斬首作戦
■title:方舟内部の取調室にて
■from:帝の影・甘井汞
「でもさぁ、ロミオ・ロレンス斬首計画をしくじったのは私だよ」
お母様もガッカリしたはずだ。
あの計画をしくじってなきゃ、ロレンスという戦力を管理下に置けたわけだし。
ロレンスは、ブロセリアンド解放軍のような「愚連隊」とは違う。領土を持たない国家のような存在だ。
ロミオ・ロレンスに統制されていた海賊達は、軍隊と言っても過言ではない存在だった。混沌の海なら強国相手でも渡り合う強力な海軍力を持っていた。
それを交国の管理下に置けたら、色んな事が出来たのに……。
「あまり自分を責めるな。私にも責任がある」
「伯鯨ロロは確かに死んだけど、私達の狙い通りではなかったじゃん?」
「……まあな」
むしろ、最悪の展開になった。
アレは……ホントに、私のやらかしだった。
上手くやれると思ったんだけどなぁ……!
<カヴン>傘下の海賊組織<ロレンス>は、交国とも繋がりがあった。
交国がまだ新興国家だった頃、交国は人類連盟に睨まれていた。その当時から交国は強かったけど、さすがに敵が多すぎて苦労していた。
玉帝の見事な采配があったから、プレーローマの侵攻に乗じて上手くやれたけど……それだけじゃ駄目だった。
当時、玉帝の懐剣として動いていた石守回路は<ロレンス>に接触し、首領のロミオ・ロレンスと密約を結んだ。ロレンスが人類連盟加盟国の兵站を破壊した事もあり、交国は人類連盟との戦いを優位に進める事が出来た。
その後も交国とロレンスの密約は続いた。
ロミオ・ロレンスは高い統率力を持つ難物だったけど、回路先生は彼を上手く手のひらで転がしていた。
交国とロレンスを「表向きは敵対関係」としておき、裏では取引し、お互いの得になる行動を続けてきた。……どっちかというと交国が得してきたけど。
私達は長く、良好な関係を築けていた。
……石守回路が死ぬまでは、結構上手くやっていた。
ロミオ・ロレンスは傑物だったけど、回路先生は奴よりさらに傑物だった。あの気難しい大海賊を、回路先生は上手く動かしていた。
けど、回路先生が死ぬとロレンスとの関係はギクシャクしていった。
ついには破綻した。……石守回路抜きでは、関係維持ができなかった。
石守回路の担っていた役割を担わせる「後継者」の育成が進んでいたけど、あれは一応失敗した。私含めて、誰も「石守回路」にはなれなかった。
私達は同じ人造人間で、回路先生の方が旧式なんだけどな~……。でも、旧式の回路先生の方が私達よりずっと優秀だった。
「当時の責任者は私だ。私が『斬首作戦』を進めていなければ……あそこまで酷い事態にはならなかったのかもしれん」
「でも、宗像の兄弟はミスしてなかった」
「斬首作戦が失敗した以上、それは私のミスだ」
「うーん……。でも計画の大筋は問題なかったと思うんだけどなぁ」
私も、「ロミオ・ロレンス・斬首作戦」は楽しみにしていた。
だってそれは、私がロミオ・ロレンスに成り代わる作戦だったから。
多次元世界一の海賊組織の長とか、一度やってみたかった! ロレンスはバカデカい組織で、武力も相応に強かった。そんじょそこらの国家なら蹴散らせるだけの力を持っていたから……それで遊んでみたいって思ってたんだ!
犯罪組織運営は私の得意分野!
今までも、既存の組織をいくつも乗っ取ってきた。
その統率者を消して、私が化ける事でね。
やってきた事は今までと同じ。規模が違うだけ。
ロミオ・ロレンスは超大物だけど……統率力がありすぎる事で、首領さえ押さえれば組織の統率も容易いと思っていた。いや、大変だろうけど、ある程度は誤魔化しが効くと思っていた。
私はロレンス以外のカヴン傘下組織の伝手があったし……宗像の兄弟の案に乗って、カヴンの内部抗争を起こした。
その隙に「ロミオ・ロレンス」に成り代わるつもりだったけど――。
「私含む実行部隊は伯鯨ロロに返り討ちにされた。ひぃひぃ言いながら逃げているうちに、何故か加藤睦月が『伯鯨ロロを殺した』なんて情報が入ってきた」
カヴンもロレンスも相当混乱してただろうし、誤報だったら良かったのにね。
けど、誤報じゃなかった。
加藤睦月はロミオ・ロレンスの死体と神器を持って交国にやってきて、庇護を求めてきた。……私達の計画が、メチャクチャになった瞬間だ。
「加藤睦月が交国に現れたって聞いた時、私は一度、宗像の兄弟を疑ったよ」
「私を……? 何故だ?」
「奴を私達のバックアップとして動かしてたと疑ったんだよ」
加藤睦月が動くなんて話、私達は聞いていなかった。
けど、私達が失敗した時に備え、宗像の兄弟が――何らかの手段で――加藤睦月を動かし、ロミオ・ロレンスを殺させたのかと思った。
そう思ったんだよ――と白状すると、宗像の兄弟は否定してきた。
「私がそんなことをするわけがない。バックアップを用意できる状況なら、お前に相談している。そうしないと意味がないだろう」
「それはそう。仰る通りの助!」
私達は単に「ロミオ・ロレンス殺してぇ~!」って輩ではない。
主目的は「乗っ取り」だ。海賊組織<ロレンス>が欲しかっただけ。
密約関係が破綻し、ロレンスが言うこと聞かないから……「じゃあ、首をすげ替えるかぁ~!」と凶行に走っただけ。私という実績ある代役を用意してね。
宗像の兄弟に神器使いを含む人員まで手配してもらったのに、ロミオ・ロレンスに返り討ちにされたので「実績とは……?」って情けない結果になったけどネ。
その結果を、「最悪」にまでねじ曲げたのが加藤睦月。
彼はホント……余計な事をしてくれた!!
「我々はロミオ・ロレンスの殺害、あるいは誘拐・監禁を目論んでいた。お前に『ロミオ・ロレンス』を演じてもらうつもりで……」
「それはわかってるよ。けど、ロレンスの乗っ取りが失敗したなら、もう殺しておくか~ってバックアップでも動かしたのかと思っただけ」
宗像の兄弟もアレコレ悪い事やってるから、悪い方に考えちゃっただけ。
あくまで、一時的にそう考えただけ。
「加藤睦月がロミオ・ロレンスを殺したことで、兄弟が想像していた『最悪の予想』が的中しちゃったんだから……もう疑ってないよ」
「……加藤睦月は、本当に余計な事をしてくれた」
交国の民衆は、加藤睦月の功績を好意的に考えた。
悪の組織の首領を殺すなんてやるじゃん! と評価した。
斬首作戦という名の「ロレンス乗っ取り作戦」を進めていた私達は、交国にやってきた彼を苦い表情で迎え入れなきゃいけなくなった。
特に、宗像の兄弟は――。
「伯鯨ロロによって、ロレンスは壊れた。弱体化したが……統率者を無くしたことで、ロレンスの海賊はコントロール不能になった」
密約によって、ロレンスの暴力はそこそこコントロール出来ていた。
密約が終わってもまだ、伯鯨ロロの統率は活きていた。
野蛮な海賊達が好き勝手に暴れ回らないよう、伯鯨ロロが管理していた。それは交国のために行われたものではないけど……それはそれで助かっていた。
統率者を失った海賊達は多次元世界各地で好き勝手し始めた。
ロレンス自体は弱くなったけど、海賊共が好き勝手暴れ回る状況は人類文明の経済に大きな悪影響を与えた。交国も他国も、海賊対策に多くの予算を割かざるを得なくなった。
色んな航路で「海賊が無秩序に暴れてま~す」って状況だけで、それに対応するコストを割かなきゃいけなくなる。
今まではロレンスに上納金を払って何とかしていた者達も、それが通用しづらくなる。ロレンス傘下組織の1つに上納金を支払っても、別の傘下組織が好き勝手やっちゃう。
伯鯨ロロはそういうやらかしも含めて統率してくれてたけど、そのシステムが無くなった。経済を中心に人類文明は大きな打撃を受けた。
そういうのが怖いから、私達は「穏便な乗っ取り」を行おうとしていたのに……空気読まない加藤睦月が「英雄的蛮行」しちゃった所為で、全部パァ!
オマケに彼は伯鯨ロロの死体と神器持って、交国に取り入ってきたから……ロレンスの奴らは「交国許さねえ! 首領の死体を弄びやがってぇ!」と恨んでくる始末。
まあ、実際殺すつもりだったけど……こんなはずじゃなかった!
「ホントにごめ~ん。私がしくじってなければ~……!」
「だから、お前を責めるつもりはない。お前はよくやってくれた」
「でも、宗像の兄弟はしばらく眉間のシワが取れなかったでしょ!?」
「それは……スマン。私も、まだまだ感情をコントロール出来ていないらしい」
兄弟が眉間を揉みほぐしつつ、そう言ってくれた。
まあ、そこ揉みほぐしたとこで無意味だと思うけどネ。
宗像の兄弟の眉間が「キュッ!」ってなってるのは、昔からだし~。
「伯鯨ロロ死亡の混乱は避けられなかったとしても、せめて……ロレンスに加藤睦月を引き渡せば良かったんじゃないの? それで手打ちとかさ!」
せめて、ロレンスの矛先が交国に向かないようにしてもらう。
首領が死んで大変でしょ~! 交国がこっそり支援してあげるから、新しい密約を結びましょうね~……! と誘導しちゃうわけ。
「私達がカヴンの内部抗争を起こして、それに乗じて伯鯨ロロを殺そうとしたことに関しては……完全にバレたわけじゃないんでしょ? さすがに夢葬の魔神は気づいているだろうけど」
「手打ちにしたいのは山々だったが、加藤睦月が交国政府との交渉を望んでいたのは外部にバレていた」
「あぁ……その状況でロレンスと交渉してたら、国際社会からボロクソに叩かれるね。大暴れしている海賊組織と堂々と交渉するとは何事かー、って」
「あぁ……」
交国は強い。
強いけど無敵の存在じゃない。
今まで色んな理不尽を弱者に強いてきたけど、それがある程度通っていたのは上手くやっていたから。常に無茶をやれるわけじゃない。
石守回路が多方に根回しをし、宗像灰が特佐達を使って急所を叩き、甘井汞が裏工作を行う。それらを玉帝が統率する。
多くの人間がせっせと歯車を回すことで、何とか無茶を通していた。
でも交国も無敵じゃないから、どうしてもそれが無理な時もある。
「加藤睦月……もとい、黒水守・石守睦月の神器は非常に有用だ。だが、ロレンス崩壊による損害と釣り合うのは……当分先の話だな」
「ねっ。……でもそのくせ、彼を重用してるよね?」
彼のこと、特佐としてこき使うと思っていた。
それこそカトー特佐のようにこき使って、テキトーなとこで処分すると思っていた。神器を奪って、殺すものだと思っていた。
「領主にしてあげたり、石守の姉妹の婿にしてあげたり、随分とよくしてあげてるじゃん。まあ実際、彼は使える駒だけどさ」
「婿にしたのは監視のためだ。素子が、奴を探ってくれている」
「あの子がねぇ……。ちゃんと報告してくれてる?」
「ああ。素子は……『石守』の姓を受け継いだ者だ。完璧な後継者とはいかなかったが、あの子はあの子で優秀。贖罪の機会も与えてやるべきだろう」
贖罪が加藤睦月と結婚し、監視する仮面夫婦関係か。
そこまでするのはどうなんだろうねぇ……。
■title:方舟内部の取調室にて
■from:交国特佐長官・宗像
「石守の姉妹がカワイソウじゃな~い? 好きでもない男に身体を許さなきゃいけないって話でしょ? 相手の真意を探るために」
「素子はそれだけ事をしたのだ。そもそも……今回の事件の発端は、素子かもしれんのだ。厳しい役目を与えねば、兄弟姉妹への示しもつかん」
頬杖をつき、素子を心配する汞の意見を切って捨てる。
この件はあまり話したくない――と態度で示すと、汞は私の意を汲み、「加藤睦月」の話に戻ってくれた。
「まあとにかく……黒水守は現状、泳がせるしかないんだよね?」
「受け入れてしまった以上はな」
交国は実力さえあれば、過去に関してあまりうるさく言うつもりはない。
大事なのは今後だ。人類の勝利に貢献できるか否かが重要なのだ。
ただ、黒水守はその障害になる可能性もある。
あの男は「人類の敵」の可能性がある。
「今のところ、奴の尻尾は掴めていない」
奴は子供の頃、プレーローマに捕まって実験体になっていた。
そこを<エデン>に救出されたが、後に脱走。
<ロレンス>に拾われ、伯鯨ロロに師事して神器使いの腕を磨く。それでいてロレンスには加入せず、遊侠の如く流民を助ける活動を続けていた。
「そして、私達の斬首作戦によって起きたカヴンの内部抗争に乗じ、世話になっていたロミオ・ロレンスを殺害。その死体と神器を持って交国に来た」
「意味わからない経歴だよね。特に恩師を殺すとこ」
「ただ、奴の行動で一番得をした勢力の潜伏工作員だと思えば、筋は通る」
「潜伏工作員のような?」
「そうだ。奴の場合は、所属がプレーローマかもしれんが」
ロミオ・ロレンスの死で、一番得をしたのはプレーローマだ。
交国は斬首作戦が成功していれば、一番得をしていたはずだった。だがそれは失敗した。かなりの手間と人員を投入したが失敗した。
単なる失敗ならまだ取り返しがついたが、我々の作戦で疲弊した伯鯨ロロは加藤睦月に討たれた。……可愛がっていた弟子に殺害される、という結果になった。
「加藤睦月が『プレーローマの実験体になっていた』というのは潜伏工作用の嘘で……実際は『プレーローマがロレンスを支配下に置くための潜入工作員』だったのかもしれない。奴を通じ、伯鯨ロロを懐柔するための」
「その事がロロ本人にバレたから、殺しにかかった?」
「確証はないが……実際、あの頃の伯鯨ロロは加藤睦月を遠ざけようとしていた」
伯鯨ロロは「戦争」を始めようとしていた。
加藤睦月が「どこかの工作員なのでは?」と感づき、自分達の行動が余所に筒抜けにならないよう、加藤睦月を遠ざけていた可能性がある。
加藤睦月を裏で操っていたプレーローマは、奴を使った「ロレンス懐柔計画」を断念し、殺害に切り替えた。そういう筋書きがあったのかもしれない。
ロミオ・ロレンスを殺すだけでも効果はあった。
人類に対する嫌がらせにはなったからな。
「あくまで……私の邪推だがな。奴の尻尾は掴めていない」
「ふ~む。そもそも、加藤睦月本人は何て言ったの?」
「伯鯨ロロ殺害の動機か?」
「そうそう」
「ロレンス加入を断られ続け、口論になって……負傷していた伯鯨ロロを『今なら殺せる』と判断し、交国への手土産として殺した――と言っている」
「怖っ。それがマジなら損得勘定でサクッと人を殺す殺人機械じゃ~ん!」
「私やお前は、その類いだと思うがな」
権力を握っている側に立っているから、まだ捕まっていないだけだ。
弱者側に追いやられれば、私達は極悪非道の人間として捕まるだろう。
イタズラっぽく笑った汞も、「仰る通りで」などと返してきた。
「ロレンスとの手打ちは無理でも、今からでも殺せば? エデンのカトーとか、どうせ適当な罪をでっち上げたんでしょ? アレと同じようにさ――」
「黒水守は使える駒だ。そう簡単には殺せん」
「でも、ウチは神器を誰でも使えるシステム構築に成功したんじゃないの?」
交国本土での戦いは報道していた。汞もそれを見たのだろう。
そこに関しては「色々と事情があるんだ」とボカしておく。
実際、事情がある。あのシステムも完璧ではない。
カトーは実験体としてちょうど良かったから罪を着せ、神器を取り上げたのであって、黒水守ほど優秀だと安易には殺せん。
それに――。
「黒水守を飼い慣らすのは、玉帝の指示でもある」
「プレーローマの工作員かもしれないのに?」
「監視下に置いた方が、コントロールはしやすい」
交国はずっとそうしてきた。
回路や汞を筆頭に、交国の人間が犯罪すらも管理してきた。
工作員としての疑いがある者すら、飼い慣らしてきた。
黒水守を飼い慣らせていると驕るべきではないが――。
「そもそも……工作員の疑いも、私の考え過ぎかもしれん」
今のところ、尻尾は掴めていない。
ただ、怪しいところは沢山ある。
捕まえるための口実は、カトー以上にある。奴とは比べものにならないほど有用で、玉帝の指示もあるから泳がせておくが……。
「私がテキトーに化けて探ってこようか? この権能を使って」
そう言った汞が、自分の首に手をかけた。
そして皮膚を「ベリッ」と剥ぎ、少女の顔から厳ついオークの顔になった。
首から下は少女の身体のままで――。
「今はまだいい。奴の急所もわかっていないからな」
「そうか。ま、いつでも相談してくれよ」
低い男の声でそう言った汞が、脱いだ皮をまた被った。
すると、先程の少女らしい声に戻った。
「とりあえず~、交国本土までくつろいでていーい?」
「報告書を書いたらな」
「おっと、そうだった。そんじゃ、お部屋に行こっかな~! アップルパイごちそうさま! チョ~美味しかった! お母様の作ったパイの方が美味しいけど!」
「それは良かった」
急遽、コンビニで買ったものだったのだが……満足してもらえたら良かった。
本人が満足なら、真の価値など……どうでもいいのだ。
オーク達は幸せな夢の中にいたのに、無粋な者達がそれを起こした。
ずっと夢の中なら、ずっと幸せなままだったろうに……。
「ああ、そうだ……。汞、頼みたい仕事がある」
「犯罪組織絡み?」
「休暇明けにプレーローマの工場視察を頼む」
「あぁ……。いつものね。了解っ」
汞を部屋に送った後、解放軍元帥の替え玉を確認しておく。
しばらく汞がアマルガム役を務めていたが、ブロセリアンド解放軍を題材とした劇は幕引きが近い。人気役者の汞には新しい役を用意し、「偽者の偽者」を処刑して解放軍を完全に終わらせるとしよう。
汞との夕食まで、艦内の執務室で仕事をしようとしたが――。
『長官。ご報告が』
交国本土にいる部下から報告が届いた。
……あまり良い知らせではなかった。
「ああ、そうか……。……いや、玉帝がそう判断したなら、構わんさ」
通信を切った後、少しため息をつく。
「銀め……。相変わらず、青いな」
犬塚銀。甘井汞とは別の才を持つ自慢の弟が、青臭い行動をしているらしい。
奴がくだらん正義感で動くのは、いつもの事だ。私にとっては無価値でも、大衆にとっては銀のような人間は必要なものだが……たまに鬱陶しくなる。
まあ、玉帝が<戈影衆>をつけているようだから、大丈夫だろう。
問題は――。
「黒水守も銀に同行して……ネウロンに行くのか」
奴の動きは気になる。
ひょっとすると……今回で尻尾を掴めるかもしれん。
銀は黒水守の神器を借り、ネウロンに急行している。
通常、交国本土からネウロンまで1~2ヶ月かかる。
だが、黒水守が水先案内人になれば、大幅に航路を短縮できるだろう。
「……銀達の行動次第では、今回も久常竹を殺し損ねるかもしれんな」
奴の悪運が、再び試されるわけだ。
玉帝が銀の行動を許した以上、私は黙って見守るしかない。
犬塚銀の無事を祈りつつ、久常竹の死を祈ろう。




