表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
334/875

スリーパー・セル



■title:交国領<ジョール>にて

■from:ブロセリアンド解放軍元帥・アマルガム


「私は! ブロセリアンド解放軍・元帥のアマルガムであるっ!」


「…………」


「私は確かに交国軍の捕虜になったが、戦時国際法に則った扱ギャッ?!!」


「黙って歩け。テロリスト如きが……。な~にが戦時国際法だ……」


「ぐ、グゥ…………!」


 私を捕まえた交国の神器使い――ジガバチと名乗る輩が殴ってきた。


 捕虜相手にそんな事をして恥ずかしくないのか……! と思ったが、また殴られるのは勘弁願いたい。交国軍は……やはり、野蛮人だ!


「わ、私は……どこに連行されるのだ……?」


「直ぐにわかる。キリキリ歩け」


 周囲には交国軍人がウロウロしている。……逃げるのは難しそうだ。


 仲間の救援も……期待薄だろう。支援者からの助けも来ないだろう。


 どうして、こんな事に……。


 我々は正義の心を持って立ち上がり、交国に立ち向かい始めた。


 交国を滅ぼし、我らの国を作り……そこの初代皇帝になって少し……ほんの少し、甘い蜜を吸おうとしていただけなのに……!


 交国は、私の野望(ねがい)を粉砕してきた!


 解放軍の蜂起計画は完璧だったはずだが、交国は私達の上を行った。


 各地の解放軍同志に命令し、蜂起を行わせたはいいものの……交国は先手を打ってきた。犬塚銀という偽りの英雄を使い、世論を操作している。


 証拠は無いが、間違いなくそうだ。そうだとしか考えられない。愚民達はそんな事に気づかず、無邪気に犬塚銀を支持している。


 各地の同志に「蜂起中止!」と伝えようにも、龍脈通信の障害により、大半の同志に連絡が取れなかった。私が「何があっても蜂起を断行せよ!」と言っていた事もあり、同志達は……表に出てきてしまった。


 もはや止まるに止まれず、「こうなったら強引に戦っていくしかない――」と覚悟を決めていたところ、神器使いを含む交国軍が襲ってきた。


 完璧に潜伏していたはずの私を……捕まえてきた。


「そ、そもそも……。貴様らはどうして、私の所在がわかった……!」


「さあな。まあ、お前らの中に裏切り者がいたって事だろう?」


 交国の神器使いは、小馬鹿にするような笑みを向けてきた。


 腹が立つが……コイツの言葉は、おそらく正しい。


 交国はブロセリアンド解放軍の動きを、ほぼ完璧に把握していた。まるで未来予知でもしていたかのように、先手を打ってきた。


 私を含め、解放軍の幹部連中が大半捕まった事を考えると……敵の諜報員(スパイ)が解放軍の中枢にいるのは間違いない。


 解放軍は400年以上の歴史を持つ由緒ある「反交国組織」なのに……!


 一体、誰が裏切ったんだ……?


 ドライバ辺りが交国に懐柔されたのか?


 支援者の手も借りて解放軍内部の諜報員の存在は調べていた。ドライバのような不安の残る人材には監視もつけていたし……少なくとも幹部連中に裏切り者がいたとは……思えない。


 情報伝達方法もかなり気を遣っていたし、交国相手だろうと簡単に情報が漏れなかったはずだ。だが、実際、「漏れていた」としか思えない動きをされた。


 支援者と連携して、交国を滅ぼすはずだったのに……。


 オークという火種は、交国を吹き飛ばすのに十分なものだったのに……!


「…………」


 もう、諦めるしかない。


 夢を見る時間は終わりだ。現実を見据え、何とか……何とか生き残ろう。


 私はブロセリアンド解放軍の元帥だ。


 解放軍の情報なら、私が一番持っている! 潜伏している手駒の居場所はそれなりに把握しているし、私の命令で動かせる手駒は沢山いる!


 私が「上手く脱走した」という事にしてもらって、解放軍の手駒共の動きをコントロールする! 交国政府に手駒共を生け贄として差し出し、私は助かる。


 皆には悪いと思っているが、仕方ない! 


 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ……! 解放軍の皆がそんな志を胸に立ち上がったんだから、私のために身を捨ててくれ!


 解放軍元帥(わたし)のおかげで、楽しい夢を見ることが出来た。


 もう、満足だろう? 夢から醒めきる前に死んでくれ!


「お前……この状況でよくニヤニヤと笑えるな……」


「ふふっ……。私は解放軍の元帥(リーダー)だからねっ!」


 この立場を活かして司法取引してやる。死にたくないからね!!


 反交国組織の長として、交国の恐ろしさは重々承知している。


 そして、交国が実力主義なこともよく知っている。


 ブロセリアンド解放軍という強力な「反交国組織の長」という経歴を持つ私なら、交国政府への再就職も出来るかもしれない……! 表に出ない裏方だとしても、重宝してもらえるかもしれない……!


 テロリストのリーダーだから極刑とか……絶対、避けないと!!


 交国との取引材料について全力で考えていると、「お前はあの方舟(ふね)に乗るんだ」と言われた。


 指し示された方向を見ると、海門を通って新手の方舟がやってきたところだった。交国の方舟のようだが……。


 方舟が海に着水するのを見守っていると、搭乗口が開いた。そこから複数の交国軍人と、白髪金眼の男が下りてくるのが見えた。


 白髪の男はこちらに歩いてくる。


 周囲の反応から察するに、かなり立場が上の人間のようだが……。


 …………。


 え? あれ、もしかして――。


「あれはまさか、特佐長官の宗像か……!?」


 隣の神器使いに聞くと、「さすがに知ってるか」と言われた。


「アンタの尋問は、長官サマが直々に行うとよ。良かったな、大物扱いだ」


「実際、私は大物だろう!? 解放軍の元帥だぞ!?」


「蜂起から1週間と持たず捕まった奴が、よく言う……」


 神器使いは私の言葉を鼻で笑っていたが、近づいてきた特佐長官に対しては敬礼し、敬意を示した。解放軍元帥の私にも敬礼すべきなのにっ……!


 特佐長官も神器使いに頷きを返した後、私を見ながら挨拶してきた。


「初めまして。ブロセリアンド解放軍元帥のアマルガムだな?」


「そ、その通りっ……! 私は、交国政府との司法取引を望む……!」


「下らんことは喋らなくていい。我々は解放軍と交渉する気はない」


 特佐長官は冷たい瞳を私に向けたまま、言葉で私を突き放してきた。


 ただ、「貴様が直ぐに色々と喋ってくれるなら、アップルパイの1つでも差し入れてやろう」などと言ってきた。アップルパイか……悪くない! 好物だ!


「一番欲しいのは……命の保証かなっ……! ははっ……」


「とりあえず私と来てもらおう。……ジガバチ特佐、ここまでご苦労だった。ここから先は私が引き継ぐ。すまんが、次の任務に当たってくれ」


「はっ」


 特佐長官と共に来た軍人達が、私を方舟内へと連行し始めた。


 特佐長官はしばし、部下の神器使いを労っていたようだったが、私が艦内に引きずり込まれる頃には部下から離れた。方舟へと向かってきた。


 交国の特佐長官・宗像は冷酷な男らしい。


 血も涙も無い特佐達の長……。特佐達には今まで何度も手駒をやられてきた。奴らの所為で潰された計画も沢山ある。……今回も潰された。


 宗像長官は特佐達よりさらに厄介なはずだが……解放軍元帥(わたし)の力をよく説明したら、取引に応じてくれるはずだ。……多分、おそらく……。


 交渉材料は……ある。


 例えば、元帥の私を使って解放軍兵士をコントロールするのはどうだ?


 交国軍は確かに強いが、今はゴタゴタしているはずだ。


 解放軍を手早く制圧出来るなら、私の手を借りるのが手っ取り早いはず……。


「ここに入って、長官を待て」


「す、直ぐに来てくれるのか?」


 長官の部下は、私を艦内の取調室まで連行した。


 私の質問には答えず、私を取調室内に拘束し、出て行った。


 ひやひやしながら待っていると、方舟が離陸する振動が来た。……直ぐに出発するのか。行き先はどこだろう? 交国本土か……?


 そのまま待っていると、本当に特佐長官がやってきた。部下を外で待たせ、1人で尋問するつもりらしい。……拷問とかされなきゃいいんだが……。


 いや、けど……顔に似合わず優しい人物かもしれん。


 取調室に入ってきた長官は、その手にアップルパイ(・・・・・・)を持っていた。


 さっきの冗談じゃなかったのか!?


 甘い香りが鼻腔をくすぐってくる。「私はまだ何も話していないぞ」と言うと、長官は微かに笑って「どうせ、これから喋る」と言ってきた。


「貴様の口は軽い。交国のために色々と教えてくれるだろう?」


「…………甘く見られたものだ。アップルパイのように……」


 長官は微笑み続けている。


 微笑みつつ、部下が持ってきた紅茶とセットで、アップルパイを私の前に置いてきた。それどころか――。


「ん……? おい、何をしている」


「お前の拘束を解いている」


「えっ……? いや、私を甘く見すぎじゃないか……!?」


 取調室内には、宗像長官と私しかいない。


 拘束を解いてくれるなら……襲える。


 長官を人質に取ったら、脱走すら……可能か?


「まあ、とにかくご苦労だった。……貴様の好物だろう? 食べろ」


「…………」


 対面に座った特佐長官が、アップルパイを勧めてきた。


 大人しく、口にする。


 サクサクとした生地。


 程よい甘味が、私の口を喜ばせてくる。


 毒が入っている様子は……ない。


「今回も、面倒な仕事を任せてしまったな」


「いつもの事でしょ。……ん? いつもの事?」


 アップルパイを頬張りつつ、特佐長官の言葉に返答する。


 ああ、そっか。


 全て思い出した。




■title:方舟内部の取調室にて

■from:交国特佐長官・宗像


「あはっ! そっか! そうだったねっ! 権能起動(カフカ)


 解放軍元帥・アマルガムの口から、顔に似合わない声が出てきた。


 少女のような甘ったるい声と、笑い声が漏れてきた。


 そして、アマルガムは自分の口に両手を突っ込み――。


「解放軍の裏切り者は、解放軍元帥(わたし)だっ!」


 身体をビリッ(・・・)と破いた。


 自分の身体を真っ二つにするよう破き、外皮(・・)を脱ぎ捨てた。


 その皮の中から、桃色の髪を持つ小柄な少女が現れた。


「はぁい☆ 兄弟(ブラザー)! 元気にしてた!?」


「お前ほどではないよ、甘井(みずがね)。……我が弟よ」


違う違う(ノンノン)っ! 今は妹だよっ、兄弟(ブラザー)☆」


「…………少女(ガキ)の顔と声で、キンキンと喋るのはやめろ……」


「や~~~~だよっ☆」


 甘井汞は<玉帝の子供>の中でも、指折りの問題児だ。


 だが、無能ではない。才能(ちから)が有り余っているだけだ。


 問題(クセ)を理解しておけば、それを交国のために活かす事が出来る。


 汞の場合は「工作員」として活かす事が出来る。


 それも、とびきり特殊な工作員として――。


「ともかく……解放軍の誘導、ご苦労だった」


「ご褒美のキッスは?」


「ハァ…………。…………」


「そんな投げ槍な投げキッスやだぁ~~~~っ!!」


 汞は、優秀な子だ。


 (わたし)の活力を削ってくるが、優秀な工作員(おとうと)だ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ