。


「ネウロンは解放軍が制圧した世界だ! この世界はブロセリアンド解放軍の領土なんだから……キミの提案は『本土決戦する』ってものなんだよ!?」


『だから?』


「解放軍の兵士にとって、ネウロンの諸都市はもう……自分達の領土! 自分達の故郷みたいなものなんだよ……! それ失う作戦なんて受け入れられないよ」


 ドライバは執務机を挟んで私と対峙しつつ、言葉を続けた。


「軍隊だけじゃ、戦争は続けられない。ネウロンの都市を失えば……ブロセリアンド解放軍は大事な社会基盤を失うんだよ? 戦争を続けられなくなる!」


『ネウロンの社会基盤など、大したものではない』


 ネウロンは魔物事件により、壊滅的な打撃を受けた。


 私はタルタリカを指揮できるから、タルタリカに「人間を襲うな」と命じることも出来るが……奴らに「ネウロンを復興しろ」と命じる事は出来ない。


 復興の手伝いはさせられるが、精々、瓦礫の撤去や土砂運搬の役にしか立たん。奴らは新人類になれる可能性を持っているが、現状は家畜程度の役割しか持てん。


『ネウロンの社会基盤だけでは、解放軍を養う事など出来ん。直ぐ干上がる』


「だからぁ……! これから養えるぐらい、発展させるんだってば!」


『交国と戦争をしながら? 不可能に決まっている』


 戦争していないなら、十分に可能性はある。


 それでも十分な社会基盤を作るのに数年……数十年はかかるだろう。どれだけ時間をかけたところで交国以上の国家を作るのは不可能だがな。


 今のネウロンに大した価値はない。都市部はさっさと放棄していい。


 最終的にはネウロン自体を(・・・・・・・)放棄するべきだ。


「街を放棄して、どうやって暮らしていくのさ」


『都市を放棄したところで、別の拠点を用意してある』


「拠点って……キミがタルタリカに掘らせた地下通路だろ……!?」


『それ以外にも、いくつか拠点がある』


 界内で敵艦隊と戦う場合、都市に立てこもるのは下策だ。爆撃でやられる。


 だから、都市はさっさと放棄する。


 タルタリカ達に掘らせている地下通路に逃げ込めば、地上より安全に戦える。敵も私が作らせた地下通路がどこにあるかは把握していないからな。


 地下通路(それ)以外にも、真白の魔神が作った地下拠点がいくつか残っている。交国がまだ気づいていない拠点もある。敵艦隊に対応している間、そこに一時避難したらいい。


 ドライバ達の事はまだ信用しておらず、私の提案した「界内迎撃作戦」を認めていない以上、具体的に「どこに拠点があるか」を教えるつもりはないが――。


『地下の拠点に一時避難した方が、効率的だ』


「僕の立てた水際作戦でいいじゃん!? 無駄にネウロンを傷つける必要ないよ」


『混沌の海での戦いは、敵の方舟を鹵獲しにくい』


 敵の兵器類を奪うなら、一度界内に引き込む方が効率的だ。


 私は遠距離だろうと――対策されていなければ――憑依で乗っ取れる。ネウロン人の巫術師共も、鹵獲作戦なら多少は使えるはずだ。


 混沌の海でも巫術師(われわれ)なら敵の位置を把握しやすい。だが、鹵獲狙いなら界内の方がやりやすいのだ。


 大した価値のないネウロンの都市に拘るべきではない。


『敵艦隊が来ているのは、むしろ好都合だ。交国の方舟をゴッソリと奪えば、ネウロンにいる解放軍を全員、方舟に乗せて界外脱出できる』


「そんなことしたら、僕らの領土(ネウロン)を放棄する事に……」


『ネウロンに、領土としての価値はない』


 ここはただの棺桶だ。


 社会基盤としての価値はゼロに等しく、経済的な立地もあまり良くない。僻地ゆえ、防衛は比較的楽な方だが……社会基盤としての価値の低さが問題だ。


 ネウロンに固執していれば、ネウロンという棺桶で最期を迎える事になる。


『ネウロンに留まれば交国の思うつぼだ。我々は敵艦隊の方舟を強奪し、混沌の海に漕ぎ出し、活動するべきだ』


「それはさぁ……流民の海賊になれって話でしょ!?」


『それの何が悪い?』


 解放軍(きさまら)は弱い。


 交国は、軍事力・経済力・政治力の全てで貴様らを圧倒している。


 ならば、弱者らしい戦い方をするべきだ。


『私も、昔は仲間達(エデン)と混沌の海を放浪していた。放浪しつつ、対プレーローマの抵抗活動を続けていた。貴様らも先人に倣うべきだ』


「キミは……流民の生活を舐め過ぎだ」


 ドライバは渋面を浮かべ、「解放軍兵士(みんな)が流民の『惨めな生活』を受け入れるとは思えない」と言ってきた。


 自分の立場がわかっていないようだ。


 ドライバも、他の解放軍兵士も「交国が悪い」で思考停止している。


 そして、交国に与えられた<ネウロン>という棺桶にすがっている。


 陸の生活が魅力的なのはわかる。


 しかし、既に「手段」や「過程」を選べない状況だと理解するべきだ。


「僕らは誇り高いオークなんだ! 流民なんかになってたまるか!」


『ブロセリアンド帝国の奴らも、やってる事は海賊と大差無かったぞ』


 プレーローマの支援を受けていた時代ですら、ブロセリアンド帝国は「国家」の体を成していなかった。


 帝国の系譜に繋がりながらも、何とか国家としての形を手に入れたオーク国家も存在する。だが、貴様らはそこまで立派な存在じゃない。


 誇りはただの装飾品だ。


 邪魔な重りなど、さっさと捨ててしまえ。


『貴様らは甘すぎる。貴様の部下共にも正しい情報を伝えれば……現状がどれほど苦しいものか認識し、「最終的なネウロン放棄」も合意するはずだ』


「ハッキリ言って……キミの考えの方が、甘すぎるよ」


『ほう?』


「だ、だって……今まで普通に界内で暮らしていた僕らが、急に流民生活しろって言われても……無理に決まってるじゃん! 生理的に無理だよ!?」


 知らん。受け入れろ。


 貴様らなど、積極的に深人化しておけ。


 力が手に入るかもしれんぞ。深人化にはその可能性がある。


『貴様の部下共にも教えるべきだったな。ネウロンに派遣されるのは交国軍の艦隊だけではない。神器使いも来る可能性が高いと――』


「そんな情報を話したら、皆さらに混乱するよっ……!」


『交国政府を見習ったらどうだ? 奴らは自ら火事に飛び込んでいったぞ』


 交国軍は未だ瓦解していない。


 犬塚銀という「英雄」に支えられ、オーク達は交国軍に踏みとどまっている。


 犬塚特佐が何とかしてくれるから――という希望にすがり、まだ軍人として戦っている。犬塚銀が「オークの希望」だと、無邪気に信じている。


 敵は、艦隊や神器使いを派遣し、我々を全力で潰してくるはずだ。こちらも全力を出さねば対抗できん。


『貴様の部下達も、貴様の情報統制を不満に思っている』


「必要なんだよ……! 統制は! 不安要素を全部ブチまけて、兵士を不安にさせるなんて無能指揮官がやることだ!」


『解放軍の蜂起は既に失敗している。今後も抵抗を続ければ交国側がボロを出していくかもしれんが、その前に貴様らが滅ぶぞ』


「…………」


『ネウロンを枕に、討ち死にしたいのか?』


「だからぁ……! 水際作戦で敵を退けるって言ってるじゃんっ!」


『それが成功しても一時しのぎだ。ネウロンから脱出出来ないと、貴様らはネウロンに閉じ込められて餓死するぞ』


 交国がネウロン近海を完全封鎖したら、ネウロンは直ぐに干上がる。


 ドライバは怪しい連中を使って物資を手に入れているが……その兵站もいずれ破壊されるだろう。ネウロンで自給自足するのも不可能だ。


 敵に主導権を握られている以上、手段を選ばずネウロンを放棄するべきだ。敵艦隊を鹵獲できる好機を逃がすべきじゃない。


方舟(ふね)を確保したところで、どうやって運用するのさ!?」


『巫術師がいる。奴らに舵を任せればいい』


「そ、それが出来たとしても、ネウロンという領土は失いたくない。僕らが流民みたいな生活、出来るはずがない! したくない!」


『…………』


 ドライバ達はまだ、「希望」にすがっている。


 計画通りの蜂起と告発を行えば、交国軍が瓦解する――という皮算用で動いていた阿呆共だ。告発が失敗したのに、未だ当初の計画(ゆめ)にすがっている。


「ああ、わかった! キミ、神器使いとやり合うのが怖いんだろ!?」


 ドライバは引きつった笑みを浮かべつつ、「だからネウロンから逃げようとしているんだ」と言ってきた。


 別にそう考えるのは自由だが――。


「確かに神器使いは侮れない相手だよ。けど、水際作戦なら神器使いも驚異じゃない! 奴らは強すぎるから、混沌の海と相性が悪いんだ!」


『神器に反応した混沌が殺到するからか?』


「その通り!」


『全ての神器がそうではないし、混沌の海だからこそ強い者もいる』


 交国にもいるはずだ。


 混沌の海で真価を発揮する神器使いが。


『確か……黒水守の石守睦月だったか? そいつは混沌の海で無類の強さを発揮する神器使いだと聞いたが……その黒水守が来た場合はどうする?』


 水際作戦などという、覚悟無き選択はへし折られるぞ。


 黒水守の正確な強さは知らん。私がエデンにいた頃から活動している神器使いではないから、伝聞でしか強さがわからん。


「黒水守が来るわけないでしょ。ネウロンなんて僻地に」


『可能性はあるだろう。作戦は希望ではなく、絶望を基礎に組み立てるべきだ』


「黒水守は玉帝の切り札の1つだ! 確かに、奴は混沌の海ならかなり厄介な相手だ。単騎でプレーローマの侵攻を退けた事もあるからね……」


 だが、強いからこそ来るはずがない。


 もっと重要な戦線に回されるはずだ――とドライバは主張している。


「僕も黒水守は警戒しているよ? だから位置は掴んでいる。彼は犬塚特佐と同じく、交国本土にいるらしいから……ネウロンまで来るはずないよ」


『確かな情報か?』


「あぁ、今日入ったばかりの新情報さ」


影武者(にせもの)の可能性は?』


 神器使いや、それに匹敵する戦力の位置情報は秘匿されるものだ。


 単騎で軍団に匹敵する戦力だからな。


 徹底的に隠すか、偽の位置情報を掴ませる事で、敵に神器使いの位置を掴ませない。そして神器使いで奇襲を行う。


 その程度のこと、組織に過ぎなかったエデンでもやっていた事だ。


『貴様が「交国本土にいる」と主張する黒水守や犬塚銀は本物か? 実際に神器を振るったのか? 姿を似せただけの偽者ではないのか?』


「そっ……そんな……はずはない。…………多分」


『交国は情報戦においても、貴様らより優位に立っている。偽情報の可能性がある以上、不正確な情報は信じるな』


「黒水守は……エデン残党のファイアスターターと交国本土で戦っていた!」


『それは1ヶ月以上前の話だろう』


 何の参考にもならん。


 希望的観測に縋るな――と助言したが、ドライバは鬱陶しそうな顔をしている。


 冷たい絶望より、温かい希望を抱く方が心地よいのだろう。軍人なら、それがただの重りだと理解するべきだ。


 いや、そうか……貴様はもう軍人ではないのだったな。


「同志バフォメット。キミは悲観的に物事を考え過ぎだ」


『私は、貴様らの同志ではない』


「協力関係を結んでいる以上、解放軍側の判断に従ってよ……」


『交国軍との戦力差を理解できないどころか、我々との戦力差も理解出来ないのか? 解放軍(きさまら)如きが私に勝てると思うのか?』


「そ…………組織力では、こっちが上だ!」


『瓦解していなければな』


 ネウロンにいる解放軍だけでも、統率が危うい状態なのだ。


 自分達の弱さを正しく理解するべきだ。


『現実を見据え、私の忠告(ことば)に耳を傾けろ』


「僕らは! とっくの昔に夢から覚めている!!」


『いいや。お前達は未だ夢の中にいる』


 くだらん希望(ユメ)に囚われ続けている。


 ゆえに、口出しさせてもらう。


『水際作戦などやめろ。敵艦隊を界内に引き込むべきだ』


「だからぁ……! それじゃあネウロンの都市が――」


『何度も言うが、ネウロンの諸都市には何の価値もない。敵に位置情報を知られている半端な拠点など放棄するべきだ』


「神器使いはどうするのさ!? 混沌の海の方が、奴らには対処しやすいよ!?」


『私なら、界内でも正面から倒せる』


 私は既に神器を失っている。


 抽出し、真白の魔神(マスター)に預けた。


 だが、神器の残り火によって、並みの神器使い程度の実力は備わっている。格上相手でもネウロンの地の利を活かせば対応は可能だ。


 そう説得したが、ドライバは「本土決戦とかやめてくれよ~……」と情けない声を漏らした。ボロボロの棺桶を大事にしたいようだ。


「とりあえず……とりあえずさぁ、水際作戦にしようよ!?」


『…………』


「最初の1回だけでいい! 水際作戦で敵に大打撃を与えれば、奴らは僕らを恐れてネウロンに近づかなくなるはずだ!」


『結果、兵糧攻めを始めるかもな』


「それは同志イヌガラシと<泥縄商事>が何とかしてくれるから……!」


泥縄商事(あれ)は信用しない方がいい。あそこの社長は曲者だ』


 奴は既に狂っている。


 解放軍のような金にならん相手、飽きたら直ぐに見限るぞ。


「泥縄商事の社長なら交国本土で死んだらしいよ! 心配しなくていい。今の泥縄商事は、イヌガラシ達が実権を握っている」


『仮に実権を握れていたとしても、奴らに依存するのは推奨できない』


「…………」


『水際作戦など行うべきじゃない。一度でも成功してしまえば、交国軍も対応を変えてくる。兵糧攻めどころか、複数の神器使いを派遣してくるかもしれん』


 1人2人なら、私が何とかしてやる。界内なら勝つ自信がある。


 だが、一度でも水際作戦が成功してしまうと、敵は一層警戒してくる。


 より強力な戦力を派遣してくるはずだ。


 大軍を派遣してくるならまだ良いが、少数精鋭はマズい。倒せたとしても十分な数の方舟を確保できなくなる。


 そう言ったが、ドライバは半笑いで「ほら、やっぱり神器使いとやり合うのが怖いんじゃないか」と言ってきた。首をねじ切ってやるべきか?


 いや、まだ解放軍と手を切るのは早い。


 ネウロン内での庇護対象捜索が終わっていない。


 契約者の命令(オーダー)通り、契約者(ヤツ)の子供と妻を探さねば――。


 解放軍もある程度は役に立つ。今後の事も考えて、まだ手を切るべきじゃない。


「大丈夫! 解放軍(ぼくら)には切り札がある!」


『切り札……?』


「久常竹! <玉帝の子>だよ!」




■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:崖っぷちのドライバ少将


「奴は人質としての価値がある! 交国の支配者の息子だからね!」


『だが、人造人間なのだろう?』


 バフォメットは「奴に価値があるとは思えない」と言ってきた。


『玉帝は、人造人間共を手駒としか考えていない様子だ』


「……け、けど、玉帝の子供同士なら仲間意識があるはず! 玉帝相手の人質にならなくても、他の奴ら相手なら使えるよ!」


 そう主張したが、バフォメットは首を横に振った。


 オマケに「また希望的観測に縋るのか?」と侮辱してきた。


「久常竹は無能だけど、人質としてはまだ使えるよ」


『そうは思わんが……』


「大丈夫だよぉ……! キミは強い! 他の巫術師達も強い!」


 僕らには巫術師という切り札もある。


 彼らは結構使える。そして、中々に使いやすい人材だ。


 交国への復讐心を煽ってやれば、犬のように従うからね!


『私はともかく、他の巫術師に期待するな』


「なんでさ」


『奴らはまだ未熟だ。ネウロンを放棄して混沌の海に逃げれば、経験を積む機会もあるだろう。だが、今の奴らは兵士として大した役には立たん』


 ネウロンの社会基盤と同じ。


 育てるのに時間が必要だ、とバフォメットは語った。


『奴らを鍛えれば、それなりの戦力になる。しかし……今はまだ未熟だ。今は逃げて機会を待つ方がいいだろう』


「僕らは流民なんかにならない。僕らはオークの国家を作るんだ」


 国家を作るなら、領土が必要なんだ。


 流民なんかになったら……皆、僕らを見下してくる。


 命がけで交国に反旗を翻したのに、交国軍時代より下の立場に――流民なんかになってたまるか! 僕らは僕ら(オーク)の国家を作るんだ!


「キミの判断も悪くないと思うよ!? けど、僕の判断を信じられないのかい?」


『…………』


「キミは、絶対に判断を誤らない天才なのかなっ!? 違うよねぇ!?」


 苛々しながらそう言うと、バフォメットは黙り込んだ。


 マズい。キレさせたかな……とビクビクしていると――。


『承知した』


「えっ?」


『判断は、貴様に任せよう。……もう好きにしろ』


 バフォメットはそう言い、部屋から出ていった。


 承知したってことは~……水際作戦でいいんだよね?


 じゃ、じゃあ……準備、進めておこう。


「……ネウロンを放棄するべきじゃない」


 こんな辺境の世界、何の愛着もない。


 本当は早く出て行きたいよ!


 けど、元帥達が捕まって……他の地域の解放軍もバタバタと倒れている以上……ネウロンは僕らに残った数少ない領土(きぼう)なんだ。


 それを大事にして、何が悪い!



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