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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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交国の罪



■title:交国保護都市<繊十三号>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「…………」


 ベッドで目を覚ます。少し眠っていたようだった。


 私は……そうだ、思い出した。技術少尉に撃たれて傷を負って、町の診療所のベッドを借りて眠っていたんだった。


 窓の外はまだ暗い。町はシンと静まり返っている。


 ただ、部屋の片隅から微かに物音が聞こえる。


 ラート軍曹さんが真剣な表情で携帯端末をイジっている。まだボンヤリする頭で軍曹さんを見ていると、視線に気づかれ、声をかけられた。


「ヴァイオレット。大丈夫か?」


「ああ……はい……」


 近寄ってきた軍曹さんが「水飲むか? 腹減ったのか?」と聞いてくれた。水を少しもらうと、軍曹さんの心配そうな視線に気づいた。


 痛み止めのおかげで、もう痛くないですよと言って笑う。ホントはちょっとだけ痛いけど、これぐらいならまあ、無理すれば動けるはず。


 むしろ軍曹さんの方がつらそう。ちょっと泣きそうになってない?


「まだあれから2時間ぐらいしか経ってねえんだ。せめて朝まで寝てな」


「ええ、でも、その前に……」


 慌ただしくベッドに運ばれたので、言うべきことを言えてなかった。


「ラート軍曹さん。私達を守ってくれたこと、ありがとうございます」


「え? いや……」


 軍曹さんは驚きの表情を見せた後、なぜか気まずそうに目を伏せた。


「守れてねえだろ……」


「守備隊の人達や、技術少尉から守ってくださったじゃないですか」


「守れてねえよ。守備隊は説得できず、必死に戦ったアル達は町の外に追い出された。技術少尉からも守れてない。結局、また隊長や副長に頼っただけだ」


 それに――と言いながら軍曹さんが私の身体をチラリと見て、「お前は怪我までしちまった」と言った。


「だから守れてない」


「そんなことないですよ。軍曹さんいないと、フェルグス君が撃たれてました」


 あと少し。


 ほんの少しラート軍曹さんが動くのが遅かったら、フェルグス君もどこかを撃たれていた。まだ幼いあの子の身体が銃弾に耐えられたとは思えない。


「ラート軍曹さんは……守ることへのハードルが高いから『守れてない』って言ってるんでしょうけど、そんなことないですからね」


「そんなことあるだろ」


「軍曹さんが割って入ってくれなかったら、隊長さん達が来るのが間に合ってなかったですもん」


 私やアル君は撃ち殺されていたかもしれない。


 アル君が撃たれた事で、フェルグス君が怒って、あの子も……。


 さっきは本当に危ういところだった。


「貴方は私達を守ってくれました。私はそう思ってます」


「でも……」


「もうっ……。いいから私を信じてくださ――あたたっ……!」


 ちょっと声を張ろうとしたら、傷が疼いた。


 血相変えた軍曹さんに「大丈夫です」と告げる。軍医の先生を呼ばれそうになったけど、さすがに止めてもらう。


「軍曹さんが私の言葉を信じてくれないと、私、なんども声を出しますよ。信じてくださいって。無理して声出したら身体いたいですけどね~」


「や、やめろっ。頼むから無理してくれるなっ」


 軍曹さんがあたふたする。その拍子に軍曹さんが持っていた携帯端末が手からすっぽ抜け、飛んできたのでキャッチする。


「っと……。そういえばさっき、これで何してたんですか?」


「ああ、それか。交国軍事委員会への嘆願書だ」


「た、嘆願書?」


「やっぱり、アイツらが特別行動兵にされてるのは間違っている。あんな子達が同胞に差別されながら命がけで戦っているのはおかしい。だから『巫術師を特別行動兵にするって措置を見直してほしい』って嘆願書を――」


 端末を操作し、保存されていた文章をゴミ箱に移す。


「あ~~~~っ! おまっ、おまっ!? なにするんだっ!?」


「いや、それはマズいですよっ……。これがすんなり通るような国なら、最初から子供達を特別行動兵にしてるわけがありませんって……!」


「いや、でも、言うだけ言ってみるのは大事だろ。ほら、ゴミ箱から戻して……」


「ラート軍曹さんの首が飛ぶかもしれないんですよっ?」


 軍事委員会や交国政府の決定に異を唱える一兵士。


 反抗的な態度を示しているとして、最前線送りにされるかもしれない。そうなったら軍曹さんが死んじゃうかもしれない。


「上の命令は絶対、なんでしょう? それに逆らってたら睨まれますよ……」


「それは、そうなんだが……」


「ひとまずこれは完全消去しましょう」


「あぁぁ~……」


 軍曹さんがあわあわしてるのを横目に、ゴミ箱からデータを消す。


 でもこの端末、軍が支給してる端末だよね? だとしたら検閲されている可能性もあるけど……もうこうなったら見られてないことを祈るしかない。


「……今の交国の判断に、何の武器も無く異を唱えるのはやめましょう」


「あくまで成果を土産に交渉する、ってことか?」


「そうです」


「うーん……」


 軍曹さんはまだ納得していない様子だった。


 上の人達を下手に刺激してもらうのはやめてもらう。ネットにネウロンの現状を書き連ねて、一般人の署名集めるのとかも無しですよ、と言っておく。


 でも、自分の立場が危うくなるのを顧みず、動いてくれるのは嬉しいな。ちょっと危なっかしいけど若さゆえなのかな? 老け顔だけど15歳だもんね。


 ……フェルグス君達より年上とはいえ、15歳で軍人として働くのが「当たり前」の交国はやっぱりおかしいと思うけどな……。


 身体もおかしい。


 味覚どころか、痛覚も無い軍人って、そんなの――。


「…………」


 交国のことはまだよくわからない。


 ひょっとすると、前の私は(・・・・)理解していたかもしれないけど、今の私は理解できてない。ただ、交国が色んな意味で横暴な国なのはわかっている。


 今までその横暴さはネウロンを始めとした支配地域にだけ向いているものと思っていたけど……実際は、そうじゃないのかも。


「コツコツやっていくしかないのか」


「はい。巫術師に罪がない証拠が見つかれば、直ぐに現状が覆るかもしれませんけど……それは、色んな意味で難しい話でしょうし……」


 証拠があったとしても、交国は認めてくれないかもしれない。


 自分達の罪を。


 それでも希望はあるはず。巫術師を大事にしないといけない理由さえ見つかれば、交国はあの子達を虐げるのを止め、保護してくれるはず。


 それが本当に救いになるかは、怪しいけど……。


 逃げるのが難しい以上、敵相手でも交渉して活路を切り開くしかない。


「……あの、そういえば子供達は……?」


「防壁の外の天幕にいるはずだ。ちょっと前に守備隊がちょっかい出しにきたみたいだが、星屑隊の隊員が追い払ってくれたらしい」


 軍曹さんは「大丈夫」と言ってくれたけど、さすがに不安だ。


 守備隊の人達は武装している。技術少尉のようにヒステリックに暴れるとは思いたくないけど、あの人達は信用できない。


「あの、私やっぱりあの子達と一緒にいたいです」


「怪我人なんだから休んでてくれ」


「痛み止めのおかげで身体も楽になりましたから、大丈夫です」


「怪我事体は治ってねえだろ~……?」


 いいから寝とけ、と言われたけど、食い下がる。


「子供達を連れて船に戻ります。その方が安全です。船に戻ったらちゃんとベッドで寝ます。私達は船にいた方が軍曹さん達に迷惑かかりませんよね?」


 ラート軍曹さんは私が動くことに難色を示したけど、結局は折れてくれた。


 車を手配すると言い、動き始めてくれた。




■title:交国保護都市<繊十三号>にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


 ヴィオラ姉ちゃん、大丈夫かな……。


 ラートさん一緒だし、きっと大丈夫だよね。


 大丈夫だと思うけど、どうしても心配で色んな考えがぐるぐる頭の中を走り回ってる。ボクが機兵を動かさなきゃ……いや、でも、動かさないとグローニャとラートさんが危なかったし……。


「おい、アル。アルっ? 話聞いてたか?」


「あっ……ごめん」


 三角座りして考えていたら、にいちゃんの話を聞けなかった。


 にいちゃんはロッカ君と一緒に天幕の外をコソコソのぞいていたけど……それを止めてボクのところへやってきた。


「星屑隊の見張りが交代した。シャキっとしたやつじゃなくて、酒臭いヤツに変わった。ボンクラっぽいから今なら気づかれないはずだ」


「気づかれないって、何のこと?」


「オレ達がここから出ていくこと、だよ」





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